修道院パラダイス

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第三章 リディアの回想、そして今

回想4 独房入り

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 私とダリアは、メイベル修道女に拘束されていた。腕が拗られていて、抵抗できない。そのまま地下に連れて行かれ、小部屋に入るよう言われた。
 
 ドアには小さな窓がついていて、外から中の様子が見える。部屋にはベッドが1台と、トイレのスペースが区切られているだけで、他は何もない。

「これから5日間、ここで反省してもらいます。聖書はベッドの上に置いてありますから、それをよく読みなさい。食事は1日1回、届けますからね」

 1日1食!

 監獄の懲罰房は、3食出るのかしら。面会できるようになったら聞いてみよう。ここが監獄よりマシかどうか疑問になってきたわ。

「ケイト、ダリア、聞こえる?」

 答えが返ってこない。小窓には分厚いガラスがはまっていて、声が漏れないようだ。
 食事が少ないなら、なるべく寝ていよう。そう決めて、私はさっさと寝ることにした。ところがなぜか夜中に、ポッカリと目が覚めた。
 眠っていた余韻が一切ない、きっぱりした目覚めだった。周囲を見回したが、窓がないので時間の見当がつかない。廊下の灯りが消されていて、真っ暗なので夜なのだろう。
 部屋を見回しているうちに、影が少し濃い部分を見つけた。ほんの少しだけ、他より濃い黒。何だろうと目を凝らして見る。気のせいかもと思ったけど、でも何か気になる。
 ちょっと怖くなって、早く寝ようとベッドに潜り込み、布団を被った。

 次に目覚めると、既に廊下に灯りが灯っていて、とても明るい。

 今朝は礼拝も、掃除も、その他の仕事もないから、すごくのんびりできる。久しぶりにのんびりした気分になって、もう一度ベッドに戻って眠った。

 次に起きたのは、食事を持ってきた修道女の声が聞こえた時だった。

「この娘達は、いつまでも寝ているんじゃありません。もう昼に近い時間なのに。誰一人として、反省の様子が見えないとは呆れたわ。起きてお祈りしなさい。全く図々しいわね」

 隣の部屋でゴトンと音がした。

「着替えて出ていらっしゃい。今からここで礼拝を行うわよ」

 私は素早く着替えて、ドアの前に立った。覗き窓の前に顔を出して、コンコンとドアをたたく。しばらくするとドアが開けられた。

 他の二人も部屋から出てきた。スッキリした顔をしている。

「そこにひざまずいて。手を合わせて頭を垂れなさい」

 言われた通りにした。修道女が聖書を読むあいだ、私はクロスを手のひらに挟んで祈った。
 どうかまともな食事が出ますように。

 でも叶わなかったようだ。お祈りが終わると、藤のバスケットに入っていた紙包が、一つずつ配られた。それと、水の入ったボトルを一本ずつ。

「これが1日の食事よ」

 修道女が、ニンマリと笑った。
 私はこの紙包みの軽さに、既視感を覚えた。しばらく手のひらの上で重さを測っていたが、王宮からの馬車で渡されたものとあまり変わらない。

 あれは1食分だったのに、これは一日分なのね。あれの方がましだと覆う日が来るなんて思いもしなかったわ。しかし、心根の卑しい人というのは皆、同じようなことを考えつくものね。

 隣にいたケイトが包を開けてみたようだ。ガサガサいう音の後に、おいおい、とつぶやく声が聞こえた。

「ねえ、これが1日分って本気? 1食分にも足りないじゃないの」

「何のための懲罰房だと思っているのです。これも罰の一つです。断食でないだけ、ありがたいと思いなさい」

 言い返そうとするケイトの腕に手を当て、私は首を振った。何か言ったら、この食事も取り上げられるだろう。

 ダリアがケイトと私を抱きしめて、また明日ね、とささやいた。その時にスカートのポケットに、何かを入れてくれた。そっとスカートの上から押さえてみると、紙にくるんだゴツゴツしたものだった。

 部屋に戻り、修道女がいなくなってから開けてみると、飴がけのアーモンドと、タフィがいくつか入っていた。
 多分、男爵邸で出されたおやつの残りだろう。早速アーモンドを一つつまんだ。
 アーモンドが無くなった後も、指にくっついた飴をいつまでもなめた。

 紙包みは部屋に置いてあるメモ用紙のようだ。そこに走り書きがしてある。

(今日の分よ。明日の分もあるからお楽しみに)

 甘い味と、ダリアの気持ちにどっぷり癒やされる。
 私が男だったら、やっぱりダリアに言い寄ってしまうわね。それはどうしようもないことよ。ダリアには気の毒だけど。

 その後、食事の紙包を開いた。
 ここの料理人もなかなかの腕だわ。よくこんなに薄く、パンを切れるものだわ。

 パンの薄さは、護送車でもらったものと、どっこいどっこいだった。ライ麦の潰したものが混じっているので、噛み応えはありそう。その分だけ、少しは満足できるかも。
 そんなことを考えながら、半分だけ食べようとしたけど、結局全部食べてしまった。そして食べ終わってもお腹が空いている。だって、どうしたって足りない。

 考えれば考えるほど、みみっちい気分になるので、私はもう寝ることにした。まだ昼間だと思うけど、外の様子が分からない地下なので、それも分からない。明日の礼拝の時に、時間を聞こうと決めた。

 ベッドに潜り込んでも眠れなくて、しばらくもぞもぞとしていたはずが、いつの間にか眠ったのだと思う。

 今日も昨夜と同じように目が覚めた。覚醒までの時間が全く無く、ポカッと目覚める。この感覚はここに来るまで経験したことがないので、妙に落ち着かない。

 辺りは真っ暗で、廊下の明かりも消えているので夜中のようだ。

 頭だけを動かして室内を見回した。目を凝らして見ると、部屋の一部に影の濃い部分がある。じーっと見ている内に、更に濃くなったような気がする。濃くなった黒い影は、大体人間くらいの大きさと形だ。

 でも動かないし、気の所為か悩んでいる内に、また眠ってしまったようだ。
 修道女に起こされて、寝ていたことに気付いた。

 礼拝の後に、また1日分の食料を貰い、ダリアからは飴を五個貰った。修道女が祈祷台を片付けている間に、ケイトが飴を三個ダリアの手に握らせてささやいた。

「あなたのことだから、自分の分は取っていないでしょう。それじゃあ、私ももらえないわよ」

 驚いてダリアを振り向くと、バツの悪そう顔をしている。ダリアったら、全部私たちに渡していたの?
 私も飴を三個ダリアに返し、皆一緒にしましょうよ、と声をかけた。

「わかったわ。じゃあ1個返すね」

 ダリアは私たちに、また1個ずつ飴を返してきた。聖母って、こういう子のことを言うのではないかしら。

 同じように寝るだけの1日が過ぎ、同じように夜中に目が覚める。昨夜より影の濃度は増している。それは人間のシルエットにしか見えなかった。
 私は首に掛けていたクロスを握り絞めた。人間のシルエットが怖かったから。

「神よ。悪しきものを祓いたまえ」

 気持ちを込めてクロスに願うと、影が少し動いたような気がする。神様、余計に怖いのですけど。アレの動きを止めてください。

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