似合わない2人が見つけた幸せ

木蓮

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「相変わらず似合わないな」

 レックスは深くため息をついた。流行の天使の羽のようにふわりと広がるフリルを使った水色の愛らしいリボンは、婚約者ユーラの赤みが強い金髪と海色の瞳と合わさるととたんに色あせてみすぼらしく見える。

「申し訳ありません……」
「謝ってほしいわけじゃない。ただ、いつも言っている通り君にはもう少し見た目を気にしてほしい。我が家は高位貴族向けの仕立て屋だ。母や姉のように我が家の商品を宣伝してほしいとまではいわないが。せめて日常的に使う小物ぐらいは着こなしてくれ」

 レックスは高位貴族向けの仕立て屋を経営するテニング伯爵家の次男だ。一家は皆、淡い金髪と澄んだ水色の甘やかな容姿をしており、特に彼は一際美しいと令嬢たちから憧れられている。
 レックスは婚約者のユーラにもいつも自分にふさわしい格好でいるようにと、最新の流行を取り入れた装飾品やドレスを贈っている。しかし、色鮮やかな容色をしながらもどこか陰があるユーラには、レックスが好む淡く明るい色と花のようなフリルとレースで彩る甘やかなデザインは反発してしまう。
 そのせいでレックスはいつも「テニング伯爵令息は“似合わないドレス”が婚約者だ」とライバル家やレックスを妬む者たちに嫌味を言われてきた。何より、幼い頃から磨いてきたセンスをユーラにすべて否定されているよう悔しくてたまらない。

(ユーラは俺に似合う女性になるための努力が足りないんだ。ギフト持ちの家系だからと驕っているのだろう)

 ユーラ・シューラス子爵令嬢は代々生地作りを生業にしている子爵家の長女だ。
 ユーラの母は”糸に幸運の加護を付与する”ギフト持ちだ。女神の愛し子とも呼ばれるギフト持ちは周りから愛され大切にされると、その姿を見て喜んだ女神がさらなる恩恵をもたらすといわれている。そのため、頻繁にギフト持ちが生まれるシューラス子爵家は貴族たちからも一目置かれている。
 ユーラと妹はギフト持ちではないが。レックスの父は孫世代にギフト持ちが生まれることを期待して婚約を結んだ。

 家の利益のために結ばれた政略婚約だが。最初はレックスも地味で華やかさのないユーラを自分と伯爵家に似合う女性に磨き上げようと熱心に指導していた。
 しかし、どんなにレックスや伯爵家の皆ががんばっても、ユーラはレックスの隣りに立つにふさわしい美しさや自信を一向に身につけようとしなかった。
 ついに母や姉はさじを投げ、唯一婚約者として残らざるを得ないレックスもユーラは努力をする気がないのではないかと疑い、厳しく叱りつけるようになった。それでもユーラは変わらずただしおらしく返事をするだけだ。

「まあ、いい。それはミレイに頼まれたついでに作った物だ。美しい彼女を見習うといい」
「はい……」

 妖精姫と讃えられるミレイ・メルティス侯爵令嬢の名前を出すとユーラの表情が微かに強ばった。
 レックスはいつもうつむくだけのユーラの動揺を見てわずかに溜飲が下がるとともに、軽蔑を感じた。

(まったく、自分は何の努力もしないくせに、生まれ持った才能と美貌を磨き続けるミレイに嫉妬するとは。とことん嫌な女だ)

「勘違いしないように言っておくが。ミレイは希少なギフトを持つ侯爵令嬢で、第2王子殿下たちに深く信頼される方だ。私の婚約者だからと優しい彼女に声をかけられても、分をわきまえるように」
「はい、もちろんです。メルティス侯爵令嬢様は”似合うものを知っている方”ですもの。私も尊敬していますわ」

 珍しくきっぱりと言ったユーラの言葉に引っかかるものを感じたが。レックスはこれ以上名ばかりの婚約者に無駄な時間を使いたくなくて無言で立ち去った。
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