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「すごいっ、私が考えていたリボンそのものだわっ! ありがとう、レックス!! 大切に使うわね」
「それはこっちのセリフだよ。俺が作った物が妖精姫の持ち物になるなんてとても光栄だ。それに、美しい君を見ていると次々と良いインスピレーションが舞いおりてくるんだ。いつもありがとう、ミレイ」
プレゼントを見たとたん、ミレイははちみつ色の瞳を輝かせて満面の笑みを浮かべた。その可憐な姿にユーラとの会話で憂鬱になっていたレックスの気分も明るくなる。
ミレイはメルティス侯爵が溺愛する末娘だ。ゆるやかに波打つはちみつ色の髪と甘やかなはちみつ色の瞳、どんな色とドレスも似合うなめらかな白い肌と女性らしい体つきをした、まさにレックスの理想の令嬢を体現した令嬢だ。
美しさと身分を兼ね揃えたミレイは魔獣を阻む結界を張るために使う聖魔石作りに欠かせない”聖魔力”のギフト持ちでもある。そのため、彼女は王族のように大事に扱われいつも護衛を兼ねた高位貴族たちに囲まれている。
本来ならただの伯爵令息のレックスが交流できる存在ではないのだが。ある時、ユーラが着けている髪飾りを気に入ったミレイがデザイナーのレックスに声をかけてきたことをきっかけに気に入られた。
「あなたがあのバラの髪飾りを作ったデザイナーさんなのね。あの繊細で薄い花びら、とても素敵だったわ。私の小物も作ってもらえないかしら」
ミレイの心からの笑顔と賞賛の言葉は、レックスに似合う女性になるための努力をしない怠惰なユーラや悪意ある者たちに傷つけられた心を癒した。
それからレックスは愛らしいミレイに似合う装飾品を作ってプレゼントしている。
ミレイは幼なじみの第2王子グラディスのような親しい友人たちに自慢して見せてまわっているらしく、興味を持った貴族たちから伯爵家への注文も増えた。レックス自身も王子に「ミレイは君を気に入ったようだ。これからもよろしく頼むよ」と声をかけられて誇らしく思ったものだ。
いつもはプレゼントを着けて友人たちに見せに行くミレイだが、今日は「もう1つお願いがある」とねだった。
「今度の学園祭に着るドレスとそれに合わせる装飾品のデザインをお願いしたいの。とても大事な日だから。私の好みを一番よく知るレックスが考えてくれた素敵なドレスを着て、最高の私になりたいの」
「学園祭か……。確か、夜は生徒会が主催するパーティーが開かれるんだよな」
「ええ、そうよ。今年はグラディスがはりきっているから、王宮と同じぐらい華やかなパーティーになるだろうって。お兄様が楽しみにいたわ」
学園祭は生徒会が主催するパーティーで生徒たちが自由に参加できる。
特に今年は第2王子が生徒会に入ったこともあり、どんな面白い催しが見られるのかと期待されている。
レックスも喜んでミレイの依頼を引き受けたいが、1つ問題がある。
(まいったな……。グラディス殿下も関わっているとなると、婚約者以外の令嬢にドレスと装飾品を贈るのはさすがにまずい……)
普段の学園内では多少のいざこざは目こぼしされるが。王族が関わるパーティーとなると、将来彼らと顔を合わせる機会がある伯爵家以上の家は正式な場にふさわしい振る舞いを求められるだろう。
婚約者がいるレックスが親しい友人とはいえ婚約者のいない令嬢のドレス製作の依頼を引き受けたら。ユーラとの不仲を知る噂好きの貴族たちに面白おかしく囀られるだろう。それは家のためにまずい。
「すまない、ミレイ。いつも俺のデザインを気に入って完璧に着こなしてくれる君の依頼を引き受けたいと心から思っているのだけれど。俺には婚約者がいるんだ」
「あ、そうね。レックスには婚約者がいるのよね……」
ミレイの沈んだ声にレックスは胸をぎゅっと締め付けられた。
レックスがどれだけ心を尽くして作ってもユーラはいつも暗い顔をして受け取るだけだし、レックスの自信作もすっかり色あせてしまうのだ。ユーラと一緒に参加してもどうせいつものように「似合わない」と嘲笑われて終わるだけだろう。
それに、レックスのデザイナーとしての誇りと自信が、学園生活で最も華やかな場で自分の考えた最高のドレスと装飾品を身につけた麗しいミレイの姿を見たいと叫んでいる。
(くそっ、この国で最も美しい妖精姫のミレイが王族が開く豪華なパーティーで俺の考えたドレスと装飾品を身につけてくれると言っているんだぞっ。こんな最高の機会、ユーラなんかに邪魔されてたまるか!)
レックスが何とかならないかと必死に考えていると、考え込んでいたミレイはぱっと笑顔を浮かべた。
「そうだわっ。レックスの家は仕立て屋を営んでいらっしゃるのよね」
「ああ、そうだけど……」
「じゃあ、お兄様に『せっかくのパーティーだから、いつもお世話になっているレックスとテニング伯爵家に作ってほしい』ってお願いするわ。それならあなたにお願いしても、婚約者様も許してくれるでしょう?」
(なるほど、確かに侯爵家から受けた注文だったら仕事だとユーラも納得するだろう。それに、良い宣伝になる)
朗らかに笑うミレイにレックスも力強くうなずいた。
「もちろんだよ!! ありがとう、ミレイ! ああ、君のドレスと装飾品を作れるなんて夢のようだ。僕と我が家の全力をかけて光の妖精姫に最高のドレスを作ると約束するよ!!」
「ありがとう、レックス。楽しみにしているわ!」
(ユーラなんかどうせ何を着ても同じなんだ。適当な物で俺の隣りに立たれるのは気に入らないが、余っているドレスをリメイクして贈ってやるか。ふん、ミレイの美しい姿を見ていつも俺がどれだけ気を遣ってやっていたか知ってせいぜい後悔するんだな)
愛想のない婚約者を頭から追い出すと、愛らしく微笑むミレイにレックスもとろけるような笑みを浮かべた。
「それはこっちのセリフだよ。俺が作った物が妖精姫の持ち物になるなんてとても光栄だ。それに、美しい君を見ていると次々と良いインスピレーションが舞いおりてくるんだ。いつもありがとう、ミレイ」
プレゼントを見たとたん、ミレイははちみつ色の瞳を輝かせて満面の笑みを浮かべた。その可憐な姿にユーラとの会話で憂鬱になっていたレックスの気分も明るくなる。
ミレイはメルティス侯爵が溺愛する末娘だ。ゆるやかに波打つはちみつ色の髪と甘やかなはちみつ色の瞳、どんな色とドレスも似合うなめらかな白い肌と女性らしい体つきをした、まさにレックスの理想の令嬢を体現した令嬢だ。
美しさと身分を兼ね揃えたミレイは魔獣を阻む結界を張るために使う聖魔石作りに欠かせない”聖魔力”のギフト持ちでもある。そのため、彼女は王族のように大事に扱われいつも護衛を兼ねた高位貴族たちに囲まれている。
本来ならただの伯爵令息のレックスが交流できる存在ではないのだが。ある時、ユーラが着けている髪飾りを気に入ったミレイがデザイナーのレックスに声をかけてきたことをきっかけに気に入られた。
「あなたがあのバラの髪飾りを作ったデザイナーさんなのね。あの繊細で薄い花びら、とても素敵だったわ。私の小物も作ってもらえないかしら」
ミレイの心からの笑顔と賞賛の言葉は、レックスに似合う女性になるための努力をしない怠惰なユーラや悪意ある者たちに傷つけられた心を癒した。
それからレックスは愛らしいミレイに似合う装飾品を作ってプレゼントしている。
ミレイは幼なじみの第2王子グラディスのような親しい友人たちに自慢して見せてまわっているらしく、興味を持った貴族たちから伯爵家への注文も増えた。レックス自身も王子に「ミレイは君を気に入ったようだ。これからもよろしく頼むよ」と声をかけられて誇らしく思ったものだ。
いつもはプレゼントを着けて友人たちに見せに行くミレイだが、今日は「もう1つお願いがある」とねだった。
「今度の学園祭に着るドレスとそれに合わせる装飾品のデザインをお願いしたいの。とても大事な日だから。私の好みを一番よく知るレックスが考えてくれた素敵なドレスを着て、最高の私になりたいの」
「学園祭か……。確か、夜は生徒会が主催するパーティーが開かれるんだよな」
「ええ、そうよ。今年はグラディスがはりきっているから、王宮と同じぐらい華やかなパーティーになるだろうって。お兄様が楽しみにいたわ」
学園祭は生徒会が主催するパーティーで生徒たちが自由に参加できる。
特に今年は第2王子が生徒会に入ったこともあり、どんな面白い催しが見られるのかと期待されている。
レックスも喜んでミレイの依頼を引き受けたいが、1つ問題がある。
(まいったな……。グラディス殿下も関わっているとなると、婚約者以外の令嬢にドレスと装飾品を贈るのはさすがにまずい……)
普段の学園内では多少のいざこざは目こぼしされるが。王族が関わるパーティーとなると、将来彼らと顔を合わせる機会がある伯爵家以上の家は正式な場にふさわしい振る舞いを求められるだろう。
婚約者がいるレックスが親しい友人とはいえ婚約者のいない令嬢のドレス製作の依頼を引き受けたら。ユーラとの不仲を知る噂好きの貴族たちに面白おかしく囀られるだろう。それは家のためにまずい。
「すまない、ミレイ。いつも俺のデザインを気に入って完璧に着こなしてくれる君の依頼を引き受けたいと心から思っているのだけれど。俺には婚約者がいるんだ」
「あ、そうね。レックスには婚約者がいるのよね……」
ミレイの沈んだ声にレックスは胸をぎゅっと締め付けられた。
レックスがどれだけ心を尽くして作ってもユーラはいつも暗い顔をして受け取るだけだし、レックスの自信作もすっかり色あせてしまうのだ。ユーラと一緒に参加してもどうせいつものように「似合わない」と嘲笑われて終わるだけだろう。
それに、レックスのデザイナーとしての誇りと自信が、学園生活で最も華やかな場で自分の考えた最高のドレスと装飾品を身につけた麗しいミレイの姿を見たいと叫んでいる。
(くそっ、この国で最も美しい妖精姫のミレイが王族が開く豪華なパーティーで俺の考えたドレスと装飾品を身につけてくれると言っているんだぞっ。こんな最高の機会、ユーラなんかに邪魔されてたまるか!)
レックスが何とかならないかと必死に考えていると、考え込んでいたミレイはぱっと笑顔を浮かべた。
「そうだわっ。レックスの家は仕立て屋を営んでいらっしゃるのよね」
「ああ、そうだけど……」
「じゃあ、お兄様に『せっかくのパーティーだから、いつもお世話になっているレックスとテニング伯爵家に作ってほしい』ってお願いするわ。それならあなたにお願いしても、婚約者様も許してくれるでしょう?」
(なるほど、確かに侯爵家から受けた注文だったら仕事だとユーラも納得するだろう。それに、良い宣伝になる)
朗らかに笑うミレイにレックスも力強くうなずいた。
「もちろんだよ!! ありがとう、ミレイ! ああ、君のドレスと装飾品を作れるなんて夢のようだ。僕と我が家の全力をかけて光の妖精姫に最高のドレスを作ると約束するよ!!」
「ありがとう、レックス。楽しみにしているわ!」
(ユーラなんかどうせ何を着ても同じなんだ。適当な物で俺の隣りに立たれるのは気に入らないが、余っているドレスをリメイクして贈ってやるか。ふん、ミレイの美しい姿を見ていつも俺がどれだけ気を遣ってやっていたか知ってせいぜい後悔するんだな)
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