似合わない2人が見つけた幸せ

木蓮

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 社交界で力を持つメルティス侯爵家から令嬢のドレスと装飾品製作の注文を受けたテニング伯爵家一家は「とても名誉なことだ」と喜びで舞い上がり、総力をあげて製作にとりかかった。
 ミレイの要望を細やかに聞きとってあちこちの連絡に忙しなく走り回っていたレックスが婚約者のユーラのことを思い出したのは、学園祭が間近に迫った時だった。

(まずいっ! ユーラのことを忘れていた!! あいつのドレスも誰かが作っていた、よな……? そうだ、兄上に頼んだんだ!)

 焦ったレックスが兄の部屋に駆けこむと、仲が悪い兄は冷ややかな視線を向けた。

「ユーラ嬢のドレス? それならば今回は贈れないととっくの前に謝罪しておいたよ。我が家もおまえもメルティス侯爵令嬢の依頼で手いっぱいで引き受けられる状況ではないし。学園祭を楽しみにしているユーラ嬢に適当な物・・・・を押しつけるのも悪いからな」

 兄が勝手に断ったことに、レックスは猛烈な怒りを感じた。

「何を勝手なことをしてくれたんですか!? ユーラは俺の婚約者なんですよ!? 例え俺がいなくても、俺に似合うドレスを着てもらわないと、俺が恥をかきます!!」

 ミレイと話をした後。打ち合わせに訪れたミレイとその兄から「妹が信頼している君に学園祭でのエスコートを頼みたい」と告げられた。レックスは少しだけためらったが、ミレイ本人に熱心にお願いされたことや話を聞いて喜んだ両親が承知したことで、レックスがミレイのエスコートをすることが決まった。
 その後、家中がメルティス侯爵家の注文で大騒ぎになっている中、ユーラを気にかける兄だけはレックスに「ユーラ嬢のドレスはどうするんだ?」と尋ねてきたが。忙しさで苛立っていたレックスは、家族の中で唯一暇な兄に「適当な物を用意しておいてくれ」と丸投げしたのだ。

(くそっ、何であの時兄上なんかに頼んだんだ! 今からでもユーラに既製品でも良いからドレスを用意しなければ)

「言い忘れていたが。ユーラ嬢にはメルティス侯爵家が代わりにドレスと装飾品を手配してくれた。本来ならば我が家やおまえがするべきことだが、ご令嬢が無理を言った詫びだそうだ。だから、おまえが今更ユーラ嬢に何かをする必要はない。メルティス侯爵家に感謝するんだな」
「そうか、ミレイが……。ああ、良かった。彼女は優しいから、ユーラのことも気にしてくれたんだな」

 一応、婚家であるシューラス子爵家の面子を潰さなかったことにほっとしながらも、黙っていた兄や連絡の1つも寄こさない気が利かないユーラに恨みがわいてくる。
 今度ユーラに会ったら自分とミレイに感謝するように厳しく叱っておかねばと思っていると、兄はそれを見透かしたように凍りつくような目でレックスを見て、奇妙なことを尋ねてきた。

「おまえは当然メルティス侯爵令嬢がギフト持ちだということを知っているな」
「ええ、もちろんです。父上も侯爵家との繋がりを持てて喜んでいましたよ」
「……一応、聞いておいてやるが。彼らは愛し子として愛され大事にされる存在なのだと、わかっているな?」
「はい? そんなの当たり前ですよ。ギフト持ちは美しい心の持ち主だから、女神様に愛されているのでしょう。ミレイはまさに女神様にも皆にも愛される愛し子そのものですよ」

 女神は正直で純粋な心を持つ人間を愛してギフトを授け、その資格を失ったとたんにギフトも失われるという。特に、女神の神力の一端とされる”聖魔力”持ちのミレイはその心が常に純粋であることを求められる。
 そのため、ミレイは幼い頃から神殿で女神の教えを学んでいる。女神に愛される愛し子として公平さと慈悲深さを身に着けた彼女の言葉や振る舞いは周りからも正しいと見なされるのだ。

(そういえば、ミレイはユーラを見て「似合わない」と言っていたな。やはり、ユーラは美しく正しいミレイから見ても「美しくない」と思ったのだろうな。まったく、学園祭でどんなみじめなドレスを着るのか知らないが。ミレイが贈ったドレスにふさわしい振る舞いをしてもらいたいものだ)

「それなら良い。おまえは王族が主催し国中の貴族子女が集まる学園祭で、メルティス侯爵令嬢をパートナーとして選んだんだ。今、おまえがすべきことは、我が家のためにメルティス侯爵令嬢が満足するドレスを作って、無事にエスコートを勤め上げることだ。メルティス侯爵家や父上の不興を買いたくなければ、おまえとは関係のないユーラ嬢には関わるな」

 兄は一方的に言いつのると、レックスが反論する間もなく部屋から追い出した。
 見下している兄に雑に扱われた上に、いくら頼んだからと言って恩着せがましく婚約者のユーラのことまで口を挟まれて。怒り狂ったレックスは部屋に帰ると物にやつあたりした。

「くそっ、厄介者がえらそうにっ! ユーラと同じでこれっぽっちもセンスがないくせにっ!」

 一家で唯一服飾のセンスのない兄は昔から天才のレックスを妬んで、レックスが「俺に似合わない」とユーラを教育していると手厳しく叱ってきた。
 後継者でありながら父と仲が悪い兄はそうやってユーラの機嫌をとって、ギフト持ちのシューラス子爵家との縁を繋ぐことで自分の地位を確かなものにしたいのだ。そして、バカなユーラは愛情をこめて厳しく接する自分よりも、我が身の保身のためにわざとらしく優しく接する兄を信用している。
 イライラと歩きまわっていたレックスだが、ふと良いアイデアを思いついてにやりと笑った。

「そうだ。ちょうど手が空いたところだし、あいつを呼び出して婚約者としてふさわしい恰好かチェックしてやると言えばいいんだ」

 ユーラは婚約してからはすべてのドレスと装飾品をレックスやテニング伯爵家のデザイナーが作った物を着けている。
 今まで自分でドレスを仕立てたことがない上にセンスがないユーラのことだ。メルティス侯爵家が紹介した一流のデザイナーを困らせたあげく、さぞかしみっともないドレスを作ったことだろう。
 婚約者としてユーラを良く知るレックスがアドバイスして手直ししてやれば。さすがのユーラも恩を感じるだろうし、嫉妬で婚約者のことに訳知り顔で口を挟んできた兄は深く反省し、娘に恥をかかせたとシューラス家は兄を見限るだろう。それに優しいミレイはレックスの優しさに感動するだろう。

「ふんっ、生意気な奴めっ。俺の優しさに気づいて、心から反省したら許してやるよ」

 自分の良い思いつきに満足したレックスは、さっそくユーラに「選んだドレスと装飾品を見てやる」と手紙を書いて送った。
 しかし、ユーラからはそっけなく「信頼できるデザイナーたちと相談して決めたのでご心配なく」と返ってきた。学園で捕まえようとしてもなぜか彼女と会えず。苛立ちを抱えたまま学園祭の日になった。

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