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「おや、謙虚なシューラス嬢は黙っていたのかな。これは悪いことをしてしまったな。
実は、君にエスコートを頼む際にテニング伯爵家に我が家との婚約を打診したのだが。伯爵はシューラス子爵家との長年の義理を重んじて渋られていたんだよ。しかし、我が家の事情を聞いた子爵夫妻とご令嬢はミレイと君の幸せのために身を引いてくれると言ってくれてね。
彼らが婚約を解消してくれたおかげで、晴れてミレイと君の婚約を結べたんだよ。シューラス子爵家には我が家の恩人だ」
「ああ、私もフィリーネからそう聞いたよ。シューラス嬢は特にかわいがっている後輩らしくてね。彼女が自分で学園祭のドレスを用意すると聞いたとたんに、仲間を巻きこんで夢中でドレスのデザインを考えていたよ。
それに、あの海のような鮮やかな青色は、幼なじみの婚約者殿が領地の海を愛する彼女のために作りだした色らしいね。いつもは淡い色ばかりで霞んでいた彼女に良く似合っているよ。
もっとも、あの様子だと愛する彼女以外には着ることを許してくれなさそうだけれどね」
「そうね。あの華やかな青をまとったシューラス様たちを見た時には、まるで幸せを告げる番の青い小鳥が現れたのかと驚いたわ。さすがは花嫁に幸せをもたらすシューラス子爵家ね。私もお願いできるかしら?」
「はは、我が妹は本当に愛には情熱的だな。義理堅いシューラス夫人は我が家の婚礼の時には喜んで力を貸してくれると言っていたから、ミレイが望むなら引き受けてくれるはずさ」
(ユーラが婚約解消した? 俺に黙って勝手に? しかも、新しい男がいるだと!? で、でも、俺はミレイと婚約していて、ユーラは俺たちの幸せために身を引いたと第2王子殿下も知っている。それに、ユーラなんかのために殿下の婚約者のアクス公爵令嬢があの見苦しいドレスを作って、でもミレイも殿下もあの青のドレスがきれいだと褒めていて、誰よりも本物の美しさを知るミレイはユーラを気に入っていて……)
楽し気に喋る3人はレックスが信じているものすべてを否定して、壊していく。混乱しながらも必死に信じていた物の欠片を掴もうとするレックスに気づかずにミレイがふんわりと微笑んだ。
「でも、あんなに落ちこんでいたシューラス様も好きな物を見つけられたのね。良かった」
「おや、ミレイはシューラス嬢を知っているのか?」
「いいえ、知っているという程親しく話したことはないわ。前にたまたま見た時に、なぜか自分が嫌いな物を無理に身に着けて苦しんでいたから、女神様の御心に反すると思って。見かねて止めたの」
(嫌いな物を無理に身に着けて、苦しんでいた……? どういうことだ、ユーラはいつだって俺が最高の物を与えてやったのに!!)
ミレイの言葉に王子と兄がユーラに視線を向ける。
レックスもその視線を追うと、ちょうどユーラと一緒にいる男が何かを言ったらしく、ユーラは背の高い彼をすねたように上目遣いで見上げて何かを言い返し、からからと笑った彼の言葉にぱっと輝くような笑顔を見せた。
その幸せな笑顔はレックスが一度も見たことがないもので、レックスのひび割れた心にさらに衝撃が走った。
(……俺といる時のユーラはあんな笑顔を見せたことなんてない。何であいつには笑っているんだ。ユーラは俺の婚約者で、俺はユーラを……)
――嫌いな物を無理に身に着けて苦しんでいたから。
レックスがいつも通りユーラを否定しようとしても、さっき聞いたミレイの言葉が延々と蘇って打ち消す。
女神に愛されるミレイの言葉は正しいのだ。ただ1人、自信をなくしていたレックスを認めてくれたのだから。
そして、ミレイは祝福を授ける女神のように慈悲深い笑みを浮かべた。
「ふふふ、今の彼女はとても幸せそう。きっとあの彼が好きなのね。お2人はお似合いだわ」
――その言葉に、レックスの世界は粉々に壊れた。
激しく痛みだした頭にうめくと、それに気づいたミレイの兄が心配そうに声をかけてくる。
「レックス君? 顔色が優れないがどこか具合が悪いのかい? 少し休んだ方が良いんじゃないか」
「まあ、大変。レックス、ひどい顔色よ。休憩室に行った方が良いわ」
「私が案内するよ。ミレイはダンスを楽しんでおいで。殿下、すみませんが、妹をお願いしますよ」
ミレイの兄は第2王子にミレイを託すと、声も出せずにうつむくレックスを支えるように背中に腕を回して休憩室に連れていく。
ミレイは心配そうにしていたが、王子に声をかけられるとぱっと花が咲くような笑顔を浮かべた。
――そういえば、とそれを見たレックスは痛みでまともに動かない頭で思った。
ミレイが着けている宝石はレックスと同じ水色の瞳をした第2王子グラディスの瞳の色と良く似ていて、王子もまたはちみつ色をまとっている。
それにミレイはいつもプレゼントを受け取ると真っ先に王子に見せに行っていた。その時のミレイは一番輝いていて。
「ありがとう、レックス! あなたのおかげで、学園祭は私の最高の姿で過ごせるわ!」
ドレスを見た時のミレイも同じぐらい輝くような笑みを浮かべていた。
女神に愛される彼女の言葉はすべて本心からのものだ。そして、希少なギフト持ちの彼女は皆に愛され大事にされ、いつも幸せでいるのが当たり前なのだ。
レックスのプレゼントは彼女を喜ばせ、レックスはそんな彼女に心から喜んで尽くしていた。
「ミレイをよろしく頼むよ」
第2王子グラディスとミレイの兄のその言葉はどういう意味だったのだろうか。でも、これだけは底なしの深い闇に呑み込まれていくレックスにもわかる。
――ミレイとグラディスは愛し合っていて、自分は2人の幸せのために使われたのだと。
今はそれ以上は考えたくなくて。レックスは激しい痛みをこらえながら、ミレイの兄に力強く背を押されて休憩室に連れられて行った。
実は、君にエスコートを頼む際にテニング伯爵家に我が家との婚約を打診したのだが。伯爵はシューラス子爵家との長年の義理を重んじて渋られていたんだよ。しかし、我が家の事情を聞いた子爵夫妻とご令嬢はミレイと君の幸せのために身を引いてくれると言ってくれてね。
彼らが婚約を解消してくれたおかげで、晴れてミレイと君の婚約を結べたんだよ。シューラス子爵家には我が家の恩人だ」
「ああ、私もフィリーネからそう聞いたよ。シューラス嬢は特にかわいがっている後輩らしくてね。彼女が自分で学園祭のドレスを用意すると聞いたとたんに、仲間を巻きこんで夢中でドレスのデザインを考えていたよ。
それに、あの海のような鮮やかな青色は、幼なじみの婚約者殿が領地の海を愛する彼女のために作りだした色らしいね。いつもは淡い色ばかりで霞んでいた彼女に良く似合っているよ。
もっとも、あの様子だと愛する彼女以外には着ることを許してくれなさそうだけれどね」
「そうね。あの華やかな青をまとったシューラス様たちを見た時には、まるで幸せを告げる番の青い小鳥が現れたのかと驚いたわ。さすがは花嫁に幸せをもたらすシューラス子爵家ね。私もお願いできるかしら?」
「はは、我が妹は本当に愛には情熱的だな。義理堅いシューラス夫人は我が家の婚礼の時には喜んで力を貸してくれると言っていたから、ミレイが望むなら引き受けてくれるはずさ」
(ユーラが婚約解消した? 俺に黙って勝手に? しかも、新しい男がいるだと!? で、でも、俺はミレイと婚約していて、ユーラは俺たちの幸せために身を引いたと第2王子殿下も知っている。それに、ユーラなんかのために殿下の婚約者のアクス公爵令嬢があの見苦しいドレスを作って、でもミレイも殿下もあの青のドレスがきれいだと褒めていて、誰よりも本物の美しさを知るミレイはユーラを気に入っていて……)
楽し気に喋る3人はレックスが信じているものすべてを否定して、壊していく。混乱しながらも必死に信じていた物の欠片を掴もうとするレックスに気づかずにミレイがふんわりと微笑んだ。
「でも、あんなに落ちこんでいたシューラス様も好きな物を見つけられたのね。良かった」
「おや、ミレイはシューラス嬢を知っているのか?」
「いいえ、知っているという程親しく話したことはないわ。前にたまたま見た時に、なぜか自分が嫌いな物を無理に身に着けて苦しんでいたから、女神様の御心に反すると思って。見かねて止めたの」
(嫌いな物を無理に身に着けて、苦しんでいた……? どういうことだ、ユーラはいつだって俺が最高の物を与えてやったのに!!)
ミレイの言葉に王子と兄がユーラに視線を向ける。
レックスもその視線を追うと、ちょうどユーラと一緒にいる男が何かを言ったらしく、ユーラは背の高い彼をすねたように上目遣いで見上げて何かを言い返し、からからと笑った彼の言葉にぱっと輝くような笑顔を見せた。
その幸せな笑顔はレックスが一度も見たことがないもので、レックスのひび割れた心にさらに衝撃が走った。
(……俺といる時のユーラはあんな笑顔を見せたことなんてない。何であいつには笑っているんだ。ユーラは俺の婚約者で、俺はユーラを……)
――嫌いな物を無理に身に着けて苦しんでいたから。
レックスがいつも通りユーラを否定しようとしても、さっき聞いたミレイの言葉が延々と蘇って打ち消す。
女神に愛されるミレイの言葉は正しいのだ。ただ1人、自信をなくしていたレックスを認めてくれたのだから。
そして、ミレイは祝福を授ける女神のように慈悲深い笑みを浮かべた。
「ふふふ、今の彼女はとても幸せそう。きっとあの彼が好きなのね。お2人はお似合いだわ」
――その言葉に、レックスの世界は粉々に壊れた。
激しく痛みだした頭にうめくと、それに気づいたミレイの兄が心配そうに声をかけてくる。
「レックス君? 顔色が優れないがどこか具合が悪いのかい? 少し休んだ方が良いんじゃないか」
「まあ、大変。レックス、ひどい顔色よ。休憩室に行った方が良いわ」
「私が案内するよ。ミレイはダンスを楽しんでおいで。殿下、すみませんが、妹をお願いしますよ」
ミレイの兄は第2王子にミレイを託すと、声も出せずにうつむくレックスを支えるように背中に腕を回して休憩室に連れていく。
ミレイは心配そうにしていたが、王子に声をかけられるとぱっと花が咲くような笑顔を浮かべた。
――そういえば、とそれを見たレックスは痛みでまともに動かない頭で思った。
ミレイが着けている宝石はレックスと同じ水色の瞳をした第2王子グラディスの瞳の色と良く似ていて、王子もまたはちみつ色をまとっている。
それにミレイはいつもプレゼントを受け取ると真っ先に王子に見せに行っていた。その時のミレイは一番輝いていて。
「ありがとう、レックス! あなたのおかげで、学園祭は私の最高の姿で過ごせるわ!」
ドレスを見た時のミレイも同じぐらい輝くような笑みを浮かべていた。
女神に愛される彼女の言葉はすべて本心からのものだ。そして、希少なギフト持ちの彼女は皆に愛され大事にされ、いつも幸せでいるのが当たり前なのだ。
レックスのプレゼントは彼女を喜ばせ、レックスはそんな彼女に心から喜んで尽くしていた。
「ミレイをよろしく頼むよ」
第2王子グラディスとミレイの兄のその言葉はどういう意味だったのだろうか。でも、これだけは底なしの深い闇に呑み込まれていくレックスにもわかる。
――ミレイとグラディスは愛し合っていて、自分は2人の幸せのために使われたのだと。
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