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第18話 進む会議と、未知なるバトルグラウンド
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週が明けた、月曜の朝。
事務所の空気は週末の熱狂が心地よい余韻として残り、これまでにないほど前向きな希望に満ちていた。テーブルの上には社長が淹れてくれた珈琲の香りが漂っている。
「いやあ、問い合わせの電話が鳴りやまなくてな!」
会議の冒頭から、社長が子供のようにはしゃぎながら切り出す。
「旧知の業界関係者からも連絡があったんだ。『この勢いなら1万人達成は目前。そうなれば、案件の話も少しずつ舞い込んでくるだろう』とのことだ! ようやっと光が見えてきたぞ!」
「本当ですか!? やったー!」
その明るい展望に、黒木も素直な喜びの声を上げる。崖っぷちだった事務所にも、ようやく順風が吹き始めた。
「だが、ここからが肝要だ」
そんな浮足立ちそうな空気を一刀したのは、社長の静かで重みのある声だった。
「この好機をどう活かすか。我々が進むべき道と取るべき手段について、まずはマネージャーの須藤くんから聞こうじゃないか」
社長の真剣な眼差しを受け、俺は背筋が伸びるのを感じながらゆっくりと頷く。
「…はい」
短く応えて立ち上がり、PCをモニターに繋ぐ。誰に頼まれるでもなく、空いた時間を費して作り上げた、俺にとっての初めての本格的なプレゼン資料が画面いっぱいに表示される。
「社長のお話の通り、各種指標は極めて良好です。この追い風を逃さず、確固たる事務所の基盤を築くため、今後の活動方針を提案します」
俺は一度、黒木の方を見た。
彼女は真剣な眼差しで、こちらを見つめている。
「まず、最優先で取り組むべきは、目前に迫った黒木さんのチャンネル登録者1万人達成、及びその後の展開です。具体的には、記念配信の企画を早急に詰め、それに合わせた記念グッズの制作準備を今から始めるべきだと考えます」
俺がそう締めくくると、黒木は「記念グッズ…!」と目を輝かせた。
だが、社長は腕を組んで、難しい顔で首を横に振った。
「…気持ちは分かる。分かるんだが、須藤くん。物理的なグッズの制作は、今から動いても到底間に合わん。最短でも数ヶ月はかかるぞ」
「…えぇ、そうですね」
社長の現実的な指摘が返ってくる。
その通りだ。故に織り込み済みの答えでもある。
俺はごくりと喉を鳴らし、次のスライドに進んだ。
そこには、
『デジタルコンテンツ』
という、一つの単語だけが書かれている。
「…物理的なグッズがスケジュール的に厳しいことは、俺も承知しています。そこで…その…代替案、と言いますか…最も、合理的で、リスクがなく、かつ即時性の高い施策がこの、デジタルコンテンツの販売でして…」
俺の歯切れが、急に悪くなる。
社長と黒木が、不思議そうな顔でこちらを見ている。
「デジタル…といいますと?」
「具体的にはなんだね?」
二人から同時に促された俺は、蚊の鳴くような声で続けた。
「…例えば、その…記念、ボイス…とか…」
言ってしまった。
言ってしまったが、その先が続かない。
脳内では、完璧な理屈が組み立てられている。『ボイスは製造・在庫コストが掛からず、利益率も極めて高い、即日リリース可能でファンの熱を逃さない、故に最適解である』と。
だが、それを実行するには、目の前の彼女に「あなたの声を使って、ファンへの感謝の言葉を商品として録音してください」とお願いしなければならない。それはあまりにもパーソナルな要求すぎて、口にする勇気が俺にはなかった。
俺が俯いて黙り込んでしまい、気まずい沈黙が流れた、その時。
「――ボイス! いいじゃないですか!」
沈黙を破ったのは、黒木の明るい声だった。
「えっ…?」
俺が顔を上げると、彼女はプロの顔で、しかしどこか楽しそうに頷いていた。
「分かりますよ、ファンのみんなの気持ち! 私も好きな声優さんのドラマCDとか、めっちゃ買ってますし! あの、耳元で好きな声が聴ける特別感って、たまらないんですよね~!」
彼女は自分の体験を熱っぽく語った後、にぱっと笑って俺を見た。
「だから、絶対喜んでくれますって! はい、やりましょう! 最高のボイス、作ってみせますから! 脚本だって、もちろん私が書きます!」
俺が言い淀んでいたことを、彼女は一瞬で理解し、最高の形で肯定してくれた。俺のロジックを、彼女のプロ意識と優しさが、完璧に補完してくれたのだ。
社長も、ぱっと顔を輝かせる。
「そうか! ボイスなら、熱が冷める前に届けられる! 天才じゃないか、黒木くん! …いや、その最適解を導き出した、須藤くんもだ!」
俺は、ただ、安堵と感謝で胸がいっぱいになり、彼女に小さく頭を下げることしかできなかった。
「…ありがとうございます、黒木さん。助かりました」
「にゃはは! こちらこそ、素敵なアイデアをありがとうございます、マネージャーさん!」
彼女は、悪戯っぽくウインクした。
俺の理屈だけでは動かせない現実を、彼女の声と勇気が動かしてくれる。最高のパートナーが隣にいる。その事実が、俺の心を強くしていた。
「よし! 1万人記念は、黒木くんのアイデアを軸に進めよう! いやあ、最高の企画になりそうだ!」
社長も満足げに頷き、一件落着という空気が流れる。
だが、そのポジティブな流れに乗って黒木がさらに目を輝かせた。
「あ、そうだ社長! 須藤さん! ついでにも一つ提案してもいいですか?」
彼女はそう言うと、弾むような足取りでモニターの前に立ち、慣れた手つきで一つのウェブサイトを映し出した。
そこに表示されたのは、超人気バトルロイヤルFPS『エーペックス』のロゴ。加えて、業界最大手『シャイニー・プロダクション』が主催する、大規模なVtuber限定のオンライン大会の告知ページだった。
「見てください、これ! V-Tuber王者決定戦! Vtuber界隈で一番大きなお祭りなんです! シャイニープロの子たちも、個人勢の猛者も、みーんな集まるんですよ! すごくないですか!? 通称『V王』って呼ばれてて、ただ見てるだけでも絶対楽しいんですけど、もしこれに私たちが出れたら…って考えたら、もう、ワクワクしませんか!?」
その言葉は損得勘定よりも純粋な憧れと「この楽しいことを、ファンのみんなと分ち合いたい」という、彼女のエンターテイナーとしての魂そのものだった。
「V王か…! 確かに、これはすごい熱気だ!」
熱弁を聞いた社長もその熱量に完全に引き込まれている。俺も反対する気はなかった。むしろ、その熱狂がもたらすであろう波及効果を瞬時に計算し、静かに頷いていた。
「…ええ。最高の“お祭り”ですね」
俺がそう言うと、黒木は「ですよね!」と嬉しそうに頷く。
一方で別の考えが頭を巡っていた。
(…主催がシャイニー・プロダクションであるということは、実際は自分の所属タレントを世に知らしめるための広告塔として機能しているはず。あちらのファンにとって俺らは単なる数合わせの参加者でしか無い…)
逆に、もし我々がこの場面で彼らに一矢報いることが出来れば、その宣伝効果は計り知れない。まさに下剋上のための最高の舞台だ。
挑戦する価値は十二分にある。
だがそれに参加するには一つ、決定的な落とし穴もあった。
「ただ、ご存知の通り、問題は参加資格が3人1チームであること。現状、我々にはあと一人足りません」
その言葉に、事務所の空気が一瞬、現実へと引き戻される。
「うーむ、3人か…」
社長が腕を組んだ後、ニヤリと笑った。
「…よし! こうなったら、このStarlight-VERSEの最終兵器、青海壮一(45)がデビューするか!?」
「にゃはは! 社長がVデビューですか!? 面白そうだけど、絶対腰痛めますよー!」
「…違う意味で目立っちゃいますって…」
社長は「まあ、冗談はさておき…」と咳払いを一つすると、真面目な顔に戻った。
「事務所縛りがないのなら外部から強力な助っ人を一人招待するのが最も手っ取り早いか?」
「ええ…。僕も一応ゴールド帯まではやりましたが、黒木さんの足を引っ張るのが目に見えています。外部からの助っ人の方が、間違いなく良いかと…」
社長が最も合理的で、現実的な解決策を口にした。俺もそれが最適解だろうと考えていた。
――だが、その案に黒木だけが真剣な表情で首を横に振る。
「…それもいいんですけど…。でも私、思うんです。この大会って、Starlight-VERSEがもっと大きくなるための、最高のチャンスじゃないかなって」
彼女は、俺と社長の顔をまっすぐに見つめて、続けた。
「だから、せっかくなら、この機会に新しい仲間を迎えたいんです! 大会のためだけの助っ人じゃなくて、これから先もずっと一緒に笑ったり、悩んだりできるような…新生Starlight-VERSEの3人目のメンバーを!」
黒木の訴えは、単なる大会出場願望ではなかった。
事務所の未来を見据えた「仲間が欲しい」という、看板役としてずっと一人で戦ってきた女の子としての、切実な願い。
その真摯な想いに、俺と社長は心を打たれた。
「…そうか。そうだよな、黒木くん。君は、ずっと一人で事務所を支えてきてくれたもんな…」
感慨深げに頷く社長。
俺も同じだ。
彼女の願いを叶えたいと、強く思えた。
「…俺も、新しい仲間を迎えることに賛成です。それが、事務所の未来への最高の投資になりますし…」
事務所の総意は決まった。「V王出場のために、最高の新人を探す」。その目標で、俺たちの心は完全に一つになった。
「よし! 早速、募集要項を作るぞ! どんな人材がいいか、聞かせてくれ二人とも」
社長が、興奮気味に俺達に尋ねる。
俺はまず理想の人材について、あくまで「理想を言えば」と前置きした上で、冷静に分析結果を告げた。
「…理想を言えば、大会で活躍できる高いゲームスキル、我々とすぐに馴染めるコミュニケーション能力、何より即戦力となる情熱…その全てを兼ね備えた逸材ですが…」
そこまで言って、俺自身が「…まあ、そんな都合のいい人材、いるわけありませんよね」と苦笑した。
「にゃはは…スーパーマンを探すのは、ちょっと難しそうですね」
黒木も冗談めかして笑う。
そこに、社長は優しくも力強い声で言い放った。
「ああ、そうだ。私たちが探しているのは、完璧なスーパーマンじゃない」
彼は、俺と黒木の顔をまっすぐに見て、この事務所の「本当の羅針盤」を示した。
「私たちが探しているのは不器用でもいいし、尖っていてもいい。何か一つ、誰にも負けない『武器』と、『本気の情熱』を持った仲間だ。須藤くんがそうだったように。そして、黒木くんがそうであるように…ね」
その言葉に、俺と黒木はハッとしたように顔を見合わせ、力強く頷いた。自分たちのことを見ていてくれた社長の言葉が胸に深く、温かく響いた。
社長が高らかに宣言する。
「よし、決まりだ! 公式Twitterで、新人オーディションの告知を出すぞ! 経歴も、器用さも問わない! Starlight-VERSEの未来を本気で一緒に作りたいと願う、最高の仲間を探しに行こうじゃないか!」
「「はい!」」
三人の声が、小さな事務所に力強く響き渡る。
こうして新生Starlight-VERSEの新たな仲間探しが今始まった。
事務所の空気は週末の熱狂が心地よい余韻として残り、これまでにないほど前向きな希望に満ちていた。テーブルの上には社長が淹れてくれた珈琲の香りが漂っている。
「いやあ、問い合わせの電話が鳴りやまなくてな!」
会議の冒頭から、社長が子供のようにはしゃぎながら切り出す。
「旧知の業界関係者からも連絡があったんだ。『この勢いなら1万人達成は目前。そうなれば、案件の話も少しずつ舞い込んでくるだろう』とのことだ! ようやっと光が見えてきたぞ!」
「本当ですか!? やったー!」
その明るい展望に、黒木も素直な喜びの声を上げる。崖っぷちだった事務所にも、ようやく順風が吹き始めた。
「だが、ここからが肝要だ」
そんな浮足立ちそうな空気を一刀したのは、社長の静かで重みのある声だった。
「この好機をどう活かすか。我々が進むべき道と取るべき手段について、まずはマネージャーの須藤くんから聞こうじゃないか」
社長の真剣な眼差しを受け、俺は背筋が伸びるのを感じながらゆっくりと頷く。
「…はい」
短く応えて立ち上がり、PCをモニターに繋ぐ。誰に頼まれるでもなく、空いた時間を費して作り上げた、俺にとっての初めての本格的なプレゼン資料が画面いっぱいに表示される。
「社長のお話の通り、各種指標は極めて良好です。この追い風を逃さず、確固たる事務所の基盤を築くため、今後の活動方針を提案します」
俺は一度、黒木の方を見た。
彼女は真剣な眼差しで、こちらを見つめている。
「まず、最優先で取り組むべきは、目前に迫った黒木さんのチャンネル登録者1万人達成、及びその後の展開です。具体的には、記念配信の企画を早急に詰め、それに合わせた記念グッズの制作準備を今から始めるべきだと考えます」
俺がそう締めくくると、黒木は「記念グッズ…!」と目を輝かせた。
だが、社長は腕を組んで、難しい顔で首を横に振った。
「…気持ちは分かる。分かるんだが、須藤くん。物理的なグッズの制作は、今から動いても到底間に合わん。最短でも数ヶ月はかかるぞ」
「…えぇ、そうですね」
社長の現実的な指摘が返ってくる。
その通りだ。故に織り込み済みの答えでもある。
俺はごくりと喉を鳴らし、次のスライドに進んだ。
そこには、
『デジタルコンテンツ』
という、一つの単語だけが書かれている。
「…物理的なグッズがスケジュール的に厳しいことは、俺も承知しています。そこで…その…代替案、と言いますか…最も、合理的で、リスクがなく、かつ即時性の高い施策がこの、デジタルコンテンツの販売でして…」
俺の歯切れが、急に悪くなる。
社長と黒木が、不思議そうな顔でこちらを見ている。
「デジタル…といいますと?」
「具体的にはなんだね?」
二人から同時に促された俺は、蚊の鳴くような声で続けた。
「…例えば、その…記念、ボイス…とか…」
言ってしまった。
言ってしまったが、その先が続かない。
脳内では、完璧な理屈が組み立てられている。『ボイスは製造・在庫コストが掛からず、利益率も極めて高い、即日リリース可能でファンの熱を逃さない、故に最適解である』と。
だが、それを実行するには、目の前の彼女に「あなたの声を使って、ファンへの感謝の言葉を商品として録音してください」とお願いしなければならない。それはあまりにもパーソナルな要求すぎて、口にする勇気が俺にはなかった。
俺が俯いて黙り込んでしまい、気まずい沈黙が流れた、その時。
「――ボイス! いいじゃないですか!」
沈黙を破ったのは、黒木の明るい声だった。
「えっ…?」
俺が顔を上げると、彼女はプロの顔で、しかしどこか楽しそうに頷いていた。
「分かりますよ、ファンのみんなの気持ち! 私も好きな声優さんのドラマCDとか、めっちゃ買ってますし! あの、耳元で好きな声が聴ける特別感って、たまらないんですよね~!」
彼女は自分の体験を熱っぽく語った後、にぱっと笑って俺を見た。
「だから、絶対喜んでくれますって! はい、やりましょう! 最高のボイス、作ってみせますから! 脚本だって、もちろん私が書きます!」
俺が言い淀んでいたことを、彼女は一瞬で理解し、最高の形で肯定してくれた。俺のロジックを、彼女のプロ意識と優しさが、完璧に補完してくれたのだ。
社長も、ぱっと顔を輝かせる。
「そうか! ボイスなら、熱が冷める前に届けられる! 天才じゃないか、黒木くん! …いや、その最適解を導き出した、須藤くんもだ!」
俺は、ただ、安堵と感謝で胸がいっぱいになり、彼女に小さく頭を下げることしかできなかった。
「…ありがとうございます、黒木さん。助かりました」
「にゃはは! こちらこそ、素敵なアイデアをありがとうございます、マネージャーさん!」
彼女は、悪戯っぽくウインクした。
俺の理屈だけでは動かせない現実を、彼女の声と勇気が動かしてくれる。最高のパートナーが隣にいる。その事実が、俺の心を強くしていた。
「よし! 1万人記念は、黒木くんのアイデアを軸に進めよう! いやあ、最高の企画になりそうだ!」
社長も満足げに頷き、一件落着という空気が流れる。
だが、そのポジティブな流れに乗って黒木がさらに目を輝かせた。
「あ、そうだ社長! 須藤さん! ついでにも一つ提案してもいいですか?」
彼女はそう言うと、弾むような足取りでモニターの前に立ち、慣れた手つきで一つのウェブサイトを映し出した。
そこに表示されたのは、超人気バトルロイヤルFPS『エーペックス』のロゴ。加えて、業界最大手『シャイニー・プロダクション』が主催する、大規模なVtuber限定のオンライン大会の告知ページだった。
「見てください、これ! V-Tuber王者決定戦! Vtuber界隈で一番大きなお祭りなんです! シャイニープロの子たちも、個人勢の猛者も、みーんな集まるんですよ! すごくないですか!? 通称『V王』って呼ばれてて、ただ見てるだけでも絶対楽しいんですけど、もしこれに私たちが出れたら…って考えたら、もう、ワクワクしませんか!?」
その言葉は損得勘定よりも純粋な憧れと「この楽しいことを、ファンのみんなと分ち合いたい」という、彼女のエンターテイナーとしての魂そのものだった。
「V王か…! 確かに、これはすごい熱気だ!」
熱弁を聞いた社長もその熱量に完全に引き込まれている。俺も反対する気はなかった。むしろ、その熱狂がもたらすであろう波及効果を瞬時に計算し、静かに頷いていた。
「…ええ。最高の“お祭り”ですね」
俺がそう言うと、黒木は「ですよね!」と嬉しそうに頷く。
一方で別の考えが頭を巡っていた。
(…主催がシャイニー・プロダクションであるということは、実際は自分の所属タレントを世に知らしめるための広告塔として機能しているはず。あちらのファンにとって俺らは単なる数合わせの参加者でしか無い…)
逆に、もし我々がこの場面で彼らに一矢報いることが出来れば、その宣伝効果は計り知れない。まさに下剋上のための最高の舞台だ。
挑戦する価値は十二分にある。
だがそれに参加するには一つ、決定的な落とし穴もあった。
「ただ、ご存知の通り、問題は参加資格が3人1チームであること。現状、我々にはあと一人足りません」
その言葉に、事務所の空気が一瞬、現実へと引き戻される。
「うーむ、3人か…」
社長が腕を組んだ後、ニヤリと笑った。
「…よし! こうなったら、このStarlight-VERSEの最終兵器、青海壮一(45)がデビューするか!?」
「にゃはは! 社長がVデビューですか!? 面白そうだけど、絶対腰痛めますよー!」
「…違う意味で目立っちゃいますって…」
社長は「まあ、冗談はさておき…」と咳払いを一つすると、真面目な顔に戻った。
「事務所縛りがないのなら外部から強力な助っ人を一人招待するのが最も手っ取り早いか?」
「ええ…。僕も一応ゴールド帯まではやりましたが、黒木さんの足を引っ張るのが目に見えています。外部からの助っ人の方が、間違いなく良いかと…」
社長が最も合理的で、現実的な解決策を口にした。俺もそれが最適解だろうと考えていた。
――だが、その案に黒木だけが真剣な表情で首を横に振る。
「…それもいいんですけど…。でも私、思うんです。この大会って、Starlight-VERSEがもっと大きくなるための、最高のチャンスじゃないかなって」
彼女は、俺と社長の顔をまっすぐに見つめて、続けた。
「だから、せっかくなら、この機会に新しい仲間を迎えたいんです! 大会のためだけの助っ人じゃなくて、これから先もずっと一緒に笑ったり、悩んだりできるような…新生Starlight-VERSEの3人目のメンバーを!」
黒木の訴えは、単なる大会出場願望ではなかった。
事務所の未来を見据えた「仲間が欲しい」という、看板役としてずっと一人で戦ってきた女の子としての、切実な願い。
その真摯な想いに、俺と社長は心を打たれた。
「…そうか。そうだよな、黒木くん。君は、ずっと一人で事務所を支えてきてくれたもんな…」
感慨深げに頷く社長。
俺も同じだ。
彼女の願いを叶えたいと、強く思えた。
「…俺も、新しい仲間を迎えることに賛成です。それが、事務所の未来への最高の投資になりますし…」
事務所の総意は決まった。「V王出場のために、最高の新人を探す」。その目標で、俺たちの心は完全に一つになった。
「よし! 早速、募集要項を作るぞ! どんな人材がいいか、聞かせてくれ二人とも」
社長が、興奮気味に俺達に尋ねる。
俺はまず理想の人材について、あくまで「理想を言えば」と前置きした上で、冷静に分析結果を告げた。
「…理想を言えば、大会で活躍できる高いゲームスキル、我々とすぐに馴染めるコミュニケーション能力、何より即戦力となる情熱…その全てを兼ね備えた逸材ですが…」
そこまで言って、俺自身が「…まあ、そんな都合のいい人材、いるわけありませんよね」と苦笑した。
「にゃはは…スーパーマンを探すのは、ちょっと難しそうですね」
黒木も冗談めかして笑う。
そこに、社長は優しくも力強い声で言い放った。
「ああ、そうだ。私たちが探しているのは、完璧なスーパーマンじゃない」
彼は、俺と黒木の顔をまっすぐに見て、この事務所の「本当の羅針盤」を示した。
「私たちが探しているのは不器用でもいいし、尖っていてもいい。何か一つ、誰にも負けない『武器』と、『本気の情熱』を持った仲間だ。須藤くんがそうだったように。そして、黒木くんがそうであるように…ね」
その言葉に、俺と黒木はハッとしたように顔を見合わせ、力強く頷いた。自分たちのことを見ていてくれた社長の言葉が胸に深く、温かく響いた。
社長が高らかに宣言する。
「よし、決まりだ! 公式Twitterで、新人オーディションの告知を出すぞ! 経歴も、器用さも問わない! Starlight-VERSEの未来を本気で一緒に作りたいと願う、最高の仲間を探しに行こうじゃないか!」
「「はい!」」
三人の声が、小さな事務所に力強く響き渡る。
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