憧れの悪役令嬢に転生したからと言って、悪役令嬢になれる訳では無い!!

来実

文字の大きさ
23 / 31

23.ラルフ

しおりを挟む
ラルフは、ルーミエールをレオンの屋敷に送り届けて帰宅すると、昨晩の出会いを思い返して胸が熱くなった。

レオンとは学業を共にした昔からの友人だ。

『幼い頃、パーティで出会った少女を今でも忘れられない。』

と言って、その少女を今に至るまで想い続けているという一途さ?執着?夢見る乙女?なところも、レオンらしいな。と思っていた。

だが、そんなレオンから婚約のことを聞いて驚いた。
「運命的な出会いをした彼女はもういいのか?」
と尋ねると、

『その人を探すために婚約した。』
と彼は語った。

実際、爵位もあれば容姿も良い。ましてや、あの性格……。
口数は少ないし、普段は何を考えているか分からないようなところもあるが、案外世話焼きで気が利く。

本人は無自覚なのだろうが、たまに見せる笑顔に貴族の姫君たちが群がるのはうなずけることだった。

そんなレオンが婚約したと聞いて驚いた。
だが、
本人曰く『両親の目が面倒だから、条件が合う女性との形だけの婚約で、結婚する気は無い。』と。

何度かルーミエールを社交界で見かけたこともある。

昨晩はまるで別人で気づかなかったな……。

道端で女性がうずくまっているのを見て、声をかけた。
顔を上げた彼女は、涙をポロリと流しながら悲しそうな顔をしていた。

その消え入るような表情で涙をうかべる女性に手を差し伸べた。

きっと、その時すでに彼女に惹かれていたんだと思う。

衝動的に抱き上げると、戸惑ってはいるようだが、そのまま馬車に乗せた。

流石にあのまま道端に放置しては帰れない。
とりあえず、何であんなところに居たのかが気になる。

ワインをグラスにつぐと、彼女はグイッと勢い良く飲み干した。

そして、自分でアレコレと語り始めた。

「私が知らなかっただけだけどおっ!だったら優しくしないでよっ!!」
「勘違いするじゃん!!…………」
「こっちは、浮かれてるのバカみたい………」
「あのドキドキ何だったの」
「…………」

失恋……かな?

そして、その失恋を忘れるかのように、彼女は2杯目のグラスに手をかける。

「レオンのバカァっ!!!」
「自分でっ……きめたこと……らけどぉ……」

ん?レオン?
「君、レオンっていうのは恋人かな?」
脳裏には、自分の知ってるレオンが頭に浮かんで、ふと尋ねた。

「婚約しゃれーす。」
「でもぉ、偽物なんれす。」

「にせもの?」

「運命の姫君を探してる」
「だから、わたしじゃない」
「じゃあ、すきになんてなりたくなかったぁ……」

「君は……ルーミエール?」

「何で知ってる?んれすか??」

どうやら、レオンは自分の知ってるレオンだったようだ。
だが、今目の前にいるルーミエールは、彼の婚約者として知っている人物像とは、だいぶ印象が違った。

社交界の影の噂では、ルーミエールは過去に幾人もの男と関係を持っては別れるといったことをしてるらしい。
一夜のなんとヤラを求める人は数多い。
それでもその美しさと、上目遣いでイチコロだと言われる噂もあった。

彼女が2杯目のグラスを空にする頃には、泣き始めてしまった。

「………。なんでっ……。じゃぁっ…何で」
「………レオンのっ……ばかぁっ!!……っ!!」

さすがにこれ以上飲ませる訳にはいかないな……。
腕を振りかぶり、グラスを床に投げつける勢いだった手を掴む

「危ないよ?」
と、止めると、やり場のない気持ちを我慢して震えているようだった。

ルーミエールからグラスを奪い取り、そのまま抱き寄せる

「今は、好きなだけ泣いたらいいんじゃないかな?」

髪をサラッと撫でると、胸元にしがみついてきて、僕の腕の中で言葉にならない気持ちを溢れさせていた。

しばらくすると、胸元にグッと体重が預けられた。

ん?寝た?

彼女を抱き上げて客間に運ぶ。
目が覚めたら送っていこう。
にしても………レオン……罪なヤツだな………。
その気は無いと言えど、婚約者だろ。

客間のベットに降ろそうとすると、
彼女はシャツをギュッと掴んで離してくれない
彼女の目元からこぼれる涙をすくう
夢くらいは良いものを見て欲しいものだ。

レオンはこの子の一体何を見ていたのか。
そして、家出なのか分からないが、こんな状態になって夜道に放っておくなんて……。

目の前にいるルーミエールからは、今まで見聞きしていた悪役令嬢っぷりは感じられない。

僕の目に映るのは、1人の男に恋をして、その実らぬ恋心の行先がなくて涙を流す、美しくて儚い女性の姿だった。

翌朝、ルーミエールを送り届けた。


「--レオンに……会いに行くかな。」

部屋の窓から、空を眺めながら、ラルフはポソりと呟いた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

モブなのに、転生した乙女ゲームの攻略対象に追いかけられてしまったので全力で拒否します

みゅー
恋愛
乙女ゲームに、転生してしまった瑛子は自分の前世を思い出し、前世で培った処世術をフル活用しながら過ごしているうちに何故か、全く興味のない攻略対象に好かれてしまい、全力で逃げようとするが…… 余談ですが、小説家になろうの方で題名が既に国語力無さすぎて読むきにもなれない、教師相手だと淫行と言う意見あり。 皆さんも、作者の国語力のなさや教師と生徒カップル無理な人はプラウザバック宜しくです。 作者に国語力ないのは周知の事実ですので、指摘なくても大丈夫です✨ あと『追われてしまった』と言う言葉がおかしいとの指摘も既にいただいております。 やらかしちゃったと言うニュアンスで使用していますので、ご了承下さいませ。 この説明書いていて、海外の商品は訴えられるから、説明書が長くなるって話を思いだしました。

【完結】モブの王太子殿下に愛されてる転生悪役令嬢は、国外追放される運命のはずでした

Rohdea
恋愛
公爵令嬢であるスフィアは、8歳の時に王子兄弟と会った事で前世を思い出した。 同時に、今、生きているこの世界は前世で読んだ小説の世界なのだと気付く。 さらに自分はヒーロー(第二王子)とヒロインが結ばれる為に、 婚約破棄されて国外追放となる運命の悪役令嬢だった…… とりあえず、王家と距離を置きヒーロー(第二王子)との婚約から逃げる事にしたスフィア。 それから数年後、そろそろ逃げるのに限界を迎えつつあったスフィアの前に現れたのは、 婚約者となるはずのヒーロー(第二王子)ではなく…… ※ 『記憶喪失になってから、あなたの本当の気持ちを知りました』 に出てくる主人公の友人の話です。 そちらを読んでいなくても問題ありません。

「転生したら推しの悪役宰相と婚約してました!?」〜推しが今日も溺愛してきます〜 (旧題:転生したら報われない悪役夫を溺愛することになった件)

透子(とおるこ)
恋愛
読んでいた小説の中で一番好きだった“悪役宰相グラヴィス”。 有能で冷たく見えるけど、本当は一途で優しい――そんな彼が、報われずに処刑された。 「今度こそ、彼を幸せにしてあげたい」 そう願った瞬間、気づけば私は物語の姫ジェニエットに転生していて―― しかも、彼との“政略結婚”が目前!? 婚約から始まる、再構築系・年の差溺愛ラブ。 “報われない推し”が、今度こそ幸せになるお話。

ヒロインしか愛さないはずの公爵様が、なぜか悪女の私を手放さない

魚谷
恋愛
伯爵令嬢イザベラは多くの男性と浮名を流す悪女。 そんな彼女に公爵家当主のジークベルトとの縁談が持ち上がった。 ジークベルトと対面した瞬間、前世の記憶がよみがえり、この世界が乙女ゲームであることを自覚する。 イザベラは、主要攻略キャラのジークベルトの裏の顔を知ってしまったがために、冒頭で殺されてしまうモブキャラ。 ゲーム知識を頼りに、どうにか冒頭死を回避したイザベラは最弱魔法と言われる付与魔法と前世の知識を頼りに便利グッズを発明し、離婚にそなえて資金を確保する。 いよいよジークベルトが、乙女ゲームのヒロインと出会う。 離婚を切り出されることを待っていたイザベラだったが、ジークベルトは平然としていて。 「どうして俺がお前以外の女を愛さなければならないんだ?」 予想外の溺愛が始まってしまう! (世界の平和のためにも)ヒロインに惚れてください、公爵様!!

【完結】転生したら悪役令嬢だった腐女子、推し課金金策してたら無双でざまぁで愛されキャラ?いえいえ私は見守りたいだけですわ

鏑木 うりこ
恋愛
 毒親から逃げ出してブラック企業で働いていた私の箱推し乙女ゲーム「トランプる!」超重課金兵だった私はどうやらその世界に転生してしまったらしい。  圧倒的ご褒美かつ感謝なのだが、如何せん推しに課金するお金がない!推しがいるのに課金が出来ないなんてトラ畜(トランプる重課金者の総称)として失格も良い所だわ!  なりふり構わず、我が道を邁進していると……おや?キング達の様子が?……おや?クイーン達も??  「クラブ・クイーン」マリエル・クラブの廃オタク課金生活が始まったのですわ。 *ハイパーご都合主義&ネット用語、オタ用語が飛び交う大変に頭の悪い作品となっております。 *ご照覧いただけたら幸いです。 *深く考えないでいただけるともっと幸いです。 *作者阿呆やな~楽しいだけで書いとるやろ、しょーがねーなーと思っていただけるともっと幸いです。 *あと、なんだろう……怒らないでね……(*‘ω‘ *)えへへ……。  マリエルが腐女子ですが、腐女子っぽい発言はあまりしないようにしています。BLは起こりません(笑)  2022年1月2日から公開して3月16日で本編が終了致しました。長い間たくさん見ていただいて本当にありがとうございました(*‘ω‘ *)  恋愛大賞は35位と健闘させて頂きました!応援、感想、お気に入りなどたくさんありがとうございました!

転生したら悪役令嬢になりかけてました!〜まだ5歳だからやり直せる!〜

具なっしー
恋愛
5歳のベアトリーチェは、苦いピーマンを食べて気絶した拍子に、 前世の記憶を取り戻す。 前世は日本の女子学生。 家でも学校でも「空気を読む」ことばかりで、誰にも本音を言えず、 息苦しい毎日を過ごしていた。 ただ、本を読んでいるときだけは心が自由になれた――。 転生したこの世界は、女性が希少で、男性しか魔法を使えない世界。 女性は「守られるだけの存在」とされ、社会の中で特別に甘やかされている。 だがそのせいで、女性たちはみな我儘で傲慢になり、 横暴さを誇るのが「普通」だった。 けれどベアトリーチェは違う。 前世で身につけた「空気を読む力」と、 本を愛する静かな心を持っていた。 そんな彼女には二人の婚約者がいる。 ――父違いの、血を分けた兄たち。 彼らは溺愛どころではなく、 「彼女のためなら国を滅ぼしても構わない」とまで思っている危険な兄たちだった。 ベアトリーチェは戸惑いながらも、 この異世界で「ただ愛されるだけの人生」を歩んでいくことになる。 ※表紙はAI画像です

転生しましたが悪役令嬢な気がするんですけど⁉︎

水月華
恋愛
ヘンリエッタ・スタンホープは8歳の時に前世の記憶を思い出す。最初は混乱したが、じきに貴族生活に順応し始める。・・・が、ある時気づく。 もしかして‘’私‘’って悪役令嬢ポジションでは?整った容姿。申し分ない身分。・・・だけなら疑わなかったが、ある時ふと言われたのである。「昔のヘンリエッタは我儘だったのにこんなに立派になって」と。 振り返れば記憶が戻る前は嫌いな食べ物が出ると癇癪を起こし、着たいドレスがないと癇癪を起こし…。私めっちゃ性格悪かった!! え?記憶戻らなかったらそのままだった=悪役令嬢!?いやいや確かに前世では転生して悪役令嬢とか流行ってたけどまさか自分が!? でもヘンリエッタ・スタンホープなんて知らないし、私どうすればいいのー!? と、とにかく攻略対象者候補たちには必要以上に近づかない様にしよう! 前世の記憶のせいで恋愛なんて面倒くさいし、政略結婚じゃないなら出来れば避けたい! だからこっちに熱い眼差しを送らないで! 答えられないんです! これは悪役令嬢(?)の侯爵令嬢があるかもしれない破滅フラグを手探りで回避しようとするお話。 または前世の記憶から臆病になっている彼女が再び大切な人を見つけるお話。 小説家になろうでも投稿してます。 こちらは全話投稿してますので、先を読みたいと思ってくださればそちらからもよろしくお願いします。

【完結】ヒロインに転生しましたが、モブのイケオジが好きなので、悪役令嬢の婚約破棄を回避させたつもりが、やっぱり婚約破棄されている。

樹結理(きゆり)
恋愛
「アイリーン、貴女との婚約は破棄させてもらう」 大勢が集まるパーティの場で、この国の第一王子セルディ殿下がそう宣言した。 はぁぁあ!? なんでどうしてそうなった!! 私の必死の努力を返してー!! 乙女ゲーム『ラベルシアの乙女』の世界に転生してしまった日本人のアラサー女子。 気付けば物語が始まる学園への入学式の日。 私ってヒロインなの!?攻略対象のイケメンたちに囲まれる日々。でも!私が好きなのは攻略対象たちじゃないのよー!! 私が好きなのは攻略対象でもなんでもない、物語にたった二回しか出てこないイケオジ! 所謂モブと言っても過言ではないほど、関わることが少ないイケオジ。 でもでも!せっかくこの世界に転生出来たのなら何度も見たイケメンたちよりも、レアなイケオジを!! 攻略対象たちや悪役令嬢と友好的な関係を築きつつ、悪役令嬢の婚約破棄を回避しつつ、イケオジを狙う十六歳、侯爵令嬢! 必死に悪役令嬢の婚約破棄イベントを回避してきたつもりが、なんでどうしてそうなった!! やっぱり婚約破棄されてるじゃないのー!! 必死に努力したのは無駄足だったのか!?ヒロインは一体誰と結ばれるのか……。 ※この物語は作者の世界観から成り立っております。正式な貴族社会をお望みの方はご遠慮ください。 ※この作品は小説家になろう、カクヨムで完結済み。

処理中です...