インシデント~楜沢健の非日常〜

五嶋樒榴

文字の大きさ
206 / 206
●100万分の1●

エピローグ

しおりを挟む
退院してしばらくは自宅療養中だったが、どうしても溜まっている仕事が気になり、健はリモートで内部処理や会議に参加していた。

『何もそこまで仕事をしなくても良いんじゃないか?休める時は休んでおけ』

リモート会議で葵が言うと、会議に参加してる他の役員も笑う。

「よく言いますよ。私のデスクが書類の山だったのは知ってますよ。稟議書に目を通して決裁をして、どんどん部下へ指示を出さないと、何もせずに復帰したらデスクが埋もれて見えなくなる」

健の冗談を聞いて、その場がホッとしているのがよく分かる。
必要とされている事が健にも喜びだった。

『分かった。分かった。全く、少しは俺を頼ってくれよ』

「もちろん頼りにしてます、社長」

健と葵の掛け合いに場は和んだまま会議も終了した。

『健』

会議室に葵だけが残り、まだリモートは繋がったままだった。

「はい?」

『品川真古登の件だが、依願退職の処理が終わった』

健から頼まれた件を葵は報告する。
菜々緒の件で弁護士が動いた事で、真古登と別れた菜々緒は東京を離れ、真古登は借金の返済の目処も立たず、結局は実家を頼らざるおえなくなった。
借金の返済のために、退職金を不足なく受け取る方がいいと考え、真古登は依願退職を選んだ。

「そうですか。問題を起こされる前に退職して良かったです」

菜々緒の事を思えば腑に落ちない点は多々あるが、弁護士が介入した事で菜々緒への脅迫材料の画像も消され、2度と菜々緒に近づかないと言う念書も書かされている。

『なぁ、元気になったら一緒に墓参りに行くか』

「そうですね。やっと全て終わりましたから」

葵は立ち上がり大きな窓の前に立つと、健と繋がるパソコンに顔を向けた。

『そろそろさ、敬語やめてくれねーか?』

「あ……」

健は葵をいつも親父と呼び、敬語で接していた。

『俺達は親子だろ?』

全てが解決し、葵ももう健に遠慮してほしくない。

「……うん」

健はなんだかくすぐったくて仕方ない。
葵のことは、ずっと尊敬の対象でもあった。

『パパって呼んでも良いぞ』

ニヤニヤ葵は笑い、健は鼻で笑う。

「……父さん、ありがとう。俺、父さんに見つけてもらえて本当に良かった」

『ばぁか。親子なんだ。どこに離れていようと見つけ出すさ』

たとえ血が繋がっていなくても、葵の愛情に健は幼い頃から包まれていた。

『さて、俺はまだ仕事だ。お前はゆっくり休んでおけ』

「はい」

ネットが切れると、健はデスクから離れてベッドに横になった。
次に目を覚ます時も、またいつもの日常である事を願いながら。





しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

17歳男子高生と32歳主婦の境界線

MisakiNonagase
恋愛
32歳主婦のカレンはインスタグラムで20歳大学生の晴人と知り合う。親密な関係となった3度目のデートのときに、晴人が実は17歳の高校2年生だと知る。 カレンと晴人はその後、どうなる?

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

滝川家の人びと

卯花月影
歴史・時代
勝利のために走るのではない。 生きるために走る者は、 傷を負いながらも、歩みを止めない。 戦国という時代の只中で、 彼らは何を失い、 走り続けたのか。 滝川一益と、その郎党。 これは、勝者の物語ではない。 生き延びた者たちの記録である。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)

MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。

おじさん、女子高生になる

一宮 沙耶
大衆娯楽
だれからも振り向いてもらえないおじさん。 それが女子高生に向けて若返っていく。 そして政治闘争に巻き込まれていく。 その結末は?

処理中です...