転生騎士団長の歩き方

Akila

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1章 ようこそ第7騎士団へ

32 緊張の糸が切れる時

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目が覚めると夜中だった。

「そっか… 寝落ちして1日中寝ちゃったんだった」

ゴソゴソと起きてまずはシャワー。こんな時間だし食堂は開いてないか。

静かな食堂へ行ってパンを拝借。食料やコンロには鍵がかかっていた。

「どうしよっかな~」

私はフラフラと北門の最上階、王都も城門外も見渡せる屋上へ向かう。

「は~。やっぱり寒いな。でも気持ちいい~」

照明用の松明が揺れる。私は城壁の縁に座ってモグモグとパンをかじった。

「団長、一人か?」

声で誰かわかったので振り返らず、暗く広がる門の外の世界を見ながら答える。

「うん。目が覚めちゃって、寝過ぎたかも、ボ~ッとするんだよね」

「今いいか?」

「どうぞ」

アレクはそう言うとの私の隣に座る。

「昨日は… 今朝だが、難民達を移動させる事が出来てよかった。いつから考えていた?」

「ん? 難民問題?」

「いや… この先の事も含めて。まず、騎士達の給与や勤務体制。新しい武器」

「う~ん。団長になってからかな? ぶっちゃけ私はたまたま昇進したからね、今までは上に言われるがまま『こんなもん』としか思っていなかったんだ。騎士の仕事って。まぁ第2だったって言うものあるかもしれないけど」

「そうか」

「アレクは? 団長代理で色々奮闘してたじゃん?」

「俺は正直、手一杯だった… 俺は上には向いていないんだろう」

「そうかな? 稽古指導とか騎士の体調とか、私が分からない所をよく見てると思うけど」

「それは、今は余裕が出来たからな。団長は就任した直後から団や騎士達を色々変えた。第7はもう以前の第7じゃない」

「私の場合は優秀な副団長と側近達が居たから出来た事だよ? でもまぁ、私のやってる事は無駄じゃ無いって事だよね?」

「あぁ、成功だ。あと… 団長。あの魔法だが… 最近目覚めたと言ってたな?」

「ん? あぁ」

「キッカケは? 俺には話せないか?」

さて、どうする。てか、アレク、わざわざコレを聞きに来たのかな?

「気になる? それとも国の為、魔法士団か教会へ行った方がイイとでも言う感じ?」

「いや、それは無い。俺の意見は前と変わらない。最近って言っていたのが引っかかってな… 先の戦争で重傷を負ったらしいじゃないか。それか?」

す、鋭い。


しばらくの沈黙の後、私は話す事にした。

「アレクはさぁ、例えば、死にかけて女神様がいる天の世界へ行ったとするじゃん。その時に本来の自分は死んでいて、でもまだこの身体は死ぬ時じゃないって。だから他人の自分に、魂だけこの身体に入って欲しいと女神様に言われたら入る?」

「… 信じがたいが… 魂か。それが本来の自分だろ? 言い方は悪いが、身体は器なだけであって… 俺は入ると思う。姿形は変わっても俺は俺だからな」

「そう言う事。私はね、死の淵を彷徨った時生き直したんだよ。ラモンとしてね」

「死ぬ前のラモンと、今のラモンは別人という事か?」

「さぁ? ラモンを知っているみんなにはどう映っているのか… まぁ、それも女神様の悪戯の内じゃない? 私は生き直せるチャンスに乗っかったんだし、ラモンとして精一杯生きるよ。てか、みんなが思うようなすごい人間じゃないんだな~実は。どんなに難しい試験問題でも結構シンプルな答えってあるじゃん」

「で? 生き直して良かったか?」

「そうね。第7は好きだよ。あと、色々出来るのも楽しいしやり甲斐もある。前の人生を思い出して少しだけ寂しい時もあるけど」

「… そうか。結論から言うと、その光魔法と魔力量は女神様からのプレゼントか」

「ビンゴ~!!! せめてものお詫びじゃない? くれるって言うんだから貰っちゃったんだ~。役に立ってるしね」

明るく振る舞って、自分を誤魔化していたのかな? なぜか涙が流れてきた。少しだけ『鈴木ゆり』を思い出してしまった。今まで考えない様に忙しくしてたのに。

アレクは何も言わずに自分のマントを私にかけて肩を抱いてくれた。

「団長、慰めにはならないが本来の自分を内に秘める辛さはわかる。どれが本当でどれが嘘なのか考え過ぎてどれもが違う様に感じてしまう… でも、どれもお前だ。本当とかないんだよ、ラモン。お前は生き直してるんだろ? じゃぁ、謳歌すればいいんだ。過去の自分も忘れなくていい。大切な物を手放さなくていい。心に残してていいんだ」

アレクの名言にひとしきり私は泣いた。しばらくして、寄り添っていた肩をそっと離れる。

「ん、アレク、もういいよ。ありがとう。スッキリした。私はこの事を誰かに聞いて欲しかったんだね。きっと。ただ泣きたかったのか… 聞いてくれたのがアレクで良かった」

「いや… いいんだ」

「あと、ごめん。誰にも言えない秘密を共有させてしまって」

「そんな事はいい。ハナから話すつもりはない… この事はドーンは知っているのか?」

「え? ううん。魔法が使える事だけ… てか、ちょいちょいアレクって偉そうになるよね? 私にお前とか言ったり、ドーンって。普段は副団長って言うくせに」

「あっ」

アレクは慌てて口を塞ぐ。

「ん~? アレクも秘密があるのかな? さっきの話もやけに説得力があったし?」

「… すまん、言えない。と、年明けには言えるだろう… 多分」

「何で新年? 何その日時指定、変なの。ぷぷぷ」

「まぁ… その内分かるだろう」

「まっ、いいや。今は、私、自分と第7の事でいっぱいいっぱいだから。年明けぐらいが落ち着いてちょうどいいのかもね、クス」

「人の秘密をちょうどいいって。ははは、お前は話てて面白い。深刻な話がどっかへ飛んで行ってしまう」

「あはは、てかアレク、いっつもそんな感じで笑えばいいのに。いつも無表情を通り過ぎて怖いんだよ? 自覚ある?」

「はぁ? そんな顔とか気にした事がない」

「これからはしょうもない事でも笑ってみたら? イケメンなんだし女子に人気になるよ。そうだ! 『第7の貴公子様』になってよ! アレクが笑顔で女性に優しくして、それで人気が出れば女性騎士も増えるんじゃない? いいね~。来年が楽しみだなぁ」

「おいっ、勝手に人を広告塔にするな。こう言うのはトリスが適任だろ? 2つ返事でやってくれるだろう。あいつは軽いからな」

「結構仲良いくせに軽いって。ぷぷ。チャラいのは勘弁して、せっかくの第7のイメージが悪くなる」

「ははは、それもそうだな、あははは」
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