転生騎士団長の歩き方

Akila

文字の大きさ
49 / 100
1章 ようこそ第7騎士団へ

番外編 クリスタル

しおりを挟む
「ラモン様、本日はお約束のドレスをお届けに参りました。お時間を頂いてありがとうございます」

私は今日、ドレスを納めに第7騎士団の団長室へやって来た。数人のお供と共にドレスを広げる。

「あら~! キレイじゃない! この真ん中のなんて刺繍が細やかで!」

ソファーにラモン様と並んで座っているのはユーグナー様だ。本当に仲がよろしい様で微笑ましい。ユーグナー様がドレスに一喜一憂している側で、ラモン様がニコニコしている。

「それはそうですよ。ユーグさんのデザインなんですから」

「いや~ね~。私はちょっとクリスタルに助言しただけよ」

「でも、こんな素晴らしいドレス。本当にありがとうございます。クリスタルさんも」

ラモン様は私にまでお礼をして下さる。

「いえいえ、この度は本当に申し訳ございませんでした。これを機に、今後ともご贔屓頂けるとうれしく存じます」

「え~! そんな! クリス商会のような高級店。私など… 多分今回限りですよ。すみません」

ラモン様は顔を真っ赤にして下を向く。

「そんな事を仰らずに。団長様である限り、年に一度は必要でしょうから。また、来年お声がけ下さい」

「は、はい。すみません、こんな貧乏子爵に気を使わせてしまって」

「はいはいはい、それよりも、着てみなさい? サイズを確認しないと。当日はどれにする?」

ユーグ様とラモン様はあ~でもないこ~でもないと、楽しげにドレスを選んでいる。

ラモン様はその中でフワッとスカートが膨らんだ、シンプルなドレスを選ばれた。

「地味じゃない?」

ユーグ様は刺繍のドレスが事の他お気に召したようだ。しかし、せっかくですし、ラモン様ご本人が選んだモノを後押しさせてもらう。

「ユーグナー様、横から失礼致します。こちらはシンプルですが生地が最高級品です。昨年の王妃様の誕生パーティーで、王妃様がお召しになられた南の国の絹を使用しております」

「まぁ! そうなの? あれが手に入ったの? 凄いわ~クリスタル」

「恐れ入ります。ですので、こちらでも何ら、パーティーでは見劣りは致しません」

「そう言う事なら、これにしましょうか。あとは手袋と宝石ね。ラモンちゃんは持ってる?」

モジモジしているラモン様は苦笑いで答えた。

「宝石など… 成人の時に両親からもらった指輪が精々です」

「そう… クリスタル? 用意はある?」

もちろんです! こうゆう事があろうかとご用意しております。しかもドレスに合わせて全てを。

「全てございます。ご安心を」

「流石ね。では、それを私名義で頂くわ」

ラモン様がユーグナー様に詰め寄っている。

「ダメです! ユーグさん。そんなには… 友人の域を超えてます! ダメですよ!」

ユーグナー様にとってはそれ程の金額では無いのだけれど… ああ言う所も好意的に思えるわ。他のお嬢様方なら、有無を言わず喜んで享受したでしょうに。

「ユーグナー様、滅相もございません。今回のご注文は全て込みでございます」

「あらあら~。クリスタル。あなたもラモンが気に入ったのね?」

「そうれはもう。こんなに寛大で純真なお心のお嬢様は他に知りません。ユーグナー様には大変素晴らしい方をご紹介して頂きました」

ニコリと笑って一礼をすると、今まで黙ってラモン様のお席の後ろについていた男性が話しかけてきた。

「クリスタルとやら。他に宝石はないのか? 私から送りたい」

え? 誰かしら? 騎士団の方には違いないでしょうが… ふふふ。

「今はございませんが、仰って頂ければご希望のモノをご用意致します。私はデザインも出来ますので、どうぞこちらでお話を伺いましょう」

「うむ」

と、言って座ろうとした男性をラモン様は止めている。

「ドーン、宝石はクリスタルさんが用意してくれたそうだから。これ以上はダメよ。貰っても管理出来ないわ。これ以上は、私にはいっぱいいっぱいなのよ!」

「そんな事はないでしょう。こう言う物はいくらあっても邪魔にはなりません」

「ダメダメ!」

ドーン様? はどうしても送りたいのかしら? 少しお手伝いをしてみましょう。これでどうかしら?

「ドーン様。ラモン様へは普段使いの宝石はいかがでしょう? 耳飾りや髪飾りなど。それなら毎日着けられますよ?」

クワっと目が見開いてニコニコ顔になるドーン様。分かりやすいわね。ふふふ。

「そうだな。では耳飾りにしようか。邪魔にならない小さなものがいい」

「では、こんな感じで、耳に沿う様なデザインはいかがでしょう?」

私はささっと耳に合うデザインを描いて見せる。ドーン様は蔦の印章がお好きな様で、剣の鞘やベルトに蔦が這っている。

「うん、この蔦、いいな」

「いやいやいや。ドーン、話聞いてた? 何で普段用とかになってるの? 聞いてる?」

ドーン様は相手にせず『まぁまぁ』と言いながら話を歩どんどん進める。

「ラモンちゃん、諦めなさい。ドーンは止まらないわ。いいじゃない? 貰っときなさい。普段使いなんだからそんなにしないわよ」

「え~、でも…」

モジモジするラモン様もかわいらしい。

ユーグナー様は『そんなしない』とは仰るけど… 恐らく、子爵位のラモン様が思っている『そんな』とレベルが違いますよ?

「ラモン様、こう言った場合、淑女の方は『ありがとう』でよろしいかと」

「そう? いいの? ドーン?」

「ええ。普段もオシャレをすればいいと思いますよ? それにこれは、見て下さい。オシャレと言っても大層なものではありませんし」

小さな石が一つ。そこから蔦が耳のラインを這う様なデザイン。シンプルだけど材料次第では凄い金額になる。この曲線がね~、キレイだけどお高いんです。

「… ありがとう、ドーン。宝石なんて初めてよ」

頬を赤くさせてデザインを見るラモン様。余程気に入ったのか、耳を触りながらじっと絵を見ている。

「では、ここは黒ダイヤで蔦はシルバーでよろしいでしょうか?」

「あぁ。イングラッシュ家に請求をしてくれ」

「まぁ! 生前、奥様には… あっ。失礼しました。ごほん。では後日」

「あぁ」

と、私の失言を苦笑だけでドーン様は許して下さった。

しまった。他の女性への贈り物なのに… うっかり個人のご事情を話す所だったわ。

そう。ドーン様、そうなのね。あれから数年経ったものね。ドーン様があの方の旦那様だったのね。

生前奥様より伺っていた旦那様は『堅物』『無口』『仕事人間』。

目の前の方はそうではないみたい、ふふふ。

ラモン様。

本当にあなたは色々な縁を紡ぐ。素晴らしい方だわ。
しおりを挟む
感想 251

あなたにおすすめの小説

嘘つくつもりはなかったんです!お願いだから忘れて欲しいのにもう遅い。王子様は異世界転生娘を溺愛しているみたいだけどちょっと勘弁して欲しい。

季邑 えり
恋愛
異世界転生した記憶をもつリアリム伯爵令嬢は、自他ともに認めるイザベラ公爵令嬢の腰ぎんちゃく。  今日もイザベラ嬢をよいしょするつもりが、うっかりして「王子様は理想的な結婚相手だ」と言ってしまった。それを偶然に聞いた王子は、早速リアリムを婚約者候補に入れてしまう。  王子様狙いのイザベラ嬢に睨まれたらたまらない。何とかして婚約者になることから逃れたいリアリムと、そんなリアリムにロックオンして何とかして婚約者にしたい王子。  婚約者候補から逃れるために、偽りの恋人役を知り合いの騎士にお願いすることにしたのだけど…なんとこの騎士も一筋縄ではいかなかった!  おとぼけ転生娘と、麗しい王子様の恋愛ラブコメディー…のはず。  イラストはベアしゅう様に描いていただきました。

偽りの婚姻

迷い人
ファンタジー
ルーペンス国とその南国に位置する国々との長きに渡る戦争が終わりをつげ、終戦協定が結ばれた祝いの席。 終戦の祝賀会の場で『パーシヴァル・フォン・ヘルムート伯爵』は、10年前に結婚して以来1度も会話をしていない妻『シヴィル』を、祝賀会の会場で探していた。 夫が多大な功績をたてた場で、祝わぬ妻などいるはずがない。 パーシヴァルは妻を探す。 妻の実家から受けた援助を返済し、離婚を申し立てるために。 だが、妻と思っていた相手との間に、婚姻の事実はなかった。 婚姻の事実がないのなら、借金を返す相手がいないのなら、自由になればいいという者もいるが、パーシヴァルは妻と思っていた女性シヴィルを探しそして思いを伝えようとしたのだが……

冷徹宰相様の嫁探し

菱沼あゆ
ファンタジー
あまり裕福でない公爵家の次女、マレーヌは、ある日突然、第一王子エヴァンの正妃となるよう、申し渡される。 その知らせを持って来たのは、若き宰相アルベルトだったが。 マレーヌは思う。 いやいやいやっ。 私が好きなのは、王子様じゃなくてあなたの方なんですけど~っ!? 実家が無害そう、という理由で王子の妃に選ばれたマレーヌと、冷徹宰相の恋物語。 (「小説家になろう」でも公開しています)

生贄公爵と蛇の王

荒瀬ヤヒロ
ファンタジー
 妹に婚約者を奪われ、歳の離れた女好きに嫁がされそうになったことに反発し家を捨てたレイチェル。彼女が向かったのは「蛇に呪われた公爵」が住む離宮だった。 「お願いします、私と結婚してください!」 「はあ?」  幼い頃に蛇に呪われたと言われ「生贄公爵」と呼ばれて人目に触れないように離宮で暮らしていた青年ヴェンディグ。  そこへ飛び込んできた侯爵令嬢にいきなり求婚され、成り行きで婚約することに。  しかし、「蛇に呪われた生贄公爵」には、誰も知らない秘密があった。

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?

せいめ
恋愛
 政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。  喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。  そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。  その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。  閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。  でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。  家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。  その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。    まずは亡くなったはずの旦那様との話から。      ご都合主義です。  設定は緩いです。  誤字脱字申し訳ありません。  主人公の名前を途中から間違えていました。  アメリアです。すみません。    

転生『悪役』公爵令嬢はやり直し人生で楽隠居を目指す

RINFAM
ファンタジー
 なんの罰ゲームだ、これ!!!!  あああああ!!! 本当ならあと数年で年金ライフが送れたはずなのに!!  そのために国民年金の他に利率のいい個人年金も掛け、さらに少ない給料の中からちまちまと老後の生活費を貯めてきたと言うのに!!!!  一銭も貰えないまま人生終わるだなんて、あんまりです神様仏様あああ!!  かくなる上はこのやり直し転生人生で、前世以上に楽して暮らせる隠居生活を手に入れなければ。 年金受給前に死んでしまった『心は常に18歳』な享年62歳の初老女『成瀬裕子』はある日突然死しファンタジー世界で公爵令嬢に転生!!しかし、数年後に待っていた年金生活を夢見ていた彼女は、やり直し人生で再び若いままでの楽隠居生活を目指すことに。 4コマ漫画版もあります。

モブで可哀相? いえ、幸せです!

みけの
ファンタジー
私のお姉さんは“恋愛ゲームのヒロイン”で、私はゲームの中で“モブ”だそうだ。 “あんたはモブで可哀相”。 お姉さんはそう、思ってくれているけど……私、可哀相なの?

お兄様、冷血貴公子じゃなかったんですか?~7歳から始める第二の聖女人生~

みつまめ つぼみ
ファンタジー
 17歳で偽りの聖女として処刑された記憶を持つ7歳の女の子が、今度こそ世界を救うためにエルメーテ公爵家に引き取られて人生をやり直します。  記憶では冷血貴公子と呼ばれていた公爵令息は、義妹である主人公一筋。  そんな義兄に戸惑いながらも甘える日々。 「お兄様? シスコンもほどほどにしてくださいね?」  恋愛ポンコツと冷血貴公子の、コミカルでシリアスな救世物語開幕!

処理中です...