【完結】婚約破棄された令嬢の毒はいかがでしょうか

まさかの

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1章 婚約破棄はいかがでしょうか

1 婚約破棄

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「カナリア・ノートメアシュトラーセ、お前との婚約を破棄する」

 突然王の御前に呼びされたと思っていたら、その場にいた婚約者から信じられない言葉を放たれた。
 婚約者はこの国の第一皇子であり、これまで将来の王妃として何一つ恥ずかしくなく生きてきた私がどうして婚約を破棄されないといけないのだ。
 頭で理解が追いつかず、何かを言おうとしたが口から出てこない。
 だが王からもっと残酷な言葉が飛んできた。

「兵よ、カナリア・ノートメアシュトラーセを牢獄へ入れよ」
「なっ!?」

 婚約破棄だけではなく、さらに罪人として扱おうとするのだ。
 兵が私を拘束しようしてきた。

「どういう……離しなさい! 無礼者!」

 戸惑う兵もいるが、それでも私を捕まえることを止めない。
 王にその理由を問おうとしたが、それを制して第一皇子が告げた。

「君の父親、ノートメアシュトラーセ伯爵は国家を危険に晒した反逆の罪で奥方共々処刑になった」
「お父……様が? うそ……そんなはず……ありません!」


 私の父は厳しくも優しい人だった。
 常に王の下で支えることを誇らしげに語っていた姿が思い浮かび、そんな父が反逆なんて考えるはずがない。

「カナリア、家族である其方の処遇についてはこれから言い渡す。しばらくは牢獄で己の最後を考えるのだな」

 第一皇子はそれで話は終わりと兵に強く命じて、一応は平民が入る牢獄ではなく、離宮の個室へ入られることになった。
 ただしここからの外出は許されず、私はただ時間が経つのを待つだけだった。
 やっと第一皇子が部屋にやってきたと思えば、冷たい目と声を向けた。

「君には二つの選択肢がある。一つは連座として私が持ってきた毒を飲むか、それともブルスタット公国の第二王子と婚約して、友好の橋渡しになるか。どちらかを選びたまえ」


 第一皇子の後ろにいる騎士たちも剣を抜こうと構えており、私は泣きながらその提案を受けることにした。
 私は一人のメイドだけを連れて、蛮国と揶揄されるブルスタット公国へと向かうのだった。

 到着するとすぐに私の歓迎のパーティへ参加させられ、ブルスタット国王へ挨拶を行う。

「ブルスタット王、本日よりシリウス殿下との婚姻のため参りました。カナリア・ノートメアシュトラーセでございます」

 周りから見下す目が注がれる。
 その中でも私と結婚する男は私に興味すらないようで、ずっとワインを口につけて知らぬふりだ。
 国王もまた私に関心がないようで、侮辱した目を向けてきた。

「そうか。逆賊の女が友好の証とは、流石は帝国だな。そこは邪魔だ。席に着いて静かにしておれ!」

 言い返したいが、私の今の状況なら何も言い返せない。
 黙って私の旦那となるシリウスの隣へ座り、まるで人形のようにこのつまらない夜会を眺めるだけだった。隣に座る男を横目でチラリと見る。

 ……これが私の旦那様ね。
 顔は悪くなく、むしろ好ましい。海のように深い青い髪があるので笑えば爽やかに見えなくもないが、ぶっきらぼうな顔のせいで不機嫌そうに見えた。
 第二王子のため、過去には多くの女性から言い寄られていたらしいが、最近は性格が荒れて、多くの令嬢から敬遠されているらしく、私と同じはみ出し者なのだろう。
 彼は無愛想な顔でワインを飲むだけだ。

 また視線を真正面に移して、小さな皿に盛り付けられた料理が目に入った。

「何も口にするな」

 シリウスから私への忠告のように聞こえた。だが私も口にするつもりはない。
 お腹も空いておらず、このような初めての社交場で飲み食いが出来るほどの豪胆さはないからだ。
 しかしまだ来たばかりで不安になっている令嬢にもっと気の利いた言葉ひとつ言えないのか、と心の中で毒づいた。
「うっ……」と急にシリウスは額に脂汗を滲ませながら、手で額を押さえて席を立った。
 取り残された私は静かに社交場を眺めるのだった。

「父が失礼しました、カナリア様」

 シリウスをより野生的にしたような男性が目の前にやってきた。
 第一王子のダミアン王子だ。次の国王ということで絶対の支持を集めている彼は他の家族よりまともそうに見えた。

「いいえ、お気になさらず」

 私は得意の作った笑顔を向けた。するとダミアン王子は持っていたワインを私のグラスに注いだ。

「お食事が進んでいないようですね。せっかくの夜会ですから、一杯だけでもお付き合いください」

 ……シリウス様から忠告されているからなんだけどね。

 第一王子から勧められたら断るわけにはいかない。私はグラスを受け取り、彼のグラスと音を鳴らす。グイッと飲んでみせると、変わった味がした。

 ……何だか苦かったような。
 味の感想を適当に言おうとしたときに異変が起きた。

「かはッ──」

 呼吸ができなくなり、喉を押さえる。ガタンっと椅子から落ちて、口の中に手を突っ込んで無理矢理飲んだものを出す。汚いとか言ってられなかった。
 毒を盛られたのだ。
 体がどんどん冷え込んでいき、私を愉快げに覗く第一王子の目ともう一つの青い髪が揺れるのを最後に見て、意識が薄れていった。
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