38 / 69
人形劇は夜にうごめく01
しおりを挟む
部屋着の上に白衣をまとい、ヒオリは魔法薬品部門アロマ研究室の扉をくぐった。
魔法薬品部門棟に来たときから感じていたが、研究室だけでなくこの建物全体が慌ただしい。
残業していた他研究室の博士たちも集まっているのだとわかり、ヒオリは険しい顔で素早くあたりを観察する。
どうやら一同は研究室と温室をどたばたと行き来しているようだ。
速足で歩きまわる博士たちの両腕には、林檎のような大きさと色の果実と見覚えのある植物と蔦が抱えられており、彼らは室内にそれを下ろすと再び温室に戻っていく。
床に積まれた果実に植物と蔦は、既にこんもりと山のようになっている。
件の植物はほんの数日前に発見されたばかりだと言うのに、もうこれほど増えたのだろうか?しかもあの果実はもしや、実を付けたのか?
繁殖力にぞっとしていると、細い腕に目いっぱい植物を抱えた同僚が息を切らしながら山のそばに走り寄る。
彼女は腕の植物を山の一部に加えると、はたりとヒオリに気付いて「来てくれたの!?」と言った。
「メル?何があったの?これ例の植物でしょう?」
「ヒオリちゃん!手伝って!温室!草!増殖してるの!!」
真っ青な顔のメルが告げた言葉は途切れ途切れだったが、それでも何が起こっているのか察し、彼女とともに慌てて温室へと向かった。
例の植物を抱えて研究室に戻ってくる者たちとぶつからないように扉を開ければ、そこは既に己の知る温室の姿をしていなかった。
「な、んなの?これ……」
扉の前で立ち尽くし、ヒオリは呆然と温室の中を見つめた。
ぶわりと鼻孔をくすぐった覚えのある甘い香り。そして目の前に広がるのは、見覚えのあるあの植物。
しかしその大きさは、もはや木と言っていいほど巨大だった。しかも蔦の先には、幾多もの果実がたわわに実っている。
青々と茂る草は花壇だけでなく歩道にも壁にも蔦を伸ばし、もはや人の手の入っていない森のように温室を変化させていた。
しかも瞬きする間にもその蔦はぐんぐんと成長し、いたるところを侵略していく。
職員たちは懸命に蔦を引きちぎり、根を掘り出そうとしているが、植物の浸食に間に合っていない。
ヒオリは再度ぞっとした。あまりにも異常な光景過ぎる。
何はともあれあの植物の撤去作業に自分も手を貸した方がいいだろう。そう考えて温室内に一歩足を踏み入れた刹那───濃くなった草の香りに思わずぐっと顔を歪めた。
「これは……!?」
「え?なに?ヒオリちゃん!!」
「メル、わからないの!?」
慌てて袖口で鼻と口を押えるヒオリにしかし、メルは不思議そうに首を傾げる。
むせかえるような甘い草木の香りが温室中に充満しているのに、彼女は何事もなく足を踏み入れている。
まさか己の気のせいだと言うのか。
ヒオリはいまだに吐き出しそうで、とても温室に入れそうにないと言うのに。そう言えば他の職員たちも、この香りの中顔を歪めることなく作業している。
「え?ヒオリちゃん、顔真っ青!?どうしたの?大丈夫?」
「ヒオリくん?来てくれたのかね!?」
屈みこんでしまった己にメルが慌て、その声を聞きつけたハオラン室長がやって来た。
彼は真っ青な顔をするヒオリの様子をうかがうが、どうやら不調の原因である香りに気付いていない様子だった。
本格的に奇妙さを感じ、苦しさを堪えながら室長に訴える。
「……メル、室長。ここ、何かおかしいです。封鎖しましょう」
「むう……しかし!」
「このままじゃ危険です。皆飲み込まれてしまう」
飲み込まれるとは香りのことを言ったのだが、二人は草の浸食速度のことだと思ったらしい。
振り返ったハオラン室長の目が、太くなった蔦に足を取られ転ぶ職員の姿を捉えた。瞬間彼は頷き、「全員撤退しろ!」と叫んで指示を出す。
それを合図に温室にいた一同は、残された植物を気にしながらも慌てて入り口に戻って来た。
「全員出たか!」
「もう少しです!あと一人!!」
「よし、もう中にはいないな!扉を閉めろ!」
職員たちの声が警鐘のように響き渡るなか、香りの元凶へと続く扉はゆっくりと閉ざされた。
ヒオリと言えばすでに堪え切れずに研究室に戻ってへたり込み、新鮮な空気を取り込むために深く呼吸をしている。
すぐそばには山と積まれた件の植物と果実があった、が、不思議なことにここからはむせ返りそうな香りはしていない。
シャーレに入れて運ばれてきた時よりも僅かに濃い草の匂いが、そこに漂っているだけだった。
(香りのもとは植物そのものじゃないのかしら?温室に、なにか……?)
そう考えた刹那、誰かが背後で甲高い悲鳴を上げた。
ヒオリがぎょっとそちらを見ると、最後に温室から出て来た博士が扉の方を見て腰を抜かし、小刻みに震えていた。
魔法薬品部門棟に来たときから感じていたが、研究室だけでなくこの建物全体が慌ただしい。
残業していた他研究室の博士たちも集まっているのだとわかり、ヒオリは険しい顔で素早くあたりを観察する。
どうやら一同は研究室と温室をどたばたと行き来しているようだ。
速足で歩きまわる博士たちの両腕には、林檎のような大きさと色の果実と見覚えのある植物と蔦が抱えられており、彼らは室内にそれを下ろすと再び温室に戻っていく。
床に積まれた果実に植物と蔦は、既にこんもりと山のようになっている。
件の植物はほんの数日前に発見されたばかりだと言うのに、もうこれほど増えたのだろうか?しかもあの果実はもしや、実を付けたのか?
繁殖力にぞっとしていると、細い腕に目いっぱい植物を抱えた同僚が息を切らしながら山のそばに走り寄る。
彼女は腕の植物を山の一部に加えると、はたりとヒオリに気付いて「来てくれたの!?」と言った。
「メル?何があったの?これ例の植物でしょう?」
「ヒオリちゃん!手伝って!温室!草!増殖してるの!!」
真っ青な顔のメルが告げた言葉は途切れ途切れだったが、それでも何が起こっているのか察し、彼女とともに慌てて温室へと向かった。
例の植物を抱えて研究室に戻ってくる者たちとぶつからないように扉を開ければ、そこは既に己の知る温室の姿をしていなかった。
「な、んなの?これ……」
扉の前で立ち尽くし、ヒオリは呆然と温室の中を見つめた。
ぶわりと鼻孔をくすぐった覚えのある甘い香り。そして目の前に広がるのは、見覚えのあるあの植物。
しかしその大きさは、もはや木と言っていいほど巨大だった。しかも蔦の先には、幾多もの果実がたわわに実っている。
青々と茂る草は花壇だけでなく歩道にも壁にも蔦を伸ばし、もはや人の手の入っていない森のように温室を変化させていた。
しかも瞬きする間にもその蔦はぐんぐんと成長し、いたるところを侵略していく。
職員たちは懸命に蔦を引きちぎり、根を掘り出そうとしているが、植物の浸食に間に合っていない。
ヒオリは再度ぞっとした。あまりにも異常な光景過ぎる。
何はともあれあの植物の撤去作業に自分も手を貸した方がいいだろう。そう考えて温室内に一歩足を踏み入れた刹那───濃くなった草の香りに思わずぐっと顔を歪めた。
「これは……!?」
「え?なに?ヒオリちゃん!!」
「メル、わからないの!?」
慌てて袖口で鼻と口を押えるヒオリにしかし、メルは不思議そうに首を傾げる。
むせかえるような甘い草木の香りが温室中に充満しているのに、彼女は何事もなく足を踏み入れている。
まさか己の気のせいだと言うのか。
ヒオリはいまだに吐き出しそうで、とても温室に入れそうにないと言うのに。そう言えば他の職員たちも、この香りの中顔を歪めることなく作業している。
「え?ヒオリちゃん、顔真っ青!?どうしたの?大丈夫?」
「ヒオリくん?来てくれたのかね!?」
屈みこんでしまった己にメルが慌て、その声を聞きつけたハオラン室長がやって来た。
彼は真っ青な顔をするヒオリの様子をうかがうが、どうやら不調の原因である香りに気付いていない様子だった。
本格的に奇妙さを感じ、苦しさを堪えながら室長に訴える。
「……メル、室長。ここ、何かおかしいです。封鎖しましょう」
「むう……しかし!」
「このままじゃ危険です。皆飲み込まれてしまう」
飲み込まれるとは香りのことを言ったのだが、二人は草の浸食速度のことだと思ったらしい。
振り返ったハオラン室長の目が、太くなった蔦に足を取られ転ぶ職員の姿を捉えた。瞬間彼は頷き、「全員撤退しろ!」と叫んで指示を出す。
それを合図に温室にいた一同は、残された植物を気にしながらも慌てて入り口に戻って来た。
「全員出たか!」
「もう少しです!あと一人!!」
「よし、もう中にはいないな!扉を閉めろ!」
職員たちの声が警鐘のように響き渡るなか、香りの元凶へと続く扉はゆっくりと閉ざされた。
ヒオリと言えばすでに堪え切れずに研究室に戻ってへたり込み、新鮮な空気を取り込むために深く呼吸をしている。
すぐそばには山と積まれた件の植物と果実があった、が、不思議なことにここからはむせ返りそうな香りはしていない。
シャーレに入れて運ばれてきた時よりも僅かに濃い草の匂いが、そこに漂っているだけだった。
(香りのもとは植物そのものじゃないのかしら?温室に、なにか……?)
そう考えた刹那、誰かが背後で甲高い悲鳴を上げた。
ヒオリがぎょっとそちらを見ると、最後に温室から出て来た博士が扉の方を見て腰を抜かし、小刻みに震えていた。
0
あなたにおすすめの小説
17歳男子高生と32歳主婦の境界線
MisakiNonagase
恋愛
32歳主婦のカレンはインスタグラムで20歳大学生の晴人と知り合う。親密な関係となった3度目のデートのときに、晴人が実は17歳の高校2年生だと知る。
カレンと晴人はその後、どうなる?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)
MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。
愛しているなら拘束してほしい
守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
一億円の花嫁
藤谷 郁
恋愛
奈々子は家族の中の落ちこぼれ。
父親がすすめる縁談を断り切れず、望まぬ結婚をすることになった。
もうすぐ自由が無くなる。せめて最後に、思いきり贅沢な時間を過ごそう。
「きっと、素晴らしい旅になる」
ずっと憧れていた高級ホテルに到着し、わくわくする奈々子だが……
幸か不幸か!?
思いもよらぬ、運命の出会いが待っていた。
※エブリスタさまにも掲載
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる