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そして始まる断罪劇02
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他の研究員たちだけで一旦会議を進めてもらうことにして、ヴィクトルたちは場所を本棟のミーティングルームに移した。
室内に置いてある長机を挟んでヒオリとヴェロニカは、ニールとクロードに詰問されている。
ヴェロニカは優雅に、ヒオリはやや不機嫌に自分の無実を訴えているが、彼女たちの言葉を証明するものはない。
このまま魔法協会に自分が訴えれば、二人を学会から追い出すことは可能だろう。
(……しかし何故こいつらはリリアンの魔法にかからなかったのだ?何か理由が?)
ただそれだけが気がかりで、ヴィクトルは厳しい目でニールとクロードに取り調べられている二人を睨みつけている。
ぴりりとした己の空気を感じ取ったのか、ふとニールがこちらを振り返り、席を立った。
「ヴィクトル前所長、どうかしましたか?何かご質問が?」
「いや、何というか……ニールくんが今回の件にこれほど積極的とはね、少し驚いて。君はヒオリくんと行動をしていただろう?」
こちらに近づいてきたニールに密やかな声で問われ、ヴィクトルは表情を和らげながら答えた。
すると青年はその麗しいかんばせをさらに麗しく微笑み、肩越しに振り返る。
「ええ、美しいリリアンさんのためならば私も尽力させていただきます。ねえ、リリアンさん」
「あ、……ニールさん」
クロードの隣に立ち、いまだに泣きじゃくっているリリアンとニールが見つめ合う。
青年の青い目はうっとりと恍惚に光っており、ずいぶん彼女に心酔しているのだと一目で理解できた。
(この小僧、リリアンに操られているな)
有能ぶって調査にも乗り出していたが、他愛ないものだ。リリアンもこの男を気にかけていて、人形を作っていたのでそのせいだろう。
所詮は若造と静かに嘲笑うヴィクトルだったが、ふいにリリアンに視線を転じた瞬間、はらりと小さな葉が落ちたのを目撃してしまった。
刹那、ヴィクトルの心臓は嫌な音をたてる。
その瞬間に、今一度はらり。リリアンの白衣のすそから落ちたそれは、足元に二枚重なっている。
いまだ誰も気が付いていないが、ここには人が多すぎる。いつ自分以外の目に留まるかわからない。
───まさか、魔法の調子が悪いから情緒不安定になっているのか?
冷や汗を背中に浮かべながら、平静を装いヴィクトルはリリアンに声をかけた。
「リリアンくん、大丈夫かね?顔色が少々悪いようだが?」
「え?」
「別室で休んでいたほうがいいのではないか?」
問いかけるとクロードがリリアンを振り返る。
一同の視線を受けてびくりと体を震わせる彼女は、己の言う通り顔色が少々悪かった。
愚かな息子もようやくその様子に気付き、「リリアン?」と椅子から立ち上がりかける。
「大丈夫かい、リリアン。まだ怖いのかい?いったん休むかい?」
「く、くろぉど、しょちょぉ……」
名前を呼ばれ、堰を切ったようにリリアンの目から涙が溢れて来た。
それを見てクロードは完全に焦ったようで、おろおろとその細い肩を抱く。しゃくりあげながらリリアンは、息子の胸の中に顔を埋めた。
「父さん。確かにリリアンの調子が悪いようです。ちょっと医務室へ行ってきます」
「いや、私が行こう。お前はここでヴェロニカくんから話を聞いていなさい」
「え、しかし……!」
ヴィクトルはクロードから奪うようにリリアンの手を取り、ミーティングルームを出ようと急いだ。
息子が戸惑いの視線をこちらに向けてついてくるが、構ってはいられない。
「クロードは残っていなさい。ニールくん、ヴェロニカくんとヒオリくんを頼んだよ」
「かしこまりました」
ヴィクトルは震えるリリアンを連れて、急ぎ足でミーティングルームを後にした。
ニールがぺこりと頭を下げ、ヒオリとヴェロニカが呆然とこちらを見ている様子が横目に見えた。
廊下に出たヴィクトルは、さらにリリアンの手を強く引き、素早く廊下を渡る。
その手首から伝わる小さな振動と鼻をすする音に、苛立ちながら乱暴に訊ねた。
「どうしたのだ、リリアン?何処か具合が悪いのか?」
「う、ううう……怖い、怖いわ、クロード所長……」
「リリアン!?」
受け答えもまともに出来ない彼女は、やはり様子がおかしい。
普段もわがままで子供のような言動を取るが、流石にここまで奇妙な状態は見たことがない。
(昨日の晩に何かあったのか?くそっ!手間をかけさせおって!)
自らの研究室に行って、早急に調べて対処しなければ。
問題ごとばかり起こしてくれる研究所のものたちにため息を落としていると、にわかに背後から足音が聞こえて来た。
肩越しに振り向いて、ヴィクトルはちっと密かに舌打つ。
こちらに向かって廊下を駆けてくるのは、己の愚かな息子であった。
「父さん!どうしたのですか!?リリアンが怯えています!やめてください!」
クロードは戸惑いうろたえた様子で、ヴィクトルの背中に声をかける。
リリアンが心配で追ってきたのだろう。相変わらず余計なことしかしない我が息子を殴りつけたくなったが、相手をしてやる時間も惜しかった。
「大丈夫だ。お前はヴェロニカくんのところへ戻りなさい」
「父さん、何処へ……!?」
己の向かっている方向が医務室とは違うことに気付いたらしい、クロードがさらに慌てる。
しかし構わず無言で廊下を進み、ヴィクトルはリリアンとともに所長室へ繋がる階段をのぼりはじめた。
室内に置いてある長机を挟んでヒオリとヴェロニカは、ニールとクロードに詰問されている。
ヴェロニカは優雅に、ヒオリはやや不機嫌に自分の無実を訴えているが、彼女たちの言葉を証明するものはない。
このまま魔法協会に自分が訴えれば、二人を学会から追い出すことは可能だろう。
(……しかし何故こいつらはリリアンの魔法にかからなかったのだ?何か理由が?)
ただそれだけが気がかりで、ヴィクトルは厳しい目でニールとクロードに取り調べられている二人を睨みつけている。
ぴりりとした己の空気を感じ取ったのか、ふとニールがこちらを振り返り、席を立った。
「ヴィクトル前所長、どうかしましたか?何かご質問が?」
「いや、何というか……ニールくんが今回の件にこれほど積極的とはね、少し驚いて。君はヒオリくんと行動をしていただろう?」
こちらに近づいてきたニールに密やかな声で問われ、ヴィクトルは表情を和らげながら答えた。
すると青年はその麗しいかんばせをさらに麗しく微笑み、肩越しに振り返る。
「ええ、美しいリリアンさんのためならば私も尽力させていただきます。ねえ、リリアンさん」
「あ、……ニールさん」
クロードの隣に立ち、いまだに泣きじゃくっているリリアンとニールが見つめ合う。
青年の青い目はうっとりと恍惚に光っており、ずいぶん彼女に心酔しているのだと一目で理解できた。
(この小僧、リリアンに操られているな)
有能ぶって調査にも乗り出していたが、他愛ないものだ。リリアンもこの男を気にかけていて、人形を作っていたのでそのせいだろう。
所詮は若造と静かに嘲笑うヴィクトルだったが、ふいにリリアンに視線を転じた瞬間、はらりと小さな葉が落ちたのを目撃してしまった。
刹那、ヴィクトルの心臓は嫌な音をたてる。
その瞬間に、今一度はらり。リリアンの白衣のすそから落ちたそれは、足元に二枚重なっている。
いまだ誰も気が付いていないが、ここには人が多すぎる。いつ自分以外の目に留まるかわからない。
───まさか、魔法の調子が悪いから情緒不安定になっているのか?
冷や汗を背中に浮かべながら、平静を装いヴィクトルはリリアンに声をかけた。
「リリアンくん、大丈夫かね?顔色が少々悪いようだが?」
「え?」
「別室で休んでいたほうがいいのではないか?」
問いかけるとクロードがリリアンを振り返る。
一同の視線を受けてびくりと体を震わせる彼女は、己の言う通り顔色が少々悪かった。
愚かな息子もようやくその様子に気付き、「リリアン?」と椅子から立ち上がりかける。
「大丈夫かい、リリアン。まだ怖いのかい?いったん休むかい?」
「く、くろぉど、しょちょぉ……」
名前を呼ばれ、堰を切ったようにリリアンの目から涙が溢れて来た。
それを見てクロードは完全に焦ったようで、おろおろとその細い肩を抱く。しゃくりあげながらリリアンは、息子の胸の中に顔を埋めた。
「父さん。確かにリリアンの調子が悪いようです。ちょっと医務室へ行ってきます」
「いや、私が行こう。お前はここでヴェロニカくんから話を聞いていなさい」
「え、しかし……!」
ヴィクトルはクロードから奪うようにリリアンの手を取り、ミーティングルームを出ようと急いだ。
息子が戸惑いの視線をこちらに向けてついてくるが、構ってはいられない。
「クロードは残っていなさい。ニールくん、ヴェロニカくんとヒオリくんを頼んだよ」
「かしこまりました」
ヴィクトルは震えるリリアンを連れて、急ぎ足でミーティングルームを後にした。
ニールがぺこりと頭を下げ、ヒオリとヴェロニカが呆然とこちらを見ている様子が横目に見えた。
廊下に出たヴィクトルは、さらにリリアンの手を強く引き、素早く廊下を渡る。
その手首から伝わる小さな振動と鼻をすする音に、苛立ちながら乱暴に訊ねた。
「どうしたのだ、リリアン?何処か具合が悪いのか?」
「う、ううう……怖い、怖いわ、クロード所長……」
「リリアン!?」
受け答えもまともに出来ない彼女は、やはり様子がおかしい。
普段もわがままで子供のような言動を取るが、流石にここまで奇妙な状態は見たことがない。
(昨日の晩に何かあったのか?くそっ!手間をかけさせおって!)
自らの研究室に行って、早急に調べて対処しなければ。
問題ごとばかり起こしてくれる研究所のものたちにため息を落としていると、にわかに背後から足音が聞こえて来た。
肩越しに振り向いて、ヴィクトルはちっと密かに舌打つ。
こちらに向かって廊下を駆けてくるのは、己の愚かな息子であった。
「父さん!どうしたのですか!?リリアンが怯えています!やめてください!」
クロードは戸惑いうろたえた様子で、ヴィクトルの背中に声をかける。
リリアンが心配で追ってきたのだろう。相変わらず余計なことしかしない我が息子を殴りつけたくなったが、相手をしてやる時間も惜しかった。
「大丈夫だ。お前はヴェロニカくんのところへ戻りなさい」
「父さん、何処へ……!?」
己の向かっている方向が医務室とは違うことに気付いたらしい、クロードがさらに慌てる。
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