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第二章 初遠征、菌床処分
第22話 自己防衛機能《アイギス》
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「おはよう、モーズくん。昨日はよく眠れたかな?」
翌朝。共同研究室でユストゥスと共にモーズとフリーデンを待っていてくれたフリッツは、朗らかに朝の挨拶をしてくれた。
「さて、早速せっかちな君に《アイギス》を渡そう。これなしでウミヘビの居住区に入ってはいけないよ」
「うっ、すまない」
「いやぁ、元々は禁止事項を伝え忘れていた僕が悪いんだけどね」
「フリッツは悪くないぞ! 有毒人種の巣窟に丸腰で向かう阿呆がいるなんて、想定外もいい所だ!」
筒抜けだったらしい昨日の事を叱られて(実際危ない所だった)落ち込むモーズに、隣に立つフリーデンが「前にも居たらしいし、気にするな」とこっそり教えてくれる。
話に聞くところ好奇心の塊と称されるクスシは人工島アバトンに到着早々、ラボに向かうよりも先に居住区へ突っ込んで行ったんだとか。それを聞いてモーズは少し気が楽になった。
「今後も暫くはアイギスのコントロールに難儀するだろうから、居住区に行く時は僕を連れた方がいい。いつでもお供しよう」
「フリッツ!? そんなに献身的になる必要があるか!?」
「僕は指導役なんだ、ユストゥス。それくらいするとも」
「俺もいつでも付き合うぞ~、モーズ」
優しい上司に恵まれた環境に心が温かくなりつつ、モーズはフリッツに連れられて共同研究室からアイギスが居るという上の階へと移動を始めた。
「それじゃ移動しながら聞いて欲しいんだけど、君にアイギスを渡すにあたって一つ懸念点があるんだ」
「何だろうか?」
「今まで『珊瑚』の感染者に渡した事がないから、どんな反応が起こるか未知数なんだよねぇ」
さらっと告げられた看過できない懸念点に一気に不安にかられるモーズ。しかしモーズよりも激しく反応したのは一緒に着いてきたユストゥスの方であった。
ちなみにフリーデンも着いて来ている。自分の研究を放っておいていいのだろうか。
「モーズは感染者だったのか!? 自己管理がなっていないではないか! 何故、所長はこのようなズボラな人間を招き入れたんだ!?」
「ユストゥス、後輩のプロフィールぐらい目を通そう?」
後輩の関心が薄いユストゥスにフリッツは苦笑している。
「そのアイギスとやらは『珊瑚』とは相容れないのだろうか?」
「ぜーんぜん、わからない。どちらも寄生生命体ではあるんだけど、生態が全く違うから干渉し合わないかもしれない。逆に拒絶反応するかもしれない」
「アイギスは副所長が発見して所長が品種改良した空中浮遊クラゲでさ、宿主に合わせて細胞を変異させるんだ。特徴的なのが宿主の神経を読み取って望むように動いてくれる所。宿主の意識を奪って乗っ取る『珊瑚』とは真逆なんだよな~」
アイギスについてフリーデンが補足をしてくれる。
「モーズくんの中の『珊瑚』は薬で休眠状態だろうし大丈夫だとは思うけど、何かあったら拘束するかもしれない。許して欲しいな」
「それは全く構わないが。私も人を傷付けたくない」
「そっか。なら安心だね」
そして辿り着いた三階。その階にある扉は二階と同じく一つだけで、掲げられたプレートには『飼育室』と書かれていた。
「さぁて、モーズくんに合うアイギスは誰かな?」
そうして入室した『飼育室』は天井の高い部屋で、筒状のガラスケースが柱のように何本も建っていた。中には様々な姿形をしたクラゲが泳いでいる。まるで水族館の展示室のようだ。
ただし筒状ガラスケースの中に水は入れられておらず、クラゲのサイズも海中に生息する本来のクラゲよりもずっと大きい。人の頭を容易に飲み込んでしまえるサイズの傘を、各々が持っている。
そのクラゲ、いやアイギスの数の多さとそれらが織りなす幻想的な光景に、モーズは息を呑んだ。
「これら全て、同じ種のクラゲなのか……!?」
「これだけ姿形が違くても同種なんだ。すごーく、面白いよね」
フリッツは話しながらすたすたと慣れた様子で飼育室内を歩き、ガラスケースの中で最も大きなケースの扉を開けるとモーズを手招きする。
「それじゃモーズくん、入ってみて」
「だ、大丈夫なのだろうか? 毒がありそうなものもいるが」
「養殖アイギスは無毒だし、宿主になる可能性のある人に危害を加えないよ。じっくり見て回って、気に入った子にアプローチをしてみるといい」
促されるまま、モーズはガラスケースの中に入ってみる。水槽を模したケースだがやはり水がないので普通に歩き回れる。
アイギスの群れはモーズが入って来ても、特に反応を示す事なく延々と浮遊し空中を漂うように泳いでいた。
(選ぶといってもこの数の多さ、どう決めればよいのやら)
姿形の違いによって特徴も違うのだろうか。そう思ったが特に説明はなかったので、どのアイギスを選んでも支障はないと予想できる。ならば極論、見た目の好みで決めてしまっていいのだろうが、選択肢が多過ぎて迷走してしまう。
そもそもモーズはフェイスマスクといい、デザイン面におけるセンスがない。壊滅的だ。だから深く考える事はせず、ひとまず近場に浮遊しているアイギスに手を伸ばしてみる。発光しているから目に付いたのだ。
(『珊瑚』と拒絶反応を起こさなければよいのだが)
なんて考えながら伸ばした手が発光アイギスに触れそうになった時、
「うおっ!?」
背後から忍び寄ってきた他のアイギスの触手に首筋を触れられ、モーズは盛大に肩を揺らしてしまう。
しかしアイギスは構わず触手を這わせ、首筋の皮膚をぷつりと刺したかと思えば体内へと侵入してきた。異物が入ってくる違和感にモーズは背筋を震わせる。
「落ち着いてくれ、モーズくん。下手に動揺して暴れると血を抜かれて死んでしまうから」
「更に動揺する情報をよこさないでくれないか!?」
「ごめん冗談。でも貧血にはなるかもだから落ち着いていてね」
「このぐらいで平常心を乱すなど、先が思いやられる」
「深呼吸だモーズ、深呼吸~っ!」
フリーデンに言われた通り必死に深呼吸をし、バクバクと早鐘を打つ心臓をどうにか落ち着けるモーズ。呼吸を整え平常心を保とうと尽力している間にもアイギスの触手は無遠慮に体内に侵入してきて、やがて身体の全てがすっぽりと皮膚の下に収まってしまった。
服の袖を捲りチラリと様子を伺ってみれば、一匹の小さなクラゲが腕の皮膚を盛り上がらせて泳ぐように這い回っている。心なしか上機嫌そうに。
「おおっ。モーズくんはハブクラゲ型と相性が良かったみたいだね。後でバイタルチェックするけど、今のところ『珊瑚』との拒絶反応もなさそうだし、よかったよかった」
「フリッツ、大事な情報は事前に知らせて欲しい。心構えが出来ない」
「そこは本当ごめん」
翌朝。共同研究室でユストゥスと共にモーズとフリーデンを待っていてくれたフリッツは、朗らかに朝の挨拶をしてくれた。
「さて、早速せっかちな君に《アイギス》を渡そう。これなしでウミヘビの居住区に入ってはいけないよ」
「うっ、すまない」
「いやぁ、元々は禁止事項を伝え忘れていた僕が悪いんだけどね」
「フリッツは悪くないぞ! 有毒人種の巣窟に丸腰で向かう阿呆がいるなんて、想定外もいい所だ!」
筒抜けだったらしい昨日の事を叱られて(実際危ない所だった)落ち込むモーズに、隣に立つフリーデンが「前にも居たらしいし、気にするな」とこっそり教えてくれる。
話に聞くところ好奇心の塊と称されるクスシは人工島アバトンに到着早々、ラボに向かうよりも先に居住区へ突っ込んで行ったんだとか。それを聞いてモーズは少し気が楽になった。
「今後も暫くはアイギスのコントロールに難儀するだろうから、居住区に行く時は僕を連れた方がいい。いつでもお供しよう」
「フリッツ!? そんなに献身的になる必要があるか!?」
「僕は指導役なんだ、ユストゥス。それくらいするとも」
「俺もいつでも付き合うぞ~、モーズ」
優しい上司に恵まれた環境に心が温かくなりつつ、モーズはフリッツに連れられて共同研究室からアイギスが居るという上の階へと移動を始めた。
「それじゃ移動しながら聞いて欲しいんだけど、君にアイギスを渡すにあたって一つ懸念点があるんだ」
「何だろうか?」
「今まで『珊瑚』の感染者に渡した事がないから、どんな反応が起こるか未知数なんだよねぇ」
さらっと告げられた看過できない懸念点に一気に不安にかられるモーズ。しかしモーズよりも激しく反応したのは一緒に着いてきたユストゥスの方であった。
ちなみにフリーデンも着いて来ている。自分の研究を放っておいていいのだろうか。
「モーズは感染者だったのか!? 自己管理がなっていないではないか! 何故、所長はこのようなズボラな人間を招き入れたんだ!?」
「ユストゥス、後輩のプロフィールぐらい目を通そう?」
後輩の関心が薄いユストゥスにフリッツは苦笑している。
「そのアイギスとやらは『珊瑚』とは相容れないのだろうか?」
「ぜーんぜん、わからない。どちらも寄生生命体ではあるんだけど、生態が全く違うから干渉し合わないかもしれない。逆に拒絶反応するかもしれない」
「アイギスは副所長が発見して所長が品種改良した空中浮遊クラゲでさ、宿主に合わせて細胞を変異させるんだ。特徴的なのが宿主の神経を読み取って望むように動いてくれる所。宿主の意識を奪って乗っ取る『珊瑚』とは真逆なんだよな~」
アイギスについてフリーデンが補足をしてくれる。
「モーズくんの中の『珊瑚』は薬で休眠状態だろうし大丈夫だとは思うけど、何かあったら拘束するかもしれない。許して欲しいな」
「それは全く構わないが。私も人を傷付けたくない」
「そっか。なら安心だね」
そして辿り着いた三階。その階にある扉は二階と同じく一つだけで、掲げられたプレートには『飼育室』と書かれていた。
「さぁて、モーズくんに合うアイギスは誰かな?」
そうして入室した『飼育室』は天井の高い部屋で、筒状のガラスケースが柱のように何本も建っていた。中には様々な姿形をしたクラゲが泳いでいる。まるで水族館の展示室のようだ。
ただし筒状ガラスケースの中に水は入れられておらず、クラゲのサイズも海中に生息する本来のクラゲよりもずっと大きい。人の頭を容易に飲み込んでしまえるサイズの傘を、各々が持っている。
そのクラゲ、いやアイギスの数の多さとそれらが織りなす幻想的な光景に、モーズは息を呑んだ。
「これら全て、同じ種のクラゲなのか……!?」
「これだけ姿形が違くても同種なんだ。すごーく、面白いよね」
フリッツは話しながらすたすたと慣れた様子で飼育室内を歩き、ガラスケースの中で最も大きなケースの扉を開けるとモーズを手招きする。
「それじゃモーズくん、入ってみて」
「だ、大丈夫なのだろうか? 毒がありそうなものもいるが」
「養殖アイギスは無毒だし、宿主になる可能性のある人に危害を加えないよ。じっくり見て回って、気に入った子にアプローチをしてみるといい」
促されるまま、モーズはガラスケースの中に入ってみる。水槽を模したケースだがやはり水がないので普通に歩き回れる。
アイギスの群れはモーズが入って来ても、特に反応を示す事なく延々と浮遊し空中を漂うように泳いでいた。
(選ぶといってもこの数の多さ、どう決めればよいのやら)
姿形の違いによって特徴も違うのだろうか。そう思ったが特に説明はなかったので、どのアイギスを選んでも支障はないと予想できる。ならば極論、見た目の好みで決めてしまっていいのだろうが、選択肢が多過ぎて迷走してしまう。
そもそもモーズはフェイスマスクといい、デザイン面におけるセンスがない。壊滅的だ。だから深く考える事はせず、ひとまず近場に浮遊しているアイギスに手を伸ばしてみる。発光しているから目に付いたのだ。
(『珊瑚』と拒絶反応を起こさなければよいのだが)
なんて考えながら伸ばした手が発光アイギスに触れそうになった時、
「うおっ!?」
背後から忍び寄ってきた他のアイギスの触手に首筋を触れられ、モーズは盛大に肩を揺らしてしまう。
しかしアイギスは構わず触手を這わせ、首筋の皮膚をぷつりと刺したかと思えば体内へと侵入してきた。異物が入ってくる違和感にモーズは背筋を震わせる。
「落ち着いてくれ、モーズくん。下手に動揺して暴れると血を抜かれて死んでしまうから」
「更に動揺する情報をよこさないでくれないか!?」
「ごめん冗談。でも貧血にはなるかもだから落ち着いていてね」
「このぐらいで平常心を乱すなど、先が思いやられる」
「深呼吸だモーズ、深呼吸~っ!」
フリーデンに言われた通り必死に深呼吸をし、バクバクと早鐘を打つ心臓をどうにか落ち着けるモーズ。呼吸を整え平常心を保とうと尽力している間にもアイギスの触手は無遠慮に体内に侵入してきて、やがて身体の全てがすっぽりと皮膚の下に収まってしまった。
服の袖を捲りチラリと様子を伺ってみれば、一匹の小さなクラゲが腕の皮膚を盛り上がらせて泳ぐように這い回っている。心なしか上機嫌そうに。
「おおっ。モーズくんはハブクラゲ型と相性が良かったみたいだね。後でバイタルチェックするけど、今のところ『珊瑚』との拒絶反応もなさそうだし、よかったよかった」
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