毒素擬人化小説『ウミヘビのスープ』 〜十の賢者と百の猛毒が、寄生菌バイオハザード鎮圧を目指すSFファンタジー〜 

天海二色

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第五章 恋する乙女大作戦編

第93話 乙女奪還試合、終了!

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 カリウムの合図と共に爆発したダーツの矢によって、神殿の床は砕け、石柱は倒れ、天井は崩れていきます!
 おまけに激しく白煙が立ち込めていて、視界が非常に悪いです! 一寸先が見えないっ!

「カリウムめ! 戦況まるっと変えやがって!!」

 クロールの苛立った声が聞こえます。でも神殿が壊れる音と爆音が酷くって、断片的にしか聞こえません。
 しかしその後「きゃうっ!」「ぐえっ!」という声も聞こえました。あれはクロロホルムの声、かな? 2階の廊下が原型を留めないぐらい崩落しているんで、もしかしたら1階まで落ちてきたのかもしれません。
 ガッ!
 ひぇ。ぼうっとしていたらニコチンの蹴りがパラチオンに飛んできました。白煙の中から突然現れる弾丸みたいな蹴り怖い。パラチオンはしっかり腕で防いでくれましたが、私の心臓はバクバクです。

「ケッ。この程度、パラチオンにとっちゃ小雨だろ。なァ?」
「よぉく、わかっているじゃないか」

 そのままニコチンとの戦闘を再開するパラチオンですが、私を抱えている以上、1回目の試合の時のように瓦礫の雨を無視は出来ません。必然的に上に注意を向けてしまいます。
 そこに鎖ナイフも飛んできます! ダーツの矢も飛んできます!
 ――パチンッ。ドカンッ!
 しかも矢は指パッチンの合図があれば、空中でもどこでも任意で爆発させる事が出来るようです! お陰で爆風に煽られるぅっ! パラチオンから落ちてしまいそぅっ!

「……クハッ、クハハハッ!」

 最初と比べて格段に追い込まれている中、パラチオンは高笑いをしています。すっごく楽しそうに!

「ようやく、大雨になってきたかぁっ!?」

 けれど爆発よりも白煙よりも爆風よりも、鎖ナイフよりも槍の穂先よりも、パラチオンはニコチンの近接戦闘術に一番苦戦しているようです。足場が悪くなったのと、注意を向けなくてはいけない対象が増えた事で、彼の猛攻をいなし切れなくなってきています!
 具体的に言うとバランスを保てなくなってきていて、私が今にも落ちそう!

「おい小娘! 怪我をしたくなければ、しっかり俺様に掴まる事だな!」
「パラチオンの言う事なんざ気にすんな、女。俺が落ちる前に掴んでやるからよ」

 2人とも好き勝手言っています! そんな事よりこの試合がいつ終わるのか教えて欲しいですぅ~っ!
 ドカンッ!!
 きゃあっ! また大きな爆発音が鳴り響きました!
 その大きな音に意識を持っていかれたのでしょうか、隙ができたパラチオンの右腕にクロールの鎖が巻き付きます! それを引き千切る前に、背中から槍の穂先が突き刺さります! 槍によって少し力が抜けてしまったらしくて、私の足を支えていた手の力が緩みます!
 そこにニコチンの蹴りが脇腹に入って、バランスを崩したその時、
 ――パチン、ドカンッ!
 床で巻き起こった爆発の爆風に巻き込まれ、私は吹き飛んでしまいました!

「っ、小娘っ!」

 きゃあああ! 高い! そして落ちる! 落ちます!
 爆風は凄まじく、私は天井近くまで吹き飛び、そして落下していきます!
 うぅ~、仮想空間なので床に直撃しても死なないし、痛くないとわかっていても怖いです~っ!

「――そこ!」

 その時、直ぐ近くから声が聞こえました。
 壊された天井から降ってくる瓦礫の、上に、白煙に紛れて姿を消していた、タリウムさんが、いる。
 両腕を伸ばして、私の背中に優しく手を伸ばして、抱きしめて、くれました。
 お顔がとても近い。やっぱり綺麗な顔立ちをしている。仮想空間の中でも完璧に再現された体温が伝わって、そこにいる事を実感してしまう。

「奪還、完了っス」

 そして危なげなく、地上に着地したのです。

「あらあら、まぁまぁ。試合終了ねぇ」

 タリウムさんに横抱きをされている私を見て、水銀さんがとてもにこにこ笑っています。
 うぅ、恥ずかしい。

「パラチオン、か弱い人間を守るって大変でしょう? これで力不足を思い知ったのなら、もっと鍛錬を積んで」
「潤っ、た」

 ニコチンに脇腹を蹴飛ばされ、亀裂だらけ穴だらけの床に座り込んでいたパラチオンは、水銀さんの台詞を遮って言いました。

「寝る」

 その次の瞬間には姿が消えてしまいました。退室ログアウトです。

「……あいつ、本っ当に可愛げがない!」

 ◇

「いや~。皆んなパラチオンのガス抜きお疲れ様! ミッション達成! 後は解散して自由に……」

 仮想空間での試合が終わり、全員が退室ログアウトした後。
 フリーデンはウミヘビ達に労いの言葉をかけたが、返事はなかった。開いた卵型機器カプセルから出てくる気配もない。気になってフリーデンとモーズは顔を伺いに近くまで行ってみると、皆一様に脱力しきり、椅子に身体を沈めていた。
 わかりやすく言うと、疲労から魂が抜けている。

「う~ん、死屍累々」
「仮想空間の中といえど、戦えば神経をすり減らすからな。疲労困憊にもなる」
「前に20回ぐらい擬死体験しておいて、ピンピンしていた奴に言われても説得力ね~かな~」
「えっ」

 尤も2回目の試合はほとんど傍観していた水銀はそこまで疲労が溜まっていなかったようで、いち早く卵型機器カプセルから出てきた。

「おっ。お疲れさん水銀。本当にパラチオンを短時間で鎮めるとかすげぇなぁ。地震や台風を消せって言っているようなもんだったのに」
「あいつ5歳なのよ、5歳。好きなだけ遊んで我儘放題して疲れたら寝る5歳児。今回駄々を捏ねてたのもテトラミックスが遠征先で戦闘したって話聞いて、ずるい! って思っただけの幼稚な嫉妬心よ」

 パラチオンとテトラミックスは同じ第三課所属で、戦闘規制の厳しさも同レベル。
 なので昨日パラスで緊急事態とはいえ、テトラミックスが戦闘に参加した、という話を聞いて、大人しくしていられなかったのだろうと、水銀は語る。

「年相応に扱えば大抵、満足するわ。きっと今頃、部屋のベッドで腹出して寝ているでしょ。……ムカつくわぁ」
「確かに彼の自由奔放さは、幼児に通じる所があるな」
「いえ、例えじゃなくて」

 そこで水銀はフリーデンとモーズに向け、五本指を広げ切った手の平を見せた。

「正真正銘、5歳なの」
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