毒素擬人化小説『ウミヘビのスープ』 〜十の賢者と百の猛毒が、寄生菌バイオハザード鎮圧を目指すSFファンタジー〜 

天海二色

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第六章 恋⬛︎⬛︎乙女荵ウ縺ョ謌螟ァ――改め、アメリカ遠征編

第106話 行軍開始

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 アメリカ西部、カルフォニア州から程近い海岸沿いにあるビル街。観光地やリゾート地にも繋がるその街は、建物も道も菌糸で真っ赤に染まり、そこから樹木が生えるかのように、珊瑚に似た、色取り取りの菌糸も伸びていた。空にも胞子が舞い、日の高い時間帯だというのに薄っすらと赤く染まって見える。
 ビル街1つがドームガラスに囲まれたアクアリウムの中身のような、毒々しくも幻想的な光景。
 その菌糸を死滅させる為、アメリカ軍はビル街の外側、避難誘導の済んだ区域へ向けて一斉射撃をしていた。幾度かの銃撃は耐えるものの、流石に弾丸の嵐を浴びれば菌糸にも穴が空き、その形を崩していく。
 そうしてバラバラにしたり小さくした菌糸を片端から丁寧に焼却処理し、確実に死滅させる。地中に潜む菌糸もまた、超高熱の火で炙り死滅させる。これを繰り返す事により、菌床の範囲を小さくしてゆく。ステージ5の感染者が現れた場合は、爆弾やロケット弾を用いて跡形も残らない程に消し飛ばす。
 二度と起き上がれないように。

 それによって街に立ち並ぶガラス張りの摩天楼は、黒煙と胞子と菌糸、そして人血じんけつに包まれて、どす黒く汚れていた。

 モーズ達が人工島アバトンを発ってから約7時間後。
 指定滑走路に飛行機が無事に着陸し、彼らは生物災害バイオハザード現場に辿り着いた。滑走路では既に何人かの軍人が待機していて、飛行機から降りてきたモーズらを出迎えてくれる。

「ただいま到着いたしました」
「お待たせしました、指揮官さん。いや、マイクさんと言った方がいいかな?」

 降りて早々。モーズとフリッツが真っ先に声をかけたのは、今回の現場で指揮を務めている軍服ガスマスク姿の男――マイクであった。
 国連秘密警察は生物災害バイオハザード発生の際、軍を率いて現場を指揮する権限を与えられる。そして今回はマイクが指揮官の立場となったのだ。

「……こんなにも早く、それもこんな形で、再び会う事になるとは」

 ガスマスクの下から苦々しい声が聞こえる。
 アメリカはオフィウクス・ラボに頼らずとも菌床処分が出来る兵力とノウハウを所持している。故にウミヘビの貸し出しさえ滅多に要求しない。
 しかし今回の超規模菌床ばかりは、様子見をする余裕さえなかった。範囲が広すぎる超規模。更に焼却処理が追いつかない繁殖に、目に見えて増えていく感染者。一刻も早く〈根〉を切除し鎮圧しなければ被害が際限なくなる。
 借りを作りたくない相手に、頼らざる得ない状況。それがとても、屈辱なのだろう。

「面白くないのはわかるけれど、ここで私情は持ち込まないで欲しいかな。一刻も早く現場を鎮圧したいのは、君も同じだろう?」
「そんな事、言われなくともわかっているつもりだ……!」

 マイクは語気を強めながらそう言った。アバトンに視察しに来た時と打って変わって、平常心が乱され自分を取り繕えていない。
 余裕がない。

「マイクさん。僕らは〈根〉が超高層ビルにあると仮定して処分に当たる。どうかそこに行くまでの道を開けて欲しい」
「構わないが、あのビルならば車で向かわせられるが?」
「お気遣いありがとう。でも感染者や菌糸がいる中で車は危ないから、丁重にお断りするよ。襲ってこられた時に反撃し難いからね」
「ヘリは」
「同じく駄目だ。超規模の『珊瑚』は胞子の塊や、虫や鳥とかの飛行が出来る宿主を用いて襲ってくるから」
「では徒歩で行軍すると? 菌床と化した街道を」
「その通り。障害があれば、ウミヘビに切り開いて貰うよ」
「……」

 フリッツの話を聞いたマイクは、そのままインカムを用いて現場で処分作業に当たっている部隊とコンタクトを取る。
 そして現状の情報を聞き出し、超高層ビル周囲から離れるよう指示を出した後、通話を切った。

「現在、超高層ビルに人は残っていない。……感染者を、除き。また、ビルに続く街道や周辺の建物も避難誘導は済んでいるとの事だ」
「それは良かった。それで、最悪の場合を想定してになるのだけれど、……ビル倒壊の許可は頂けるかな?」

 この街で最も背の高い超高層ビル。街を象徴するシンボル。名所の一つ。なくなればビルを利用していた人々の生活や、景観ががらりと変わるのは、目に見えている。
 それによって失われるだろう、歴史、仕事、愛着、日常――

「許可を、出す」

 それでも、人命には変えられない。
 マイクはさほど迷う事なく、フリッツらに許可を下した。

「ありがとう。それじゃ行こうモーズくん。処分、開始だ」
「了解した。ではカリウム、ナトリウム。作戦通り、よろしく頼む」
「一仕事しろってよ、高血圧」
「てめぇもだろが、低血圧」

 モーズに命じられたカリウムとナトリウムが先駆けとなり、まずは超高層ビルへ続く大通りへ向かう。
 そして一歩、赤く染まった菌床へと足を踏み入れると同時に、2人はガンホルダーに入れていた銃を構えた。
 銃の種類は所謂、グレードランチャー。銃口がとても大きく、擲弾を一発ずつ撃つタイプの銃。

「どうせなら派手に露払いかましてやろうじゃん?」
「目立ちたがり屋が。媚び売りに気を取られすぎるんじゃねぇよ?」

 カリウムは右手で、ナトリウムは左手で、各々引き金を引く。
 すると中で形成された矢が、銃口から発射される。

『爆!』
『散ッ!!』

 矢は真っ直ぐ放たれ、障害物たる菌糸に当たるまで止まる事はない。そして直撃すれば白煙をあげて爆発した。
 ドカンッ!
 たった一撃。それだけで菌糸は跡形もなく粉々に吹き飛び、しかも矢から注がれた毒素によって死滅してゆく。
 2人が扱うこのグレードランチャー状の抽射器は、仮想空間で使用していたダーツの矢状の抽射器と異なり方向の操作コントロールは出来ず、爆発を任意のタイミングで行えず、また威力も劣る。
 ただし、弾切れを起こさない。
 故に露払いとして使うには打って付けであった。

「ド派手やなぁ。ほな自分らも行きまひょか、タッちゃん」
「うっス」

 殿しんがりを任されたシアンとタリウムが、先に進む4人から少し遅れて菌床へと入る。
 その時、シアンは菌床の外で足を止めているマイクに気付き声をかけた。

「お兄さんは来ぃひんの?」
「……俺は指揮官だ。持ち場を離れる訳にはいかない。お前達とはここで別れる。咥えタバコをしたような奴に任せるのは、癪だが」
「タバコ? あっ、これタバコちゃうでっ! 飴ちゃんや!」

 シアンは慌てて口に咥えていた棒飴を指差し、弁明をする。
 尤も咥えているのが菓子だろうと、それはそれで緊張感に欠けた粗慢に受け止められてしまうが。

「そんな暗い声で身構えてへんと、お兄さんも飴ちゃんどうや? 糖分取るとリラックス出来るで~?」
「遠慮しておく。ウミヘビに物を貰うとロクな事にならん」
「ウミヘビ不信!? 嫌やわぁ。自分、善良なウミヘビやのに。ほらこの飴ちゃんかて市販品や。貰うだけ貰ってぇな」

 マイクは拒否したが、シアンは白衣のポケットから出した飴玉を強制的に彼に握らせ、問答無用で渡してきた。
 ウミヘビの特徴通り、優男に見えようとも力が強くて逆らえず、マイクは無理矢理受け取らさせれしまう。

「シアンさん、どうしたんスか?」
「あ、すまへんすまへん! 今行くで~っ! ほなまた、お兄さん。……何があっても自分がみぃんなやっつけたるさかい。何も心配せんでええで」

 そう言い残して、シアンも菌床へと入っていった。
 飴玉を一方的に渡されてしまったマイクは暫し迷った後、渋々それをポーチの中に突っ込んだのであった。
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