毒素擬人化小説『ウミヘビのスープ』 〜十の賢者と百の猛毒が、寄生菌バイオハザード鎮圧を目指すSFファンタジー〜 

天海二色

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第八章 特殊学会編

第142話 《エタノール (C2H6O)》

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「アセト、席から立ったり座ったりすんの忙しいだろ。カウンターに酒瓶テキトーに並べとけ。自分で勝手に注ぐからよ」
「えぇ? でも僕は新人さんをもてなす為にいるんだしぃ?」
「いや、私からもお願いする。今日はここにいるウミヘビ全員と、話してみたいからな」
「新人さんがそう言うなら、いいけどぉ」

 自身が切り盛りする地下バーで仕事をしなくていいと言われるのは想定外だったのか、アセトは困惑しながらもニコチンの提案通り、そしてモーズの頼み通りカウンターテーブルに複数の酒瓶を並べた後、落ち着かなさそうに席へ座った。

「あ、そうです。お酒ばかりではお腹が荒れてしまいますから、先におつまみを出しておきましょう」

 そしてアセトと入れ違いにセレンが席から立つ。そのままバーの端に置かれていたガラス張りの冷蔵庫ボックスに向かうと、中からチーズやハムを取り出し大皿に乗せ、テーブルに並べた。
 次にカウンターの下に潜りに行って、ナッツやスナックの袋をテーブルの中央に置いた。これで飲み会のセッティングは済んだと思っていいだろう。

「ありがとう、セレン。まるでホームパーティのようだな。経験した事がないから想像だが」
「そうですよ先生、今日は宴です! パーティです! 楽しんで参りましょうっ!」

 先日モーズはフリーデンとホログラムを挟んだ飲み会を初めて経験したばかりだが、複数人との飲み会も初めて経験できるとは、と不思議な感覚に陥っていた。しかもそれがまさか、研究の為にやってきた人工島アバトンで叶うとは。
 珊瑚症に罹患してから早6年。感染対策として飲食を交えた交流を避けがちだった彼にとって、この飲み会はとても新鮮な体験だった。

「その、こういうのは作法などあったりするのだろうか……? ツマミを取り分けるとか……。特にメタノールは目が不自由なのだし……」
「メーちゃんのお世話はオレの仕事だから変な気使わなくていいよっ! 勝手に呑んでれば~?」
「エッちゃん、そんな冷たい物言いしなくても……。でもボクの事を気にしなくていいのは本当です。好きなようにお過ごしください」
「好きなように……。難しいな……」

 浴びるように酒を呑む(と言うかヤケ酒をする)のは簡単だったが、交流を交えてとなると単に呑むだけではいけない。
 この飲み会を提案したのはモーズ自身なのものの、何せ経験がなさすぎる。孤児院の大食堂では感染爆発パンデミックに警戒して黙食で済ませていた。孤児院を出て大学に入ったら勉強と研究が忙しくて食事は片手間。環境に慣れた頃には珊瑚症を罹患してしまって、と、そんなこんなでモーズは大人数での食事自体、あまり体験した事がない。
 故に飲食のタイミングと喋るタイミングが測れず、どうしてもぎこちなくなってしまう。

「モーズ先生はもっと、遊ぶ事を覚えた方がいいかもしれませんねぇ」
「そ、そうだろうか?」
「気を緩める事も学ばなければ倒れてしまいますよ。人間は脆いのですからっ。そうです! 次の休暇にはバーチャルゲーム大会を致しましょう、バーチャルゲーム大会っ! ねぇ先輩っ!」
「何で俺に言うんだよ。勝手にやってろ」
「先輩がシューティングゲームをすると人が集まるじゃないですか。観客は多い方が楽しいですよ?」
「観客……? を集める意味はわからないが、一度くらいニコチンの取得点数を上回ってみたいとは思うな。ゲーム大会、いいかもしれない」
「お前ぇまで何言ってんだ。やるのは勝手だが俺を巻き込むんじゃねぇよ」
「あっははは! もてもてだねぇニコっ! 日取り決まったら僕にも教えてねぇ? 飲食ブースセッティングするからさぁ」

 ゲーム大会が開催されるのは決定事項なようで、アセトまで乗り気だ。この飲み会と同じように強制参加させられそうなニコチンが困惑する。

「バーチャルゲームって事はシミュレーターの卵型機器カプセル使うゲームって事? それならメーちゃんも参加できるからオレにも声をかけろ。以上!」
「えっ、兄貴も参加する気なのか!? ぐ、俺も行くべきか……!」
「2人とも落ち着いて。大会があれば見に行きたいなぁとは思うけど、参加までするのは悪いよ」
『悪くなんかないっ!』

 謙遜するメタノールの言葉を大きな声で、同時に否定するエタノールとホルムアルデヒド。
 もうそれなりに酒が回ってきている。

「セレン、シミュレーターではバーチャルゲームもできるのか?」
「できますよ~。基本的に普段は戦闘訓練しか許されていませんが、あの卵型機器カプセルの本来の用途ってフルダイブ型ゲームですからね、ソフトを変えれば幾らでも。例えばこのゲームとかどうですか?」

 セレンはモーズに携帯端末で検索した、バーチャルパーティゲームのソフトのパッケージを見せる。
 タイトルとイラストから予想するに、中身は複数人同時プレイができるカーレースなようだ。しかもシンプルに速さを競うのではなく、妨害アイテムやブーストアイテムを道端で拾えて活用できる、とフリーダムな仕様でゲームらしさが光っている。

「カーレースか。大人数でとなると理想的だな。私としてはシューティングゲームも気になるが」
「先輩をコテンパンにしたいならこちらの『ペイント弾陣取り合戦』とかどうですか? 4人対4人の対戦形式なので、連携すれば先輩1人を集中砲火できますよ?」
「おい? セレン? 何吹き込んでんだお前ぇ」
「待て! 兄貴も参加するんだ! 操作がシンプルで動きが激しくないボードゲーム系……双六がいいだろ、双六が!」
「いやだからボクも参加するって決まった訳じゃ……」
「僕はホラーゲームタイムアタックとか見てみたいけどねぇ? 怖がりなウミヘビの阿鼻叫喚が聞こえて楽しそう~」

 酒を飲みながらツマミを食べながら、ゲームという同じ話題を好き勝手に喋る面々。

「ふふふ」

 その賑やかな声を肴に、グラスを両手で持ってちみちみお酒を飲んでいたメタノールは、ふと笑みを零してしまう。
 隣で座っていなければ聞き逃してしまう程に、小さな笑い声。しかしその声を聞き逃さなかったエタノールは、メタノールの方を向いて問い掛けた。

「メーちゃん、楽しい?」
「うん。白杖を持つようになってからは移動が億劫になっちゃって、あんまりネグラに来れていなかったけど……(※一部のウミヘビはラボにも寝所がある)。皆んなでお喋りするのって、やっぱり楽しいねぇエッちゃん」

 そう言って楽しげに微笑むメタノール。彼が喜色に満ちた顔を見せたのは、いつ振りだったか。盲目になって以降、塞ぎ込む事もあった彼が。
 自分では引き出せなかった表情に力不足さと悔しさを覚えながらも、このままタダ酒を呑んで終わるのも何だか癪に触って、エタノールはひょいと座席から降りてカウンターへと歩き始めた。

「あれ? 兄ちゃんどうしたのぉ? 何か取って欲しいなら僕が」
「いい。アセトは座ってて」

 弟には動かないように指示をして、エタノールは腰に下げていた、ピストルの形状をした酒瓶を手にする。
 コルクで蓋をされた、透明な空の酒瓶。その銃口をモーズに向け、エタノールはぶっきらぼうに言う。

「特別だよ、新人さん。今日だけ特別」

 するとエタノールの手元から順に、酒瓶の中が琥珀色の液体で満たされてゆく。
 そう、このピストル状酒瓶はエタノールの《抽射器》。

「オレがお酒作ってあげる」

 彼の毒素によって、酒製造ができる代物だった。



 ▼△▼

補足
エタノール (C2H6O)
別名エチルアルコール、酒精など
正確にはアルコールの一種なのだが、エタノールを指して単にアルコールと呼ぶこともある。
消毒用エタノール(アルコール)として出回っているように、洗浄消毒などに使われる。また、メタノールの解毒に使われることも。
引火生があり、濃度が濃いと危険物扱いとなる。火器は近づけちゃ駄目だぞ。

見た目について
橙色の髪をした、アセトアルデヒドとよく似た顔をしている。というか容姿はアセトアルデヒドを幼くしただけである。
でも兄はこっち。
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