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第十章 イギリス出張編
第177話 アイギスの訓練
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「え~、それでですね。アイギスを使いこなすのには、下準備がいりますっ!」
「は、はいっ」
いよいよ本格的な訓練内容に入る。モーズは姿勢を正してカールの言葉を傾聴した。
「取り敢えず人工血液50リットル」
「待ーーった!!」
しかしカールの指導第一声は、パウルに遮られてしまったのだった。
「なんだ50リットルって!? 成人男性の平均血液量の10倍じゃないか! と言うか怪我人が出た訳でもないのに人工血液使うなよ!!」
「えぇ~。これでも最小単位にしたんだけどなぁ」
「アイギスの訓練ならシミュレーター使えシミュレーター! 余計な事に備品を消費するな~っ!」
「失礼な! 余計な事じゃないわい!!」
研究の手を止めカールの元まで迫り怒るパウルに、カールは腰に手を当てて不満げな声を発する。
ちなみに人間の血液量は体重の十三分の一ほど。成人男性の平均体重70キロを基準とすると、おおよそ5リットルとなる。
「俺ちゃんは合計400リットルの人工血液を用いてアイギスの訓練を毎日のように重ね、1ヶ月で使いこなしたんだぞ! モーズちゃんは既にひと月分の交流は済ましているからここまで減らしたんだ! まずアイギスを頑張らせる! 頑張ったらいっぱい血液をあげる! そう学習させるのが大事なんでしょーが!」
(犬の躾か……?)
「だからって50リットルはやり過ぎだろ!? 使いこなす前にモーズが失血したらどうするんだ!」
「それは俺ちゃんが付いているから平気っしょ~」
「あと400リットルも用意したって初耳だけど、当時は何も言われなかったの!?」
「いんや」
パウルの疑問に対してカールは首を横に振ると、その首の真ん中辺りを人差し指でちょんちょんとつついた。
「副所長に首落とされるかと思った⭐︎」
「当時からしてめっちゃ怒られているじゃないですか、カール先輩」
話を聞いていたフリーデンが思わず突っ込む。
「副所長に、ですか」
副所長。
所長ともどもモーズが未だに会った事のない人物。何ならアバター越しとはいえ最終面接で対話した所長よりも、副所長の方が謎に包まれている。
珊瑚症に対抗する数々の薬を製薬し、その功績を元にオフィウクス・ラボを立ち上げ、ウミヘビという人造人間も完成させたという所長と異なり、副所長はアイギスを発見した以外の目立った実績を聞いた事がなく、人物像が全くわからないのだ。
彼も所長と共にラボ創設時から所属しているクスシで、副所長という地位にいるだけの実力はあると予想できるのに、研究や実験の成果を徹底的に秘匿、または所長などの他者と共同名義にし自分から目立たないよう振る舞っている節がある。
加えて副所長は所長以上にラボを空けている期間が長く、ここ1年に至っては一度も戻って来ていないらしい。
「そうそう。パウルが来る前は副所長が経理全般を担当しててね~。資金集めから備品調達から何までぜーんぶこなしてくれてたのよ。そんな中、俺ちゃんが人工血液の在庫を空にしちゃったからも~大変」
「そのままアバトンから締め出されたらよかったのに……」
「あぁ、実際締め出された事あるよ~。4回くらい。尤も入所前だけど」
パウルが思わず呟いた「締め出し」は実際に受けた事があると、カールはさらりと言ってのけた。
しかし入所“前“に締め出されたという意味がわからず、モーズは頭上に疑問符を浮かべてしまう。
「入所前に、締め出す?」
「何々? モーズちゃん気になる? 俺ちゃんの過去気になっちゃう感じ?」
「気になりはしますが、今は訓練中ですし、また後ほど」
「よぅし! では語ってしんぜよう!」
「……」
「モーズ。ああいう先輩なんだ、諦めろ」
人の話を一切聞かずに話を進めるカールに困惑するモーズ。そんなモーズの肩に手を置いて慰めてくれるフリーデン。
その光景さえ無視して、カールは自分語りを始めた。
「そう、あれは今から15年前……。俺ちゃんが14になった年……」
「つまりカールさんは今年で29歳なのか。……うん? クスシ歴11年で今年29歳? ……18歳からラボにいるのか!?」
「本当は14歳からいたかったけどね! 追い返されちゃったっ!!」
「追い返すって、そもそもどうやってラボに来たんですかカール先輩。推薦貰って試験突破しないと来れないでしょう? でもラボは未成年者に推薦は出せない規約のはず……」
「推薦とか俺ちゃん貰ってないよ」
カールはそこで実験台の上に腰掛けると、人差し指で実験台の黒板テーブルをコンコンとつつく。
「海渡って自力でここ来た」
そしてモーズらに向け、信じられない事をさらりと言ってのけた。
「えぇえええ!?」
「自力で……!? オフィウクス・ラボには多重の認識阻害装置が付けられているというのに……!?」
オフィウクス・ラボがある人工島アバトンは、人工衛星にさえ映らない認識阻害装置が仕掛けられていて、関係者以外の来訪をことごとく阻む仕様となっている。港にあるラボ専用の空陸両用車や飛行機を用いらなければ、偽者や電子乗物の機能を狂わせたりする電磁波を用いた障壁が立ち塞がり、出入りは困難を極める。
にも関わらず自力でラボに辿り着いたカールは、それだけでも十分に異常だとわかる。
「15年前はまだそこまでガチガチに秘匿されてなかったのよ~。だから所長達がヨーロッパを行き来する時間をねぇ、菌床処分をよく依頼してた国連警察を片っ端から脅、ンンッ、頼んで聞き出して往復時間を計算しておおよその位置の目星付けて小型船借りていざ! 大海原! してたの」
「その、カールさんは航海技術を持っているのだな……?」
「船舶免許持ってないけどね~っ! 勘でなんとかなった!」
「なんとかならんのよ普通は」
無茶を地頭の良さと才能でゴリ押しして目的を達成しているカールに、モーズは唖然としフリーデンは脱力したのだった。
「は、はいっ」
いよいよ本格的な訓練内容に入る。モーズは姿勢を正してカールの言葉を傾聴した。
「取り敢えず人工血液50リットル」
「待ーーった!!」
しかしカールの指導第一声は、パウルに遮られてしまったのだった。
「なんだ50リットルって!? 成人男性の平均血液量の10倍じゃないか! と言うか怪我人が出た訳でもないのに人工血液使うなよ!!」
「えぇ~。これでも最小単位にしたんだけどなぁ」
「アイギスの訓練ならシミュレーター使えシミュレーター! 余計な事に備品を消費するな~っ!」
「失礼な! 余計な事じゃないわい!!」
研究の手を止めカールの元まで迫り怒るパウルに、カールは腰に手を当てて不満げな声を発する。
ちなみに人間の血液量は体重の十三分の一ほど。成人男性の平均体重70キロを基準とすると、おおよそ5リットルとなる。
「俺ちゃんは合計400リットルの人工血液を用いてアイギスの訓練を毎日のように重ね、1ヶ月で使いこなしたんだぞ! モーズちゃんは既にひと月分の交流は済ましているからここまで減らしたんだ! まずアイギスを頑張らせる! 頑張ったらいっぱい血液をあげる! そう学習させるのが大事なんでしょーが!」
(犬の躾か……?)
「だからって50リットルはやり過ぎだろ!? 使いこなす前にモーズが失血したらどうするんだ!」
「それは俺ちゃんが付いているから平気っしょ~」
「あと400リットルも用意したって初耳だけど、当時は何も言われなかったの!?」
「いんや」
パウルの疑問に対してカールは首を横に振ると、その首の真ん中辺りを人差し指でちょんちょんとつついた。
「副所長に首落とされるかと思った⭐︎」
「当時からしてめっちゃ怒られているじゃないですか、カール先輩」
話を聞いていたフリーデンが思わず突っ込む。
「副所長に、ですか」
副所長。
所長ともどもモーズが未だに会った事のない人物。何ならアバター越しとはいえ最終面接で対話した所長よりも、副所長の方が謎に包まれている。
珊瑚症に対抗する数々の薬を製薬し、その功績を元にオフィウクス・ラボを立ち上げ、ウミヘビという人造人間も完成させたという所長と異なり、副所長はアイギスを発見した以外の目立った実績を聞いた事がなく、人物像が全くわからないのだ。
彼も所長と共にラボ創設時から所属しているクスシで、副所長という地位にいるだけの実力はあると予想できるのに、研究や実験の成果を徹底的に秘匿、または所長などの他者と共同名義にし自分から目立たないよう振る舞っている節がある。
加えて副所長は所長以上にラボを空けている期間が長く、ここ1年に至っては一度も戻って来ていないらしい。
「そうそう。パウルが来る前は副所長が経理全般を担当しててね~。資金集めから備品調達から何までぜーんぶこなしてくれてたのよ。そんな中、俺ちゃんが人工血液の在庫を空にしちゃったからも~大変」
「そのままアバトンから締め出されたらよかったのに……」
「あぁ、実際締め出された事あるよ~。4回くらい。尤も入所前だけど」
パウルが思わず呟いた「締め出し」は実際に受けた事があると、カールはさらりと言ってのけた。
しかし入所“前“に締め出されたという意味がわからず、モーズは頭上に疑問符を浮かべてしまう。
「入所前に、締め出す?」
「何々? モーズちゃん気になる? 俺ちゃんの過去気になっちゃう感じ?」
「気になりはしますが、今は訓練中ですし、また後ほど」
「よぅし! では語ってしんぜよう!」
「……」
「モーズ。ああいう先輩なんだ、諦めろ」
人の話を一切聞かずに話を進めるカールに困惑するモーズ。そんなモーズの肩に手を置いて慰めてくれるフリーデン。
その光景さえ無視して、カールは自分語りを始めた。
「そう、あれは今から15年前……。俺ちゃんが14になった年……」
「つまりカールさんは今年で29歳なのか。……うん? クスシ歴11年で今年29歳? ……18歳からラボにいるのか!?」
「本当は14歳からいたかったけどね! 追い返されちゃったっ!!」
「追い返すって、そもそもどうやってラボに来たんですかカール先輩。推薦貰って試験突破しないと来れないでしょう? でもラボは未成年者に推薦は出せない規約のはず……」
「推薦とか俺ちゃん貰ってないよ」
カールはそこで実験台の上に腰掛けると、人差し指で実験台の黒板テーブルをコンコンとつつく。
「海渡って自力でここ来た」
そしてモーズらに向け、信じられない事をさらりと言ってのけた。
「えぇえええ!?」
「自力で……!? オフィウクス・ラボには多重の認識阻害装置が付けられているというのに……!?」
オフィウクス・ラボがある人工島アバトンは、人工衛星にさえ映らない認識阻害装置が仕掛けられていて、関係者以外の来訪をことごとく阻む仕様となっている。港にあるラボ専用の空陸両用車や飛行機を用いらなければ、偽者や電子乗物の機能を狂わせたりする電磁波を用いた障壁が立ち塞がり、出入りは困難を極める。
にも関わらず自力でラボに辿り着いたカールは、それだけでも十分に異常だとわかる。
「15年前はまだそこまでガチガチに秘匿されてなかったのよ~。だから所長達がヨーロッパを行き来する時間をねぇ、菌床処分をよく依頼してた国連警察を片っ端から脅、ンンッ、頼んで聞き出して往復時間を計算しておおよその位置の目星付けて小型船借りていざ! 大海原! してたの」
「その、カールさんは航海技術を持っているのだな……?」
「船舶免許持ってないけどね~っ! 勘でなんとかなった!」
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