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第十二章 日本旅行編
第239話 霊園
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夕刻。
といっても夏という日が長い季節。部屋にかけられたアナログ時計の短針が5を指しても、外はまだまだ明るかった。昼食後、短い仮眠を取っていたモーズはそこで起き、洗面台で顔を洗う。
丁度洗い終えた辺りでコンコンと、寮の部屋の扉がノックされた。隣の部屋の青洲が訪ねてきたのだ。
「身体は、休まったか……」
「はい。仮眠も取らせて頂きました。時差ボケも大分よくなったかと」
「では、出立をする……」
日暮れが近い時間帯にモーズ達が向かったのは、寮から車で20分程の距離にある、山沿いの霊園。
隣に建てられた大きな寺が管理する、墓石が規則的に並ぶ霊園であった。
本来ならば17時に閉まる場所なのだが、事前に青洲が頼んで特別に開けて貰ったのだという。なのでモーズ達以外の来訪者は既に帰宅済みで、目立つウミヘビを連れていても他人の目を気にする事なく入園する事ができた。
「青洲先生、お久しぶりです!」
「あぁ……」
駐車場に車を停め、霊園に入園してすぐ。
暑い中、青洲を待っていてくれていた初老の住職が挨拶をしに来てくれた。
「『朝顔』もお元気そうで!」
「ご無沙汰しております、住職殿」
「……いや本当、以前と全く変わらないね。まるで歳を取っていないと思うぐらい、若々しい!」
(……。『朝顔』……?)
住職は青洲の側に付き添うアトロピンを見て、確かに『朝顔』と呼んだ。リアルタイムで翻訳してくれる浮遊型自動人形の翻訳ミスではなく、確かに。加えてアトロピンは翻訳機に頼らずに日本語を話せている。
しかしここでどうして偽名を使っているのか、と訊ねても、住職を混乱させてしまうだろう。なのでモーズは後で訊く事とした。
「あの坊主頭は、何だ?」
「寺の住職ってやつだよ! 欧州でいや教会の牧師みたいなもんさァ! 死者を供養する墓を管理するのも仕事の内ってねぇ!」
「くよう……?」
なおパラチオンは僧侶自体を見るのが初めて、何なら『供養』という概念もわかっていないようで、隣に立つ燐の答えを聞いても首を傾げていた。
青洲とアトロピンの挨拶を終えた住職は今度はモーズとウミヘビ達に挨拶を交わした後、「大人数でいらしたのですね」と喋りながら、青洲が目的とする墓石の前まで案内をしてくれる。
青洲が13年振りに訪れる事となった墓石。それには苔もホコリもついておらず、年月を感じさせない程に綺麗に管理されていた。
「墓石の管理を請け負ってくれ、感謝する……」
「そりゃ青洲先生のご家族のお墓ですから! 丁寧に管理させて頂いていますよ!」
案内を終えた住職は「退園する際は施錠をするんでお声掛けください!」と言葉を残し、寺の事務所へと戻っていく。
住職が去った辺りで、アセトアルデヒドはきょろきょろと辺りを落ち着きなく見回し始めた。
「えっとぉ、墓石を綺麗に拭くんだよねぇ? お水くんでくればいいんだっけぇ?」
「アセト、掃除は俺がやるからお前ぇは花飾りでもやっておけ」
「えぇ~? 僕もお掃除くらいできるよぉ?」
「2人とも……少し、待ってくれ」
あまり縁がないながらも知識を元に墓参りをしようとしてくれたアセトアルデヒドとニコチンを一度待たせ、青洲は線香立を脇に動かした後、墓石の手前に置かれた板石(拝石)を動かす。非常に重そうな石だが、青洲も意外と力があるようで、危なげなく移動していた。
板石という蓋が外された先にあるのは、四角い穴、納骨室。
そこには既に一つの骨壷が納められていて、青洲はその隣に、今回共に帰国をした妻の骨壷を納めた。
そして両手を合わせ、祈りを捧げる。
「母上……。帰省が遅くなってしまい、申し訳ない……。本日、加恵と共に帰りました……。これからは彼女と、お過ごしください……」
納骨室で先に眠っていたのは、青洲の母親だったらしい。
モーズは会った事のない、とうの昔に亡くなった故人。それでもモーズは青洲に続き両手を合わせ、彼女達の魂の鎮魂を祈った。
「何故あいつは地面に向かって話しかけている?」
「これが弔いだからさァ、パラチオン」
死者の供養も弔いも、パラチオンは全く理解していなかった。それもそうだ。彼は造られてから5年しか生きていない。しかもネグラではずっと【檻】の中で過ごしていた。
きっと、身近な者が亡くなった経験もないだろう。モーズはそう察した。
「意味がわからないな。生物は死ねば意識は消え、身体は腐りやがて土に還るだけ。生者に応える事はない。無駄な労力だ」
「しかしそうでもしなくては、保たないのです」
「保つ? 誰の何がだ、アトロピン」
「置いてかれた人の、心が」
そう淡々とパラチオンに説くアトロピンは、悲しげな眼差しを墓石に向けていた。
「……? ますます意味がわからない」
「わかんねぇのは仕方ねぇが、だからって作業の邪魔すんなよ? ガキじゃねえんだからよ」
「何だと? 俺様を馬鹿にするな、状況判断くらいできる……!」
「キレてねぇでもちょい下がれ。お前ぇ図体でけぇんだからよ」
納骨が終わった所で中断していた墓参りを再開。するには狭い通路を塞ぐパラチオンが邪魔だ、と追いやりにかかるニコチンにパラチオンは苛立っていたが、「邪魔にされたくなきゃ水汲んでこい」とあしらわれ渋々、燐と手桶に水を汲みに向かわされていた。ニコチンも何だかんだパラチオンの扱いが上手い。
線香立と板石を元に戻し水が用意できたのならば、墓石の拭き掃除に落ち葉掃きに雑草抜き。そしてあらかじめ用意をしていた花を供え、火を付けた線香も供え、最後に墓石の上から清めの水をかけ、静かに黙祷を捧げる。
「……付き合ってくれ、感謝する。モーズ」
「いいえ。寧ろ貴方のご家族の元まで同行させて頂き、有り難かったです。ご挨拶ができましたから」
「……そうか」
無事に納骨と墓参りを終えた一向は霊園を後にし、住職のいる寺の事務所を訪ねた。
すると住職は事務所から出てきたかと思えば寺へ手を向け、こんな提案をしてきた。
「青洲先生! もしもお急ぎでないのならば、本堂に寄っていかれませんか? 実はスイカがありまして! お暑いですし、是非とも休憩なさってください!」
といっても夏という日が長い季節。部屋にかけられたアナログ時計の短針が5を指しても、外はまだまだ明るかった。昼食後、短い仮眠を取っていたモーズはそこで起き、洗面台で顔を洗う。
丁度洗い終えた辺りでコンコンと、寮の部屋の扉がノックされた。隣の部屋の青洲が訪ねてきたのだ。
「身体は、休まったか……」
「はい。仮眠も取らせて頂きました。時差ボケも大分よくなったかと」
「では、出立をする……」
日暮れが近い時間帯にモーズ達が向かったのは、寮から車で20分程の距離にある、山沿いの霊園。
隣に建てられた大きな寺が管理する、墓石が規則的に並ぶ霊園であった。
本来ならば17時に閉まる場所なのだが、事前に青洲が頼んで特別に開けて貰ったのだという。なのでモーズ達以外の来訪者は既に帰宅済みで、目立つウミヘビを連れていても他人の目を気にする事なく入園する事ができた。
「青洲先生、お久しぶりです!」
「あぁ……」
駐車場に車を停め、霊園に入園してすぐ。
暑い中、青洲を待っていてくれていた初老の住職が挨拶をしに来てくれた。
「『朝顔』もお元気そうで!」
「ご無沙汰しております、住職殿」
「……いや本当、以前と全く変わらないね。まるで歳を取っていないと思うぐらい、若々しい!」
(……。『朝顔』……?)
住職は青洲の側に付き添うアトロピンを見て、確かに『朝顔』と呼んだ。リアルタイムで翻訳してくれる浮遊型自動人形の翻訳ミスではなく、確かに。加えてアトロピンは翻訳機に頼らずに日本語を話せている。
しかしここでどうして偽名を使っているのか、と訊ねても、住職を混乱させてしまうだろう。なのでモーズは後で訊く事とした。
「あの坊主頭は、何だ?」
「寺の住職ってやつだよ! 欧州でいや教会の牧師みたいなもんさァ! 死者を供養する墓を管理するのも仕事の内ってねぇ!」
「くよう……?」
なおパラチオンは僧侶自体を見るのが初めて、何なら『供養』という概念もわかっていないようで、隣に立つ燐の答えを聞いても首を傾げていた。
青洲とアトロピンの挨拶を終えた住職は今度はモーズとウミヘビ達に挨拶を交わした後、「大人数でいらしたのですね」と喋りながら、青洲が目的とする墓石の前まで案内をしてくれる。
青洲が13年振りに訪れる事となった墓石。それには苔もホコリもついておらず、年月を感じさせない程に綺麗に管理されていた。
「墓石の管理を請け負ってくれ、感謝する……」
「そりゃ青洲先生のご家族のお墓ですから! 丁寧に管理させて頂いていますよ!」
案内を終えた住職は「退園する際は施錠をするんでお声掛けください!」と言葉を残し、寺の事務所へと戻っていく。
住職が去った辺りで、アセトアルデヒドはきょろきょろと辺りを落ち着きなく見回し始めた。
「えっとぉ、墓石を綺麗に拭くんだよねぇ? お水くんでくればいいんだっけぇ?」
「アセト、掃除は俺がやるからお前ぇは花飾りでもやっておけ」
「えぇ~? 僕もお掃除くらいできるよぉ?」
「2人とも……少し、待ってくれ」
あまり縁がないながらも知識を元に墓参りをしようとしてくれたアセトアルデヒドとニコチンを一度待たせ、青洲は線香立を脇に動かした後、墓石の手前に置かれた板石(拝石)を動かす。非常に重そうな石だが、青洲も意外と力があるようで、危なげなく移動していた。
板石という蓋が外された先にあるのは、四角い穴、納骨室。
そこには既に一つの骨壷が納められていて、青洲はその隣に、今回共に帰国をした妻の骨壷を納めた。
そして両手を合わせ、祈りを捧げる。
「母上……。帰省が遅くなってしまい、申し訳ない……。本日、加恵と共に帰りました……。これからは彼女と、お過ごしください……」
納骨室で先に眠っていたのは、青洲の母親だったらしい。
モーズは会った事のない、とうの昔に亡くなった故人。それでもモーズは青洲に続き両手を合わせ、彼女達の魂の鎮魂を祈った。
「何故あいつは地面に向かって話しかけている?」
「これが弔いだからさァ、パラチオン」
死者の供養も弔いも、パラチオンは全く理解していなかった。それもそうだ。彼は造られてから5年しか生きていない。しかもネグラではずっと【檻】の中で過ごしていた。
きっと、身近な者が亡くなった経験もないだろう。モーズはそう察した。
「意味がわからないな。生物は死ねば意識は消え、身体は腐りやがて土に還るだけ。生者に応える事はない。無駄な労力だ」
「しかしそうでもしなくては、保たないのです」
「保つ? 誰の何がだ、アトロピン」
「置いてかれた人の、心が」
そう淡々とパラチオンに説くアトロピンは、悲しげな眼差しを墓石に向けていた。
「……? ますます意味がわからない」
「わかんねぇのは仕方ねぇが、だからって作業の邪魔すんなよ? ガキじゃねえんだからよ」
「何だと? 俺様を馬鹿にするな、状況判断くらいできる……!」
「キレてねぇでもちょい下がれ。お前ぇ図体でけぇんだからよ」
納骨が終わった所で中断していた墓参りを再開。するには狭い通路を塞ぐパラチオンが邪魔だ、と追いやりにかかるニコチンにパラチオンは苛立っていたが、「邪魔にされたくなきゃ水汲んでこい」とあしらわれ渋々、燐と手桶に水を汲みに向かわされていた。ニコチンも何だかんだパラチオンの扱いが上手い。
線香立と板石を元に戻し水が用意できたのならば、墓石の拭き掃除に落ち葉掃きに雑草抜き。そしてあらかじめ用意をしていた花を供え、火を付けた線香も供え、最後に墓石の上から清めの水をかけ、静かに黙祷を捧げる。
「……付き合ってくれ、感謝する。モーズ」
「いいえ。寧ろ貴方のご家族の元まで同行させて頂き、有り難かったです。ご挨拶ができましたから」
「……そうか」
無事に納骨と墓参りを終えた一向は霊園を後にし、住職のいる寺の事務所を訪ねた。
すると住職は事務所から出てきたかと思えば寺へ手を向け、こんな提案をしてきた。
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