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第十四章 煙草の灰
第284話 抗老化医学(アンチエイジング)
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「派手にやってくれたヨ」
撃ち落とされた菌床の残骸が流れ星のように降り注ぐ光景を、鶏血は街のオフィス街の中、高層ビルの屋上から眺めていた。
彼の隣には、ユワが片膝をついて控えている。
「しかしウミヘビを一匹片せた功績は大きいだろうネ。場合によってはクスシも……。これでまたアタシの評価があがル」
クツクツと、仮面の下から漏れる笑い声。
だが上機嫌な鶏血とは異なり、ユワはこの事態を楽観視できないでいた。
「そうは言いましても鶏血さま。《原木》が回収されてしまいました。苦言を申す方が出てきてしまうのでは」
「はん。短絡的な行動を取った未成熟子が悪いのヨ。アタシは知らン。まぁ多少、管理不届についての追及は来るだろうが、問題はなイ」
そこで鶏血は真っ赤な扇子を広げ、仮面越しに顔を煽ぐ。
「アタシの処罰やら処遇やらに時間を割いている暇なんて、なくなるからネ」
◇
「ペガサス教団を一斉検挙する!」
菌床の撃墜、沈黙を確認したマイクが真っ先に取った事は、街中に作った仮設基地で複数のホログラム通信を展開し、自身の管轄している日本支部及びアメリカ支部へ命令を下す事だった。
「急げ! 《原木》を隠蔽される前に確保しなくてはいけない! 時間が勝負だ!!」
何せ災害現場となった屋敷の残骸と元々建っていた敷地を調べた結果、今回の騒動の原因はペガサス教団及び、その信徒が所持していた《原木》と判明したのだ。
「《原木》の不法所持、危険性の発覚、何よりも災害の誘発! 強制捜査へ踏み入るに充分な手札だ!」
国連警察はステージ6となったペガサス教団の信徒を現在、2人しか確認出来ていない。ドイツとイギリスの菌床に現れた少年オニキスと、スペインとアメリカに現れた名前不詳の青年だ(※ショールは不確定な所が多いので除外されている)。
事例はそれだけ。しかもその中で意図的に生物災害を起こしたと思われるケースは、ドイツの菌床のみ。他は記録や痕跡を合わせても確証が取れなかった。裏を取る為に更なる調査をしようにも、2人とも未だに身柄を捕えられていない。
これでは個人(しかも一人は未成年)による公務執行妨害、という形でしか上層部に報告できず、ペガサス教団そのものを検挙する手札にするには弱かった。
だが今回は違う。確固たる証拠を元に追及ができる。
「今までのらりくらりと逃げられていたが、Every fox must pay his own skin to the flayer !」
バイオテロ組織の疑いがありながら、証拠不十分で捕えられなかったペガサス教団。長年歯痒い思いを抱いていたが、いよいよ解体が叶うかもしれない事態に、マイクは頬を緩め――られなかった。
脳裏に、撃ち落とされた『天空の城』が焼き付いていたから。
(菌床を的確に撃ち落としたウミヘビも恐ろしいが、あのアイギスという生命体も何なんだ……!)
建物一つを夜空へ浮かばせたアイギス。
それは人間を建物ごと高所から落とし、大量殺人もできるという事。使い方次第で途方もない力を持つ、生物兵器になるという事。
(あんなの、あんなのいち研究員が持っていていい武力じゃない! ウミヘビばかりに気を取られていたが、クスシも大概じゃないか! 上層部はこれを知っているのか……!? 知らないとすれば直ちに報告を)
『マイク』
頭の中でぐるぐると思考が駆け巡っていたマイクの耳に、凛とした声が届く。
その声を聞いたマイクが弾けるように顔をあげれば、いつの間にか増えたホログラム映像の向こう側に、壮年の男性が立っていた。人工灯の下だろうと輝くプラチナブロンドと、鮮やかな赤色の瞳を持つ男性。
彼の着るスーツの左胸、ポケットの上には、国連のエンブレムが描かれた金のバッチが輝いている。
『思い詰めた顔をしているね』
「『アダマス』司令官、わざわざ通信を繋げてくださるとは……! あ、いえ、お応え頂きありがとうございます! お疲れ様です!」
マイクはすかさず右手を上げて敬礼をし、壮年の男性へ挨拶をする、
その男性の名は『アダマス』。
マイクよりも上の立場である、司令官の座につく男。所謂【上層部】の一人である。
『君も部下を亡くしたばかりだというのに、前例のない災害の対処を任されるだなんて大変だね』
「それが国連警察となった、私の使命です。お気になさらず」
『立派な志だけど、君も人間なんだ。無理はしないように』
「お気遣い、心より感謝いたします」
柔らかい声音で優しい言葉をかけてくれるアダマスに軽く会釈をしつつ、マイクは内心、穏やかではない心境であった。
(本部の人間がわざわざ顔を出したという事は、上層部も事態を深刻に考えているのか)
何せアダマスは、国連本部のあるスイス国に身を置く立場の人間。管轄外である日本といった極東、それも首都でも何でもない郊外で起きた災害など、平素ならば歯牙にもかけない。
にも関わらず、現場へ通信を繋げてきた。部下を労わる為、でない事は明白だ。何か、探りを入れてきている。
その対象が立て続けに起きている異常災害なのか、異常災害だろうと鎮圧をこなすウミヘビやクスシの事なのか、マイクにはわからない。知る必要もない。国連組織は縦社会だ、上層部の命令は黙って従うのみ。
アダマスの望み通り、マイクは把握できている事柄の報告を粛々とこなした。
だが満足のいく回答を得られなかったのか、話を聞いたアダマスは表情こそ穏やかだが目はどこか冷ややかだ。しかしマイクがこれ以上、伝えられる情報はない。
よって「新しい情報を得たら都度、報告をする」とし、マイクはアダマスとの通話を切った。
途端、緊張の糸が切れたマイクはパイプ椅子に腰をおろし、額から冷や汗を流す。
(こんな所で神経を使うとは。しかしこれで終わりではない。アダマス司令官はまだ情報を求めている。区切りがついたら、あの青洲というクスシにもっと話を……。……)
そこで青洲の顔を思い浮かべたマイクは、片手で口元を覆った。
(若過ぎる)
日本人は欧州や欧米の人々に比べ、見目が老いるのが遅い。歳を取っていないのではないのか、と思うほどに。しかし米軍基地に赴き日本人自衛官と交流する事も多いマイクは、日本人の年相応な外見を把握していた。
――青洲の容姿は、若過ぎる。
どれだけ年上に見積もっても二十代半ばが精々だろう。とても四十歳を超えているように見えない。
(クスシは老けない施術でも受けているのか? 抗老化医学が発達している? そんな情報、聞いたこともないが。人間の不老の実現など、現実離れしている)
だが事実、ウミヘビは不老だ。正確には『外見年齢の固定』らしいのだが、老いない事には変わりがない。
その技術をもって、クスシもまた不老になっているのではと、マイクは薄気味悪い予想を抱いてしまう。
(ウミヘビにアイギスにクスシ、ロケットに天空の城、更にはアダマス司令官と、整理すべき情報が多すぎて、頭が痛くなってきたな……)
撃ち落とされた菌床の残骸が流れ星のように降り注ぐ光景を、鶏血は街のオフィス街の中、高層ビルの屋上から眺めていた。
彼の隣には、ユワが片膝をついて控えている。
「しかしウミヘビを一匹片せた功績は大きいだろうネ。場合によってはクスシも……。これでまたアタシの評価があがル」
クツクツと、仮面の下から漏れる笑い声。
だが上機嫌な鶏血とは異なり、ユワはこの事態を楽観視できないでいた。
「そうは言いましても鶏血さま。《原木》が回収されてしまいました。苦言を申す方が出てきてしまうのでは」
「はん。短絡的な行動を取った未成熟子が悪いのヨ。アタシは知らン。まぁ多少、管理不届についての追及は来るだろうが、問題はなイ」
そこで鶏血は真っ赤な扇子を広げ、仮面越しに顔を煽ぐ。
「アタシの処罰やら処遇やらに時間を割いている暇なんて、なくなるからネ」
◇
「ペガサス教団を一斉検挙する!」
菌床の撃墜、沈黙を確認したマイクが真っ先に取った事は、街中に作った仮設基地で複数のホログラム通信を展開し、自身の管轄している日本支部及びアメリカ支部へ命令を下す事だった。
「急げ! 《原木》を隠蔽される前に確保しなくてはいけない! 時間が勝負だ!!」
何せ災害現場となった屋敷の残骸と元々建っていた敷地を調べた結果、今回の騒動の原因はペガサス教団及び、その信徒が所持していた《原木》と判明したのだ。
「《原木》の不法所持、危険性の発覚、何よりも災害の誘発! 強制捜査へ踏み入るに充分な手札だ!」
国連警察はステージ6となったペガサス教団の信徒を現在、2人しか確認出来ていない。ドイツとイギリスの菌床に現れた少年オニキスと、スペインとアメリカに現れた名前不詳の青年だ(※ショールは不確定な所が多いので除外されている)。
事例はそれだけ。しかもその中で意図的に生物災害を起こしたと思われるケースは、ドイツの菌床のみ。他は記録や痕跡を合わせても確証が取れなかった。裏を取る為に更なる調査をしようにも、2人とも未だに身柄を捕えられていない。
これでは個人(しかも一人は未成年)による公務執行妨害、という形でしか上層部に報告できず、ペガサス教団そのものを検挙する手札にするには弱かった。
だが今回は違う。確固たる証拠を元に追及ができる。
「今までのらりくらりと逃げられていたが、Every fox must pay his own skin to the flayer !」
バイオテロ組織の疑いがありながら、証拠不十分で捕えられなかったペガサス教団。長年歯痒い思いを抱いていたが、いよいよ解体が叶うかもしれない事態に、マイクは頬を緩め――られなかった。
脳裏に、撃ち落とされた『天空の城』が焼き付いていたから。
(菌床を的確に撃ち落としたウミヘビも恐ろしいが、あのアイギスという生命体も何なんだ……!)
建物一つを夜空へ浮かばせたアイギス。
それは人間を建物ごと高所から落とし、大量殺人もできるという事。使い方次第で途方もない力を持つ、生物兵器になるという事。
(あんなの、あんなのいち研究員が持っていていい武力じゃない! ウミヘビばかりに気を取られていたが、クスシも大概じゃないか! 上層部はこれを知っているのか……!? 知らないとすれば直ちに報告を)
『マイク』
頭の中でぐるぐると思考が駆け巡っていたマイクの耳に、凛とした声が届く。
その声を聞いたマイクが弾けるように顔をあげれば、いつの間にか増えたホログラム映像の向こう側に、壮年の男性が立っていた。人工灯の下だろうと輝くプラチナブロンドと、鮮やかな赤色の瞳を持つ男性。
彼の着るスーツの左胸、ポケットの上には、国連のエンブレムが描かれた金のバッチが輝いている。
『思い詰めた顔をしているね』
「『アダマス』司令官、わざわざ通信を繋げてくださるとは……! あ、いえ、お応え頂きありがとうございます! お疲れ様です!」
マイクはすかさず右手を上げて敬礼をし、壮年の男性へ挨拶をする、
その男性の名は『アダマス』。
マイクよりも上の立場である、司令官の座につく男。所謂【上層部】の一人である。
『君も部下を亡くしたばかりだというのに、前例のない災害の対処を任されるだなんて大変だね』
「それが国連警察となった、私の使命です。お気になさらず」
『立派な志だけど、君も人間なんだ。無理はしないように』
「お気遣い、心より感謝いたします」
柔らかい声音で優しい言葉をかけてくれるアダマスに軽く会釈をしつつ、マイクは内心、穏やかではない心境であった。
(本部の人間がわざわざ顔を出したという事は、上層部も事態を深刻に考えているのか)
何せアダマスは、国連本部のあるスイス国に身を置く立場の人間。管轄外である日本といった極東、それも首都でも何でもない郊外で起きた災害など、平素ならば歯牙にもかけない。
にも関わらず、現場へ通信を繋げてきた。部下を労わる為、でない事は明白だ。何か、探りを入れてきている。
その対象が立て続けに起きている異常災害なのか、異常災害だろうと鎮圧をこなすウミヘビやクスシの事なのか、マイクにはわからない。知る必要もない。国連組織は縦社会だ、上層部の命令は黙って従うのみ。
アダマスの望み通り、マイクは把握できている事柄の報告を粛々とこなした。
だが満足のいく回答を得られなかったのか、話を聞いたアダマスは表情こそ穏やかだが目はどこか冷ややかだ。しかしマイクがこれ以上、伝えられる情報はない。
よって「新しい情報を得たら都度、報告をする」とし、マイクはアダマスとの通話を切った。
途端、緊張の糸が切れたマイクはパイプ椅子に腰をおろし、額から冷や汗を流す。
(こんな所で神経を使うとは。しかしこれで終わりではない。アダマス司令官はまだ情報を求めている。区切りがついたら、あの青洲というクスシにもっと話を……。……)
そこで青洲の顔を思い浮かべたマイクは、片手で口元を覆った。
(若過ぎる)
日本人は欧州や欧米の人々に比べ、見目が老いるのが遅い。歳を取っていないのではないのか、と思うほどに。しかし米軍基地に赴き日本人自衛官と交流する事も多いマイクは、日本人の年相応な外見を把握していた。
――青洲の容姿は、若過ぎる。
どれだけ年上に見積もっても二十代半ばが精々だろう。とても四十歳を超えているように見えない。
(クスシは老けない施術でも受けているのか? 抗老化医学が発達している? そんな情報、聞いたこともないが。人間の不老の実現など、現実離れしている)
だが事実、ウミヘビは不老だ。正確には『外見年齢の固定』らしいのだが、老いない事には変わりがない。
その技術をもって、クスシもまた不老になっているのではと、マイクは薄気味悪い予想を抱いてしまう。
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