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第十六章 地獄の最前線
第346話 プレゼン
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『モーズ、まだ勉強しているのかい?』
街にある一番大きな図書館。
そこの長机の端で参考書を広げていたモーズの元に、フランチェスコがやってきて言う。
『先日受けた模試結果は合格ラインに達成していたじゃないか』
『備えは幾らあってもいいだろう?』
『たまには息抜きしないと、頭がパンクするよ?』
フランチェスコは呆れながらモーズの隣の席に座り、一緒に参考書を眺め始める。
モーズとフランチェスコは15歳で、今年医大の入学試験を控えている。まさに追い込みの時期。しかし幼い頃から毎日繰り返し勉強をしている2人の模試結果は上々。合格は揺るがないと、誰が見ても思うレベルであった。
『だからとここで油断して落ちたくない』
『わー。自分で自分を追い詰めるタイプだぁ』
『むぅ。では話を変えるが、私は医大入学と同時に軍の寮に入ろうと思う』
『えっ。え……っ!?』
軍の寮に入るという事は、孤児院を出ていくという事だ。
突然のモーズの告白に、フランチェスコは狼狽えている。それほど動揺する事だろうかと、モーズは小首を傾げた。
『フランチェスコも知っているだろう? 孤児院にいられるのは18歳までだ。その頃に軍の寮に入るのもいいが、どうせならば早いうちに引っ越して、生活環境に慣れてしまった方が後が楽だろう? だから……』
『ちょ、ちょ、ちょっと待って。えっと軍の寮と、僕らが入る予定の医大って距離がある、よね!?』
『多少は。しかし通えない程では……。というか孤児院から通うよりも距離が近……』
『わかった! 医大に合格したら僕ら、ルームシェアしようっ!』
『……うん?』
フランチェスコはルームシェアを決定事項とし、「早速内覧に行こう!」と机に置いていた参考書を鞄に突っ込んだ後、モーズを手を引っ張ってフランチェスコは図書館を飛び出す。
『待ってくれ、フランチェスコ。部屋を借りた所で私には支払い能力がだな』
『僕の災害孤児支援を使えばどうにでもなるよ!』
『私には適応されな、』
『場所は、そうだねぇ。医大に凄く近い所にしようか!』
『フランチェスコ? 聞いているのか? フランチェスコ? あとそこは立地的に家賃が高いだろう』
『いい物件があったら、他の人に取られない内に暮らしちゃおうね!』
しかしフランチェスコの言う通り、災害孤児支援はモーズというルームシェア相手を入れても容易に暮らせる金銭が支給されていて、あれよあれよという間に申請をすませたフランチェスコと共に、モーズの賃貸暮らしが始まるのだった。
◆
「おーい、モーズ~。そろそろ起きな~?」
「う……」
肩を揺すられ、声をかけられ、モーズは微睡の中からゆっくりゆっくりと覚醒していく。
その声はフランチェスコの声ではない。同じクスシであり友人である、フリーデンの声だ。
その認識ができた直後、モーズは身体を沈めていたベッドからガバリと勢いよく起き上がった。
「フリーデン! よかった、目が覚めたか!」
自分を起こしてくれたフリーデンは、ベッドから身を起こしている。生きている。息をしている。夢ではない。
ここに居る。
「よかった……!」
助けられた。死なせずに済んだ。その事実を確認できて、歓喜からモーズは声を震わせた。
それに対してフリーデンは罰が悪そうに肩をすくめる。
「その、悪かったなモーズ。巻き込んじまって」
「いいや、気にする事はない。譲れない事があったのだろう? 私の方こそ君の事情に首を突っ込んでしまった。君の意思を鑑みる事なく。すまなかった」
「いや謝るなよ! ……すげぇ、助かったし」
「それなら、いいのだが。……。私自身、もしも目の前にフランチェスコがステージ6として現れた場合、平常心を保てる気がしない。きっと衝動のまま飛び出して、会いに行ってしまうだろう」
例えそれが罠だと知っていても、なりふり構わず。今回のように自己満足でエゴを貫き通し、何一つ冷静に動けないまま終わるに違いない。
そんなもしもの自分が容易に思い浮かんで、モーズは自嘲した。
「そうかもしれねぇけど、でもモーズならきっと迷う事なくやれちまうだろ」
「何をだ? フリーデン」
「処分」
モーズは人と病の線引きがはっきりしている。残酷なほど。
昔馴染みと同じ姿を持ち同じ記憶を持ち同じ思考をしていたとしても、その中身が『珊瑚』と知れば処分を下せる。フリーデンはそう確信していた。
「そうだと、いいのだがな」
「そうだよ」
そのある種の冷徹さに触発されて、フリーデンは処分を成し遂げられたのだから。
「それでさモーズ、えーっと、今後の事なんだけど。俺規則破りまくったから多分もうラボには……」
「あぁ。君の席は依然とあるから安心してくれ」
「……。へ?」
あまりにもあっさりと除籍を免れていた事を告げられて、フリーデンは気が抜けた声を出してしまった。
「テトラミックスへの戦闘許可を得る際、所長に直談判してな。君を『帰還』させる為に協力を願いたい、と言ったら『フリーデンを連れ戻す価値があるのか?』と訊かれたものだから、君がいかに優れているかを演説した」
「モーズ?」
「む? 具体的な内容を話した方がよかったか? コミニケーション能力が高くムードメーカーな面から、多岐に渡る知識の豊富さ技術力の高さ、ウミヘビの理解の深さに冷静な立ち回り。共同研究での頼もしさも」
「あ~っ! わかった、わかったから! 皆まで言わなくていいっ!」
早い話、フリーデンの今後の処遇を考えていた所長に、モーズがフリーデンのプレゼンをして除籍を免除して貰ったという訳である。ちなみにモーズはフリーデンのいい所を百個くらい言ったらしい。
自分の預かり知らぬ所で変な方向の辱めを受けていたと知ったフリーデンは、真っ赤になった顔を両手で覆った。
「後は君が戻りたいかどうか、だ」
「……がとよ」
「フリーデン?」
「帰る場所、残しといて……。ありがとよ」
「お安いごようだ」
モーズはそう言って微笑み、フリーデンの帰還を歓迎した。
「ただ君の容態が回復次第、副所長からの苦言があるらしいのだが」
「あ~。まぁそれは避けられねぇよなぁ」
「私も一緒に説教を受けろとの事だ」
「えっ!? モーズもか!?」
「どんな形であれ、自分からペガサス教団に関わってしまったからな」
「うわ~。そりゃ悪い事しちまったなモーズ」
「気にする事はない」
モーズは気にしていないようだが、こんな事まで巻き込んでしまったフリーデンの気は収まらない。
そこでフリーデンは病室の掛け時計をちらりと横目で見た。ロベルト院長退室からそう経っておらず、時刻はまだ昼。そしてここはギリシャの隣国、パラス。それはつまり――
「モーズ。俺、容態が回復するまでもうちょっとかかると思うんだよ」
「そうだな。アイギスがいるとはいえ、万全な状態になるまで安静にしていた方がいいと私も考えている」
「だからさ。今のうちにトルコ、行っちまえば?」
「……うん?」
街にある一番大きな図書館。
そこの長机の端で参考書を広げていたモーズの元に、フランチェスコがやってきて言う。
『先日受けた模試結果は合格ラインに達成していたじゃないか』
『備えは幾らあってもいいだろう?』
『たまには息抜きしないと、頭がパンクするよ?』
フランチェスコは呆れながらモーズの隣の席に座り、一緒に参考書を眺め始める。
モーズとフランチェスコは15歳で、今年医大の入学試験を控えている。まさに追い込みの時期。しかし幼い頃から毎日繰り返し勉強をしている2人の模試結果は上々。合格は揺るがないと、誰が見ても思うレベルであった。
『だからとここで油断して落ちたくない』
『わー。自分で自分を追い詰めるタイプだぁ』
『むぅ。では話を変えるが、私は医大入学と同時に軍の寮に入ろうと思う』
『えっ。え……っ!?』
軍の寮に入るという事は、孤児院を出ていくという事だ。
突然のモーズの告白に、フランチェスコは狼狽えている。それほど動揺する事だろうかと、モーズは小首を傾げた。
『フランチェスコも知っているだろう? 孤児院にいられるのは18歳までだ。その頃に軍の寮に入るのもいいが、どうせならば早いうちに引っ越して、生活環境に慣れてしまった方が後が楽だろう? だから……』
『ちょ、ちょ、ちょっと待って。えっと軍の寮と、僕らが入る予定の医大って距離がある、よね!?』
『多少は。しかし通えない程では……。というか孤児院から通うよりも距離が近……』
『わかった! 医大に合格したら僕ら、ルームシェアしようっ!』
『……うん?』
フランチェスコはルームシェアを決定事項とし、「早速内覧に行こう!」と机に置いていた参考書を鞄に突っ込んだ後、モーズを手を引っ張ってフランチェスコは図書館を飛び出す。
『待ってくれ、フランチェスコ。部屋を借りた所で私には支払い能力がだな』
『僕の災害孤児支援を使えばどうにでもなるよ!』
『私には適応されな、』
『場所は、そうだねぇ。医大に凄く近い所にしようか!』
『フランチェスコ? 聞いているのか? フランチェスコ? あとそこは立地的に家賃が高いだろう』
『いい物件があったら、他の人に取られない内に暮らしちゃおうね!』
しかしフランチェスコの言う通り、災害孤児支援はモーズというルームシェア相手を入れても容易に暮らせる金銭が支給されていて、あれよあれよという間に申請をすませたフランチェスコと共に、モーズの賃貸暮らしが始まるのだった。
◆
「おーい、モーズ~。そろそろ起きな~?」
「う……」
肩を揺すられ、声をかけられ、モーズは微睡の中からゆっくりゆっくりと覚醒していく。
その声はフランチェスコの声ではない。同じクスシであり友人である、フリーデンの声だ。
その認識ができた直後、モーズは身体を沈めていたベッドからガバリと勢いよく起き上がった。
「フリーデン! よかった、目が覚めたか!」
自分を起こしてくれたフリーデンは、ベッドから身を起こしている。生きている。息をしている。夢ではない。
ここに居る。
「よかった……!」
助けられた。死なせずに済んだ。その事実を確認できて、歓喜からモーズは声を震わせた。
それに対してフリーデンは罰が悪そうに肩をすくめる。
「その、悪かったなモーズ。巻き込んじまって」
「いいや、気にする事はない。譲れない事があったのだろう? 私の方こそ君の事情に首を突っ込んでしまった。君の意思を鑑みる事なく。すまなかった」
「いや謝るなよ! ……すげぇ、助かったし」
「それなら、いいのだが。……。私自身、もしも目の前にフランチェスコがステージ6として現れた場合、平常心を保てる気がしない。きっと衝動のまま飛び出して、会いに行ってしまうだろう」
例えそれが罠だと知っていても、なりふり構わず。今回のように自己満足でエゴを貫き通し、何一つ冷静に動けないまま終わるに違いない。
そんなもしもの自分が容易に思い浮かんで、モーズは自嘲した。
「そうかもしれねぇけど、でもモーズならきっと迷う事なくやれちまうだろ」
「何をだ? フリーデン」
「処分」
モーズは人と病の線引きがはっきりしている。残酷なほど。
昔馴染みと同じ姿を持ち同じ記憶を持ち同じ思考をしていたとしても、その中身が『珊瑚』と知れば処分を下せる。フリーデンはそう確信していた。
「そうだと、いいのだがな」
「そうだよ」
そのある種の冷徹さに触発されて、フリーデンは処分を成し遂げられたのだから。
「それでさモーズ、えーっと、今後の事なんだけど。俺規則破りまくったから多分もうラボには……」
「あぁ。君の席は依然とあるから安心してくれ」
「……。へ?」
あまりにもあっさりと除籍を免れていた事を告げられて、フリーデンは気が抜けた声を出してしまった。
「テトラミックスへの戦闘許可を得る際、所長に直談判してな。君を『帰還』させる為に協力を願いたい、と言ったら『フリーデンを連れ戻す価値があるのか?』と訊かれたものだから、君がいかに優れているかを演説した」
「モーズ?」
「む? 具体的な内容を話した方がよかったか? コミニケーション能力が高くムードメーカーな面から、多岐に渡る知識の豊富さ技術力の高さ、ウミヘビの理解の深さに冷静な立ち回り。共同研究での頼もしさも」
「あ~っ! わかった、わかったから! 皆まで言わなくていいっ!」
早い話、フリーデンの今後の処遇を考えていた所長に、モーズがフリーデンのプレゼンをして除籍を免除して貰ったという訳である。ちなみにモーズはフリーデンのいい所を百個くらい言ったらしい。
自分の預かり知らぬ所で変な方向の辱めを受けていたと知ったフリーデンは、真っ赤になった顔を両手で覆った。
「後は君が戻りたいかどうか、だ」
「……がとよ」
「フリーデン?」
「帰る場所、残しといて……。ありがとよ」
「お安いごようだ」
モーズはそう言って微笑み、フリーデンの帰還を歓迎した。
「ただ君の容態が回復次第、副所長からの苦言があるらしいのだが」
「あ~。まぁそれは避けられねぇよなぁ」
「私も一緒に説教を受けろとの事だ」
「えっ!? モーズもか!?」
「どんな形であれ、自分からペガサス教団に関わってしまったからな」
「うわ~。そりゃ悪い事しちまったなモーズ」
「気にする事はない」
モーズは気にしていないようだが、こんな事まで巻き込んでしまったフリーデンの気は収まらない。
そこでフリーデンは病室の掛け時計をちらりと横目で見た。ロベルト院長退室からそう経っておらず、時刻はまだ昼。そしてここはギリシャの隣国、パラス。それはつまり――
「モーズ。俺、容態が回復するまでもうちょっとかかると思うんだよ」
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