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第十九章 狂信者のカタリ
第387話 広がる波紋
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「凍結実験の進行が遅れてしまうのは残念だが、臨床試験の目処が立ったのは非常に喜ばしいな! ……立ち合えない事は、とても悔しいが……」
「学会向けに、施術過程を僕がまとめる事になったから、後で君にも渡すよ。勿論、紙の資料でね」
「それは有り難い。よろしく頼む」
モーズはフリッツに深々と頭を下げ、感謝を示した。
「しかしフリッツがそれほどまでに説得を繰り返しても、フリードリヒさんは頷いてくれないとはな。彼にも何か事情があるようだが、このままでは……」
「うん。詰みになってしまう。あとは『冷弾』さえ完成すれば、理論上、実験は成功するのだけれど……」
冷気を操れるアンモニアの協力の元、フリッツはシミュレーターで幾度も凍結実験を繰り返し、冷気放射器を改良。『冷弾』を付属する事により、ステージ5の保護が可能なレベルにまで至った。
しかしそれはシミュレーターの中だけの話。凍結実験成功の鍵となる『冷弾』だが、シミュレーター内で製造する事は出来たのだが、現実で再現しようと思うとどこかしらに不都合が生じ、理想通りに作れないのだ。
技術不足、という壁にぶつかってしまっている状態。それを打破する為に、何としてでもフリードリヒの手を借りたいというのに、彼は聞く耳を持ってくれない。
「ままならないねぇ。ひとまず臨床試験が入ってしまったし、今はそちらに集中する事にするよ。臨床試験が終わる頃には、所長や副所長が戻ってきてくれているといいのだけれど。流石に直接命じられたら、フリードリヒさんも断れないだろうから」
「そうだな。まさか二人とも未だに戻らないとは……。所でフリッツ」
「何だい?」
「諸事情で臨床試験が早まってしまったというが、それは何故だろうか?」
モーズの素朴な疑問に、フリッツはぎくりと肩を強張らせる。
「ええっと、それはねぇ……」
「まさかとは思うが、患者に何か異変が……!?」
「あぁ、いや。それは違うよ。ジョン先生を含めて、コールドスリープを受けている患者の容態は皆んな安定している。急死の心配はないだろうね」
「それはよかった。……うん? では何故、ますます急ぐ必要が?」
「え、えーっと……」
モーズの偽物が現れて、オフィウクス・ラボの信用を下げる方向で世間を騒がせている為、不信感を払拭する手段として臨床試験を早める事に踏み切った。
なんて混乱しか招かない事実は、カールから口止めされている。一応「国連上層部に成果を求められたから」という言い訳を用意してはいるのだが、それでモーズが納得してくれるだろうかとフリッツは目を泳がす。フェイスマスクで顔を覆っているのでフリッツの挙動不審さはバレないものの、マスク越しでも伝わるモーズの真摯な視線を向けられてしまうと、後ろめたさが湧き立ってきて、何だか気まづい。
「フリッツ、どうした?」
「いや、その……。国連の上層部が、ええとね」
「お話中、失敬」
フリッツがしどろもどろながら言い訳を述べようとしたその時、2人の座る席に間に割って入るように、赤黄色の髪をした一人の美丈夫……ウミヘビが現れる。
「そちらの、蛇のマスクの方。モーズ殿、でよろしいか?」
◇
インタビュアーの手元で、録音機の赤いランプが静かに点灯する。
スタジオの照明は、彼の表情の輪郭をなぞるように光を落とす。それが余計に影を濃くし、彼の言葉に重苦しい真実味を与えていた。
「本当の事をお話しいたしましょう」
静かに語り始めたのは、パラス国の英雄でありオフィウクス・ラボの元研究員として紹介された、モーズことアレキサンドライト。
闇に溶け込んでしまいそうな黒服を纏った彼の姿は、視聴者の目には威厳と知性を併せ持つ『正しい人間』として映っただろう。
「私はオフィウクス・ラボの真実を知りました。あそこは、ラボは悪魔の巣食う地獄だったのです」
言葉を重ねるごとに、スタジオは異様な緊張感に包まれていく。
取材スタッフの一人がごくりと唾を飲む音が、マイクに乗った。
「数日前までギリシャでは、アパタイトと名乗る女性が街頭演説をしていたでしょう? 」
彼の発言に合わせ、背後のモニターにアパタイトの映像が映し出される。
キャラメル色をした髪もハーフアップに纏め、若くて健康で活発そう、という印象を抱く、若い女性ことアパタイトを。
「確かに彼女は許可なく演説をした事で騒音を立て、近隣の方に迷惑をかけてしまいました。それは反省すべき事です。しかし……殺される程の罪では、ない」
その一言に、画面の向こうで息を呑む視聴者は少なくなかっただろう。
「なのに。ラボの研究者は悪魔を遣わし、彼女を殺めた」
抑揚のない声。
しかし、アレキサンドライトの語る『悪魔』という言葉が、あまりに具体的で耳にこびりつく。
オフィウクス・ラボは特殊部隊を従えていて、その部隊を持って災害対処をしていることは、一般人も知ることができる情報。
その情報が結びつき、視聴者の脳裏に『ラボが秘密裏に怪物を使役している』という、悪辣なイメージがじわじわと焼き付けられていった。
「幾ら彼女が研究の邪魔だったからと、排除するなど……。ラボの指針は間違っている。私はその事に漸く気付き、辞職する決意をしました」
淡々と語ってはいるものの、膝の上に置かれた彼の手は震えていた。
人を殺めたラボに対する怒りが、滲み出ている。
「信じられないと言うのなら、彼女が殺された現場にいた方々に聞いてみるとよいでしょう。決して狂言ではないと、知る事ができますよ? あぁ、直接現場に赴き、カメラに映すのもよいですね」
そう言って、アレキサンドライトは温和に微笑んだ。
自分に向けられる、カメラのレンズを真っ直ぐ見詰めて。
「学会向けに、施術過程を僕がまとめる事になったから、後で君にも渡すよ。勿論、紙の資料でね」
「それは有り難い。よろしく頼む」
モーズはフリッツに深々と頭を下げ、感謝を示した。
「しかしフリッツがそれほどまでに説得を繰り返しても、フリードリヒさんは頷いてくれないとはな。彼にも何か事情があるようだが、このままでは……」
「うん。詰みになってしまう。あとは『冷弾』さえ完成すれば、理論上、実験は成功するのだけれど……」
冷気を操れるアンモニアの協力の元、フリッツはシミュレーターで幾度も凍結実験を繰り返し、冷気放射器を改良。『冷弾』を付属する事により、ステージ5の保護が可能なレベルにまで至った。
しかしそれはシミュレーターの中だけの話。凍結実験成功の鍵となる『冷弾』だが、シミュレーター内で製造する事は出来たのだが、現実で再現しようと思うとどこかしらに不都合が生じ、理想通りに作れないのだ。
技術不足、という壁にぶつかってしまっている状態。それを打破する為に、何としてでもフリードリヒの手を借りたいというのに、彼は聞く耳を持ってくれない。
「ままならないねぇ。ひとまず臨床試験が入ってしまったし、今はそちらに集中する事にするよ。臨床試験が終わる頃には、所長や副所長が戻ってきてくれているといいのだけれど。流石に直接命じられたら、フリードリヒさんも断れないだろうから」
「そうだな。まさか二人とも未だに戻らないとは……。所でフリッツ」
「何だい?」
「諸事情で臨床試験が早まってしまったというが、それは何故だろうか?」
モーズの素朴な疑問に、フリッツはぎくりと肩を強張らせる。
「ええっと、それはねぇ……」
「まさかとは思うが、患者に何か異変が……!?」
「あぁ、いや。それは違うよ。ジョン先生を含めて、コールドスリープを受けている患者の容態は皆んな安定している。急死の心配はないだろうね」
「それはよかった。……うん? では何故、ますます急ぐ必要が?」
「え、えーっと……」
モーズの偽物が現れて、オフィウクス・ラボの信用を下げる方向で世間を騒がせている為、不信感を払拭する手段として臨床試験を早める事に踏み切った。
なんて混乱しか招かない事実は、カールから口止めされている。一応「国連上層部に成果を求められたから」という言い訳を用意してはいるのだが、それでモーズが納得してくれるだろうかとフリッツは目を泳がす。フェイスマスクで顔を覆っているのでフリッツの挙動不審さはバレないものの、マスク越しでも伝わるモーズの真摯な視線を向けられてしまうと、後ろめたさが湧き立ってきて、何だか気まづい。
「フリッツ、どうした?」
「いや、その……。国連の上層部が、ええとね」
「お話中、失敬」
フリッツがしどろもどろながら言い訳を述べようとしたその時、2人の座る席に間に割って入るように、赤黄色の髪をした一人の美丈夫……ウミヘビが現れる。
「そちらの、蛇のマスクの方。モーズ殿、でよろしいか?」
◇
インタビュアーの手元で、録音機の赤いランプが静かに点灯する。
スタジオの照明は、彼の表情の輪郭をなぞるように光を落とす。それが余計に影を濃くし、彼の言葉に重苦しい真実味を与えていた。
「本当の事をお話しいたしましょう」
静かに語り始めたのは、パラス国の英雄でありオフィウクス・ラボの元研究員として紹介された、モーズことアレキサンドライト。
闇に溶け込んでしまいそうな黒服を纏った彼の姿は、視聴者の目には威厳と知性を併せ持つ『正しい人間』として映っただろう。
「私はオフィウクス・ラボの真実を知りました。あそこは、ラボは悪魔の巣食う地獄だったのです」
言葉を重ねるごとに、スタジオは異様な緊張感に包まれていく。
取材スタッフの一人がごくりと唾を飲む音が、マイクに乗った。
「数日前までギリシャでは、アパタイトと名乗る女性が街頭演説をしていたでしょう? 」
彼の発言に合わせ、背後のモニターにアパタイトの映像が映し出される。
キャラメル色をした髪もハーフアップに纏め、若くて健康で活発そう、という印象を抱く、若い女性ことアパタイトを。
「確かに彼女は許可なく演説をした事で騒音を立て、近隣の方に迷惑をかけてしまいました。それは反省すべき事です。しかし……殺される程の罪では、ない」
その一言に、画面の向こうで息を呑む視聴者は少なくなかっただろう。
「なのに。ラボの研究者は悪魔を遣わし、彼女を殺めた」
抑揚のない声。
しかし、アレキサンドライトの語る『悪魔』という言葉が、あまりに具体的で耳にこびりつく。
オフィウクス・ラボは特殊部隊を従えていて、その部隊を持って災害対処をしていることは、一般人も知ることができる情報。
その情報が結びつき、視聴者の脳裏に『ラボが秘密裏に怪物を使役している』という、悪辣なイメージがじわじわと焼き付けられていった。
「幾ら彼女が研究の邪魔だったからと、排除するなど……。ラボの指針は間違っている。私はその事に漸く気付き、辞職する決意をしました」
淡々と語ってはいるものの、膝の上に置かれた彼の手は震えていた。
人を殺めたラボに対する怒りが、滲み出ている。
「信じられないと言うのなら、彼女が殺された現場にいた方々に聞いてみるとよいでしょう。決して狂言ではないと、知る事ができますよ? あぁ、直接現場に赴き、カメラに映すのもよいですね」
そう言って、アレキサンドライトは温和に微笑んだ。
自分に向けられる、カメラのレンズを真っ直ぐ見詰めて。
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殆どが漢数字、独特の記号、若干のかな文字が混じった文体で構成され、抽象的な絵のみで書記されている「巻」もあります。
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