毒素擬人化小説『ウミヘビのスープ』 〜十の賢者と百の猛毒が、寄生菌バイオハザード鎮圧を目指すSFファンタジー〜 

天海二色

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第二十一章 ハロウィンの翌日

第437話 片割れとの再会

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『はぁあああ……』

 ネグラの広場、そこに置かれた長テーブルでは、セレンとアコニチンが並んで座り、弛緩し切った体勢で深い溜め息を吐いていた。
 そこにいましたがやってきたタリウムの目に留まり、小首を傾げる。

「アコニチンさんとセレンさん、どうしたんスか?」
「あれよ、あれ」

 その疑問に答えたのは2人ではなく、タリウムの後ろからぬっと現れたストリキニーネであった。
 彼が指し示す人差し指の先へ視線を向けて見れば、そこにはベンチの上でシャボン玉を吹くテルルと、テルルを真似てベンチの前でシャボン玉を吹くアトロピンがいた。彼らの側にはパラチオンもいて、ガドリングを模した玩具で彼もまたシャボン玉を噴出している。ちなみにテルルの脇には絵本の山が積み重なっており、少し前はそれで読み聞かせもしていたらしい。
 総合して非常に平和で微笑ましい光景なのだが、それが2人を落ち込ませているのだとストリキニーネは語った。

「アコニチンが遠征中、セレンが再教育中に仲睦まじくなった2人を妬んでおるのよ。稚拙よな」
「ぶっ飛ばすよストリキニーネ」
「輪切りに致しましょうか?」
「おぉ、怖い怖い」

 ぎろりと2人に鋭い視線を向けられてしまったストリキニーネは、戯けるように両手をあげると、そそくさと広場から退散をする。
 何しに来たのだろうか。とタリウムは怪訝に思いながらも、彼は屋台バーに向かいドリンクを注文した。
 注文したのはジンジャーエール。炭酸と辛味と、少しの甘味が混ざった飲み物。

(今日は、ちょっとはわかる……。ッスかね?)

 ジンジャーエールを自動人形オートマタから受け取ったタリウムは空いた席に座り、黒マスクを指にひっかけ下ろす。
 彼は最近、辛い以外の味が感じられるようになった気がした。感じているとしてもほんの少しで、はっきり味覚の変化をはっきり判別できている訳ではないが。
 それでもひとまず楽しめている気はするので、機会があればこうして試している。
 そんなタリウムが座る椅子の斜め前。
 4人掛けの木製テーブル席では、砒素が肘を机に立ててぶすくれていた。

「勿体無いのぅ、勿体無いのぅ」

 彼の視線の先は向かいに座る水銀であり、不機嫌な理由もまた水銀である。

「結局、すいーつびゅっふぇに参加しなかったとは」

 9月29日。その日、ネグラの食堂ではクスシのモーズが主催した『スイーツビュッフェ』が開催され、多くのウミヘビが多種多様な菓子を堪能していた。
 ネグラで催し物が行われること自体が珍しいのもあり、そのスイーツビュッフェには砒素も嬉々として参加。甘味を楽しんだ。その際、水銀に幾度も声をかけたというのに色のいい返事を貰えなかった事を、日付けが変わっても未だに引きずっているのだ。

「自由参加なんだからいいじゃない。そもそも他人に提供されなくったって、ボクは好きな時に好きな物を食べるだけよ」
「初めて見る甘味も置いてあったんじゃ、眺めるだけでも楽しめただろうに。そしてわしとでぇとをしている様を、映像に残してじゃな……」
「それが面倒なんじゃない。もう直ぐ厄介事が帰ってき、」
「我が半身っ!!」

 言い切らない内に、水銀の身体が大きく揺れる。
 音も気配もなく、突如として現れた第三者が水銀を背後から抱き締めたのだ。
 その者は金髪碧眼を持つ長身の美青年、硫黄である。屈強といっていい体格を持つ彼は、自分よりは小柄なものの、同じく長身である水銀を腕の中にすっぽりと収め、隙間なく密着しにかかる。

「会いたかったぞ、愛しの我が半身~っ!!」
「離しなさい暑苦しいっ!」
「何を言うか! 一年振りとなるんだぞ!? その間ずっと君の温もりを我慢してきたのだ、このぐらいの褒美を得てもいいだろうに! 可能ならばこのまま、一日中腕の中に抱き抱えていたいっ!!」
「絶対、嫌っ!」

 水銀は嫌悪感剥き出しの表情を浮かべ、肘で硫黄の身体を押し、腰を掴む腕を引き剥がそうと片手で鷲掴むが、硫黄は石像かの如く動かない。
 ウミヘビ最強と謳われる水銀だが、純粋な筋力では硫黄に劣るのだ。

「硫黄?」
「硫黄だ」
「本物?」
「本物だよ」
「帰ってきたんだ」
「久し振りに見た」

 広場に居たウミヘビ達が、硫黄の姿を見てざわつく。
 水銀と同じく最古のウミヘビであり、肉弾戦では右に出る者はいないと噂される硫黄。
 それだけでも畏怖の対象になるのだが、副所長の徐福に重宝されている為、アバトンを留守にしている事が多く、こうして顔を見るのがレアな体験なのだ。
 硫黄は周囲から向けられる好奇の目など意に介さず、水銀の温もりを堪能。本音を言うのならば心ゆくまで引っ付いていたかったものの、そろそろ液体金属による仕置きが来ると見極め、名残惜しそうに離脱した。
 次いで彼が関心を向けたのは、広場のベンチ付近で睨みをきかせているパラチオン……ではなく、シャボン玉に興じるアトロピンであった。

「おぉ、君が先日造られたアトロピンか。ここにはもう慣れたかな?」

 パラチオンの警戒心がこもった眼差しをそよ風のように流し、硫黄はアトロピンに歩み寄る。
 硫黄は彼を威圧しないようにと、しゃがみ込んで視線を合わせたものの、それでもアトロピンはビクッと身体を強張らせて怯えてしまい、パラチオンの後ろにぴゃっと隠れてしまった。
 パラチオンはアトロピンの逃走先に自身が選ばれた事に驚きつつ、硫黄にこの場から離れるようしっしっと払うジェスチャーをする。

「はっはっはっ。まだか。そうかそうか」

 拒絶されてしまった硫黄だが、特に落ち込む事もなく快活に笑い飛ばす。

「しかしここネグラは安息の地。ゆっくりと、時間をかけて馴染んでいくとよい。……ところで聞いたぞ、我が半身っ!!」

 そしてぐりんと、硫黄は水銀の方へ顔だけ向けて叫んだ。

「大声を出さないで頂戴な」
「おっと失礼。ともかくだ。ここ最近、ネグラでは多人数戦が繰り広げられているというじゃないか! 特に我が半身が催した試合では、報酬を設けた事で白熱したとか。そこで! ワタシも同じ催し物を開催するとする!!」

 パンッ!
 硫黄が手を叩いた直後、広場に大きなホログラム映像が投影させる。そこには硫黄が大きく映し出されていて、広場だけでなく街道からも彼の姿を拝めた。
 余談だがそのホログラム映像は広場に限らず食堂や訓練場、プールや図書館も含めあらゆる場所に投影され、硫黄の一挙一動をウミヘビ全体へ伝達している。

「条件を満たした者は、ワタシの裁量で叶えられる物を何でも一つ与えよう! 酒でもよし! 宝飾金品でもよし! 観光旅行でもよし!! そして此度の催し物は、勝ち抜き戦ではない。多人数戦にする都合上、形式状はバトルロワイヤルになるが……」

 そこで硫黄は人差し指で自身を指さした。

「条件はただ一つ! ワタシにただ一撃、攻撃を当てる事だ! これはチームを組んで挑んでもいい! その場合、一撃を当てられたチームの人数分の報酬を用意しよう!」

 ざわり。広場が再びどよめく。

「そして条件を満たせなかった者も、参加賞や努力賞を用意してある。副賞にはドイツ遠征もあるぞ。こちらは仕事のついでになってしまうが、観光時間もきちんと確保してある! 奮って参加してくれ!」

 ――十分後には、訓練場はウミヘビでいっぱいになったと言う。
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