触手生物に溺愛されていたら、氷の騎士様(天然)の心を掴んでしまいました?

雪 いつき

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好きなようだ

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「しんど……。でも元気……」

 次の森で水棲パキュロスから大歓迎を受け、愛されすぎてベショベショになった俺はぐったりと地面に座り込んだ。

「何か分かったか?」
「うーん……。やっぱり透明の属性はパキュロスっぽい。あと多分だけど、神聖力は俺の中に蓄えられるみたい?」

 両手を合わせると、ぼんやりと淡い光が生まれた。体の奥が熱いのも、そのせいかもしれない。

「でも、攻撃は出来ないみたい」

 光を飛ばそうと手を前に出してみても、何も起こらなかった。

「そうか」

 シグルズは俺を抱き上げて、焚かれた火のそばへと連れて行く。

「俺と出逢ったばっかりに、シグルズもいつもべしょべしょでヌメヌメだな」
「笑いながらそう言えるのは、君が初めてだ」
「仕事中だとおっかないもんな」

 俺が笑うと、シグルズの瞳が優しく細められる。思わず動きを止めたけど、見間違いか。普段のシグルズだった。


 前にいた森で、今後のためにパキュロスと神聖力の関係を探ろうという結論に落ち着いた。それで今日も二人の前で散々喘ぐ事になったんだけど、ここで恥ずかしがればまたシグルズの思う壺だから、何でもないように振る舞う。

「お疲れ様っす!」
「部活後のスポドリみたいで癒されるけど、居た堪れないわ……」

 更に何でもないように振る舞うジンに水を渡され、急に恥ずかしくなってしまった。
 思いの外そっと下ろされて、シグルズを見上げる。

「どうした?」
「えっ? あ、なんだろ、運んでくれてありがと」
「ああ。気にするな」

 ふっと微笑まれ、途端に胸がぎゅっとなる。イケメンは強い。呟いてグッと水を呷った。


「ところでアオ様。……後ろは無事ですか?」
「後ろ? …………なんか入った気がする」
「えっ!?」
「なんか…………尻からドロッとしたの出た」
「ええぇっ!?」
「煩い」
「あっ、すいませ……じゃないっすよシグルズ様!」

 逆にシグルズが怒られる。

「男同士のえっちはそこに挿れるんすよ! アオ様の初めてが奪われたんすよ!?」
「俺の初めてって?」
「アオ様も! 天然も大概にしてくださいっ、他に挿れる穴ないじゃないっすか! 擦り合いで終わりとかじゃないんすよ!?」

 終わりじゃないのか。衝撃だった。

「い……いや、でも、植物とか水だし。効能あるなら座薬と一緒だろ?」
「パキュロスを座薬扱いっ……意思がある時点で寝取られじゃないですか!」
「そもそも恋人もいないから、取られてないって」
「……そうですけど」
「てか、ジン、なんか性格が」

 変わったな、と言う前に、ジンはパッと明るく笑った。


「そうっすね、座薬って言うより、便利な棒っすよね! シグルズ様のを挿れるなら、慣らしておいた方が痛くないかもですっ」
「え? なんでシグルズ?」
「アオ様、シグルズ様のお顔と瞳の色と、筋肉のある体がお好きっすよね?」
「好きってか、いいもん持ってんなとは思うけど」
「シグルズ様も、アオ様のことを可愛いって思いますよね?」
「ああ」
「抱き締めたくなりますよね?」
「そうだな」
「他にはどうっすか?」

 他、とシグルズは真面目な顔で俺を見据える。


「シグルズも何を真面目に考えて……」
「アオバに好きだと言われて、ずっと疎ましかったこの瞳が好きになれた。私を恐れずに接してくれて、感謝している」
「っ、そ、そっか」
「後は、そうだな……。これが恋というものか」
「はっ?」
「ジンジャーに言われて気付いた。私は君が好きなようだ」
「待て待て、ちょろすぎだろっ」

 好きなようだ、じゃない。

「アオ様。恋に落ちるのは一瞬なんすよ!」
「きっかけ作んないで!?」
「後はアオ様が受け入れるだけっす!」
「俺、巨乳美女が好きって言ったよな?」
「シグルズ様も巨乳で美人じゃないっすか」
「大胸筋なっ?」
「ジンジャー。その辺りにしておけ」
「いや、あんたが元凶なんだけど」

 どの口が。そう思いつつも、きちんと助け船を出してくれるところはありがたい。

「後は私がやる」
「敵を前にした時みたいだな?」

 台詞もだけど、なんか顔が物騒だった。

「気付いたからには逃がしはしないが、今は神聖力の検証が先だな」
「物騒なのと冷静なの混ぜてこないで……」

 何なのこの男。


「どのような力も技術も、生み出すには媒体になる力が必要だ。無から有を生み出すことは出来ない」
「まじで普通に話し始めんのかよ」

 思わずツッコミを入れても、シグルズは真顔のまま。

「パキュロスも力が増すということは、粘液から得た力は、君の中で増幅するのかもしれないな」
「増幅?」
「いくら精力が漲ろうが、パキュロスに栄養があろうが、あれだけ激しい行為をすれば少なからず消耗しているはずだ」
「あー……なるほど。つまり俺は、神聖力の増幅器ってわけか。あ、それと貯蔵庫?」

 もう何だか面倒になり、激しい行為って言うな、と心の中だけでツッコミを入れた。

「増幅と蓄積……。それって、今までの聖者様よりすごいんじゃ……」

 ジンが唖然として呟く。
 確かに媒体になる力は少量で済み、そばに何もなくても神聖力を使えるのは、聖者の弱点を克服している。


「まぁ、攻撃は出来ないけどな」
「体力と傷の回復が出来るなら、君の代わりに戦う者を強化し続ければ良い」
「っすよね……。死なない軍隊が作れますよ」
「それは人道的にちょっと……」

 既に死んでるゾンビ軍団ならまだしも、生きている人間を傷つけ続けるのはあまりにも残酷だ。

「騎士は戦うのが使命だ。気にするな」
「アオ様はやっぱり慈悲深い最高の聖者様っすね」

 何でもないことのように言う二人に、ぐっと拳を握る。
 ここは異世界で、二人とも騎士だから。こうして一緒に旅をして笑い合ってても、二人は俺とは違って、命の遣り取りを当然として生きている。
 守る側と、守られる側。俺はいつか彼らの命を犠牲にして、生き残る日が来るのかもしれない。

「……神聖力とかあっても、あんたたちを守れないんじゃ意味ない」

 知らない世界に来て、聖者にされて、パキュロスに絡まれて、それでも笑っていられるのは、二人がいてくれたからだ。出来ればいつかは、騎士と聖者ではなく対等な友人になりたい。

「アオ様……」
「君は、私たちをそこまで……」
「えっ、俺なんか言ったっ?」

 心の声だったはずなのに。恥ずかしくなってじわじわと顔が熱くなる。


「シグルズ様っ、アオ様と両想いになれる日は近そうっすね!」
「それなら良いが、アオバは察する力が乏しく、理解も遅く、勘も悪いところがあるからな」
「あんた本当に俺のこと好きなのかよ?」

 全部鈍感で馬鹿ってことじゃん。

「好きだ」
「あっそ。てか今のとこ、ジンの方が好感度高いんだけど」
「何故だ……?」
「いや、何故って」

 これは本気でそう思っている顔だ。

「あー……、その話はまた今度な。とりあえず次パキュロスに会ったら、力がどんだけ蓄えられるか試してみるよ」
「え、アオ様……増幅されるなら、終わりがないんじゃ……」
「君は絶倫か」
「ほら、どう考えてもシグルズの好感度上がらなくない?」
「シグルズ様っ、口に出すのは一回考えてからにしましょうっ?」

 ジンが慌ててアドバイスし、シグルズは怪訝な顔をする。外見だけならシグルズの方が言いそうな言葉なのに、つい笑ってしまった。


「……君は、笑っている方がいい」
「お、おお……?」
「……君の体を心配している。絶倫なら良いが、そうでないなら無理をするな」
「っ、な、なんだ、あんた言葉が足りてないだけじゃん」

 絶倫か、だけで終わるから勘違いをするのだ。もしかして、今までもそうだったとか?

「そうか、私は言葉が足りなかったのか。それで良く喋るジンジャーの方が好感度が高いのか」
「ジンを睨むなよ~」
「……そうだな。彼よりも、君を見ていた方が心が安まる」
「んんっ……イケメンこえぇっ」

 考えて話すようになっただけで、こうも変わるものか。

「そうと分かれば……これからは言葉を増やし、君を確実に仕留めるとしよう」
「狩りかよっ」
「同じだろう? ……君は私の獲物だ」
「考えて話しても駄目じゃん!」

 叫ぶ俺に、シグルズは何故だと怪訝な顔をした。



◆◆◆



 暗い森の中に、夜鳥の鳴き声が響く。
 風が枝を揺らす音と、微かに聞こえるパチパチと火の弾ける音。
 森の開けた場所で、一つの人影が脚を止めた。

「頼んだよ」

 彼は腕に乗せた夜鳥の額にそっとキスをして、空へと腕を伸ばす。それを合図に、脚に細い管を付けた夜鳥は、空高く飛び立って行った。



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