アイドルですがピュアな恋をしています。~お付き合い始めました~

雪 いつき

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テレビを買ったので

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 番組が終わり、花楓かえではプツリとテレビの電源を切った。

「……隼音しゅん君」

 仕事だと分かっている。隼音のアイドルとしてのキャラだと言っていた。

 テレビに映る女性は皆、隼音を見て頬を染めていた。
 彼の人気が上がる事も、彼が誰かに夢を見せる事も、ときめかせる事も、全て良い事に決まっている。

 俺の恋人なのに、と思っても、花楓に出逢う前から隼音はアイドルだ。花楓の方が彼女たちから隼音を奪ったのだ。

「……かっこよかった、なぁ……」

 今まで通りの言葉を呟き、クッションを抱えてぽふりとソファに横になる。
 今までにも見た事のある光景。普段緩くて可愛い彼が格好良く頑張る姿を、ただ微笑ましく思っていた筈なのに。

 それなのに、格好良い彼の姿に、胸がざわざわする。嫌な靄が胸に広がり、深く息を吐きスマホを手に取った。


『番組、見たよ。隼音君かっこよかった』とだけ打って送信をした。すると、すぐに電話が掛かってくる。

「隼音君……?」
『花楓さん、すみません』
「え?」
『花楓さん、気にしてると思って電話しました』
「電話、大丈夫なの?」
『はい。今は家なので』

 あれは数日前に収録したものだ。今は家でマネージャーの車待ちだと言った。

 彼は、嫌な物を見せてだとか、仕事で仕方なくだとか、言わない。仕事にプライドを持っているそんな彼が、好きだと思った。
 それと同時に、自分の心の狭さが嫌になる。

「……ごめんね。ちょっと、嫉妬しちゃった」

 出来るだけ明るい声を出した。

「隼音君、すごいねぇ。映ってる人みんなキャーキャー言ってたよ」

 以前のように、かっこよかったよ、と明るい声で告げる。きっと彼は、そんな花楓を好きと思ってくれているのだから。


「隼音君は、本当にいつも一生懸命で、俺も頑張らないとって……」
『花楓さん』
「うん。どうしたの?」
『無理しないでください。花楓さんは俺の恋人なんですから、ワガママでも何でも言ってくれていいんですよ』

 無理なんて、と言い、そこで言葉を切った。
 ここで繕っても、それこそ隼音に気にさせてしまうだろう。それに、恋人だからと言ってくれた事が、嬉しかった。

「……隼音君」
『はい、花楓さん』
「今度会ったら、いっぱいぎゅってしてね……?」

 仕事をしている彼はみんなのものだから、二人きりの時間だけは、いっぱい触れ合っていたい。
 嫉妬をするより、彼を好きな気持ちでいっぱいになっていたい。

『……花楓さん、可愛すぎです。好きです。会いたい』

 会いたい。吐息と共に零れた声に、胸がぎゅっと締め付けられる心地がした。

「俺も、だよ」

 会いたいよ。
 大好きだよ。

 会えない分、想いを伝える。電話越しに、隼音が息を呑む気配が伝わった。


『あのシーン、今度、花楓さんにもしますね』
「え……?」
『すみません。マネージャーが来たみたいなので……』
「あっ、うん、お仕事頑張ってね」
『ありがとうございます!』

 チュッ、と電話口から音が聞こえて、通話が切れた。

「……今のって?」

 キス……?
 アイドル、って、こういう……?

 あまりに自然で、花楓は目を瞬かせた。
 アイドルがみんな気障な事が似合うのか、隼音が似合うのか。他のアイドルを知らない花楓はまたぽふりとソファに沈んだ。

「……あの、シーン……」

 壁際に追い詰められるのなら、何度かされた。まだ恋人になる前だけれど。
 先程見た隼音を思い出し、じわりと頬が熱くなる。だがそこでフルフルと首を振った。

 きっと、花楓が気にしているから言ってくれただけで、深い意味はない。彼は優しいから。

 ふう、と熱い息を吐き、恋って大変だなあと呟き目を閉じた。


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