アイドルですがピュアな恋をしています。~お付き合い始めました~

雪 いつき

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お説教

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 それは、花楓かえでを紹介しに、大地だいちを店に連れて行った翌週の事。

隼音しゅん、馬鹿なの?」

 D-BlinKのリーダー、HINA、ことひなは、隼音の話を聞いて、そんな第一声を放った。


「毎週ケーキ? 馬鹿なの?」

 二回言った。しかもそこか。

「その点に関してはごめんなさい」

 素直に謝る隼音に、雛は溜め息を吐いた。

「確かに隼音は、芸能人として良くやってると思うよ? スキャンダルのネタをばらまいて本当か嘘か分からなくするなんて、隼音だからこそ出来る事だと思うし」

 そこは認めている。だが。

「でも、今度の相手は一般人で、しかも同性でしょ? 今までとは明らかに違うじゃない」
「ごもっともです」
「それに、その顔」
「顔?」
「自覚ないの?」

 呆れたように、また溜め息を吐かれた。

「花楓さんって人の事を話す時だけ、顔が優しいんだよ」
「それは、……仕方ないです。大好きなので」
「馬鹿なの?」

 三度目が来た。そばで見守っていてくれる大地も、馬鹿、と頭を抱える。


「今の隼音は、今までと違う。その原因を探られてスキャンダルになれば、どうなるか分かるよね?」
「みんなにも花楓さんにも迷惑はかけないから」
「そう言い切る根拠は?」
「出来るから」

 雛は、呆れた顔をした。

「今の状況は、隼音が嫌いな“不利益になること”だよ。到底認めることは出来ない」

 雛の答えは出た。雛の言う事は正論で、予想通りだった。だがここで折れる訳にはいかない。

「……初めてだったんだ。俺と、初対面から自然に接してくれた人」

 他の人ほどではないが、大地や雛すら最初は隼音のギャップに驚き距離を測りかねていた。

「最初は、客だからだと思ってた。プロ意識の高い人だなって。でも花楓さんを見ているうちに、本当に俺の内面を見てくれてるんだって気付いて……引き返せないくらい、好きになってた」

 恋だと気付いた日の事を思い出す。
 ストンと腑に落ちて、絶望にも似た感情が襲って、でも、胸が暖かくなった。好きだなあと、幸せな気持ちになったのだ。


「それで、隼音はどうしたいの? 告白するつもりなの?」

 雛の問いに、緩く首を横に振る。

「好きでいるだけで、幸せだから」
「隼音。それは恋じゃなくて、ただの」
「違う。……恋なんだ。恋、だった。気付いた時はもう手遅れだったんだ」

 この想いが叶っても、叶わなくても、それで良い。

「花楓さんの笑顔を見ていたい。花楓さんが笑いかけてくれるだけで、幸せなんだ」
「……一年後、まだ同じことを言えるなら」
「言える。一年後も、十年後も、俺はずっと、花楓さんのことが好きだ」

 真っ直ぐに雛を見据える、光に透かした紫水晶のような瞳。
 じっと睨み合い、その奥の強い想いに、雛は深く息を吐いた。



「はー……怒るのって疲れるんだよね……」  

 プシューと風船の空気が抜けるように項垂れた。
 先程までの緊迫した空気はもうない。

「雛、お疲れ」
「ありがと、大」

 渡されたペットボトルを開け、水を喉に流し込む。

「隼音が本気だってことは良く分かったよ。不純な動機じゃないこともね」

 不純どころか、今までの隼音にない純粋な想いを抱えていた。
 認めるつもりはなかった。何を言われても反対するつもりだった。だが隼音の気持ちは、雛が想像する以上のものだったのだ。

 隼音はまだ若い。気の迷いだと思っていたのだが……。

 まだ付き合ってもいないうちからこんなに重い気持ちを抱えて、隼音の方が傷付くに決まっている。
 同性同士で、一般人で、相手が隼音と同じ想いの強さで好きになってくれる確率はどれだけあるだろう。
 今度は隼音の為に諦めさせたい気持ちが沸き起こるが、隼音は笑って“ありがとう”と言うのだろう。


「スキャンダルにならないように、僕も協力する。大もだよね?」
「ああ」
「もしそうなって活動休止になっても、僕は隼音が帰ってくるまで待つよ」
「雛……」
「まあ、俺も。お前がいないと堅苦しいユニットになるしな」
「大……」

 隼音の瞳がじわりと滲む。

「それから、花楓さんとお店には損害賠償と移転費用を含む諸経費とその他のバックアップを今から検討して、それから」
「雛、雛、さすがにまだ早いから」
「いつ何が起こるか分からないでしょ?」
「起こさないようにするから」
「甘いよ」

 ピシャリと言い切られ、隼音は口を噤んだ。
 雛は基本的に言葉は丁寧だが、正論と威圧感でじわじわと精神を削ってくる。ここはあまり刺激しないのが一番だ。
 じっと黙り込んでいると。


「でも、隼音が一目惚れするほどの人かぁ。会ってみたいなぁ」

 ふにゃ、と口調が緩んだ。最近ではあまり見る事はないが、普段の雛は穏やかで可愛い性格だった。

「あ、でも隼音。まだお話がありました」
「えっ、まだ?」
「何かな?」
「ナンデモナイデス」

 そしてこの後、改めてアイドルとしての自覚から万が一の対処法まで、クドクドと説教をされたのだった。


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