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嵐が去って
しおりを挟む「雛さん、可愛いのにしっかりした人だね」
隼音や大地としては雛に子供扱いされ恥ずかしかったり、隼音としては花楓を不安にさせていないか心配していたのだが、花楓は気にしていないようだ。
「プリンが好きなのかあ。ふふ、可愛い」
不安どころか雛に好感を持っている。隼音と大地はホッと胸を撫で下ろした。
「雛は仕事仲間には隠したがるんですけどね。見た目も可愛いので舐められるからって」
「そうなんだ、大変だね……」
花楓には想像出来ない世界だ。きっと思う以上につらい事もあるのだろう。今度会う時にはいっぱいプリンを作ろうと決めた。
「イメージはプリンよりレモンケーキって感じですけどね」
「甘さと酸っぱさの辺りがな。後、色合い」
「うん。色合い似てる」
花楓は目を瞬かせる。普段優しい良い子の二人が、雛には何となく辛辣だ。
「あ、すみません。雛とは結構本気で言い合うこともあるので、お互いちょっと扱いが雑なんです」
「雑、なの?」
「雑ですね。言いたい事は遠慮なく言い合ってみんなで良い物を作っていこう、って決めてて。お互いを気遣ったりもするんですけど、基本は雑です」
お説教時には雛が優位に立つが、それ以外は対等な関係として遠慮なく言い合っている。
「……いいなあ」
「え?」
「俺のことも、雑に扱って欲しいな」
「ンッ……」
「隼音、そういう意味じゃない」
「……ありがと、大……」
妄想にストップを掛けてくれて。ふう、と息を吐く隼音に、花楓だけが首を傾げていた。
そこでガチャリと扉が開き、鷹尾が戻って来た。さっきの話、聞かれてなくて良かった。いや、何もやましい話ではなかったけれど。
四人で少し話し込み、時間前に席を立つ。丁度昼時だった。
「花楓、何か食べて帰るか」
「そうですね」
「えっ、俺も……!」
「こら、お前は仕事だ」
「えっ……うっ……分裂したい……」
めそ、と顔を覆う。最近仕事が詰まっていて電話も出来ていなかったのに。
これはちょっと、可哀想かもしれない。鷹尾が花楓に目配せをした。すると花楓はコクリと頷く。
「隼音君。今度一緒にお出かけしようね?」
花楓の気遣いに、隼音はパッと笑顔を見せた。
「はい! 遊園地行きましょう!」
「うーん、遊園地はちょっと目立つかな?」
「大丈夫です、完璧に変装して行きますし。男同士で遊園地って流行ってるんですよ!」
「そうなの?」
「彼女と遊園地~ってネタで、男同士、お互いの写真を付けてSNSに呟くんです。前に営業で行きましたけど、園内でも結構見かけました」
その情報に、鷹尾が呆れた顔をする。
「自虐的だな」
「まあ、男同士の方が気兼ねなく遊べるってのもありますから」
大地の補足に、なるほどと納得した顔を見せた。
「ねえ、隼音君。行ってみたいお化け屋敷があるんだけど……」
「あ、分かりました。日本一怖いという、あそこですね」
「うん、多分そこかな?」
ゾンビがリアルと評判の洋物と、井戸の脇から病室を抜ける和物があるところだ。
ワクワクとした顔をする花楓に、少し純粋に育て過ぎたかもしれない、と鷹尾は父親心を発揮した。
だが二人で嬉しそうに予定を立てている姿に、お似合いだな、と思ってしまう。大地だけが“子供か”という顔をしていた。
隼音と大地は退室手続きがあるとの事で、花楓と鷹尾が先に部屋を出た。
「兄さん。ご飯の後、少し買い物して帰りませんか?」
「そうだな。何処か行きたい店はあるか?」
「んー、本屋さんくらいですけど、このまま帰るのも勿体ないかなと」
「こんなにゆっくり出掛けるのも久しぶりだよな。花楓の服でも見に行くか」
「じゃあ俺は兄さんに似合いそうな服選びますね」
隼音が見ていれば“デートです!?”と割って入りそうな雰囲気。そんな様子で、二人は穏やかな休日を満喫したのだった。
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