アイドルですがピュアな恋をしています。~お付き合い始めました~

雪 いつき

文字の大きさ
14 / 26

四月初旬

しおりを挟む

 隼音しゅんは今も店を訪れる度にケーキを買っている。ごちそうするのに、と花楓かえでは言うが、それは駄目ですと隼音は断っていた。
 花楓に合法的に貢げる機会だ。それに、美味しい物への対価はきちんと支払わせて欲しい。

 今日は仕事の合間に訪れた。この後は大地だいちひなの三人でミーティングがある。


「花楓さん、一番左のケーキ下さい。それと、ノアールのショートケーキとコーヒーゼリーと……あ、この可愛い蝋燭もお願いします」

 数字の一と二を取り、レジテーブルの上に置く。
 四号サイズのホールのショートケーキ。花楓は目を瞬かせた。一と二と言うことは、二十一歳?

「お友達さんにかな? プレートにお名前は?」
「えっと、可愛めの平仮名で、しゅんくんでお願いします」
「平仮名で、しゅんく……、……しゅんくん?」
「はい」
「えっ、隼音君、お誕生日なの!?」
「はい。実は週末です」

 気付かれなければそのまま同じ名前の友人の誕生日と言おうと思っていたのだが、特に隠す気もない為肯定する。


「週末っ? 言ってくれたら隼音君用に作ったのに……」
「ありがとうございます。でも俺、このホールケーキ見る度にずっと食べたいなーと思ってたんです」

 さすがに何でもない日に一人でホールを食べる訳にはいかない。雛が鬼の形相で地獄のレッスンスケジュールを組みそうだから。

「俺用のケーキは、来年のお楽しみにさせてください」

 自然に来年の話をする隼音に、花楓は胸がキュッとなった。隼音は来年も恋人でいる事を、当然のように思ってくれる。

「隼音君……。でも、せめてプレゼント用意したかったよ……」
「誕生日プレゼントに、遊園地デートさせて貰いますから」

 そう。ついこの間遊園地デートを提案したのは、そういう意図があったのだ。
 誕生日当日の日曜はファンクラブ限定のバースデーライブがある。
 遊園地デートは、その翌日。
 体がつらくないかと訊かれたが、ライブと言ってもドーム程の規模はないし、夕方からの二時間ちょっとだ。本気でパフォーマンスをする気だが、帰って寝れば充分回復出来る。
 何でもない事のように言う隼音に、若さだなあ……と花楓はふいに歳の差を感じた。



 一度裏へと戻った花楓は、プレートに可愛らしく“しゅんくん”と書き戻って来た。バースデーライブでは今年もスタイリッシュな文字で“SYUNN”と書かれているだろうから、プライベートでは可愛いのが欲しかった。隼音は花楓の可愛らしい文字に頬を緩めた。

「ねえ、隼音君。誕生日プレゼントが、お化け屋敷になっちゃうんだけど……」

 さすがにそれは申し訳ない。誕生日と知っていたら隼音の好きなところへ行ったのに。

「斬新でいいじゃないですか。あ、じゃあ、キャラメルチュロス買ってください」

 あの遊園地の限定味だ。

「キャラメルチュロスも買ってあげるけど、もっと、ちゃんとプレゼントしたかったよ?」

 もうっ、と怒る顔も可愛いです。隼音は喉まで出かけた言葉を呑み込んだ。

「それは来年のお楽しみにしますね」
「う、ん……。でも、恋人になって初めての誕生日なのに……」

 しゅん、と眉を下げる。せめて隼音用のケーキくらいはプレゼントしたかった。


「あ、じゃあ、恋人らしいプレゼントおねだりしてもいいですか?」
「うん、勿論だよ!」
「ありがとうございます。当日、花楓さんからのキスが欲しいです」

 ハートマークが飛びそうな顔で隼音は笑う。え、と花楓は一瞬固まり、頬を染めた。

「俺が一番欲しいのは、花楓さんですから」
「う、……うん、……うーん……」
「照れてる花楓さん、可愛くて好きです」
「うっ……あり、がとう……?」
「どういたしまして。あ、お客さん来る前に帰りますね」

 店の前に人通りが多くなってきた。隼音は伊達眼鏡を掛け帽子を被り、ケーキの入った紙袋を受け取った。

「遊園地デート、楽しみにしてます」
「うん。俺も楽しみにしてるね」

 隼音を見送り、花楓はふうと息を吐く。
 デート、キス、と改めて言葉にされると何だか恥ずかしい。そういえば、花楓からは唇へのキスをした事がない気がする。
 だがやはり改めて考えると、顔が熱くなってしまった。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

楽な片恋

藍川 東
BL
 蓮見早良(はすみ さわら)は恋をしていた。  ひとつ下の幼馴染、片桐優一朗(かたぎり ゆういちろう)に。  それは一方的で、実ることを望んでいないがゆえに、『楽な片恋』のはずだった……  早良と優一朗は、母親同士が親友ということもあり、幼馴染として育った。  ひとつ年上ということは、高校生までならばアドバンテージになる。  平々凡々な自分でも、年上の幼馴染、ということですべてに優秀な優一朗に対して兄貴ぶった優しさで接することができる。  高校三年生になった早良は、今年が最後になる『年上の幼馴染』としての立ち位置をかみしめて、その後は手の届かない存在になるであろう優一朗を、遠くから片恋していくつもりだった。  優一朗のひとことさえなければ…………

完結|好きから一番遠いはずだった

七角@書籍化進行中!
BL
大学生の石田陽は、石ころみたいな自分に自信がない。酒の力を借りて恋愛のきっかけをつかもうと意気込む。 しかしサークル歴代最高イケメン・星川叶斗が邪魔してくる。恋愛なんて簡単そうなこの後輩、ずるいし、好きじゃない。 なのにあれこれ世話を焼かれる。いや利用されてるだけだ。恋愛相手として最も遠い後輩に、勘違いしない。 …はずだった。

将軍の宝玉

なか
BL
国内外に怖れられる将軍が、いよいよ結婚するらしい。 強面の不器用将軍と箱入り息子の結婚生活のはじまり。 一部修正再アップになります

兄貴同士でキスしたら、何か問題でも?

perari
BL
挑戦として、イヤホンをつけたまま、相手の口の動きだけで会話を理解し、電話に答える――そんな遊びをしていた時のことだ。 その最中、俺の親友である理光が、なぜか俺の彼女に電話をかけた。 彼は俺のすぐそばに身を寄せ、薄い唇をわずかに結び、ひと言つぶやいた。 ……その瞬間、俺の頭は真っ白になった。 口の動きで読み取った言葉は、間違いなくこうだった。 ――「光希、俺はお前が好きだ。」 次の瞬間、電話の向こう側で彼女の怒りが炸裂したのだ。

まさか「好き」とは思うまい

和泉臨音
BL
仕事に忙殺され思考を停止した俺の心は何故かコンビニ店員の悪態に癒やされてしまった。彼が接客してくれる一時のおかげで激務を乗り切ることもできて、なんだかんだと気づけばお付き合いすることになり…… 態度の悪いコンビニ店員大学生(ツンギレ)×お人好しのリーマン(マイペース)の牛歩な恋の物語 *2023/11/01 本編(全44話)完結しました。以降は番外編を投稿予定です。

アイドルですがピュアな恋をしています。

雪 いつき
BL
人気アイドルユニットに所属する見た目はクールな隼音(しゅん)は、たまたま入ったケーキ屋のパティシエ、花楓(かえで)に恋をしてしまった。 気のせいかも、と通い続けること数ヶ月。やはりこれは恋だった。 見た目はクール、中身はフレンドリーな隼音は、持ち前の緩さで花楓との距離を縮めていく。じわりじわりと周囲を巻き込みながら。 二十歳イケメンアイドル×年上パティシエのピュアな恋のお話。

死に戻り騎士は、今こそ駆け落ち王子を護ります!

時雨
BL
「駆け落ちの供をしてほしい」 すべては真面目な王子エリアスの、この一言から始まった。 王子に”国を捨てても一緒になりたい人がいる”と打ち明けられた、護衛騎士ランベルト。 発表されたばかりの公爵家令嬢との婚約はなんだったのか!?混乱する騎士の気持ちなど関係ない。 国境へ向かう二人を追う影……騎士ランベルトは追手の剣に倒れた。 後悔と共に途切れた騎士の意識は、死亡した時から三年も前の騎士団の寮で目覚める。 ――二人に追手を放った犯人は、一体誰だったのか? 容疑者が浮かんでは消える。そもそも犯人が三年先まで何もしてこない保証はない。 怪しいのは、王位を争う第一王子?裏切られた公爵令嬢?…正体不明の駆け落ち相手? 今度こそ王子エリアスを護るため、過去の記憶よりも積極的に王子に関わるランベルト。 急に距離を縮める騎士を、はじめは警戒するエリアス。ランベルトの昔と変わらぬ態度に、徐々にその警戒も解けていって…? 過去にない行動で変わっていく事象。動き出す影。 ランベルトは今度こそエリアスを護りきれるのか!? 負けず嫌いで頑固で堅実、第二王子(年下) × 面倒見の良い、気の長い一途騎士(年上)のお話です。 ------------------------------------------------------------------- 主人公は頑な、王子も頑固なので、ゆるい気持ちで見守っていただけると幸いです。

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】

彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』 高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。 その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。 そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?

処理中です...