アイドルですがピュアな恋をしています。~お付き合い始めました~

雪 いつき

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隼音の部屋で

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 あれから数回、隼音しゅんの出演する生放送番組を見た。
 歌番組では今まで以上に歌もダンスもキレがあり生き生きして見えた。トーク番組では印象に残る返しをして、あれからもっと練習頑張ったんだろうなあ、と花楓かえでは三人の姿を見つめ頬を緩めた。

 そしてふと、気付く。
 普段は緩くて可愛い隼音は、テレビの中ではクールさを残しているし、とても綺麗に笑う。実は思っている以上に大人っぽくて格好良いのでは? と花楓はジッと画面の中の隼音を見つめた。
 それは、今更でもあるし……。

「……どうして今、気付いちゃったかな」

 画面の中のキラキラした恋人から視線を反らし、ズルズルとソファに沈んだ。



 数日後、隼音の家を訪れる日が来た。
 初めての隼音の家。完全に二人きり。改めてそう考えると妙に緊張してしまい、格好良さに気付いた花楓はまともに隼音の顔を見られずに、後部座席で良かったと胸を撫で下ろしていた。

 事前に聞いていた通り、花楓はさも自宅だと言わんばかりに隼音の部屋へと向かった。
 エレベーターに乗り、エレベーターホールから部屋へと続く扉の鍵を開ける。さすがお金持ちのマンション。セキュリティは万全だ。

 内心ではハラハラしながらカードキーを翳し、玄関の扉を開けて中に入る。オートロックが掛かるところもさすがだ。
 だが、入って良いと言われたが家主不在で奥まで入るのはやはり悪い気がして、玄関先の廊下で隼音を待っていた。

 しばらくして、玄関の扉を開けた隼音は一瞬ピタリと脚を止めたが、自然な動作で閉める。隼音を驚かせて申し訳ない気持ちになり、花楓は咄嗟に口を開いた。


「えっと、おかえりなさい、隼音君」
「ンッ、……ただいまです、花楓さん」

(新婚さんみたい!!)

 隼音は心の中で叫んだ。
 もう、本当にこの人は……世界一可愛い。食べちゃいたい。無理。どうしよう。不甲斐なさが欲に負けそう。

 自分の部屋に好きな人が居て二人きりの状況。我慢出来るか? と今更ながら頭を抱えるが、花楓を傷付けたくない気持ちの方がまさった。

「隼音君、大丈夫?」
「大丈夫です、すみません。中へどうぞ」

 思わず顔を覆い座り込んでしまった隼音は、スッと立ち上がり花楓に笑顔を見せた。



「わ……。隼音君は、部屋までオシャレだね」
「ありがとうございます。花楓さんにそう言って貰えるように頑張って片付けました」

 隼音はそう言うが、元々お洒落で綺麗な部屋に違いない。
 リビングはモノトーンで纏められていた。白い壁に黒の革張りのソファ。そこには紫、青、黄色のクッションが並んでいた。D-BlinKの通販限定グッズだと言うそれは、良く見ると端にメンバーそれぞれの名前が銀の糸で刺繍されている。ひとつあるだけで部屋が高級感溢れて見える、そんなグッズだった。

 お洒落だね、と目をキラキラさせる花楓に、ありがとうございますと言う隼音は、既に予備のクッションを帰りに渡す準備をしていた。
 好きな人の部屋に自分色のクッション。最高かな? 昨日準備をしながらにやけていた事は内緒だ。

 テレビも大型、壁にはお洒落な絵や、額に入れられたポスターが飾られていた。
 デビューシングル発売告知のポスターは扉付近に飾られ、毎日これを見て初心に帰り仕事に出ているらしい。人気が出ても傲らず努力を続ける隼音が、格好良いと思った。


 隼音は花楓をソファに座らせ、今日は俺がします、と言って嬉しそうに紅茶を淹れ、花楓が持参したケーキを皿に乗せた。
 緊張気味にキョロキョロしている花楓を見て、可愛いなと頬を緩めながら。

 ケーキに合うアールグレイの紅茶は隼音お気に入りの店の物で、ふわりとした柔らかなベルガモットの香りと澄んだ味がした。
 あまりに美味しくて感動する花楓に、今度一緒に買いに行きましょう、と隼音は笑顔を見せたのだが。

「花楓さん。どうして俺の目を見てくれないんですか?」
「え?」
「心配しないでください。何もしませんから」

 今日殆んど視線を合わせてくれない花楓に、隼音は困ったように笑った。初めての完全な二人きり。緊張や警戒をして当然だと思うのだが、やはり少し寂しかった。
 すると花楓はブンブンと首を横に振った。

「ごめん、違うんだ。今回は、別の理由で……」

 今更なんだけどね、と前置きをする。

「この前の生放送見てて気付いたんだけど、隼音君って、とってもかっこいいんだなって……。そしたら心臓がドキドキして、ちょっと、顔が見られなくなって、ですね」

 急に敬語になり、視線を落とし組んだ指を忙しなく動かす。そんな理由で隼音に寂しそうな顔をさせてしまい、ごめんね、ともう一度謝った。

 花楓に格好良い認識をして貰えた隼音は、感激のあまり一周回って真顔になる。漸く恋人として、男として、意識して貰えた。こちらも今更だがそう思ったのだ。


「隼音君っ……?」

 言葉を返すより先に体が動いた。ぎゅうっと腕いっぱいに抱き締め、スリ、と頬を擦り寄せる。

「デートした日に言った通りなんですけど、今日は花楓さんのこと、たくさん抱き締めさせて貰いますね」

 たくさん触れて、たくさん抱き締めたい。
 ただ触れ合うだけで、こんなにも幸せな気持ちになれるのだから。

「うん……。えっと、俺も……」

 花楓も隼音の背に腕を回し、ぎゅうっと抱き返した。この体勢なら顔は見えない。と思ったのだが、これはこれで心臓がドキドキして、伝わってしまうのが恥ずかしくなった。
 もぞ、と思わず身動ぎすると、隼音は花楓の背をそっと撫でる。

「ドキドキしてくれて、嬉しいです」

 心音を確かめるように触れる手のひら。

「俺の方がすごいことになってますけど」

 かっこつかなくてすみません、と隼音はそう言って小さく笑った。


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