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隼音の部屋で2
しおりを挟む思えば、隼音はいつも花楓の気持ちを汲んでくれる。自分を格好良く見せる事より、花楓の気持ちを優先させて。
まだ二十歳を過ぎたばかりだというのに、こんなにも人の気持ちに敏感で気遣いが出来て、何でもスマートにこなしてしまう。彼は本当に、ずっと格好良かったのだ。
それでも、いつも落ち着いていると思っていた隼音からは速い鼓動が伝わって来て、一緒なんだ、と愛しさが込み上げた。
「隼音君もドキドキしてくれてるんだね。ふふ、嬉しいなあ」
肩口に頬を擦り寄せる。もっと隼音の熱に触れたくて、背に回した腕に力を込めた。
「花楓さん」
そっと離された体。間近で見つめられ、ゆっくりと顔が近付いて、優しく唇が触れた。
「ん……」
「……は、……花楓さん」
軽く触れ合うだけのキス。唇に熱い吐息が触れる。
「もう少し、だけ」
今度は強く押し付けられ、角度を変え何度も触れたところで、ふいに熱く濡れた感触が唇に触れた。
「隼音く、っ……」
思わず声を上げると、また熱いものが唇を舐める。だがそれ以上はなく、唇は離された。
「っ……」
離れた唇が首筋に触れ、チクリとした痛みが走る。そのまま鎖骨へ、胸元へと、同じ痛みが走った。
視線を落とせば肌に残る鬱血痕。長い指がするりとシャツのボタンを外し、もうひとつ、心臓の上に痕が残された。
「隼音、くんっ……」
さらりとした髪に指を絡め、たまらずに胸元へと抱き込む。すると隼音はハッとして、弾かれたように花楓から離れた。
「っ……! すみませんっ……!」
隼音は顔を青くし、震える手で口元を覆い深く頭を下げた。
何もしません、心配しないで、と言ったばかりなのに、約束を破ってしまった。大切に想って来たのに。想ってくれていたのに。その気持ちを、裏切ってしまった。
顔を上げるのも怖くて、頭を下げたままで言葉を探す。
「あの、俺……」
「謝らないで」
震える声を遮り、花楓はそう言って隼音を抱き締めた。ビクリと震える背を宥めるように撫でる。
「俺も、その……、ちゃんとそのつもりで、隼音君とお付き合いしてるから……」
キスのその先がある事を、ちゃんと分かっている。
いつも可愛いと言ってくれる隼音も、男の体を前にすればその気もなくなるのではと思っていた。だがそうではないと分かり、花楓は驚きはしたのだが、安堵していた。
「花楓さん……」
「今すぐはまだ、心の準備が出来ないけど……抱いて欲しいって、思ってるよ」
我慢させてばかりでごめんね、と謝る花楓を、隼音はぎゅうっと抱き締めた。
「……抱く側じゃなくて、いいんですか?」
「それも考えたけど、隼音君はそっち側がしたいのかなって。……それと、俺、出来れば隼音君にいっぱい触って貰いたいから……」
「……花楓さん。抱きたい」
隼音は花楓の肩にぐりぐりと額を押し付け、悶えた。抱きたい。いっぱい、触れたい。
「でも、大丈夫です。すみません。今度こそ、ちゃんと待てます」
「うん。ごめんね」
「謝らないでください。こういうのは、二人で一緒にすることですから。……と、先走った俺が言うのも何ですが」
眉を下げる隼音を、花楓はよしよしと撫でた。
花楓の白い肌に散った無数の赤い華。自分で付けておきながら、目の毒だとそっとボタンを留めた。
その上から花楓は肌に触れ、チラリと隼音を見上げる。
「……隼音君。お仕事で、胸元開いた服って着る?」
一瞬動きを止めた隼音だが、花楓の意図を察した途端にンッと悶えた。そして直近の予定を思い出す。
「ここなら大丈夫です」
広く開いたサマーニットの首元を引っ張り、左側の胸元を指差す。
晒された肌を、花楓はジッと見つめた。思っていたよりずっと筋肉が付いている。まだ年齢的に線は細い方だが男らしい体躯に、緊張しながらそっと触れた。
そして隼音がしたように唇を寄せ、心臓の上にひとつ、痕を付けた。
赤く、濃く付いた小さな痕。隼音はその痕を愛しげに指先で撫でる。
「俺、花楓さんのものですね」
蕩けそうな笑顔を浮かべ、そっと目を細めた。
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