アイドルですがピュアな恋をしています。~お付き合い始めました~

雪 いつき

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隼音の部屋で3

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 恋人の隼音しゅん君は俺だけのもの。そんな可愛い事を言って隼音の頭を胸元に抱き込む。新しい照れ隠しだ。隼音はにやけてしまう。
 つい、目の前に晒された鎖骨の上にまた吸い付いてしまった。

 ピクリと反応したものの無言の花楓かえでに、少し不安になりそっと視線を上げると。

「俺はもっと、隼音君のものだね」

 花楓は一瞬驚いた顔をしながらも、ふふ、と艶やかに微笑んだ。

「花楓さん、綺麗です」
「えっ、あ、ありがとう……」

 隼音の口からは、率直な想いが零れた。

 今まで可愛いとしか言わなかったのに、突然の事に花楓は目を瞬かせながら頬を赤くする。
 花楓としては自分を綺麗や可愛いとは思っていないが、褒めてくれた彼の気持ちを否定するのも悪い気がしてこうしてお礼を告げる。すると隼音は嬉しそうに笑うから、やはりそれで良かったと思うのだ。


 隼音はふと何かを思案する。そして花楓の肩を押しソファの背に軽く押し付け、覆い被さるように腕を付いた。

「花楓さん。俺に、……抱かれてくれますか?」
「っ……、はい」

 心臓がギュッとなった。これは、あのドラマの再現だ。今度します、と電話で言われたものの結局何だかんだでタイミングを逃してしまっていた。壁際に追い詰めるシーンは、こうしてソファで優しいアレンジになって再現された。

「ううっ、本当に、はい! って言わない人いないよね」

 今すぐにでも! と言いたくなる。
 だが、男同士は色々と準備が必要な事もきちんと調べて知っていた。
 ずっと恋愛をして来なかった花楓は、ここ最近『キス 種類』『男同士 交際』『男同士 行為 準備』諸々、検索を掛けては少しずつ勉強をしていたのだ。……あまりに恥ずかしくて、本当に少しずつだが。

 顔を赤くする花楓に隼音は、可愛い、と言う。“はい”と返事を貰えた事で上機嫌だ。


「今までの花楓さんは言ってくれなかったと思いますけどね」

 そっと目を細め、優しく花楓の頬に触れた。

「え? そうかな?」
「またいつものいじわるだ、って拗ねていたと思います」

 クスリと笑われ、反論しようとするが思い当たる節がある。

「だって、隼音君いじわるばっかりするから」
「花楓さんが可愛くて、つい」
「いじめっこだ」

 頬を膨らませ、両手でぺちっと隼音の頬を挟んだ。そしてそのままナデナデと撫でる。

「え、なんですかそれ、また可愛いことを」
「こらっ、て怒りたいけど、怒りきれなくてつい」
「なんですかそれ、可愛い」
「もう。隼音君は俺に甘いよね」

 クスリと笑い頬から手を離し、少し迷って花楓は隼音の手を取り指を絡めた。


「隼音君は、外で恋人らしいこと出来なくても平気?」

 それは、デートの時に抱いた不安。何気なさを装って問う花楓だが、隼音にはその不安が分かっていた。

「花楓さんといられるだけで幸せですから」

 そう言い切って、繋いだ手のまま親指で優しく花楓の指を撫でる。

「手を繋いで歩けたらそれは嬉しいですけど、……花楓さんが不安に思ってるのと同じ理由で、俺も不安なんですよ?」

 同じ理由。花楓は目を瞬かせた。

「俺が女だったらとかアイドルじゃなかったらとか、思ったりしますよ。でも俺は今の俺が気に入っていますし、花楓さんが好きになってくれた俺を、これからも好きでいて貰いたいです」

 どちらかを選ぶ事も出来ないし、今の自分を好きになってくれた花楓の気持ちを、大切にしたい。


「でも、いつまで好きでいてくれるかなって不安になったりもします」

 隼音はそう言って視線を落とした。
 思いもしない事だった。彼は、いつも堂々としているのに。

「ずっと好きだよ?」
「ありがとうございます」

 そっと目を細め、花楓の頬にキスをした。

「でも、長く付き合っていくうちに不安とか、不満とか、やっぱり出てくると思うんです。花楓さんとはそんな時に溜め込まずにきちんと話し合って解決出来る、そんな関係になりたいです」

 この先の事を語る隼音に、花楓はますます驚いた顔を見せた。


「隼音君は大人だね……。俺、年上なのに情けないな」
「花楓さんは包容力がありますから。俺、いつも救われてるんですよ?」

 会えない時期が長くても不満も言わず、会えた時にはとても嬉しそうに笑ってくれる。
 仕事だから仕方ない、ではなく、頑張ってねと背中を押してくれる。頑張った分だけ褒めてくれる。
 全てを受け入れてくれる包容力と余裕にいつも救われているのだ。それと同時に、年の差を感じ焦ったりもして。

「隼音君、本当に大人だね」

 だが花楓にはそんな焦りは気付かれていないようだった。
 緩くて可愛いとばかり思っていたのに。ふいに、花楓は子の成長を見守る親の気分になった。


「そう思って貰えるなら、それは、花楓さんに出逢えたからですね」
「そう、なの?」
「花楓さんにちゃんと恋人だと思って貰えるように、頼って貰えるように、花楓さんを守れるようにって、いっぱい考えて、大人になれたんです。年齢だけはどう頑張っても追いつけないので、それ以外は頑張ろうって」
「隼音君……」

 落ち着いた姿だけを見せようとしても、まだまだ子供で、子供っぽい言動をすれば呆れてしまわないか、もっと大人で頼り甲斐のある人を選ばないか、不安になる時もある。
 逆に、今は可愛いと言ってくれても、年を重ねて“可愛い年下の隼音君”でなくなった時に、好きで居続けてくれるだろうかと。

 男同士で、アイドルで、街で見る幸せそうな恋人同士のような時間を与えてあげられない。それでも好きで居続けてくれるだろうかとやはり不安になる時もある……のだが。

「身長もまだまだ伸びる予定なので、これからの俺にも期待しててくださいね」

 隼音はそう言って笑った。
 不安はある。それでも、“隼音君を好きになって良かった”そう思って貰えるような人間でありたい。


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