24 / 26
隼音の部屋で3
しおりを挟む恋人の隼音君は俺だけのもの。そんな可愛い事を言って隼音の頭を胸元に抱き込む。新しい照れ隠しだ。隼音はにやけてしまう。
つい、目の前に晒された鎖骨の上にまた吸い付いてしまった。
ピクリと反応したものの無言の花楓に、少し不安になりそっと視線を上げると。
「俺はもっと、隼音君のものだね」
花楓は一瞬驚いた顔をしながらも、ふふ、と艶やかに微笑んだ。
「花楓さん、綺麗です」
「えっ、あ、ありがとう……」
隼音の口からは、率直な想いが零れた。
今まで可愛いとしか言わなかったのに、突然の事に花楓は目を瞬かせながら頬を赤くする。
花楓としては自分を綺麗や可愛いとは思っていないが、褒めてくれた彼の気持ちを否定するのも悪い気がしてこうしてお礼を告げる。すると隼音は嬉しそうに笑うから、やはりそれで良かったと思うのだ。
隼音はふと何かを思案する。そして花楓の肩を押しソファの背に軽く押し付け、覆い被さるように腕を付いた。
「花楓さん。俺に、……抱かれてくれますか?」
「っ……、はい」
心臓がギュッとなった。これは、あのドラマの再現だ。今度します、と電話で言われたものの結局何だかんだでタイミングを逃してしまっていた。壁際に追い詰めるシーンは、こうしてソファで優しいアレンジになって再現された。
「ううっ、本当に、はい! って言わない人いないよね」
今すぐにでも! と言いたくなる。
だが、男同士は色々と準備が必要な事もきちんと調べて知っていた。
ずっと恋愛をして来なかった花楓は、ここ最近『キス 種類』『男同士 交際』『男同士 行為 準備』諸々、検索を掛けては少しずつ勉強をしていたのだ。……あまりに恥ずかしくて、本当に少しずつだが。
顔を赤くする花楓に隼音は、可愛い、と言う。“はい”と返事を貰えた事で上機嫌だ。
「今までの花楓さんは言ってくれなかったと思いますけどね」
そっと目を細め、優しく花楓の頬に触れた。
「え? そうかな?」
「またいつものいじわるだ、って拗ねていたと思います」
クスリと笑われ、反論しようとするが思い当たる節がある。
「だって、隼音君いじわるばっかりするから」
「花楓さんが可愛くて、つい」
「いじめっこだ」
頬を膨らませ、両手でぺちっと隼音の頬を挟んだ。そしてそのままナデナデと撫でる。
「え、なんですかそれ、また可愛いことを」
「こらっ、て怒りたいけど、怒りきれなくてつい」
「なんですかそれ、可愛い」
「もう。隼音君は俺に甘いよね」
クスリと笑い頬から手を離し、少し迷って花楓は隼音の手を取り指を絡めた。
「隼音君は、外で恋人らしいこと出来なくても平気?」
それは、デートの時に抱いた不安。何気なさを装って問う花楓だが、隼音にはその不安が分かっていた。
「花楓さんといられるだけで幸せですから」
そう言い切って、繋いだ手のまま親指で優しく花楓の指を撫でる。
「手を繋いで歩けたらそれは嬉しいですけど、……花楓さんが不安に思ってるのと同じ理由で、俺も不安なんですよ?」
同じ理由。花楓は目を瞬かせた。
「俺が女だったらとかアイドルじゃなかったらとか、思ったりしますよ。でも俺は今の俺が気に入っていますし、花楓さんが好きになってくれた俺を、これからも好きでいて貰いたいです」
どちらかを選ぶ事も出来ないし、今の自分を好きになってくれた花楓の気持ちを、大切にしたい。
「でも、いつまで好きでいてくれるかなって不安になったりもします」
隼音はそう言って視線を落とした。
思いもしない事だった。彼は、いつも堂々としているのに。
「ずっと好きだよ?」
「ありがとうございます」
そっと目を細め、花楓の頬にキスをした。
「でも、長く付き合っていくうちに不安とか、不満とか、やっぱり出てくると思うんです。花楓さんとはそんな時に溜め込まずにきちんと話し合って解決出来る、そんな関係になりたいです」
この先の事を語る隼音に、花楓はますます驚いた顔を見せた。
「隼音君は大人だね……。俺、年上なのに情けないな」
「花楓さんは包容力がありますから。俺、いつも救われてるんですよ?」
会えない時期が長くても不満も言わず、会えた時にはとても嬉しそうに笑ってくれる。
仕事だから仕方ない、ではなく、頑張ってねと背中を押してくれる。頑張った分だけ褒めてくれる。
全てを受け入れてくれる包容力と余裕にいつも救われているのだ。それと同時に、年の差を感じ焦ったりもして。
「隼音君、本当に大人だね」
だが花楓にはそんな焦りは気付かれていないようだった。
緩くて可愛いとばかり思っていたのに。ふいに、花楓は子の成長を見守る親の気分になった。
「そう思って貰えるなら、それは、花楓さんに出逢えたからですね」
「そう、なの?」
「花楓さんにちゃんと恋人だと思って貰えるように、頼って貰えるように、花楓さんを守れるようにって、いっぱい考えて、大人になれたんです。年齢だけはどう頑張っても追いつけないので、それ以外は頑張ろうって」
「隼音君……」
落ち着いた姿だけを見せようとしても、まだまだ子供で、子供っぽい言動をすれば呆れてしまわないか、もっと大人で頼り甲斐のある人を選ばないか、不安になる時もある。
逆に、今は可愛いと言ってくれても、年を重ねて“可愛い年下の隼音君”でなくなった時に、好きで居続けてくれるだろうかと。
男同士で、アイドルで、街で見る幸せそうな恋人同士のような時間を与えてあげられない。それでも好きで居続けてくれるだろうかとやはり不安になる時もある……のだが。
「身長もまだまだ伸びる予定なので、これからの俺にも期待しててくださいね」
隼音はそう言って笑った。
不安はある。それでも、“隼音君を好きになって良かった”そう思って貰えるような人間でありたい。
1
あなたにおすすめの小説
楽な片恋
藍川 東
BL
蓮見早良(はすみ さわら)は恋をしていた。
ひとつ下の幼馴染、片桐優一朗(かたぎり ゆういちろう)に。
それは一方的で、実ることを望んでいないがゆえに、『楽な片恋』のはずだった……
早良と優一朗は、母親同士が親友ということもあり、幼馴染として育った。
ひとつ年上ということは、高校生までならばアドバンテージになる。
平々凡々な自分でも、年上の幼馴染、ということですべてに優秀な優一朗に対して兄貴ぶった優しさで接することができる。
高校三年生になった早良は、今年が最後になる『年上の幼馴染』としての立ち位置をかみしめて、その後は手の届かない存在になるであろう優一朗を、遠くから片恋していくつもりだった。
優一朗のひとことさえなければ…………
完結|好きから一番遠いはずだった
七角@書籍化進行中!
BL
大学生の石田陽は、石ころみたいな自分に自信がない。酒の力を借りて恋愛のきっかけをつかもうと意気込む。
しかしサークル歴代最高イケメン・星川叶斗が邪魔してくる。恋愛なんて簡単そうなこの後輩、ずるいし、好きじゃない。
なのにあれこれ世話を焼かれる。いや利用されてるだけだ。恋愛相手として最も遠い後輩に、勘違いしない。
…はずだった。
兄貴同士でキスしたら、何か問題でも?
perari
BL
挑戦として、イヤホンをつけたまま、相手の口の動きだけで会話を理解し、電話に答える――そんな遊びをしていた時のことだ。
その最中、俺の親友である理光が、なぜか俺の彼女に電話をかけた。
彼は俺のすぐそばに身を寄せ、薄い唇をわずかに結び、ひと言つぶやいた。
……その瞬間、俺の頭は真っ白になった。
口の動きで読み取った言葉は、間違いなくこうだった。
――「光希、俺はお前が好きだ。」
次の瞬間、電話の向こう側で彼女の怒りが炸裂したのだ。
まさか「好き」とは思うまい
和泉臨音
BL
仕事に忙殺され思考を停止した俺の心は何故かコンビニ店員の悪態に癒やされてしまった。彼が接客してくれる一時のおかげで激務を乗り切ることもできて、なんだかんだと気づけばお付き合いすることになり……
態度の悪いコンビニ店員大学生(ツンギレ)×お人好しのリーマン(マイペース)の牛歩な恋の物語
*2023/11/01 本編(全44話)完結しました。以降は番外編を投稿予定です。
アイドルですがピュアな恋をしています。
雪 いつき
BL
人気アイドルユニットに所属する見た目はクールな隼音(しゅん)は、たまたま入ったケーキ屋のパティシエ、花楓(かえで)に恋をしてしまった。
気のせいかも、と通い続けること数ヶ月。やはりこれは恋だった。
見た目はクール、中身はフレンドリーな隼音は、持ち前の緩さで花楓との距離を縮めていく。じわりじわりと周囲を巻き込みながら。
二十歳イケメンアイドル×年上パティシエのピュアな恋のお話。
死に戻り騎士は、今こそ駆け落ち王子を護ります!
時雨
BL
「駆け落ちの供をしてほしい」
すべては真面目な王子エリアスの、この一言から始まった。
王子に”国を捨てても一緒になりたい人がいる”と打ち明けられた、護衛騎士ランベルト。
発表されたばかりの公爵家令嬢との婚約はなんだったのか!?混乱する騎士の気持ちなど関係ない。
国境へ向かう二人を追う影……騎士ランベルトは追手の剣に倒れた。
後悔と共に途切れた騎士の意識は、死亡した時から三年も前の騎士団の寮で目覚める。
――二人に追手を放った犯人は、一体誰だったのか?
容疑者が浮かんでは消える。そもそも犯人が三年先まで何もしてこない保証はない。
怪しいのは、王位を争う第一王子?裏切られた公爵令嬢?…正体不明の駆け落ち相手?
今度こそ王子エリアスを護るため、過去の記憶よりも積極的に王子に関わるランベルト。
急に距離を縮める騎士を、はじめは警戒するエリアス。ランベルトの昔と変わらぬ態度に、徐々にその警戒も解けていって…?
過去にない行動で変わっていく事象。動き出す影。
ランベルトは今度こそエリアスを護りきれるのか!?
負けず嫌いで頑固で堅実、第二王子(年下) × 面倒見の良い、気の長い一途騎士(年上)のお話です。
-------------------------------------------------------------------
主人公は頑な、王子も頑固なので、ゆるい気持ちで見守っていただけると幸いです。
【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】
彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』
高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。
その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。
そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる