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隼音の部屋で4
しおりを挟む「隼音君、好き。大好きだよ」
「俺も、花楓さんが大好きです」
繋いだ手を一度するりと解き、流れるように花楓の手を口元に寄せチュッと手の甲にキスをする。まるでドラマのワンシーンのようで、花楓はじわりと頬を染めた。
今までも何度かされてきたというのに、色々な事が起こった今は隼音があまりに格好良く見えて心臓が痛いくらいに脈打つ。それと同時に様々な思いが沸き起こった。
「ううっ、こんなにかっこよくて何でも出来る隼音君が、ますますかっこよくなるなんて……ずっと好きでいて貰えるか心配になってきたよ。俺、料理以外何もないし……、もう、え……えっちなことで頑張るしか……」
突然ネガティブを発揮して、あらぬ方向へと焦り始める花楓。
「あっ、でも俺、その経験もないんだ……下手だったらどうしよう……」
心の中で呟く筈の事が、多分全て口に出てしまっている。下手だったらって、何かしてくれるつもりで、何か、何を。隼音はたまらずに体をくの字に折り悶えた。
出逢った頃には穏やかで優しい年上のパティシエさんだった花楓は、ある時焦ると可愛いと知り、更に好きになった。
そして今日新たに知った一面。不安になると暴走する。どうしよう。やっぱり花楓さん、世界一可愛い。
「花楓さん。忘れてるかもですけど、俺も初めてですよ?」
「え? …………あっ」
「幻滅されないように、頑張りますね?」
「う、ん……でも隼音君、何でも出来るからそういうのも上手そうだし」
「ンンッ、……花楓さんは、出来ればもう少しだけ男心というものを、ですね」
「俺も男だよ?」
「そうですけど、そうじゃなくてですね?」
そうだった。花楓は世界一鈍い一面があるのだった。そんなところも可愛いのだが、無意識に煽ってくれてはこちらの理性がもたない。
初恋で、好きでいるだけでも心臓がドキドキして、その先の想像すらずっと出来なかった。
それが今日、肌に触れてしまい熱を含んだ声を聞いて、心がもっと先をと求めてしまった。知ってしまえばもっと欲しくなる。
隼音はそっと息を吐いた。
今日はまだ、我慢だ。その分たくさん抱き締めさせて貰おう。
上手そう、と期待をされたからには“その日”までに手順の復習とイメージトレーニングだけはしっかりとして、必要な物は先走って大分前に買い揃えておいたからそれももう一度確認して……。
「花楓さん。次に休みが重なった日、またうちに来ませんか?」
「う、うん……、それって……」
「そういうこと前提で、です」
そう言って優しく微笑まれ、花楓は繋いだ手にぎゅっと力を込めた。
「……うん。俺、頑張るね……?」
恥ずかしそうに上目遣いで見つめられ、もう! そういうとこです! と心の中で叫んだ。
「俺も、頑張りますね?」
暴走しないように頑張ります。スマートにエスコート出来るように頑張って理性を鍛えます。心の中で告げた。顔ではいつも通りの笑顔を作りながら。
見つめ合い、そっとキスをして、そこで突然隼音のスマホが鳴った。マネージャーからのメールの着信音だ。
仕事柄サイレントモードにする事が出来ず、今までも何度か雰囲気を壊されている。花楓に謝りメールを開き、目を通して小さく息を吐いた。
「……お仕事?」
「いえ、明日の予定変更の連絡でした。今日は大丈夫です」
そう答えると、花楓はホッとした顔をする。それが嬉しくて目元にキスをすると、花楓はキョトンとした顔をした。
だが、一度冷静になるとじわじわと訪れる羞恥。
頑張るって、何を。花楓は自分の発言に今更ながら恥ずかしくなり、隼音は花楓の肌に散る痕からそっと視線を反らした。
「……あ、紅茶、もうひとつオススメがあるんですけど」
「え、あ、じゃあ、いただこうかな?」
二人してギクシャクと動き出す。
紅茶を淹れに行く為に離れた手を二人して寂しく思いながら、隼音は紅茶へ、花楓は窓の外へと視線を向けた。
空は青く澄み、眩しい太陽が降り注いでいる。
まだ時間はたっぷりある。誰の目も気にせずに居られる貴重なこの時間が許す限り、触れ合っていたい。
そっと互いへと視線を向ければ、同じタイミングでパチリと重なる。
“触れ合う”意味が変わる日をふと想像してしまい、また二人して視線を彷徨わせてしまうのだった。
END.
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
※お読みいただきありがとうございました!
お付き合い編はこれで終わりです。
この先は年齢指定を含むお話になりそうなので、書くかはまだ決めていません。(タイトルもピュア恋ですし……いえ、二人の恋心自体がピュアですが……)
少し別のお話も書きたいなとも思っております。
ですが機会がありましたら、またゆるゆるとした二人+みんなのお話を書けたらと思っております。
お読みいただいた皆様に励まされ、ここまで更新を続ける事が出来ました。本当にありがとうございました!
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