ある日、人気俳優の弟になりました。2

雪 いつき

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帰宅

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 楽しい時間はあっと言う間で、名残惜しさを感じながら駅で解散した。
 誘ってくれた耀ひかりに感謝を伝えると、“また行こうな!”と笑ってくれた。

 大学で出来た初めての友達が彼で良かった。彼には幸せになって欲しいと心から願う。

 幸せに浸りながら帰路につき、マンションのドアを開ける、と……。


「おかえり、優くん」
「おかえり」
「……ただいま、です……」

 直柾なおまさ隆晴りゅうせいに迎えられ、優斗ゆうとは目を瞬かせた。

「疲れてるのにごめんね。早く優くんに会いたくて、来ちゃった」
「悪い。笹山から帰る時間聞いた」

 笹山。そこでふと思い出す。彼にしては珍しくコソコソとスマホを触っていると思ったら、その連絡をしていたのか。
 隆晴に口止めされたのか、隠し事が苦手なくせにきちんと優斗に隠すなんてどこまで真面目でいい奴、と感動すらした。


 だが、まさか二人が出迎えてくれるとは思わなかった。
 二人の姿を見ると、胸に込み上げるものがあり……、両手を広げて、ギュゥッと二人に抱きついた。

「優くん?」
「どうした?」

 と言いながらも、優しく抱き返してくれる。

「……なんだか、帰ってきたなって、ホッとしました」

 二人の顔を見て、気が抜けた。
 友達との旅行は、本当に楽しかったのだ。とても楽しくて、終わらないで欲しいと思えて、それでも、やはり帰る場所はここなのだと改めて感じた。


 部屋に荷物を置いてリビングへ戻ると、やはり二人に挟まれる形でソファに座る事になった。
 お土産を渡すと申し訳ないくらいに喜んでくれて、旅行は楽しかったかと笑顔で訊いてくれた。

「写真もたくさん撮りました」
「……優くん。この写真、ファイルごと送ってくれないかな?」
「いいですけど、容量足りなくなりません?」
「大丈夫だよ」

 直柾は輝く笑顔を向ける。
 隆晴も送れと言い、二人にファイルごと送信する。するとすぐにファイルを開き、写真を見始めた。

「どの優くんも本当に可愛いね。………………優くん、この子とお付き合いしてるの……?」

 直柾が見つめるのは、彼氏顔をして女の子と撮った写真。しっかり肩に手を回している。

「あっ、違いますよ? ふざけて、誰が一番俺を彼氏っぽく撮れるかって話になって……」

 ほら、と次の写真を見せる。その次も。違う女の子との同じような写真が続いた。

「優斗も男だったんだな」
「それどういう意味です?」
「優くんが、四……五股……?」
「そんな本気でショックみたいな顔をされても……」

 おふざけです。そう言い切った。
 肩に手を回したのも女の子に言われてだったが、触れているようで実は浮いている。何と言われようとも女の子は大事にしたい。
 手だけは繋いでしまったが、それは友達でも有りだと思う。

「ん? これ、優斗か?」
「……ねぇ、この男は誰かな?」

 ひぇっ、と優斗は小さく悲鳴を上げた。女の子よりも男友達の方に過剰反応するのは何故。

「ただの友達です」
「本当に?」
「本当です」
「ただの友達が、どうしてこんなに親しげに肩を抱いてるのかな?」
「それはっ、悪ふざけで……」
「へぇ……? ただの友達は、こんなに頬を付けたりするんだね?」
「それはっ……」

 ポン、と隆晴が直柾の肩を叩いた。

「大丈夫ですよ。何か起こりそうな時は、俺が排除します」
「排除って!? 先輩!?」
「任せたよ」
「任せないでくださいね!?」
「優斗。他の男と旅行先でイチャついてる写真とか見せられたらさ、相手の男を社会的に消すくらいするだろ?」

 ひぇっ、とまた悲鳴を上げた。
 何でもない事のように言う隆晴も、笑顔で同意する直柾も怖い。怖すぎる。

「ごめんなさい……」

 思わず震えた声で謝罪した。この二人が言うと、冗談、と笑い飛ばせない何かがある。

「悪い、悪ふざけが過ぎたな」
「ごめんね。優くんとあまりにも仲がいいから」
「いえ、俺の方こそ……」

 悪ふざけ。本当に悪ふざけだろうか。ぶるっ、と震えた。


 直柾は写真を見ながら、そっと視線を伏せる。

「優くんの世界はこれからもっと広がって、もっとたくさんの人に出逢って……好きな人も、出来るかもしれないんだよね」

 そう、呟いた。

「優斗がそいつを選ぶなら、俺らがどうこう言う資格はないんだよな」

 楽しそうに笑う優斗の写真に、隆晴も呟く。

「え……」

 二人は画面から視線を上げずに、ただ静かに写真を眺めた。

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