後追いした先の異世界で、溺愛されているのですが。2

雪 いつき

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テオドールの私室

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 予想外のお披露目イベントのようになってしまった。火照る顔をパタパタと手で扇ぎながら、オスカーと共に王宮の廊下を歩く。

 青の部屋を出てからは白のマントとフードを被り、以前訪れた神官としてテオドールの私室へと向かった。

 私室へと続く廊下には彫刻や彫像、絵画が並び、天井からは繊細な光を散らすシャンデリアが下がっていた。
 窓枠や絵画の額縁は金で統一され、その煌びやかさについキョロキョロしながら歩いてしまう。


「あまり余所見してると転ぶぞ」
「っ、すみません」

 トン、と早速隣を歩くオスカーとぶつかり、オスカーは「ほら」と苦笑して暖人はるとの手を取った。

(オスカーさんも結構言動が王子様なんだよなぁ……)

 ゲームの中ならイベント発生でスチルゲット、と考えてしまう。
 今の柔らかい顔と自然な流れは、かなりドキリとした。不意打ちは反則だ。

 また顔が熱くなり、繋いだ手にぎゅっと力を込める。
 するとオスカーは突然立ち止まり、周囲を見回した。そして、暖人の耳元へと唇を近付ける。

「ハルト。油断はするなよ」
「油断?」
「陛下に襲われたら、あの光で目眩ましをして逃げろ」
「え……、あの、テオ様はそんなことは……」
「お前は自覚がなさすぎる。あっちにはその気があるんだぞ」
「え、ええっと……」

 確かに求婚されていた事実はあるが、今更何をそんな。と思うが、自分はモテないと言った先程の言葉のせいだと気付く。
 オスカーは元々テオドールを狸ジジイと零す事もあった。それでも王としての実力は認めていて、どんな状況でも理性的な事も知っているはず。

「テオ様は立派な王様ですし、そんなことはしません。…………けど、万が一の時は光使いますね」

 そう言わなければ納得しない雰囲気に、暖人は無理矢理笑みを作ってみせた。

「そうしてくれ。帰りは陛下の護衛騎士が屋敷まで送り届けるだろうが、そいつにも気を許すなよ」
「は、はい、気を付けます……」

 もう、そう返すしかなかった。
 一体何があってここまで過保護に、と暖人はそっと視線を逸らす。モテない発言以外に何かあったのだろうか。
 暖人は戸惑うが、二週間ほぼずっと目の届く範囲にいたからこそ、離れていると以前よりも心配で堪らなくなっているのだ。


「ちゃんと気を付けますから、気にせずにお仕事頑張ってくださいね」
「ああ」
「……あの、手を」
「そうだな」
「…………えっと、……」

 もうすぐ私室前だというのに、オスカーは暖人の手を離さない。そこの角を曲がれば、部屋を守る護衛の視界に入るのだが。
 ジッと見下ろされ、暖人は困ったように笑った。

「オスカーさんを裏切るようなことはしません。信じてください」
「お前を信じてはいるが、相手が、っ……」

 オスカーの言葉を遮り、背伸びをして、チュッと口の端にキスをする。

「俺も仕事をしてくるだけですよ、青の騎士団長様?」

 唖然としている間にするりと手を離し、オスカーを見上げ柔らかく微笑んだ。

「あ、ああ……」

 予想もしない暖人の行動に唖然としていたオスカーは……カァ、と頬を染めた。そしてパッと顔を逸らし、片手で顔を覆う。

 まさか赤面されるとは思わなかった。唇にもキス出来なかったのに。可愛い、と暖人が思ったその時。

「……次会う時、覚悟してろ」

 ボソリと低く呟かれ、ひぇっと小さな悲鳴を上げてしまった。





 暖人が室内に入ると、事情を知る護衛騎士が、私室の先の寝室へと案内した。
 暖人がここを訪れたのは、テオドールの肩や腰の炎症を取る為だ。

 ベッドに横になったテオドールに浄化の光を当て、最近式典で立ちっぱなしだったと聞き脚にもそっと光を当てる。

(……オスカーさんはああ言ってたけど、テオ様は絶対そんなことしない)

 理性的な大人で、国の為と言いながら、暖人の為に身を引いてくれた。それに、気まずくならないよう今まで通りに接してくれる。
 愛の言葉も変わらず伝えられるが、それも冗談めかしたものになった。
 気持ちに応えられない心苦しさも、大丈夫だと優しく包んでくれるように。
 そんな王様が、襲ったりなどする筈がない。


 終わりました、と伝えると、起き上がったテオドールは全身の爽快感に嬉しそうに目を細めた。

「ハルトよ。そなたが気に病まぬ程度の褒美を授けたいのだが、何が良いだろうか」
「褒美だなんてそんな、この力がテオ様のお役に立てるだけで嬉しいので」
「謙虚なところも誠に愛しいな。なんとも国母に相応しい」
「え、あの……」

 そっと手を取られ、そのまま両手で包み込まれ、戸惑う。
 襲われるとは思わないが、もう妃にする事は諦めたと言わなかったか。

「そう怯えるな。そなたへの求婚を諦めた事を、撤回するつもりはないぞ」
「そ、そうですか……」
「そなたを愛しいと想う気持ちに変わりはないがな」
「っ……」

 真っ直ぐに見つめられ、暖人はピンと背筋を伸ばしたままで固まる。そんな暖人に、テオドールはクスクスと笑った。

「これではこちらが褒美を貰っているようだな。些細な事でも良いのだ。何か欲しいものはないか?」

 暖人の手を離し、何事もなかったかのように話を戻す。
 ベッドの縁に座り、涼しい顔をするテオドール。

(もしかしてテオ様も、ラスさんみたいな……?)

 自分が知らないだけで、老若男女に……?
 戸惑う視線を向けると、そっと目を細め、大人の色気をたたえた笑みを浮かべた。

 涼やかで鋭い風貌と溢れる威厳を持つ国王陛下に至近距離でこんな笑顔を向けられ、ドキリとしてしまう。

 もしこの世界でウィリアムとオスカーに出逢わず、正しく王宮に預けられていたとしたら、このテクニックにいつかは落とされていたかもしれない。
 ふとそう考えてしまい、暖人は慌てて首を振った。そんな、いかにも転移ものみたいな事を。


「え、っと……。……では、数日ウィルさんをお借り出来ればと……。解毒に使った薬を作ってくださった方に、お礼に行きたいのですが」

 欲しいものと言えば、今はそれだけ。ウィリアムは休暇を申請すると言っていたが、ここでお願いすればすんなり承認して貰えるかもしれない。
 だがテオドールは、ぱちぱちと目を瞬かせ口を開いた。

「明日から暫く休暇を取るのではなかったか?」
「えっ、そうなんですか?」
「その為にこの二週間程は、休みなく働いていたと副団長から聞いたが」
「二週間……」

 暖人がオスカーの屋敷にいた時期だ。
 その間ウィリアムは、暖人がいないならと遅くまで仕事をしていた。暖人に出逢ってからがほぼ毎日定時で帰るようになっただけで、元々は週の大半はその時間まで残っていた。

 今回は特別遅くまで、それも驚異的な早さで仕事を終わらせ、休暇を確保した。
 それもこれも、オスカーが二週間暖人と二人きりで過ごしたからだ。それなら自分も、と思いそんな行動に出た。

「そなたと過ごす為だろうな」
「そ、そうですよね……。それなら遠出は申し訳ないでしょうか……」
「何を言う。誰にも邪魔されずそなたと二人きりで旅行など、願ってもない事であろう。私は羨ましいぞ」

 そう言って暖人の頬を撫でる。


「いつか私とも、共に旅をして貰えぬだろうか」

 王という立場上、それが叶え難い事だとは理解している。だが、暖人と何の気兼ねもなく共に旅をする。そんな夢を見るくらいはしても良いだろう。

「残念ながら、彼らも共について来るのだろうがな」

 もし叶ったとしても、ウィリアムとオスカー付きだ。テオドールが肩を竦めると、暖人も苦笑した。

「俺も、テオ様と旅行してみたいです」

 この世界でも、モッル王国にサファリパークのような場所がある。一度貴賓として招かれたとテオドールが話していた。
 共に旅をするなら動物のいる場所だろうと、二人は言葉にせずとも分かり頬を緩める。

「いつか、共に旅をしよう。約束だぞ」
「はい、テオ様」

 嬉しそうに笑う暖人に目を細め、青に染められた髪をそっと撫でた。

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