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君を護る為には
しおりを挟む「あの……」
そんな中、暖人が振り返る事すら出来ずに口を開く。
「本当に皇帝派の人たちが絡んでるんでしょうか……。戦力を確保するためだとしても、内戦と違って、他国に攻められると後々の統治とかその人たちにとって都合が悪く……」
そこで、気付いた。
「……皇帝派の人たちにとって、都合のいい皇族を見つけたから?」
皇子を暴君に仕立て上げ、今度はその皇族が他国との戦争の中で国を取り返したように見せる。
つまり、今のリグリッド革命と同じ事をするつもりなのか。
「その人を皇帝にするメリットがあれば、同盟を結べる……」
例えば、手を貸した者にリグリッドの資産や領地、地位を与える。
もし手を貸す者が小国や地域なら、形式上はそちらへ感謝を述べ、同盟という形で収めるというもの。
リグリッドは元は西の大国だ。同盟により得られるものは多い。
皇帝派が絡んでいても、ただ利用されていても、どちらにしろ、現状で国を治めている第三皇子が邪魔だと思う者の仕業。
そして、あわよくばリュエールを崩壊させようとしている者の。
……それはただの推測でしかない。だが、その場の誰も否定の言葉を紡がなかった。それどころか、オスカーの手が褒めるように暖人の頭を撫でる。
「お前には驚かされるな」
「オスカーさん……」
「捕捉すると、大公領の実権を握れる位置に自分の息のかかった奴を置けば、リュエールを挟み撃ちに出来る、ってとこだな」
だから大公領も狙われた。国自体ではなく、国の頭だけ挿げ替えられるよう、大公とその親族が。
「まあ、全部推測だ」
オスカーは安心させるように暖人の頭を撫でる。だがもう、それで納得出来るほど平和な世界ではないと知っていた。
ウィリアムの手がぴくりと動き、暖人をますます抱き締める。
暖人もウィリアムへと抱きつき、しっとりと濡れた髪へ頬を寄せた。
「……ホールにいた人たちは、元から死ぬつもりだったんでしょうか……。服の下の紋章、普通に脱いでから見せるのも変ですし、戦いの中で偶然を装うのも命がけですよね……」
「そうだね、はる。騙されて、捨て駒にされたのかもしれないね。……リグリッドの人間なら死んでも構わないって人に、ね」
答えないオスカーの代わりに、涼佑はそう言って、繋いだ暖人の手をそっと指先で撫でた。
最終目的がリグリッドか、リュエールか、もしくはただ世界を混乱に陥れる為か。
どちらにしろ、戦争など起これば暖人を危険に晒してしまう。
「皇子には早いうちに外交に出て貰った方がいいですね」
「そうだな」
他国に皇子の姿と人柄を知って貰う事が、戦争回避の役に立つと分かった。
外交官が遣り取りしている他国との文書にも、皇子の手紙を添えて送ろう。それなら国璽がなくとも、外交用の印章と、皇子自身の印章だけで済む。
国璽も複製を作らせてはいるが、帝国の新たな門出として違うデザインで至急作り直させよう。
それから、皇帝の即位式も出来るだけ早めて。
他国からは復興資金を援助して貰っている。もし悪い噂が立つと、援助を続ける他国内で不満が募り、援助を打ち切るとなると、リグリッド内では死者が増える。そうなれば、またいつ内戦が起こるとも分からない。
協力するのは暖人を見つけるまで、皇帝を倒すまで、と先延ばしにしてきたが、今度はいつまで延ばせば良いのやら。
「それにしても、皇子は本当にあの皇帝と血が繋がってるんですか?」
「ああ。皇子と第二皇子の聡明さと慈悲深さは母君に似たんだろうな」
「だとしても父親の血も入ってるわけですよね。それにしては、皇帝は皇子のような狡賢さがなかったですけど」
「あー……まあ、それは隔世遺伝ってやつだ」
皇子の祖父は、賢く機知に富んだ皇帝だった。その場の雰囲気を読み、それこそ皇子のように、親しい者とは皮肉も楽しむような。
国政でも大胆な発案をして周りを驚かせる事もあった。
今は手探り状態で進んでいる皇子も、いずれ祖父のような偉大な皇帝になるのだろう。
・
・
・
数日滞在する部屋を二部屋借り、ウィリアムはそこまで暖人を抱き上げて移動した。
元よりそのつもりだったが、ウィリアムの様子がおかしい事を理由に、四人同じ部屋にして貰った。
そして今、彼は暖人を抱えたままソファに座っている。
「……あの、ウィルさん」
声を掛けても反応はない。
「俺はもう大丈夫ですよ? 皆さんがいるので、危ないことはないですし」
そう言っても、答えは返らない。
「……涼佑。お風呂先にどうぞ」
「うん……」
涼佑は躊躇いながらも頷き、バスルームへと向かった。
ウィリアムといつものように暖人の奪い合いをする気にもなれない。下手をしたら自分どころか暖人にも危害が及びそうな気配。
「許したのは間違いだったかな……」
もっと早くに引き離していれば良かったのだろうか。暖人に恨まれても、心の半分が彼らに残ったままでも、安全な国に無理矢理連れ去ってしまえば良かったのかもしれない。
「……無理か」
だが早々に諦めた。
暖人がこんなに何度も救世主として巻き込まれて危険な目に遭うのなら、自分一人では守りきれない。
出来ればもう一人くらい常時警護出来る人間が欲しいくらいだが、ただ守るだけでなく、命に代えても守るくらいの覚悟を持った人物でなければ意味がない。
その点で言えば、ウィリアムは最も最適な人物といえた。
……まさか、あれ程までとは思いもしなかったが。涼佑は深く息を吐いた。
今回の事がきっかけで、ヤンデレルートか闇落ちルートに入っていなければ良いが。
・
・
・
オスカーは暖人たちから離れた位置、ベッドの上で様子を窺っていた。
もし何かあれば対応をと思っていたが、ウィリアムは動かず、暖人はじっとしている事に耐えられなくなったのか、ウィリアムの髪を触り始めた。
見えないながらも手探りで、器用に後頭部の髪を編んでいく。細い三つ編みを幾つも作っては崩し、作っては崩しを繰り返した。
時々ぽんぽんと頭や背を撫で、また編んでは崩す。
「……ハルト」
「はい、ウィルさん」
長い時間が経ち、ウィリアムは漸く声を零した。それに暖人は柔らかな声で答える。
「……君を護る為には、……やはり、閉じ込めた方が良いのだろうか……」
「どうでしょう、閉じ込められたら、もっと大変なことになっちゃったかもですね」
暖人は答えながら、白金の髪を優しく撫でる。
「俺は……世界を救えても、君を失ったら……」
震える声。
そこで暖人は、ぎゅっとウィリアムを抱き締めた。
「ウィルさん。一緒にお風呂に入りましょう?」
その場に似つかわしくない提案に、ウィリアムはぴくりと反応し、ゆるゆると体を離し暖人を見つめる。
瞬く空色の瞳に、暖人はふわりと笑ってみせた。
「温かいお風呂に入って、たっぷり眠って、朝になっても閉じ込めたいと思ったら教えてください」
「ハルト……」
「その時は、どうするのが一番いいか、一緒に考えますから」
想いを否定せず、受けとめて包み込む。その暖かな瞳に、ウィリアムは視界を滲ませた。
そして暖人を抱き上げ、もう一つのバスルームへと運ぶ。バスタブに湯を張る間も、暖人を抱いたまま体温を感じ、伝わる鼓動で生きている事を確認する。
「ハルト……」
「はい、ウィルさん」
「……どこにも行かないでくれ」
「行きませんよ。ずっとウィルさんの傍にいます」
小さな子供をあやすように、ぽんぽんと背を撫でる。
出逢った頃には遠い存在のように感じていた、完璧で王子様のような人。こんな人間らしい姿を見せられると……、ますます惹かれてしまう。
自分のせいで悲しんでいる彼を前に不謹慎だと思いながらも、こんなにも愛されている事が、嬉しくてたまらなかった。
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