後追いした先の異世界で、溺愛されているのですが。2

雪 いつき

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制服デート

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 正面からウィリアムに抱き枕にされ、涼佑りょうすけは背後から腰に腕を回してコアラのようにくっついていた。

 その夜、暖人はるとは、暖かな大蛇に巻き付かれる夢を見た。



「ハルト、行ってきます」
「行ってらっしゃい、ウィルさん」
「ハルトからキスして欲しいな」
「えっ、……いってらっしゃい」

 背伸びをして、ちゅ、と口の端にキスをする。

「ああ、行ってくるよ」

 ウィリアムはこれでもかと幸せそうな笑みを浮かべ、暖人の唇にキスをして部屋を出て行った。
 パタリと扉が閉まり、暖人はベッドへと戻る。

「新婚……」
「昨日は涼佑とそうだったよ」
「別にいいけどね。良くないけど」
「どっち」
「オスカーさんじゃなければいいよ」
「涼佑、結構オスカーさんと気が合いそうだけど」
「無理。やめて」

 涼佑はそう言って、暖人を布団の中に引きずり込んだ。

「少し前なら絶対許せなかったのに、ウィリアムさんならいいかと思ってる自分が信じられないよ」

 向かい合わせで抱き締め、今度は僕の抱き枕、と頬を擦り寄せた。

「あの人がいい人なのは分かったし、はるを大事にしてるのも分かったし、……はるを命懸けで守ってくれる人だからキープしておきたい」
「えっ、本音」
「冗談だよ。冗談でもないけど」
「どっち」
「はる、今日は街に行こうか」
「まって、どっちなの」
「全部本音だよ。多分ね」

 そろそろ起きようか、と暖人を離し、上体を起こして伸びをする。

「朝ご飯お願いしてくるね」

 爽やかな笑みを向け、涼佑はベッドを降りた。



 朝食を終え、涼佑はリグリッドから持ってきた鞄を開ける。

「最初にここに来た時は、早くはるに会いたくて着の身着のまま来ちゃったから」

 涼佑は一呼吸置いて、バッと暖人にある物を見せた。

「ほら、これ持って来たんだ」
「っ! 制服!」
「はる、制服デートしよう?」
「制服デート!」
「憧れだったよね」
「うんっ、カップル見る度に、いいなってずっと思ってた」
「それを、今」
「この世界で」

 何かの宣伝のように声を合わせ、二人で笑い合った。

「はるも制服でこっちに来たんでしょ?」
「うん。涼佑との思い出が一番詰まった服だから」

 綺麗に洗濯してアイロンを掛けられたそれは、今もクローゼットに大事に保管されている。

「やっぱり最初は、学校帰りの寄り道からかな」
「あっ、広場のクレープ屋、甘くないのもあったよ」
「じゃあ、そこから行こうか」
「うん、涼佑は他に何食べたい?」
「そうだなぁ……持ち帰り出来る焼きそばみたいなのってあるかな」
「焼きそば……、パスタならあったと思う。学生が広場で食べてたよ」
「この世界の定番かな? それも食べよう」

 この国の王都の事は、涼佑はまだ分からない。涼佑を案内出来る、と暖人は嬉しそうな顔をした。


 今日は涼佑がマリアに頼み、茶色の染め粉を使った。
 瞳が目立たないよう、赤みも黄みのもない焦げ茶の髪。出来れば同じ薄い茶色にしたかったのだが、それでも涼佑は、お揃いだねと嬉しそうに笑った。

 スラックスを穿き、真っ白なシャツを着て、ネクタイを締める。セーターはさすがに暑くて着られずクローゼットに戻した。
 少し大きめに買い替えたばかりだった涼佑の服は、今はぴったりになっている。それが少しだけ暖人には寂しかった。

 それでも、二人で制服を着るとあの頃のようで、鏡に映る姿にじわりと目の奥が痛む。
 また一緒にこの服を着られたこと。そして、あの頃の日々の懐かしさに。少しだけ、あの世界が愛しいものに思えた。



 広場の側まで送って貰い、馬車を降りた涼佑は目を見開く。

「これが、リュエールの……」

 リグリッドとは大きく違う。
 綺麗に敷かれた石畳、立ち並ぶ色とりどりの屋根の建物、噴水は光を弾き、緑の木々はさらさらと揺れ、花壇には可愛らしい花々が植えられている。
 人々は笑い合い、女性も子供も安心して伸び伸びと過ごしている。

 ……元の世界でも、こうだった。
 自分たちの国は、こうだった。
 いつの間にか、平和な街の姿を忘れてしまっていた。
 それはこんなにも、眩しいものだったのに。

「……テオドール陛下は、いい王様なんだね」
「うん。国のためを想ってくれるいい王様だよ」

 これが、良い王の治める国の姿。
 涼佑は暖人の手をぎゅっと握った。

 大公領の街では、いつ敵が現れるか分からないと警戒して気付けなかった。あの街もきっと、こんな眩しさがあったはず。
 リグリッドも、内戦前まではこうだったのかもしれない。

「……はる」
「うん」
「僕、……あっちに戻る日が多くなるかもしれない」
「……うん」
「皇子ならきっと、こんな国に出来るから。僕にも何か出来る事があるなら……」

 力を貸して欲しいと頼まれずとも、自分から手助けをしたいと思った。政治も経済も何も分からないただの学生だった自分に、何か出来る事があるなら。

「出来るよ」
「はる……」
「涼佑なら、出来る。俺は知ってるよ」
「……うん、そうだね」

 自分の事を誰より知っている暖人がそう言ってくれるなら、きっと出来る。自分らしくなく、何を弱気になっていたのだろう。


「湿っぽくなってごめん。えっと、まずはクレープだよね?」

 あれかな、といつもの笑顔を向け、広場の方へと暖人の手を引いた。

(涼佑なら……涼佑にしか、出来ないことだから……)

 会えない日が多くなっても、仕方がない。だってこの世界ではお互い救世主で、違う国を守っていて、だから……。

(会える時は、いっぱい恋人でいよう……)

 涼佑の手を握り返し、しっかりと顔を上げた。

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