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制服デート
しおりを挟む正面からウィリアムに抱き枕にされ、涼佑は背後から腰に腕を回してコアラのようにくっついていた。
その夜、暖人は、暖かな大蛇に巻き付かれる夢を見た。
「ハルト、行ってきます」
「行ってらっしゃい、ウィルさん」
「ハルトからキスして欲しいな」
「えっ、……いってらっしゃい」
背伸びをして、ちゅ、と口の端にキスをする。
「ああ、行ってくるよ」
ウィリアムはこれでもかと幸せそうな笑みを浮かべ、暖人の唇にキスをして部屋を出て行った。
パタリと扉が閉まり、暖人はベッドへと戻る。
「新婚……」
「昨日は涼佑とそうだったよ」
「別にいいけどね。良くないけど」
「どっち」
「オスカーさんじゃなければいいよ」
「涼佑、結構オスカーさんと気が合いそうだけど」
「無理。やめて」
涼佑はそう言って、暖人を布団の中に引きずり込んだ。
「少し前なら絶対許せなかったのに、ウィリアムさんならいいかと思ってる自分が信じられないよ」
向かい合わせで抱き締め、今度は僕の抱き枕、と頬を擦り寄せた。
「あの人がいい人なのは分かったし、はるを大事にしてるのも分かったし、……はるを命懸けで守ってくれる人だからキープしておきたい」
「えっ、本音」
「冗談だよ。冗談でもないけど」
「どっち」
「はる、今日は街に行こうか」
「まって、どっちなの」
「全部本音だよ。多分ね」
そろそろ起きようか、と暖人を離し、上体を起こして伸びをする。
「朝ご飯お願いしてくるね」
爽やかな笑みを向け、涼佑はベッドを降りた。
朝食を終え、涼佑はリグリッドから持ってきた鞄を開ける。
「最初にここに来た時は、早くはるに会いたくて着の身着のまま来ちゃったから」
涼佑は一呼吸置いて、バッと暖人にある物を見せた。
「ほら、これ持って来たんだ」
「っ! 制服!」
「はる、制服デートしよう?」
「制服デート!」
「憧れだったよね」
「うんっ、カップル見る度に、いいなってずっと思ってた」
「それを、今」
「この世界で」
何かの宣伝のように声を合わせ、二人で笑い合った。
「はるも制服でこっちに来たんでしょ?」
「うん。涼佑との思い出が一番詰まった服だから」
綺麗に洗濯してアイロンを掛けられたそれは、今もクローゼットに大事に保管されている。
「やっぱり最初は、学校帰りの寄り道からかな」
「あっ、広場のクレープ屋、甘くないのもあったよ」
「じゃあ、そこから行こうか」
「うん、涼佑は他に何食べたい?」
「そうだなぁ……持ち帰り出来る焼きそばみたいなのってあるかな」
「焼きそば……、パスタならあったと思う。学生が広場で食べてたよ」
「この世界の定番かな? それも食べよう」
この国の王都の事は、涼佑はまだ分からない。涼佑を案内出来る、と暖人は嬉しそうな顔をした。
今日は涼佑がマリアに頼み、茶色の染め粉を使った。
瞳が目立たないよう、赤みも黄みのもない焦げ茶の髪。出来れば同じ薄い茶色にしたかったのだが、それでも涼佑は、お揃いだねと嬉しそうに笑った。
スラックスを穿き、真っ白なシャツを着て、ネクタイを締める。セーターはさすがに暑くて着られずクローゼットに戻した。
少し大きめに買い替えたばかりだった涼佑の服は、今はぴったりになっている。それが少しだけ暖人には寂しかった。
それでも、二人で制服を着るとあの頃のようで、鏡に映る姿にじわりと目の奥が痛む。
また一緒にこの服を着られたこと。そして、あの頃の日々の懐かしさに。少しだけ、あの世界が愛しいものに思えた。
広場の側まで送って貰い、馬車を降りた涼佑は目を見開く。
「これが、リュエールの……」
リグリッドとは大きく違う。
綺麗に敷かれた石畳、立ち並ぶ色とりどりの屋根の建物、噴水は光を弾き、緑の木々はさらさらと揺れ、花壇には可愛らしい花々が植えられている。
人々は笑い合い、女性も子供も安心して伸び伸びと過ごしている。
……元の世界でも、こうだった。
自分たちの国は、こうだった。
いつの間にか、平和な街の姿を忘れてしまっていた。
それはこんなにも、眩しいものだったのに。
「……テオドール陛下は、いい王様なんだね」
「うん。国のためを想ってくれるいい王様だよ」
これが、良い王の治める国の姿。
涼佑は暖人の手をぎゅっと握った。
大公領の街では、いつ敵が現れるか分からないと警戒して気付けなかった。あの街もきっと、こんな眩しさがあったはず。
リグリッドも、内戦前まではこうだったのかもしれない。
「……はる」
「うん」
「僕、……あっちに戻る日が多くなるかもしれない」
「……うん」
「皇子ならきっと、こんな国に出来るから。僕にも何か出来る事があるなら……」
力を貸して欲しいと頼まれずとも、自分から手助けをしたいと思った。政治も経済も何も分からないただの学生だった自分に、何か出来る事があるなら。
「出来るよ」
「はる……」
「涼佑なら、出来る。俺は知ってるよ」
「……うん、そうだね」
自分の事を誰より知っている暖人がそう言ってくれるなら、きっと出来る。自分らしくなく、何を弱気になっていたのだろう。
「湿っぽくなってごめん。えっと、まずはクレープだよね?」
あれかな、といつもの笑顔を向け、広場の方へと暖人の手を引いた。
(涼佑なら……涼佑にしか、出来ないことだから……)
会えない日が多くなっても、仕方がない。だってこの世界ではお互い救世主で、違う国を守っていて、だから……。
(会える時は、いっぱい恋人でいよう……)
涼佑の手を握り返し、しっかりと顔を上げた。
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