後追いした先の異世界で、溺愛されているのですが。2

雪 いつき

文字の大きさ
110 / 185

制服デート4

しおりを挟む

「……これ?」
「うん」

 ショーケースを覗き込み目を瞬かせた涼佑りょうすけに、暖人はるとは笑顔で頷いた。
 涼佑としては、二人と同じネックレスだろうと思っていたのだが……。暖人が選んでいたのは、……指輪だった。

「僕が言うのもおかしいけど、あの二人には言ったの?」
「うん。涼佑は特別だから仕方ない、って言ってた」

 二人は気を悪くするでもなく、理由を説明したら、すぐに了承してくれた。
 暖人も言うまでには相当悩んで悩み尽くしたのだが、二人から嫌な顔をされる事はなく酷く安堵したものだ。

 この指輪を先に用意せずに一緒に来たかったのは、いつ再会出来るか分からず、サイズが変わっているかもしれなかったからだった。

「今持ってるのと、こっちで買ったものを、一緒に付けたいと思って」

 暖人の視線の先、ショーケースの中には、元の世界の旅行先で買ったものと少し似たデザインの、ペアリングがあった。
 シンプルな細い銀色の指輪だ。

 元の世界で買ったリングは、ヒョウのぬいぐるみストラップの綿の中にこっそりと隠していた。二人暮らしを始める日まで、二人だけの秘密にしよう、と。それをこの世界にも持ってくる事が出来たのは奇跡だろう。
 だから、涼佑にとってもあのストラップは絶対に失くしたくない物だった。

 暖人の気持ちは、言葉がなくとも涼佑には伝わった。
 元の世界でも、この世界でも、ずっと大切に想っている。ずっと傍にいるという証。
 結婚や婚約ではない。それ以上の、言葉には出来ないもの。

「帰ったら、針と糸を用意して貰わないとね」

 暖人の鞄にそっと触れる。お互いに何となく出すのが勿体ないような、今ではないような感覚があり、ペアリングはまだぬいぐるみの中だ。
 が来た事にドキドキしながら、暖人は涼佑の手を引いた。


「チェーンも一緒に買おうと思うんだけど」

 涼佑はチェーンの並ぶショーケースを見る。

「俺たちにはこの、一番強度があるのがいいと思うんだ」

 暖人が、これ、と指さす。そこには“鉄より固い魔法石で作られたチェーン”という説明書きが添えられていた。
 付けるリングを傷つけないよう、表面には特殊なコーティングがされているらしい。

「はる。夜にチェーン千切れるくらい頑張ってくれる感じ?」
「っ! 違うよっ? 涼佑は戦っ、……運動する事多いし、俺は料理とか掃除とかお手伝いするからっ」
「そっか、残念」

 くすりと笑う涼佑に、暖人は頬を赤くしてチェーンを見据えた。

(チェーンが千切れるくらいのえっちって、一体……)

 何をどうすればそんな事に。

「失くしたくないし、このチェーンはいいね」
「だよね」

 ふー、と息を吐き、気持ちを鎮める。周りにあまり人がいないとはいえ、店内でなんて事を。


 二人はまた指輪のショーケースの元へと戻った。

「涼佑。他に好きなデザインがあったら」
「はるが決めたのがいいな」
「いいの?」
「うん。はるが僕たちのためにって選んでくれたものだから、僕にはそれが世界一のデザインだよ」

 側を通った客が、イケメンは言う事までイケメン、と真顔で呟く。爽やかな笑顔も相俟って、あまりに格好良すぎた。

「はる、二人の名前を入れて貰おうか」

 宝石を埋め込む事も出来るが、それだとあの二人と一緒になってしまう。その隣に書かれた文字刻印サービスの札を見て、涼佑はとても良い笑顔を浮かべた。

「結婚指輪みたい」
「だね。でもそれはもう少し先にね」
「うん」

 頬を染め嬉しそうにする暖人。
 可愛いカップル、と今まで静かに見守っていた店員たちは、微笑ましく二人を見つめた。





「お揃い」
「お揃いだね」
「綺麗」
「綺麗だね」

 広場へと戻った二人は、手のひらを太陽に翳し、太陽の光を弾く銀の指輪を見つめる。

 右手の中指に輝く指輪。
 涼佑は身長が伸びた分、指周りも少し大きくなっていたが、の為に大きめで買っていたそれとぴったり同じサイズになっていた。
 暖人はきっとまだ大きめだ。この指輪の下に填めよう、と少し拗ねたように呟いた。


 涼佑は指輪を愛しげに撫で、目を細める。

「今年の誕生日プレゼントは、これを貰おうかな」
「えっ、でも、俺のは涼佑に買って貰ったし」
「じゃあそれは、はるへのプレゼント第一段で」
「それなら俺も、第一段で」
「充分なんだけどなぁ。んー、じゃあ、第二段は夜にいっぱい頑張って貰おう」
「っ……、が……頑張る」

 涼佑が欲しいと言うならたくさん頑張ろう、と暖人は覚悟を決めた。

「あ。誕生日は今日がいいな。はると初めて制服デートした日」

 そう言って、暖人の頬を撫でる。

 暖人はへその緒が付いたまま捨てられていた為、誕生日はほぼ間違いない。だが涼佑は、二ヶ月程前に生まれたとしか分からなかった。
 いつからか、届け出された誕生日の前後を二人だけの誕生日にするようになったのだ。
 暖人との記念日や楽しかった日、夏休みに旅行に行けるようになってからはその日を、涼佑は今年の誕生日と決めた。

 涼佑の手の上からそっと手のひらを重ね、暖人はふわりと笑う。

「誕生日おめでとう、涼佑」
「ありがとう、はる」

 見つめ合い、少し迷って暖人は涼佑の唇にキスをした。

「はるには、僕の欲しいものが分かるんだね」
「うん……そんな顔してたから、……しちゃった」

 人前なのに、と照れながら笑う暖人があまりに可愛くて、涼佑も暖人へとキスをする。

「んっ……」

 暖人より長めの、押し付けるキス。
 もっと、と思う気持ちを堪え、暖人の頬を撫でて体を離した。
 人通りが少ない場所を選んだものの、それでもしっかり見られている。その視線は好意的なもの。
 それならと見せつけたい気持ちはあっても、あまり度を超すと目障りになるなと涼佑は暖人の頭を撫でるだけに留めた。

 そして、ぐるりと周囲を見渡す。


「この辺りで一番高級なホテルってどこかな」
「えっ、ホテル……泊まるの?」
「今日ははると二人きりでいたいんだけど、駄目?」
「駄目じゃない、……けど」
「一度戻って、外泊許可を取って来ようか。僕の誕生日だからって伝えて貰えばウィリアムさんも許してくれそうだし、泊まるところと明日帰る時間も伝えておけばいいかな。あ、染め粉も貰わないとね」

 暖人の心配事を全て解決して、涼佑は暖人の手を取り立ち上がった。

「当日でも空いてるところあるかなぁ」
「なかったら、明日も誕生日しよう?」
「そうだね。あ。あの肉は冷やしておけば日持ちするから、明日でも大丈夫だよ」
「良かった。やっぱり食べた時の反応が見たいんだよね」
「はる、料理人みたいだ」

 あれこれと話しながら、馬車乗り場へ向かう。屋敷の馬車は、夕方に迎えをお願いしていた。

 赤の騎士団長の屋敷に向かうならと、それなりに高めの馬車に乗ったのだが、屋敷の馬車とは揺れが違う。
 さすが公爵家……。と優秀な馬車と人材と馬たちに二人は唸り、尊敬の念を抱いたのだった。

しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

冤罪で堕とされた最強騎士、狂信的な男たちに包囲される

マンスーン
BL
​王国最強の聖騎士団長から一転、冤罪で生存率0%の懲罰部隊へと叩き落とされたレオン。 泥にまみれてもなお気高く、圧倒的な強さを振るう彼に、狂った執着を抱く男たちが集結する。

この世界は僕に甘すぎる 〜ちんまい僕(もふもふぬいぐるみ付き)が溺愛される物語〜

COCO
BL
「ミミルがいないの……?」 涙目でそうつぶやいた僕を見て、 騎士団も、魔法団も、王宮も──全員が本気を出した。 前世は政治家の家に生まれたけど、 愛されるどころか、身体目当ての大人ばかり。 最後はストーカーの担任に殺された。 でも今世では…… 「ルカは、僕らの宝物だよ」 目を覚ました僕は、 最強の父と美しい母に全力で愛されていた。 全員190cm超えの“男しかいない世界”で、 小柄で可愛い僕(とウサギのぬいぐるみ)は、今日も溺愛されてます。 魔法全属性持ち? 知識チート? でも一番すごいのは── 「ルカ様、可愛すぎて息ができません……!!」 これは、世界一ちんまい天使が、世界一愛されるお話。

幼馴染がいじめるのは俺だ!

むすめっすめ
BL
幼馴染が俺の事いじめてたのは、好きな子いじめちゃうやつだと思ってたのに... 「好きな奴に言われたんだ...幼馴染いじめるのとかガキみてーだって...」 「はっ...ぁ??」 好きな奴って俺じゃないの___!? ただのいじめっ子×勘違いいじめられっ子 ーーーーーー 主人公 いじめられっ子 小鳥遊洸人 タカナシ ヒロト 小学生の頃から幼馴染の神宮寺 千透星にいじめられている。 姉の助言(?)から千透星が自分のこといじめるのは小学生特有の“好きな子いじめちゃうヤツ“だと思い込むようになり、そんな千透星を、可愛いじゃん...?と思っていた。 高校で初めて千透星に好きな人が出来たことを知ったことから、 脳破壊。 千透星への恋心を自覚する。 幼馴染 いじめっ子 神宮寺 千透星 ジングウジ チトセ 小学生の頃から幼馴染の小鳥遊 洸人をいじめている。 美形であり、陰キャの洸人とは違い周りに人が集まりやすい。(洸人は千透星がわざと自分の周りに集まらないように牽制していると勘違いしている) 転校生の須藤千尋が初恋である

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。初夜で抱かれたら身代わりがばれてしまいます💦

雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
逃げた弟の身代わりとなり、 隣国の国王である溺愛アルファに嫁いだオメガ。 しかし実は、我儘で結婚から逃げ出した双子の弟の身代わりなのです… オメガだからと王宮で冷遇されていたので、身代わり結婚にも拒否権が なかたのでした。 本当の花嫁じゃない。 だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、 だんだん王様に惹かれてしまい、苦しくなる…という お話です。よろしくお願いします<(_ _)>

帝に囲われていることなど知らない俺は今日も一人草を刈る。

志子
BL
ノリと勢いで書いたBL転生中華ファンタジー。 美形×平凡。 乱文失礼します。誤字脱字あったらすみません。 崖から落ちて顔に大傷を負い高熱で三日三晩魘された俺は前世を思い出した。どうやら農村の子どもに転生したようだ。 転生小説のようにチート能力で無双したり、前世の知識を使ってバンバン改革を起こしたり……なんてことはない。 そんな平々凡々の俺は今、帝の花園と呼ばれる後宮で下っ端として働いてる。 え? 男の俺が後宮に? って思ったろ? 実はこの後宮、ちょーーと変わっていて…‥。

記憶を無くしたら家族に愛されました

レン
BL
リオンは第三王子で横暴で傲慢で侍女や執事が少しでも気に入らなかったら物を投げたり怒鳴ったりする。家族の前でも態度はあまり変わらない… 家族からも煩わしく思われたていて嫌われていた… そんなある日階段から落ちて意識をなくした…数日後目を覚ましたらリオンの様子がいつもと違くて…

処理中です...