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制服デート4
しおりを挟む「……これ?」
「うん」
ショーケースを覗き込み目を瞬かせた涼佑に、暖人は笑顔で頷いた。
涼佑としては、二人と同じネックレスだろうと思っていたのだが……。暖人が選んでいたのは、……指輪だった。
「僕が言うのもおかしいけど、あの二人には言ったの?」
「うん。涼佑は特別だから仕方ない、って言ってた」
二人は気を悪くするでもなく、理由を説明したら、すぐに了承してくれた。
暖人も言うまでには相当悩んで悩み尽くしたのだが、二人から嫌な顔をされる事はなく酷く安堵したものだ。
この指輪を先に用意せずに一緒に来たかったのは、いつ再会出来るか分からず、サイズが変わっているかもしれなかったからだった。
「今持ってるのと、こっちで買ったものを、一緒に付けたいと思って」
暖人の視線の先、ショーケースの中には、元の世界の旅行先で買ったものと少し似たデザインの、ペアリングがあった。
シンプルな細い銀色の指輪だ。
元の世界で買ったリングは、ヒョウのぬいぐるみストラップの綿の中にこっそりと隠していた。二人暮らしを始める日まで、二人だけの秘密にしよう、と。それをこの世界にも持ってくる事が出来たのは奇跡だろう。
だから、涼佑にとってもあのストラップは絶対に失くしたくない物だった。
暖人の気持ちは、言葉がなくとも涼佑には伝わった。
元の世界でも、この世界でも、ずっと大切に想っている。ずっと傍にいるという証。
結婚や婚約ではない。それ以上の、言葉には出来ないもの。
「帰ったら、針と糸を用意して貰わないとね」
暖人の鞄にそっと触れる。お互いに何となく出すのが勿体ないような、今ではないような感覚があり、ペアリングはまだぬいぐるみの中だ。
その時が来た事にドキドキしながら、暖人は涼佑の手を引いた。
「チェーンも一緒に買おうと思うんだけど」
涼佑はチェーンの並ぶショーケースを見る。
「俺たちにはこの、一番強度があるのがいいと思うんだ」
暖人が、これ、と指さす。そこには“鉄より固い魔法石で作られたチェーン”という説明書きが添えられていた。
付けるリングを傷つけないよう、表面には特殊なコーティングがされているらしい。
「はる。夜にチェーン千切れるくらい頑張ってくれる感じ?」
「っ! 違うよっ? 涼佑は戦っ、……運動する事多いし、俺は料理とか掃除とかお手伝いするからっ」
「そっか、残念」
くすりと笑う涼佑に、暖人は頬を赤くしてチェーンを見据えた。
(チェーンが千切れるくらいのえっちって、一体……)
何をどうすればそんな事に。
「失くしたくないし、このチェーンはいいね」
「だよね」
ふー、と息を吐き、気持ちを鎮める。周りにあまり人がいないとはいえ、店内でなんて事を。
二人はまた指輪のショーケースの元へと戻った。
「涼佑。他に好きなデザインがあったら」
「はるが決めたのがいいな」
「いいの?」
「うん。はるが僕たちのためにって選んでくれたものだから、僕にはそれが世界一のデザインだよ」
側を通った客が、イケメンは言う事までイケメン、と真顔で呟く。爽やかな笑顔も相俟って、あまりに格好良すぎた。
「はる、二人の名前を入れて貰おうか」
宝石を埋め込む事も出来るが、それだとあの二人と一緒になってしまう。その隣に書かれた文字刻印サービスの札を見て、涼佑はとても良い笑顔を浮かべた。
「結婚指輪みたい」
「だね。でもそれはもう少し先にね」
「うん」
頬を染め嬉しそうにする暖人。
可愛いカップル、と今まで静かに見守っていた店員たちは、微笑ましく二人を見つめた。
・
・
・
「お揃い」
「お揃いだね」
「綺麗」
「綺麗だね」
広場へと戻った二人は、手のひらを太陽に翳し、太陽の光を弾く銀の指輪を見つめる。
右手の中指に輝く指輪。
涼佑は身長が伸びた分、指周りも少し大きくなっていたが、いつかの為に大きめで買っていたそれとぴったり同じサイズになっていた。
暖人はきっとまだ大きめだ。この指輪の下に填めよう、と少し拗ねたように呟いた。
涼佑は指輪を愛しげに撫で、目を細める。
「今年の誕生日プレゼントは、これを貰おうかな」
「えっ、でも、俺のは涼佑に買って貰ったし」
「じゃあそれは、はるへのプレゼント第一段で」
「それなら俺も、第一段で」
「充分なんだけどなぁ。んー、じゃあ、第二段は夜にいっぱい頑張って貰おう」
「っ……、が……頑張る」
涼佑が欲しいと言うならたくさん頑張ろう、と暖人は覚悟を決めた。
「あ。誕生日は今日がいいな。はると初めて制服デートした日」
そう言って、暖人の頬を撫でる。
暖人はへその緒が付いたまま捨てられていた為、誕生日はほぼ間違いない。だが涼佑は、二ヶ月程前に生まれたとしか分からなかった。
いつからか、届け出された誕生日の前後を二人だけの誕生日にするようになったのだ。
暖人との記念日や楽しかった日、夏休みに旅行に行けるようになってからはその日を、涼佑は今年の誕生日と決めた。
涼佑の手の上からそっと手のひらを重ね、暖人はふわりと笑う。
「誕生日おめでとう、涼佑」
「ありがとう、はる」
見つめ合い、少し迷って暖人は涼佑の唇にキスをした。
「はるには、僕の欲しいものが分かるんだね」
「うん……そんな顔してたから、……しちゃった」
人前なのに、と照れながら笑う暖人があまりに可愛くて、涼佑も暖人へとキスをする。
「んっ……」
暖人より長めの、押し付けるキス。
もっと、と思う気持ちを堪え、暖人の頬を撫でて体を離した。
人通りが少ない場所を選んだものの、それでもしっかり見られている。その視線は好意的なもの。
それならと見せつけたい気持ちはあっても、あまり度を超すと目障りになるなと涼佑は暖人の頭を撫でるだけに留めた。
そして、ぐるりと周囲を見渡す。
「この辺りで一番高級なホテルってどこかな」
「えっ、ホテル……泊まるの?」
「今日ははると二人きりでいたいんだけど、駄目?」
「駄目じゃない、……けど」
「一度戻って、外泊許可を取って来ようか。僕の誕生日だからって伝えて貰えばウィリアムさんも許してくれそうだし、泊まるところと明日帰る時間も伝えておけばいいかな。あ、染め粉も貰わないとね」
暖人の心配事を全て解決して、涼佑は暖人の手を取り立ち上がった。
「当日でも空いてるところあるかなぁ」
「なかったら、明日も誕生日しよう?」
「そうだね。あ。あの肉は冷やしておけば日持ちするから、明日でも大丈夫だよ」
「良かった。やっぱり食べた時の反応が見たいんだよね」
「はる、料理人みたいだ」
あれこれと話しながら、馬車乗り場へ向かう。屋敷の馬車は、夕方に迎えをお願いしていた。
赤の騎士団長の屋敷に向かうならと、それなりに高めの馬車に乗ったのだが、屋敷の馬車とは揺れが違う。
さすが公爵家……。と優秀な馬車と人材と馬たちに二人は唸り、尊敬の念を抱いたのだった。
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