後追いした先の異世界で、溺愛されているのですが。2

雪 いつき

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第二王子

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「殿下。ハルトさんをお連れしましたわ」

 誤解なので一度一緒に話を、とティアが頼み込んで面会を許可して貰った。

「お目通りのご許可を賜り感謝致します。ハルト・ニイナと申します」

 内心では緊張でガクガクしながらも、深く丁寧に頭を下げる。
 テオドールに初めて謁見した時にはウィリアムとオスカーが傍にいてくれたが、今はティアと二人だ。不安だなどと言ってはいられない。


(俺がやらないと……)

 褒めてくれたティアの名誉の為に、礼節のある大人として振る舞う。
 ウィリアムの婚約者だと説明する為、ウィリアムの評価を下げないようにする。
 そのうえで、今後もティアには一切恋愛感情を抱く事はないと信じて貰う。

 やる事はそれだ。
 服はオスカーが真面目で聡明に見える服を選んでくれた。顔を上げると、王子からの反応は上々。確かにティアが話していたような人物かもしれないと、まずは好印象を与える事が出来た。


(気が弱いって聞いてたけど……)

 暖人はるとは柔らかな表情のまま王子を見つめる。彼は気が弱いどころか、真っ直ぐにこちらを睨んでくる。
 これが普段と違うのなら、相当ティアの事が好きだという事だ。ティアの為に敵意を向けている。

「お前はティアの友人だと言ったな?」
「はい。恐れながら」
「ティアとはどこで知り合った?」
「ティア様の兄君、ウィリアム様のお屋敷でございます」
「ウィリアムの?」

 怪訝な顔をしたところで、暖人は早々に切り出す事にした。話が長引けば途中で追い出されそうな雰囲気だ。

「申し遅れました。私は、ウィリアム様と結婚を前提にお付き合いさせていただいております」

 今までの遊び相手ではないと、はっきりと告げる。穏やかな笑みは崩さないまま、真っ直ぐに王子を見つめた。


「嘘だ……」

 暖人を上から下まで見つめ、王子は唖然として呟く。
 今まで噂にあった美しい女性たちではなく、男性。それも自分と同じか年下と思われる者が、あのウィリアムの婚約者だなど。

「嘘だっ。二人で私を騙すつもりだなっ」
「殿下、本当ですわ。ハルトさんはお兄さまの……」
「本当だというなら、ウィリアムを連れて来いっ。お前が自らなっ」
「畏まりました」

 暖人は動じずに一礼して、踵を返した。

「……いや、待て。やはり他の者に連れて来させる」

 ウィリアムは妹に甘い。婚約破棄されそうだからと訴えれば、暖人の婚約者のふりくらいするだろう。
 疑いはまだ晴れなかった。



 待つこと暫し。
 室内に入ったウィリアムは、その場に暖人がいる事に驚いた顔をした。オスカーから事情は聞いていたが、まさか本当に会えるとは。
 緩みそうになる顔を引き締め、王子へと視線を向ける。

「この者は、お前の何だ?」
「彼は、私の婚約者ですが……」
「婚約者? お前のか?」
「左様にございます」

 ウィリアムは、暖人が何故ここにいるのか分からないという顔を作った。

「恐れながら……に、何か?」

 突如ひんやりとした空気が漂い、王子はびくりと震えた。
 婚約者ではなく、婚約者。暖人が何かしたのではないと確信しての言葉だ。

 王子はバッと暖人を見る。今のウィリアムを見ても怯えもせず、変わらず微笑みを浮かべている。
 強い。これは、本当に婚約者かもしれない。


「お兄さま。殿下は、わたくしとハルトさんが恋仲なのではと思われているのです」
「ああ、そうだったのか。少し勘違いをしていたよ」
「勘違いだなんて、お兄さまは本当にハルトさんがお好きなのね」
「ハルトは俺の愛する人だからね。それに……ハルトは、本当にモテるから……ね?」

 二度目の背筋が凍るような笑みは、王子だけでなく暖人にも向けられた。

(なんでっ!?)

 内心で叫ぶ。今回は無茶していない。触られてもいない。何より、ティアの婚約者だ。何かが起こる訳もない。
 頑張って平然とした顔を作り続けるが、ウィリアムの屋敷に戻った後が怖い、とそっと視線を逸らした。

 ウィリアムとしては今までの権力人間ホイホイの現場を思い出し、無意識に思わせぶりな事をしてはいけないよ、という意味を込めていた。
 それはある意味成功し、王子の方が暖人どころではなくなってしまった。


「殿下。二人の仲の良さは私も嫉妬する程ですが、不義など決してございません」

 ウィリアムは穏やかな笑みに戻し、柔らかな声音で告げる。

「……本当に、本当、か?」
「ええ。ハルトは私に全身全霊で愛されて、私に隠れて妹と恋仲になる事も、男としての機能を使う余裕なども……そうだろう?」
「っ、……は、ぃ」
「もっとはっきり言わないと勘違いをされてしまうよ?」
「っ……、……愛されすぎて、心も、体力的にも、絶対に無理です」

 ウィリアムに腰を抱かれ、耳元で甘く囁かれて腰が砕けそうになる。だが堪えに堪えて、ウィリアムの顔を見つめてしっかりと言葉にした。

「わ……私は、感情の面で、疑っていたのだが……」

 突然目の前でウィリアムの本領を発揮され、王子は視線を逸らす。


「だが……確かに、お前から誰かに迫っている姿は、見た事がない」

 噂でも、夜会で実際に見た現場でも、ウィリアムは誘われれば応える男だった。穏やかに、ただ受け入れるだけ。
 そんな男が、自分のものだと主張し、奪われまいと牽制する。それは、あまりにも本気なのではと。

「ええ、初めてです。ハルトが、私の初恋ですので」

 蕩けるような笑みで、暖人を見つめる。

 こんな顔、今まで見たことがない。王子は目を見開いた。
 女性に微笑む時も、甘い顔を見せる時も、こんな顔をしていなかった。それなのに。

「……そうか。すまない、その者は本当にお前の婚約者だったのだな」

 顔を覆い項垂れた。
 こんなものを見せられては信じるしかない。
 例えティアが暖人の話ばかりしても、あのウィリアムが一心に愛するような相手だ。ティアから見ても尊敬に値する人物なのだろう。


 実際、美しい容姿と凛とした姿で、王族を前にしても動じない貫禄もある。ティアは可愛い人だと言っていたが、随分と落ち着いて、外見より大人びて見えた。

 ついジッと観察していると、暖人は少し恥ずかしそうに笑う。
 ああ、これか。
 確かに可愛い。……そう思った瞬間。

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