泣き虫で小柄だった幼馴染が、メンタルつよめの大型犬になっていた話。

雪 いつき

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3. 本性ってわけじゃないよ

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坂口さかぐち~。なんか、えぐいイケメンと校門で抱き合ってたって聞いたんだけど」

 翌日。クラスメイトの岡本おかもとが、ニヤニヤしながら俺の席までやってきた。

「……ああ。あれ、理央りおだよ」
「ん? あー、前に言ってた」
「そ。俺の可愛い弟が、俺よりでっかくなってた」
「マジかぁ。成長期って残酷だよな」
「お前が言うなよ?」

 一年の時から同じクラスだけど、岡本はぐんぐん伸びて、今や俺よりも背が高い。運動部は伸びるなぁ。理央より少し低いくらいか?


「でも、笑顔が可愛いのは変わってなかったよ」
「男相手に可愛いって」
「可愛いんだよ。昔から変わらず、凰ちゃん凰ちゃんって懐いてくれてさ」
「あー、まあ、懐く気持ちは分かるわ~。坂口って、優しい国語の先生って感じだし」
「それって眼鏡だからだろ?」
「いやいや、雰囲気がもう優しい教師よ」

 褒めているのかどうなのか分からないことを言って、岡本は突然眉間に皺を寄せた。

「昔から変わらず、かぁ……そういう奴ほど裏があったりしないか?」
「理央に限って、ないない」

 笑い飛ばしたところでホームルームが始まって、岡本は「あると思うけどな~」と言いながら自分の席に戻って行った。


◇◇◇


『ごめん、提出物あるから少し遅れそう。迎えに行くから教室で待ってて』


 メッセージと一緒に、ごめん、という可愛いスタンプが送られてくる。

 今日もマンションに来て欲しいとお願いされていたから、待ち合わせ場所の昇降口に向かおうとしたところだった。

「提出物ならそんなに時間かかんないだろうし、迎えに行ったら?」
「見たな?」
「見えたんだよ。ごめ~ん」

 岡本はそう言って舌を出してウインクする。別に見られても困らないけど、雑な謝罪だなぁ。背中を軽く叩くと、ごめんね~と口元に両手を添えて目をパチパチさせた。


「ゴツい男にされてもなぁ……って、なんでついて来るの」
「まあまあ。坂口が可愛がってる理央君、見てみたいし」
「見てもいいけど、裏とかないからな?」
「あると思うけどな~……って、なんかすごい一軍っぽい奴らいる」

 岡本の視線の先を追うと、長い髪を綺麗に巻いた女子たちと、制服を着崩して髪をセットした男子たちが廊下に集まっていた。

「うちってそんな校則厳しくないけど、坂口的にあれってオッケー?」
「どうだろう……化粧も濃すぎるわけじゃないけど……」
「スカート短いな~。爪ギラギラしててすげぇ」

 そう言いながら女子の足元をジッと見る岡本。でも、俺は……その中心にいる人物から目を離せなかった。


「理央、このあとカラオケ行かん?」
「行こーよ、理央君いるだけで盛り上がるし」

 ああ……あれ、やっぱり理央か。美男美女に囲まれてても目立つな。早速友達ができたみたいだし、昔は人見知りだったのに、感慨深い……。

「行かねぇ」
「え~、行こうって。イケメンいないとつまんないし~」
「だる」

 だる、って言った?
 理央が?

「昨日、おうちゃんセンパイ? といた時と違いすぎん?」
「お前ごときが呼ぶな。坂口先輩と呼べ」
「対応違いすぎて笑える」

 彼らの笑い声がどこか遠くに聞こえる。
 眉間に皺を寄せて、面倒臭そうに男子生徒の肩を押して退かそうとする……あれが、理央?


「…………凰ちゃん?」
「あ……え、っと……」

 呆然としていたら、目が合ってしまった。

 え、これ、なんて言ったらいいんだろ……。

「迎えに行くって言ったのに」

 理央は俺のそばまで歩いてきて、聞いたことのない大きな溜め息をついた。

 思わず落とした視線の先には、理央の大きな足。昔は俺よりも随分小さかったのに……いつも俺の後ろをついて回っていたのに……。


「別に、こっちが本性ってわけじゃないよ」
「っ……」

 理央の声音が柔らかくなる。顎を掴まれて、顔を上げられた。

「凰ちゃんのこと大好きな俺も、他の奴らはどうでもいい俺も、どっちも本当の俺だから」

 記憶の中よりも……なんなら昨日よりも随分と低い声で、とんでもないことを言って爽やかに笑う。俺の可愛い弟分は、なんてふてぶてしい男に成長したんだ……。


「ところで……凰ちゃん、その人、誰?」
「え? あ……クラスメイトの岡本だけど……」

 驚きのあまり忘れていたけど、俺の隣には岡本がいた。

「仲いいの?」
「まあ……一年の時から一緒だから」
「あーっ、俺、自主練するんだった! じゃあな、坂口!」
「えっ? あ、そっか、頑張れよ」

 ありがと! と言って廊下を走り去って行く。明日、廊下は走るなって言っておこう。

「じゃあウチらも帰るね~」
「凰ちゃ……坂口センパイも、またね~」

 理央のクラスメイトたちは、俺にまで手を振ってくれて廊下を歩いて行った。見た目は派手だけど、理央のクラスメイトがいい子たちで安心した。


 ……でも俺、この後どんな感情でいたらいい?


「凰ちゃん、帰ろ」
「っ……ああ、そうだな」
「そうだ。ちょっとスーパーに寄っていい? クーポン出てて」

 理央が見せてきたのは、近くのスーパーのアプリだ。今日はカップ麺と掃除用具が値引きになるらしい。

 昨日の理央よりも、少し気怠げな話し方。低い声。表情からも甘えた感じがなくなっている。もしかしたら昨日は、俺が驚くと思って昔みたいにしてくれていたのかな……。

 でも、そうだよな。五年も経ったんだから、昔と違って当然だよな。

「理央、しっかり者になったなぁ」
「五年前の俺とは違うからね」

 笑い方も大人っぽくなったけど、褒めると喜ぶところは、やっぱり変わらずに可愛かった。


「……もう見られたから、今更どうにも出来ないけど」
「うん?」
「……今の俺、嫌じゃない?」
「嫌じゃないよ。正直、すごく驚きはしたけど、理央ももう高校生だもんな」

 不安そうな理央にそう答えて笑ってみせる。それでもまだ心配な顔をしているから、手を伸ばして頭を撫でた。

「本当に大きくなったなぁ」
「凰ちゃんに撫でられるのは好きだけど、俺はもう子供じゃないよ」

 ムッとして拗ねる顔が可愛い。でも、撫でられるのは大丈夫そうだな。ご両親のことで荒れていた時期があったって言ってたし……これからは、俺がたくさん甘やかしてやろう。



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