9ライブズナイフ

犬宰要

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 その二人が何者なのか、記録映像で知っている。知ってはいるものの、どんな人なのか、名前、何を目的としているのかわからない。それは相手も一緒だろうと思った。だが、どことなく二人は僕たちの事を知っている風だった。
 
 いや、まるですべてを知ってるかのような感じだった。
 
 堂々とした佇まいに、銃を肩で担いでいた。アシンメトリーの髪型が特徴的で男勝りな凛とした顔立ちだった。青あざが顔にあり、唇が切れていて、服だけはあまり汚れてなかった。持っている銃を見ると、どことなく僕の持っている銃と似ている形をしていた。
 二人のうち、もう一人は縮こまって後ろに隠れていた。背格好から瓦礫の山で毒殺の現場に居た者だとわかった。前髪がパッツンで髪は長くボサボサで目の下に異様なほど黒いクマが目立っていた。彼女もまた顔に青あざがあり、唇は切れていないものの、頬に擦り傷があった。
 二人は防護マスクをしておらず、代わりにイヤホンのようなものを耳のあたりにつけていた。
 
 服装だけは召喚して新しめだが、どちらもボロボロの状態に見えた。目には疲れが出ており、肌が見える部分がどこか汚れているのが目に見えてわかった。二人だけでどうにか生きてきた、と伝わってくる雰囲気だった。
 
「な、なぜ撃った? 」
 僕から出てきた言葉は答えがわかりきっているような事だった。
「よく見ろ、そいつら回復してる。人の形をしているが、人じゃない」
 振り返って見ると撃たれた箇所が回復していっていた。地下にいたミミックのようにうねうねと傷口が動き、ゆっくりとだが塞がれつつあるのが見えた。
 
「こいつらは何なんだ?」
「さぁな、人の姿をしている何か、だろう。言葉が通じるが、話が通じない別の生き物だ」
 アシンメトリーの彼女とその後ろについていくもう一人は、ゆっくりと二人に近寄った。肩に担いでいた銃を両手で構え、アーネルトとアンネイに向けた。
 
――カチッ! ボオォォォォォォ!!
 
 銃から炎が放射され、アーネルトとアンネイが燃やされていった。炎に炙られる二人の姿は次第に溶け、灰へと変わっていった。
 
「クソが」
 
 吐き捨てるように彼女は消し炭に言うと、僕の方を見た。
「た、助けてくれたのか?」
「ハッ! 助けるつもりなんてない」
 彼女は僕に言うと目をそらし、舌打ちをした。僕は何か彼女にしただろうか?
「今日はよくしゃべるね」
 いつの間にか消し炭となったアーネルトとアンネイにしゃがみ込んで見ていたもう一人が上目で不気味に言った。
「ふんッ」
 
「あの、僕はミドリカワ ヨウ、ヨーちゃんって呼ばれている。君たちは?」
 僕はまず名乗った、彼女たちも僕と同じくこの世界に異世界転移した仲間なのだから、話は通じるはずだ。
 
「カジ ヒロミ、ヒロミでいい」
「私はヒビヤ アイ」
 
 二人が名乗るとハルミン、マナチ、ツバサ、ジュリと互いに名乗っていった。
 
「ヒロミとヒビヤさんは――」
「アイ、アイでいいよ」
 アイが何か恨めしそうな顔をして僕に言った。
「ヒロミとアイは、元の世界に戻る手がかりを――」
「私たちは別に元の世界に戻りたいとは思ったことはない」
「え」
「そもそもな、私たちはな……チッ」
 ヒロミは僕の目をそらしていた。アイも地面を見ながら悲しそうな顔をしていた。
 
 大きなため息の後、ヒロミは僕たちの方を見た。
 
「私たちはな、陰キャなんだよ。いじめられていたんだよ。今更元の世界に戻って、どうしろっていうんだよ。戻っても、またいじめられるだけだ。この世界に来た時は周りは知らない人ばかりだ、でもな、まただ、またいじめられた。言いように使われて、言いように、言いように……もうたくさんなんだよ。お前らみたいに、お前らみたいじゃねえんだよ」
 
 彼女たちは、元の世界にある居場所は帰りたくのない場所だった。ただ苦痛だけの毎日を歩み、そんな中で異世界という場所で生き延びてきただけだった。
 
「ほんと、よくしゃべるね」
 アイは立ち上がり、ヒロミの斜め後ろに寄り添っていた。
「私たちは、ただ、誰にも脅かされず静かに暮らしていければそれでいい。このアーミーナイフがあれば、服や食事は困らない。この街にならシャワーや寝れる場所がある、私たちはここで生活していくつもりだ。だから元の世界に戻りたいなら、どっか行ってくれないか」
 
 二人の目的は住めそうな場所を求めてここを選んだようだった。
 
「でも、ここは――」
「危険だからか? 私たちはどうにでもなる。どうにかしてきた。二人で! むしろ敵対するヤツは殺せばいい。殺そうとしてきたんだ、殺されても文句はないだろう。今まで、今までそうしてきたのだから」
 彼女の目はどこか怯えているような、悲しく、何か訴えかけるような感じがあった。
 
「い、一緒に協力して生き延びていこう!」
 
 マナチがヒロミに言うと、ヒロミはキッとした何か怒りに触れたのか声を荒げた。
「元の世界で助けてくれよ、なんなんだよ。なんで今そんな事を言うんだ? いい子ちゃんぶってんじゃねぇよ! 都合がよくなった時に一緒だとか、お間らはいらないッ」
 
 拒絶だった、彼女が言い切ると後ろのアイも頷きながらぼそりとつぶやいた。
「元の世界でも助けてくれなかったくせに」
「お前らみたいなのに顔色伺って使われるのはいやなんだよ」
 アイとヒロミがどこか辛そうな表情をしていた。その辛さはどこから来るのか僕には汲み取ることができなかった。彼女たちがこの異世界で歩んできた道のりは、僕の想像していた以上に辛いことがあると思った。あの記録映像から断片的ではあるが知っていても、二人だけで夜を過ごし、頼れる周りもいない中でここまで来た事は僕にはわからない。
 
「そういうつもりじゃ――」
 マナチのか細い声は、二人には届かなかった。

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