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ギルバートからの婚約破棄の日から、早半年が経ったが、おかげで妊娠していないことがハッキリわかり、安堵している。
あれからギルバートは南国へ行ったきり、帰ってこない。もう向こうで、新婚生活を始めているのかしら。
陛下は、通告書を発布したと、おっしゃられているから自暴自棄になっているか、それともリリアーヌ様と仲睦まじくやっているのか、ダーウィン国には 知らせがないから後者の方かと思う。
第2王子殿下のアントニウス様は、もう婚約が成立しているかのように、毎日、ミュンヘン家にやってきて、パトリシアと過ごす時間を作ってくださるが、ハッキリ言えば迷惑。
妊娠はしていなかったものの、ギルバートと肌を重ねた感覚はいまだに残っていて、もう少し一人でいる時間が欲しい。
失恋の痛手を癒す時間が必要なのだ。
それでアントニウスが来る日がわかっているときは、その日は朝早くから教会に逃げ込むことにした。
今はまだ誰かを受け入れられない。アントニウスに愛を囁かれても、心に届かないでいる。
こういう時は、神様を信仰するに限る。神様なら、きっと正しい方向へ導いてくださるものと信じているから。
教会は心地よく、誰も話しかけてこない。居心地が良く、一人であれこれ考えるにはうってつけの場所であった。
パトリシアは、このまま一生誰とも結婚しなくてもいいかな?と考えるようになった。もう誰も信じられない。いくらアントニウス様が愛を囁いてくれても、それは上辺だけの言葉としか思えない。
今回の婚約破棄の件で、愛とは何かを真剣に考えるようになった。本来は、神が人間に与えたもので、人間同士でも愛という感情は芽生える。反対に憎しみという感情は、愛の裏返しにあり、愛と憎しみは一対にあるということが分かった。
なるほど。でも、パトリシアは、ギルバートを憎めない。それはそこまでの愛情を持って抱かれていたわけではなかったことなのか、実のところよくわかっていない。
なんか、考えるのが面倒くさくなって、もう、どうでもいいやって投げ出したくなる。
そこへ司祭様が勉強会に参加してみてはどうだ。と言われ、つい、その気になってしまう。
勉強会への参加者には、最初、水晶玉判定が待ち受けている。これって、処女かどうかがわかるっていう奴?
躊躇したパトリシアだが、司祭様が優しいお顔で熱心に進めてくださるので、断りづらい。
どうせ生きていること自体が恥なのだから、今更、恥のひとつや二つ増えたところでどうってことないと、腹を括り、おそるおそる水晶玉に手を翳してみた。
その瞬間、水晶玉が金色に変わったと思えば、突然天井まで?屋根まで?突き抜ける勢いで、王都の空を金色に染めていく。
何が起こったのかわからなくて、しばし呆けていると、突然司祭様から、聖女様用のローブを肩にかけてもらい、跪かれる。
「でも、わたくし、処女ではありません」
咄嗟のことで、言わなくてもいいようなことを口走り、大いに赤面する。
「神が聖女様だと、認めておられます」
一応、教会に口止めを申し込むと、
「わかりました。しばらくは沈黙を守りましょう。ですが金色の空を染めた人物を王家は必死に探すことになるでしょう」
納得は行かないが、ギルバートと関係を持つ前に聖女様だったってことなのかもしれない。
え?でも、それならリリアーヌと二人聖女だったってこと?そんなはずは……ないとは言い切れない。
もし、あの時、パトリシアも聖女様だということがわかっていたら、ギルバートに捨てられることはなかったのかもしれないという思いがこみ上げてきて、知らず知らずのうちに涙が溢れこぼれていた。
やっぱりパトリシアは、ギルバートのことを愛していたのだ。だから横滑りの状態で、アントニウスとの婚約に嫌悪感があったのだということがわかる。
だからと言って、ギルバートとは、もうやり直しが利かない。かといって、代わりにアントニウスと結婚する気もなれない。
そりゃあ。キズモノと承知の上で嫁にしてくれるというアントニウスの気持ちは嬉しい。
だけど、失恋した直後の女性に、言い寄る無神経さを考えると、やっぱり婚約できない。
愛情って、そういうものではないもの。急いで帰宅して、今後のことをお父様と相談しなければ。逸る気持ちを必死に抑え、冷静さを取り戻す。
帰宅してみると、アントニウスがまだいる。
まさか!?教会が、もう王家に知らせたのか?と疑うが、用件はそうではないらしい。
「パトリシア嬢、今日も教会へ行ってらしたのですか?」
おおっと、その手には乗らないよ。ここでうっかり「はい」なんて、言おうものなら、聖女様にされてしまう。
「いいえ。今日は図書館に本を探しに行っておりました」
アントニウスは、明らかにガッカリした表情を見せている。
「では、空が染まったことは、ご存知なかったと……?」
「はあ?夕焼けですか?」
「いえ、何でもございません。それでは、私はこれで失礼します」
いつもなら、粘るところだろうが、今は聖女様探しに躍起になっているのだろう。そそくさと帰っていくアントニウスに舌をべーと出す。
あれからギルバートは南国へ行ったきり、帰ってこない。もう向こうで、新婚生活を始めているのかしら。
陛下は、通告書を発布したと、おっしゃられているから自暴自棄になっているか、それともリリアーヌ様と仲睦まじくやっているのか、ダーウィン国には 知らせがないから後者の方かと思う。
第2王子殿下のアントニウス様は、もう婚約が成立しているかのように、毎日、ミュンヘン家にやってきて、パトリシアと過ごす時間を作ってくださるが、ハッキリ言えば迷惑。
妊娠はしていなかったものの、ギルバートと肌を重ねた感覚はいまだに残っていて、もう少し一人でいる時間が欲しい。
失恋の痛手を癒す時間が必要なのだ。
それでアントニウスが来る日がわかっているときは、その日は朝早くから教会に逃げ込むことにした。
今はまだ誰かを受け入れられない。アントニウスに愛を囁かれても、心に届かないでいる。
こういう時は、神様を信仰するに限る。神様なら、きっと正しい方向へ導いてくださるものと信じているから。
教会は心地よく、誰も話しかけてこない。居心地が良く、一人であれこれ考えるにはうってつけの場所であった。
パトリシアは、このまま一生誰とも結婚しなくてもいいかな?と考えるようになった。もう誰も信じられない。いくらアントニウス様が愛を囁いてくれても、それは上辺だけの言葉としか思えない。
今回の婚約破棄の件で、愛とは何かを真剣に考えるようになった。本来は、神が人間に与えたもので、人間同士でも愛という感情は芽生える。反対に憎しみという感情は、愛の裏返しにあり、愛と憎しみは一対にあるということが分かった。
なるほど。でも、パトリシアは、ギルバートを憎めない。それはそこまでの愛情を持って抱かれていたわけではなかったことなのか、実のところよくわかっていない。
なんか、考えるのが面倒くさくなって、もう、どうでもいいやって投げ出したくなる。
そこへ司祭様が勉強会に参加してみてはどうだ。と言われ、つい、その気になってしまう。
勉強会への参加者には、最初、水晶玉判定が待ち受けている。これって、処女かどうかがわかるっていう奴?
躊躇したパトリシアだが、司祭様が優しいお顔で熱心に進めてくださるので、断りづらい。
どうせ生きていること自体が恥なのだから、今更、恥のひとつや二つ増えたところでどうってことないと、腹を括り、おそるおそる水晶玉に手を翳してみた。
その瞬間、水晶玉が金色に変わったと思えば、突然天井まで?屋根まで?突き抜ける勢いで、王都の空を金色に染めていく。
何が起こったのかわからなくて、しばし呆けていると、突然司祭様から、聖女様用のローブを肩にかけてもらい、跪かれる。
「でも、わたくし、処女ではありません」
咄嗟のことで、言わなくてもいいようなことを口走り、大いに赤面する。
「神が聖女様だと、認めておられます」
一応、教会に口止めを申し込むと、
「わかりました。しばらくは沈黙を守りましょう。ですが金色の空を染めた人物を王家は必死に探すことになるでしょう」
納得は行かないが、ギルバートと関係を持つ前に聖女様だったってことなのかもしれない。
え?でも、それならリリアーヌと二人聖女だったってこと?そんなはずは……ないとは言い切れない。
もし、あの時、パトリシアも聖女様だということがわかっていたら、ギルバートに捨てられることはなかったのかもしれないという思いがこみ上げてきて、知らず知らずのうちに涙が溢れこぼれていた。
やっぱりパトリシアは、ギルバートのことを愛していたのだ。だから横滑りの状態で、アントニウスとの婚約に嫌悪感があったのだということがわかる。
だからと言って、ギルバートとは、もうやり直しが利かない。かといって、代わりにアントニウスと結婚する気もなれない。
そりゃあ。キズモノと承知の上で嫁にしてくれるというアントニウスの気持ちは嬉しい。
だけど、失恋した直後の女性に、言い寄る無神経さを考えると、やっぱり婚約できない。
愛情って、そういうものではないもの。急いで帰宅して、今後のことをお父様と相談しなければ。逸る気持ちを必死に抑え、冷静さを取り戻す。
帰宅してみると、アントニウスがまだいる。
まさか!?教会が、もう王家に知らせたのか?と疑うが、用件はそうではないらしい。
「パトリシア嬢、今日も教会へ行ってらしたのですか?」
おおっと、その手には乗らないよ。ここでうっかり「はい」なんて、言おうものなら、聖女様にされてしまう。
「いいえ。今日は図書館に本を探しに行っておりました」
アントニウスは、明らかにガッカリした表情を見せている。
「では、空が染まったことは、ご存知なかったと……?」
「はあ?夕焼けですか?」
「いえ、何でもございません。それでは、私はこれで失礼します」
いつもなら、粘るところだろうが、今は聖女様探しに躍起になっているのだろう。そそくさと帰っていくアントニウスに舌をべーと出す。
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