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気が付くと、ギルバートの隣で寝かされていた。
魔力を放出しすぎたせいで、貧血に似た症状を起こしていたのだ。
ギルバートは、というと、先ほどよりは安定した寝息を立てている。後、もう少しのことだけど、今日は、治療を中断することにした。
アームストロング以下の騎士を領地に転移させ、ゆっくり休養を取らせることにし、ギルバート殿下は、この粗末な小屋ごと転移させる。
一瞬でミュンヘン領地に転移したアームストロングは、改めて本物の聖女様の力を痛感し、感服していた。
驚いたことに、王都で見慣れていた国教会の建物とそっくりな教会まであったこと。まさか、本物を移築したとは思っていないようだった。
他の騎士たちは、久しぶりの温かいスープにまともな食事、舌鼓を打っている。
「助けていただいたことに心より感謝申し上げます」
「リリアーヌ聖女様は、どうなさったのですか?」
「殉死されましたが、あのお方は、聖女様ではなかったのです。殿下が勘違いをなさっていたようで、一時はひどく落ち込んでいらっしゃっいました」
パトリシアは、今後の相談をするため、王都へ帰る。
皆を引き連れて、一気に王都まで戻ってもよかったのだが、司祭様の謀反疑惑がどうなったのかわからず仕舞だったので、情報を仕入れに行くことにした。
「パトリシア、お帰り。殿下が無事でよかったな」
「ええ。でもリリアーヌ様は聖女様ではなかったみたいなのです」
「そのことだが、ギルバートにリリアーヌ嬢を聖女様だと紹介したのは、実はアントニウス殿下だという疑いが出てきたのだ」
「本当ですか?」
それなら今までの一連のことの流れに説明はつくが……。いや、あのアントニウスならやりかねない!
パトリシアは、父と相談のうえ、王都にリリアーヌ聖女様が誕生したという噂を流す。今は、南国で休暇中だったのだが、あの時、たまたま王都に来て、水晶玉に手を翳してみたら聖女様であったことが分かったらしい。と。
これでアントニウスがどう出るかが楽しみになってくる。
-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-
その頃、王城の一室では、
「リリアーヌが聖女様に覚醒しただと?そんなはずがあるわけがないだろっ!あの阿婆擦れをけしかけて、パトリシアと婚約破棄させたまでは、順調だったというのに、こともあろうか、リリアーヌが聖女様だと……?よりによって、あの阿婆擦れが?灯台下暗しだったというわけか?」
噂には、何でも尾ひれがつき、リリアーヌが海の魔物ポセイドンを退治したという話まで流れている。
それでサンタルチアの国から表彰され、近々、ダーウィンの第1王子と結婚されるという噂まで飛び交うようになった。
「くそっ!信じられんが、リリアーヌを奪取せねば、これまでの苦労が水泡となってしまうではないか!」
王位も聖女もすべてを手に入れなければ気が済まない。もう、アントニウスにとり、パトリシアは過去の女で、忘れ去られている存在になっていた。
翌朝、パトリシアは、アームストロングと共にサンタルチア国に赴き、荒れて荒んだ焼け野原をリゾート地っぽく再現する。
もちろん、本当に再現するのではない。アームストロングの記憶を頼りに幻影魔法で作り出しただけのもの。
うまく罠にかかってくれれば、儲けものとぐらいにしか思っていない。街道を整備し、いつでも来て頂戴と言わんばかりに、綺麗な森や街並みを整えていく。
さらに国境にトラップを仕掛け、隣国を通らずとも、サンタルチアに行けるように仕掛ける。
隣国の森に迷惑をかけるわけにはいかないから。
アントニウス一行は、何の疑いもなく、そのトラップに引っかかり、あっという間にサンタルチア国に到着したのだ。
普通、この時点で気づきそうだけど、気づかないのが自分本位なアントニウスらしいと言えばそれまでのこと。
アントニウス御一行様は、パトリシアの罠にかかり、帰らぬ人となったのだ。
魔力を放出しすぎたせいで、貧血に似た症状を起こしていたのだ。
ギルバートは、というと、先ほどよりは安定した寝息を立てている。後、もう少しのことだけど、今日は、治療を中断することにした。
アームストロング以下の騎士を領地に転移させ、ゆっくり休養を取らせることにし、ギルバート殿下は、この粗末な小屋ごと転移させる。
一瞬でミュンヘン領地に転移したアームストロングは、改めて本物の聖女様の力を痛感し、感服していた。
驚いたことに、王都で見慣れていた国教会の建物とそっくりな教会まであったこと。まさか、本物を移築したとは思っていないようだった。
他の騎士たちは、久しぶりの温かいスープにまともな食事、舌鼓を打っている。
「助けていただいたことに心より感謝申し上げます」
「リリアーヌ聖女様は、どうなさったのですか?」
「殉死されましたが、あのお方は、聖女様ではなかったのです。殿下が勘違いをなさっていたようで、一時はひどく落ち込んでいらっしゃっいました」
パトリシアは、今後の相談をするため、王都へ帰る。
皆を引き連れて、一気に王都まで戻ってもよかったのだが、司祭様の謀反疑惑がどうなったのかわからず仕舞だったので、情報を仕入れに行くことにした。
「パトリシア、お帰り。殿下が無事でよかったな」
「ええ。でもリリアーヌ様は聖女様ではなかったみたいなのです」
「そのことだが、ギルバートにリリアーヌ嬢を聖女様だと紹介したのは、実はアントニウス殿下だという疑いが出てきたのだ」
「本当ですか?」
それなら今までの一連のことの流れに説明はつくが……。いや、あのアントニウスならやりかねない!
パトリシアは、父と相談のうえ、王都にリリアーヌ聖女様が誕生したという噂を流す。今は、南国で休暇中だったのだが、あの時、たまたま王都に来て、水晶玉に手を翳してみたら聖女様であったことが分かったらしい。と。
これでアントニウスがどう出るかが楽しみになってくる。
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その頃、王城の一室では、
「リリアーヌが聖女様に覚醒しただと?そんなはずがあるわけがないだろっ!あの阿婆擦れをけしかけて、パトリシアと婚約破棄させたまでは、順調だったというのに、こともあろうか、リリアーヌが聖女様だと……?よりによって、あの阿婆擦れが?灯台下暗しだったというわけか?」
噂には、何でも尾ひれがつき、リリアーヌが海の魔物ポセイドンを退治したという話まで流れている。
それでサンタルチアの国から表彰され、近々、ダーウィンの第1王子と結婚されるという噂まで飛び交うようになった。
「くそっ!信じられんが、リリアーヌを奪取せねば、これまでの苦労が水泡となってしまうではないか!」
王位も聖女もすべてを手に入れなければ気が済まない。もう、アントニウスにとり、パトリシアは過去の女で、忘れ去られている存在になっていた。
翌朝、パトリシアは、アームストロングと共にサンタルチア国に赴き、荒れて荒んだ焼け野原をリゾート地っぽく再現する。
もちろん、本当に再現するのではない。アームストロングの記憶を頼りに幻影魔法で作り出しただけのもの。
うまく罠にかかってくれれば、儲けものとぐらいにしか思っていない。街道を整備し、いつでも来て頂戴と言わんばかりに、綺麗な森や街並みを整えていく。
さらに国境にトラップを仕掛け、隣国を通らずとも、サンタルチアに行けるように仕掛ける。
隣国の森に迷惑をかけるわけにはいかないから。
アントニウス一行は、何の疑いもなく、そのトラップに引っかかり、あっという間にサンタルチア国に到着したのだ。
普通、この時点で気づきそうだけど、気づかないのが自分本位なアントニウスらしいと言えばそれまでのこと。
アントニウス御一行様は、パトリシアの罠にかかり、帰らぬ人となったのだ。
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