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家政婦
6.
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義妹の夫を名乗り人から、「手荷物をまとめて誰にも見つからないように外へ出てください。」と言われた通り、勝手口から着替えだけをレジ袋に入れて、持ち出してきた。
黒塗りのワンボックスカーが外に止まっていて、中から男性が下りてきた。
「久しぶりだね。かおりちゃん。」
「え?誰?」
「詳しいことは、中に入ってから話すから、とにかく見つからないように気をつけて。」
かおりは黙って頷き、車に乗り込む。
そのワンボックスカーは、覆面パトカーだったのだ。
その男性は、施設で中学まで一緒に育った牧野翔太君だった。翔太君の母親がネグレクトで、翔太君は一時的に施設に避難している子だったのだけど、その母親はアル中がもとで、早逝したことがきっかけで、母方の祖父母に引き取られ、名字も牧野から宮前という名前に代わっていた。
それにしても、相変わらずのイケメンぶりに思わず見とれてしまう。
「かおりちゃんに捜索願が出ていたんだよ。個人的に俺も気になっていたのだけど、それが半年前だったか?急に居場所が判明したと思ったら、殺人事件のガイシャで被疑者がお姑さんだっていうから、ビックリしてね。この事件だけは、普段現場に出ない俺でも、興味があって、どうしてもやらせてくれと上に掛け合って、もぎ取った仕事なんだ。崎島が、あ、崎島とは大学が同じでさ。花園の娘と結婚したって言うから協力してもらったんだよ。それにしても、まさかまだあの家に監禁されていたとは思わなかったよ。殺しそこなったのに、あの姑さん、よくかおりちゃんのことを手放さなかったね。まあ、よかったんだけど。」
「翔ちゃん、これから私、どうしたらいいの?」
「かおりちゃんには国家権力がついているのだから、隙に何でもしたいことができるよ。そのために俺ができることすべてをかおりちゃんのために協力することを約束する。」
「ありがとう。手始めに離婚したいわ。そして、取り上げられたお金やお財布貯金通帳、それにスマートフォンを返してもらいたい。」
「いい弁護士を紹介するよ。俺の大学の先輩だ。その先生に委任状を書いて渡せば、すべてうまくやってくれるさ。」
そもそも和夫との結婚は、結婚自体が詐欺になるかもしれないので、立件できるかどうかも含めて、これから慎重に捜査することになった。お姑さんの殺人未遂と胎児殺人は、ほぼ立件できる見通しがある。花園家ぐるみでの拉致監禁疑惑については、これから捜査する。
奴隷のような強制労働も立件できる。それとともに、未払いの給料を全額保証させる。叩けば、余罪がいくらでも出てくる玉手箱に、現場の捜査員は張り切る。
その日は都内のホテルに泊まることになり、翌日、詳しい事情聴取を受けてから施設に戻ることにしたのだ。
翔ちゃんがホテル代や当面の生活費を立て替え払いしてくれたことはありがたいとしか言いようがなく、後日、働いて絶対返すからと約束して別れた。
-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-
「本日は、お忙しい中多数お集り頂いて、ありがとうございます。申し遅れました。私は花園かおりさんの法定代理人、弁護士の宗像俊三と申します。以後、お見知りおきをしていただければ、幸甚でございます。」
その場にいるのは、花園家の両親、かおりの夫の和夫、夫の妹の沙也加の4名
「さて、本題に入ります。依頼人であるかおりさんの意向は、夫である和夫さんと離婚をしたいという申し出があります。」
「バカな……、アイツはこの家以外、行く当てがないはず。かおりは今どこにいる?」
「残念ながら、その質問にはお答えできかねます。弁護士には守秘義務があり、依頼人の利益を守ることで成立いたします。離婚には、では不同意ということでしょうか?それならば、家庭裁判所に調停を申し立てますが、いかがでしょうか?」
「ふん。あんな役立たず、こっちから願い下げてやるよ。」
「そうですか。それでは、ここに離婚届を持参してきましたので、まずはこちらに署名していただけますか?」
「……はい。結構です。それと、かおりさんが独身時代に働いて貯金していた通帳を花園家に没収されたと伺っております。ついては、その通帳の返却とスマートフォンの返却並びに3年半の長期にわたる無給の労働に対する未払い賃金の請求とお姑さんから受けた折檻のごときの流産の原因となった階段での突き落としに対する賠償金の支払いと……、……それから家政婦扱いを強いられたことに対する人権を踏みにじられたことへの賠償金の支払いと……。」
弁護士による次から次への要求に、花園一家は、だんだんと顔色が悪くなっていく。
「期日までに、私の名刺にある口座へ全額振り込んでいただくようにお願いします。なお、現時点でわかっている範囲で計算しておりますが、後々これ以外の事実がございましたら、さらに計算しなおして加増されることがあるやもしれないということを付け加えさせていただきます。」
黒塗りのワンボックスカーが外に止まっていて、中から男性が下りてきた。
「久しぶりだね。かおりちゃん。」
「え?誰?」
「詳しいことは、中に入ってから話すから、とにかく見つからないように気をつけて。」
かおりは黙って頷き、車に乗り込む。
そのワンボックスカーは、覆面パトカーだったのだ。
その男性は、施設で中学まで一緒に育った牧野翔太君だった。翔太君の母親がネグレクトで、翔太君は一時的に施設に避難している子だったのだけど、その母親はアル中がもとで、早逝したことがきっかけで、母方の祖父母に引き取られ、名字も牧野から宮前という名前に代わっていた。
それにしても、相変わらずのイケメンぶりに思わず見とれてしまう。
「かおりちゃんに捜索願が出ていたんだよ。個人的に俺も気になっていたのだけど、それが半年前だったか?急に居場所が判明したと思ったら、殺人事件のガイシャで被疑者がお姑さんだっていうから、ビックリしてね。この事件だけは、普段現場に出ない俺でも、興味があって、どうしてもやらせてくれと上に掛け合って、もぎ取った仕事なんだ。崎島が、あ、崎島とは大学が同じでさ。花園の娘と結婚したって言うから協力してもらったんだよ。それにしても、まさかまだあの家に監禁されていたとは思わなかったよ。殺しそこなったのに、あの姑さん、よくかおりちゃんのことを手放さなかったね。まあ、よかったんだけど。」
「翔ちゃん、これから私、どうしたらいいの?」
「かおりちゃんには国家権力がついているのだから、隙に何でもしたいことができるよ。そのために俺ができることすべてをかおりちゃんのために協力することを約束する。」
「ありがとう。手始めに離婚したいわ。そして、取り上げられたお金やお財布貯金通帳、それにスマートフォンを返してもらいたい。」
「いい弁護士を紹介するよ。俺の大学の先輩だ。その先生に委任状を書いて渡せば、すべてうまくやってくれるさ。」
そもそも和夫との結婚は、結婚自体が詐欺になるかもしれないので、立件できるかどうかも含めて、これから慎重に捜査することになった。お姑さんの殺人未遂と胎児殺人は、ほぼ立件できる見通しがある。花園家ぐるみでの拉致監禁疑惑については、これから捜査する。
奴隷のような強制労働も立件できる。それとともに、未払いの給料を全額保証させる。叩けば、余罪がいくらでも出てくる玉手箱に、現場の捜査員は張り切る。
その日は都内のホテルに泊まることになり、翌日、詳しい事情聴取を受けてから施設に戻ることにしたのだ。
翔ちゃんがホテル代や当面の生活費を立て替え払いしてくれたことはありがたいとしか言いようがなく、後日、働いて絶対返すからと約束して別れた。
-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-
「本日は、お忙しい中多数お集り頂いて、ありがとうございます。申し遅れました。私は花園かおりさんの法定代理人、弁護士の宗像俊三と申します。以後、お見知りおきをしていただければ、幸甚でございます。」
その場にいるのは、花園家の両親、かおりの夫の和夫、夫の妹の沙也加の4名
「さて、本題に入ります。依頼人であるかおりさんの意向は、夫である和夫さんと離婚をしたいという申し出があります。」
「バカな……、アイツはこの家以外、行く当てがないはず。かおりは今どこにいる?」
「残念ながら、その質問にはお答えできかねます。弁護士には守秘義務があり、依頼人の利益を守ることで成立いたします。離婚には、では不同意ということでしょうか?それならば、家庭裁判所に調停を申し立てますが、いかがでしょうか?」
「ふん。あんな役立たず、こっちから願い下げてやるよ。」
「そうですか。それでは、ここに離婚届を持参してきましたので、まずはこちらに署名していただけますか?」
「……はい。結構です。それと、かおりさんが独身時代に働いて貯金していた通帳を花園家に没収されたと伺っております。ついては、その通帳の返却とスマートフォンの返却並びに3年半の長期にわたる無給の労働に対する未払い賃金の請求とお姑さんから受けた折檻のごときの流産の原因となった階段での突き落としに対する賠償金の支払いと……、……それから家政婦扱いを強いられたことに対する人権を踏みにじられたことへの賠償金の支払いと……。」
弁護士による次から次への要求に、花園一家は、だんだんと顔色が悪くなっていく。
「期日までに、私の名刺にある口座へ全額振り込んでいただくようにお願いします。なお、現時点でわかっている範囲で計算しておりますが、後々これ以外の事実がございましたら、さらに計算しなおして加増されることがあるやもしれないということを付け加えさせていただきます。」
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