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介護
1.
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ピンポーン♪
玄関チャイムが鳴ると、そこには見知らぬ男性が立っていた。
「私、弁護士の宗像俊三と申します。この度は、神崎美桜様の法定代理人として参りました。」
玄関で立ち話をされて、近所の人にでも聞かれたら困るので、とにかく中へ入ってもらうことにした。
弁護士を名乗る男は、書類を鞄の中から取り出し、説明を始める。
「いや。俺は美桜と離婚する気などない。それは確かに浮気したことは事実で認める。おふくろのことも含めて、申し訳ないことをしたと思っている。だが、まだやり直せるチャンスがあると思っている。弁護士の先生に言うのもなんだけど、もう一度、話し合いのチャンスを頂けませんか?」
「今まで、何度もあったと思いますがね?それでは家庭裁判所に離婚調停の申し込みをされるということでいいですか?それとも離婚訴訟に踏み切りますか?」
「いや、それは……恥の上乗りになるだけで……。」
-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-
佐々木美桜が神崎康夫と知り合ったのは、美桜の幼馴染で、康夫の愛人中塚麻由里の存在が大きくかかわっている。
佐々木美桜の実家は、小さな町工場を経営している。父は昔気質の頑固親父で、美桜は、お嬢様育ちなどさせてもらえなかった。そのため、大学を卒業してから、わざわざ、看護師になる資格を取得したのだ。少しでも、人の役に立つような看護師を目指して。
普通は高校を卒業してから看護学校に行くものだが、頑固親父はさすがに何も言わず背中を押してくれたことは、ありがたく思う。
少し遅咲きだが正看護師になれて、今のところ、順風満帆といったところ。でも、実務で覚えることがたくさんあり過ぎて、なかなか充実した毎日を送っている。
そんなある日のこと、幼馴染の麻由里が急に電話してきて、
「紹介したい人がいるから今度会わない?」
「いや、ちょっと今、仕事が忙しくて、とても麻由里と会っている時間が取れないのよ。ごめんね。」
「そういえば、アンタ大学出てから学校に入りなおすとか、言っていたけど、今、何の仕事をしているの?」
「うん。人の役に立つ仕事がしたいと思って、まあ、どんな仕事でも人の役に立つ仕事には変わりがないけど。今、もっとも人手不足が深刻な看護師の仕事をしているのよ。」
「ウッソぉ~!ヤダー。看護師なんて、けっこう汚れ仕事じゃないの?あんなものは、中卒かよくて高卒がやる底辺の仕事をよりにもよってなんでアンタが?」
「看護の仕事をバカにすることは許しません。用がないなら、話を終わりにするわ。」
「ちょっと待ってよ。私ね。大学時代から付き合っていた人と今度、結婚することになってね。あん。詳しい話は今度、会ったときに言うから、いつか時間を盗ってくれない?」
「わかったわ。おめでとう。もう、これでいいでしょ?だいたいわかったから。じゃあ、仕事に戻るね。またね。」
「何よ!こっちは、人生かかっているからの相談だって言うのに?」
「はいはい、また今度ね。」
それから3年の月日が流れても、麻由里からは結婚の報告がなかったので、美桜もつい、忙しさにかまけて気にも留めていなかったのだ。
ある日のこと、青年会議所の若手メンバーと美桜の勤務先の病院の看護師との合コンがあり、人数合わせのため、その日、非番で合った美桜が急遽呼ばれることになってしまう。
青年会議所とは、ライオンクラブのようなもので、若手の経営者、いわゆる青年実業家が集うクラブで、主に情報交換と勉強会を趣旨とした活動を行っているが、たまに、こうしたすちゅあーですや局アナと言った女性の花型職業との出会いを確保するため、合コンを行っている。
玄関チャイムが鳴ると、そこには見知らぬ男性が立っていた。
「私、弁護士の宗像俊三と申します。この度は、神崎美桜様の法定代理人として参りました。」
玄関で立ち話をされて、近所の人にでも聞かれたら困るので、とにかく中へ入ってもらうことにした。
弁護士を名乗る男は、書類を鞄の中から取り出し、説明を始める。
「いや。俺は美桜と離婚する気などない。それは確かに浮気したことは事実で認める。おふくろのことも含めて、申し訳ないことをしたと思っている。だが、まだやり直せるチャンスがあると思っている。弁護士の先生に言うのもなんだけど、もう一度、話し合いのチャンスを頂けませんか?」
「今まで、何度もあったと思いますがね?それでは家庭裁判所に離婚調停の申し込みをされるということでいいですか?それとも離婚訴訟に踏み切りますか?」
「いや、それは……恥の上乗りになるだけで……。」
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佐々木美桜が神崎康夫と知り合ったのは、美桜の幼馴染で、康夫の愛人中塚麻由里の存在が大きくかかわっている。
佐々木美桜の実家は、小さな町工場を経営している。父は昔気質の頑固親父で、美桜は、お嬢様育ちなどさせてもらえなかった。そのため、大学を卒業してから、わざわざ、看護師になる資格を取得したのだ。少しでも、人の役に立つような看護師を目指して。
普通は高校を卒業してから看護学校に行くものだが、頑固親父はさすがに何も言わず背中を押してくれたことは、ありがたく思う。
少し遅咲きだが正看護師になれて、今のところ、順風満帆といったところ。でも、実務で覚えることがたくさんあり過ぎて、なかなか充実した毎日を送っている。
そんなある日のこと、幼馴染の麻由里が急に電話してきて、
「紹介したい人がいるから今度会わない?」
「いや、ちょっと今、仕事が忙しくて、とても麻由里と会っている時間が取れないのよ。ごめんね。」
「そういえば、アンタ大学出てから学校に入りなおすとか、言っていたけど、今、何の仕事をしているの?」
「うん。人の役に立つ仕事がしたいと思って、まあ、どんな仕事でも人の役に立つ仕事には変わりがないけど。今、もっとも人手不足が深刻な看護師の仕事をしているのよ。」
「ウッソぉ~!ヤダー。看護師なんて、けっこう汚れ仕事じゃないの?あんなものは、中卒かよくて高卒がやる底辺の仕事をよりにもよってなんでアンタが?」
「看護の仕事をバカにすることは許しません。用がないなら、話を終わりにするわ。」
「ちょっと待ってよ。私ね。大学時代から付き合っていた人と今度、結婚することになってね。あん。詳しい話は今度、会ったときに言うから、いつか時間を盗ってくれない?」
「わかったわ。おめでとう。もう、これでいいでしょ?だいたいわかったから。じゃあ、仕事に戻るね。またね。」
「何よ!こっちは、人生かかっているからの相談だって言うのに?」
「はいはい、また今度ね。」
それから3年の月日が流れても、麻由里からは結婚の報告がなかったので、美桜もつい、忙しさにかまけて気にも留めていなかったのだ。
ある日のこと、青年会議所の若手メンバーと美桜の勤務先の病院の看護師との合コンがあり、人数合わせのため、その日、非番で合った美桜が急遽呼ばれることになってしまう。
青年会議所とは、ライオンクラブのようなもので、若手の経営者、いわゆる青年実業家が集うクラブで、主に情報交換と勉強会を趣旨とした活動を行っているが、たまに、こうしたすちゅあーですや局アナと言った女性の花型職業との出会いを確保するため、合コンを行っている。
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