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介護
3.
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それからどうでもいいことを喋りながら、自宅近くの最寄り駅に着く。
「もう、ここまで帰ってくれば、大丈夫です。送ってくださり、ありがとうございました。」
「いや、ご自宅まで送らせてほしい。」
美桜は遠慮しながら、断っているのだが、康夫は頑として、家まで送ると言い張り、歩いているうちに、ついに家の前まで来てしまった。
「佐々木工場……、どこかで聞いたことがある。」
その時、工場から出て、家の方へ向かっている父を見かけ、目が合う。
「おう。おかえり美桜。そちらさんは?」
「今日、病院の仲間とコンパがあるって言っていたでしょ?相手方のおひとりよ。」
「ああ、送ってもらったのかい?それはわざわざ、娘を恐れ入ります。」
「思い出した!佐々木工場は、確かウチの会社の下請け工場ですよね?」
「ん?ウチの会社とは?」
「あ、申し遅れました。私は神崎工業の神崎康夫です。」
「……神崎太一さんところの?」
「はい。長男です。父をご存知で?」
「おうよ。同じ釜の飯を食った仲だ。まあ、立ち話もなんだから、上がっていきなさい。」
それから康夫と父は、夜遅くまで、飲んでいたようだ。
-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-
合コンから数日、立ったある日のこと。看護師長から「佐々木さんに面会者が来ている。」という知らせを受け、病棟から、正面玄関へと移動する。
着いてみても、外来患者さんが多くて、誰が訪ねてきたのか、まったくわからない。
受付に聞いてみても、要領が得ないので、病棟へ帰ろうとしていると、
「美桜さん!」
声のする方を見ると、そこには康夫がいた。それも手には真っ赤なバラの花束を持って。病院のお見舞いにバラはご法度なのよね。トゲがあるから。あと、椿も。鼻の部分が丸ごとポロって落ちるからね。植木鉢ごとは、もっとダメ。根が付いているから、「寝付く」のごろ合わせで。
どうしても、お見舞いの気持ちを表すのなら、p花屋さんに行って、病院のお見舞い用で作ってもらっいぇ、配達してもらうか、フルーツの盛り合わせ程度がいいだろう。
てか、そもそも、美桜は病院に勤務しているだけで、どこか悪くて入院しているわけではない。だから、お見舞いをもらう筋合いはないはず。
「あの……。」
「美桜さんにまた会いたくなって、でも病院だからというわけでもないけど、もらってください。」
いやいや、だから病人じゃないんだってば。
「ナースステーションにでも飾ってください。」
それだけ言って、さっさと帰ってしまった。仕方なく事務室へ持っていき、正面玄関に飾ってもらうことにしたのだ。
それからというもの、毎日深紅のバラの花束が佐々木美桜宛に届くようになり、さすがに困る。
あの時の合コン仲間からは、冷やかされるものの、だんだん花束が届くことが心待ちするようになっていく。
本人が来られないときは、お花屋さんに頼んで持ってこられる。
最初は、こんなに毎日会社を抜け出して、この人、仕事しているのかな?と心配になったけど、大きな会社の役員をしているような人だから、自分でスケジュール管理もできるのだと思い直し、心配しないことにした。
康夫は、病院に来たついでに、美桜の非番の日やローテーションを確認するようになり、それで、仕事終わりや非番の日にデートを重ねるようになっていく。
そして合コンの日から、1年後、結婚式を迎えることになったのだ。
美桜は結婚後も、仕事を続けて行く気だったが、神崎工業の次期社長夫人が看護師なんて知れたら、笑いものになるからと、無理やり仕事を辞めさせられることになる。
なぜ?看護師の仕事を続けていくことが、康夫が笑いものになることと関係があるか美桜にはわからないし、理解不能のことだった。
だけど、男には男のプライドがあるから。と父から諭され、無理やり納得して、嫁ぐ朝を迎えたのだ。
「もう、ここまで帰ってくれば、大丈夫です。送ってくださり、ありがとうございました。」
「いや、ご自宅まで送らせてほしい。」
美桜は遠慮しながら、断っているのだが、康夫は頑として、家まで送ると言い張り、歩いているうちに、ついに家の前まで来てしまった。
「佐々木工場……、どこかで聞いたことがある。」
その時、工場から出て、家の方へ向かっている父を見かけ、目が合う。
「おう。おかえり美桜。そちらさんは?」
「今日、病院の仲間とコンパがあるって言っていたでしょ?相手方のおひとりよ。」
「ああ、送ってもらったのかい?それはわざわざ、娘を恐れ入ります。」
「思い出した!佐々木工場は、確かウチの会社の下請け工場ですよね?」
「ん?ウチの会社とは?」
「あ、申し遅れました。私は神崎工業の神崎康夫です。」
「……神崎太一さんところの?」
「はい。長男です。父をご存知で?」
「おうよ。同じ釜の飯を食った仲だ。まあ、立ち話もなんだから、上がっていきなさい。」
それから康夫と父は、夜遅くまで、飲んでいたようだ。
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合コンから数日、立ったある日のこと。看護師長から「佐々木さんに面会者が来ている。」という知らせを受け、病棟から、正面玄関へと移動する。
着いてみても、外来患者さんが多くて、誰が訪ねてきたのか、まったくわからない。
受付に聞いてみても、要領が得ないので、病棟へ帰ろうとしていると、
「美桜さん!」
声のする方を見ると、そこには康夫がいた。それも手には真っ赤なバラの花束を持って。病院のお見舞いにバラはご法度なのよね。トゲがあるから。あと、椿も。鼻の部分が丸ごとポロって落ちるからね。植木鉢ごとは、もっとダメ。根が付いているから、「寝付く」のごろ合わせで。
どうしても、お見舞いの気持ちを表すのなら、p花屋さんに行って、病院のお見舞い用で作ってもらっいぇ、配達してもらうか、フルーツの盛り合わせ程度がいいだろう。
てか、そもそも、美桜は病院に勤務しているだけで、どこか悪くて入院しているわけではない。だから、お見舞いをもらう筋合いはないはず。
「あの……。」
「美桜さんにまた会いたくなって、でも病院だからというわけでもないけど、もらってください。」
いやいや、だから病人じゃないんだってば。
「ナースステーションにでも飾ってください。」
それだけ言って、さっさと帰ってしまった。仕方なく事務室へ持っていき、正面玄関に飾ってもらうことにしたのだ。
それからというもの、毎日深紅のバラの花束が佐々木美桜宛に届くようになり、さすがに困る。
あの時の合コン仲間からは、冷やかされるものの、だんだん花束が届くことが心待ちするようになっていく。
本人が来られないときは、お花屋さんに頼んで持ってこられる。
最初は、こんなに毎日会社を抜け出して、この人、仕事しているのかな?と心配になったけど、大きな会社の役員をしているような人だから、自分でスケジュール管理もできるのだと思い直し、心配しないことにした。
康夫は、病院に来たついでに、美桜の非番の日やローテーションを確認するようになり、それで、仕事終わりや非番の日にデートを重ねるようになっていく。
そして合コンの日から、1年後、結婚式を迎えることになったのだ。
美桜は結婚後も、仕事を続けて行く気だったが、神崎工業の次期社長夫人が看護師なんて知れたら、笑いものになるからと、無理やり仕事を辞めさせられることになる。
なぜ?看護師の仕事を続けていくことが、康夫が笑いものになることと関係があるか美桜にはわからないし、理解不能のことだった。
だけど、男には男のプライドがあるから。と父から諭され、無理やり納得して、嫁ぐ朝を迎えたのだ。
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