離婚から玉の輿婚~クズ男は熨斗を付けて差し上げます

青の雀

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玉の輿

6.

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 その夜、洋一が帰宅するのを待つ美里。

 「今日ね。勤務先病院に、萌子さんという方がいらしてね。洋一と離婚してくれって言ってきたんだけど、洋一は本気なの?」

 「ああ、萌ちゃんが、そっち行ったのか?」

 「で、どうなのよ?離婚する気あるの?」

 「そらぁ、若い娘の方がいいに決まっているだろ?美里みたいなオバサンより。」

 「なによ。自分だって、オジサンのくせに。」

 「まあ、そう怒るな。美里がなかなか開業医に踏み切れないから、ついな。若い娘をつまみ食いしただけだ。それに美里の両親もさっさとマンション建設に賛成してくれればいいのに、無駄な抵抗をしやがって。」

 洋一は、無造作に一枚の書類を渡してきた。

 よく見ると、それは離婚届で、洋一が書く欄は、しっかり埋まっている。後は、美里がそれにサインして、役所に提出すればいいだけの話。

 きちんと財産分与のことなど、ハナから話し合う気もないというところか。

 「ああ、明日から、俺は萌ちゃんと温泉旅行に行くから、それを提出しといてくれ。」

 「わかりました。」

 翌日、もう洋一の姿はない。残された紙きれは、昨日の離婚届だけで、置手紙もなく温泉旅行に行ってしまったようだ。

 「夫婦って、意外にあっけないものね。」

 結婚した経緯がアレだから、別れるときもコレって言うことか、と妙に納得する。

 そして、両親の新居のために引っ越し荷物をまとめ始める。業者にすべてお任せで頼んでみたが、自分でもできることはやろうと参加している。

 美里の大学の友達が紹介してくれた新居はタワマンの30階で眺望がすばらしく良かったので、一目で気に入り、両親も喜んでいる。

 購入代金は、長年住んでいた美里の実家を売却し、その代金と父親の退職金、それに美里の開業資金で一括払いにし、ローンは組まない。

 本当は、わずかでもローンを組んだ方が減税になるけど、ローン審査に手間がかかると、洋一が温泉旅行から帰ってくるので、それまでにすべてを終わらせたかったから、一括払いを選択したのだ。

 離婚届もその日のうちに、区役所に出し、晴れて美里は吉村美里に戻る。

 その夜、両親と大学時代の友人を招いて、ささやかなお祝い会をする。転居のお祝いと離婚のお祝い会。

 「吉村さんのお役に立てて、光栄です。」

 「急なお願いだったにもかかわらず、この度は、私たちのためにこんな素晴らしいマンションをご紹介していただき、ありがとうございます。美里もこれで、晴れて自由の身となりました。」

 「同級生で友人だけど、勤務先の上司に当たるような偉い人なんだよ。私のとっておきの隠し玉を遣う日が来るとは、思ってもみなかったんだけどね。」

 「コレ美里。隠し玉なんて、言い方失礼ですよ。」

 「はーい。」

 美里は首をすくめて見せる。

 「あのマンションの1階に、まだスペースがあるんだけど、よければ、そこで開業してみないか?」

 「ああ、当面は無理です。あのマンションを買うのに、虎の子をすべて使い果たしてしまって、もうしばらく勤務医をして、お金を貯めてからにします!」

 「まだ若いのだから、焦ることはないよ。」

 「そうよ。まだ34歳だからね。」

 「もう34歳というべきか……、」



-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-



  「本日は、ようこそお集まりいただきました。わたくし弁護士の宗像俊三と申します。吉村美里さんの法定代理人をしております。」

 「イヤだ、イヤだ。美里とは何があっても別れたくないんだ。」

 「いえ、美里さんとの離婚はすでに成立しております。今日は、その後のことでお話に参りました。」

 「へ?離婚が成立ってことはなんだよ?」

 「元ご主人は、美里様に離婚届を早く提出するようにおっしゃいまして、その日のうちに離婚届が区役所に提出されておりまして、すでにアカの他人となっております。」

 「ウソだよ。そんな、アイツは俺にべた惚れしているはずで、あの離婚届はいつもの嫌がらせのつもりで渡しただけなのだ。だから、間違いだ。」

 「いえ、美里様は、せいせいしたとおっしゃっておられますから、もうご主人には気が残っていないかと推察されます。」

 「本当に、離婚は成立したというのか?そんな……、俺には美里が必要なんだ。なあ、弁護士さんよ。金は払うから、美里に復縁を頼んでくれないか?」

 「ちょっとぉ!奥さんが離婚してくれたのなら、私と結婚してよぉ。」

 「うるさいっ!お前は黙ってろ。」

 「なんなのよぉ、私とのことは遊びだって言うの?ひどいわっ!ひどすぎるっ!私のカラダをさんざん弄んでおきながら。」

 「そっちが誘ってきたのではないか!なにが!どこが!清純な女子大生だ!お前、処女じゃなかったじゃないか!」

 「美里は、俺と結婚するまで、処女だったんだぞ!」

 「げ!気持ち悪いオバサンが……!絶対、結婚してもらうんだからね!」

 「ゴホン。話を進めさせてもよろしいでしょうか?美里様との婚姻中に、そつらの萌子さんと浮気をなさっていたということを認められるのですね。それでは、婚姻期間中の不貞行為が離婚原因ということで、それぞれ、慰謝料として500万円を期日までに、私の事務所の口座宛に振り込んでいただきます。」

 「えーっ!私、まだ学生だよ?そんなお金ないもん。」

 「なければ、ご両親に立て替え払いしてもらってください。人の旦那様に手を出したのだから、それに対する慰謝料は当然発生します。大学生なのだから、それぐらいの常識おありですよね?」

 「ええー!ヤダー!洋一、代わりに私の分も払ってよ。もうすぐ開業医になるんだったら、払えるでしょ?」

 「は?何言っているんだ?俺は医者じゃないよ、医者は美里の方だ。」

 「え?うそ?なら、マンションオーナーの話は?マンションを一等持っているのなら、お金持ちのはずじゃん。」

 「それも美里が拒否したから棚上げになっている。」

 「なによ。それじゃ、アンタなんて、何の価値もないじゃないの?せっかく玉の輿に乗れると思ってたのにぃ。」

 結局、洋一と萌子さんの慰謝料は、洋一の父親の退職金で立て替え払いされることになった。しかし、萌子さんは、その借金返済のために大学を中退して、キャバクラで働き、あっという間に借金返済のめどが立ったらしい。

 洋一は、というと不労所得の夢が破れ、金づるだった美里に逃げられ、父親への借金だけが残る。

 そして取り壊された美里の実家の空き地を眺めながら、ここで花火やバーベキューをしていたころのことを思い出し、涙する。
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