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物心ついた時から孤児だったミカエルは、教会で下男として働き始めたが、年頃に近づくになり、ナヨナヨとしてきたので、修道士がミカエルのカラダを調べ始め、少女だということが分かったのだ。
名前からして、男の子に違いないと勝手に下男として使ってしまっていた失策だが、女の子であるならば、聖女見習いとして、このまま教会に据え置くことにした。
しかし名ばかりの聖女見習いは、下男としての待遇は変わらず、わずかばかりの食事と風呂、寝床だけが確保されただけの給金ももらえなかったのだ。
数年後、ミカエルは推定年齢15歳の美しい少女へと変貌する。
その頃、都では篤志家がこぞって、孤児を養女・養子に迎え入れていた。バスティーユ公爵もそのうちの一人で、教会に訪れた際に、美しいミカエルに心を奪われてしまう。
「この娘にする。名前はなんだ?」
「いやぁ。さすが公爵閣下!この娘はまだ生娘で、ミカエルというのです。名前が名前なので、最初男の子として引き取ったので、綺麗なカラダのままでございます」
「ふんっ。当たり前だろっ。この娘は聖女見習いだろ?」
「ああ、そうでございました。ずっと下働きの仕事をさせておりましたので……」
その日は偶然のタイミングで、掃除の汚水バケツを捨てに行ったところで、ばったりとバスティーユ公爵様に目が合ってしまったのだ。
早速、教会で手続きを行い、ミカエルを我が家に連れ帰る。バスティーユ公爵には子供はいない。このままでは家門が途絶えてしまう心配をしたからだ。美しいミカエルなら、いくらでも婿に入ってくれるものがいるだろうという打算の元、引き取ったのだ。
「ここが今日からミカエルの家だ。ミカエルは、今からミカエル・バスティーユとなったわけだ。そして俺のことはお父様と呼んでくれ」
「はい。お父様」
ミカエルは、待ち構えていた侍女の手により、風呂で磨かれ、今まで着たことがないような可愛らしい薄いピンクのドレスに着替えさせられた。
教会でも、女の子だとわかっても、ずっとズボン姿のままでエプロンはもらえたけど、誰も女の子としての扱いはしてくれなかった。
だからこの家に来て、女の子としての扱いをされることもドレスを着させてもらえることも、すべてが初めての経験で嬉しくてたまらない。
ミカエルは、ドレスの裾をひらひらさせて、くるくる回って楽しそうにしている。その姿が愛らしく今まで、子供がいなかった公爵家に花が咲いたように明るさが加わる。
しかし、バスティーユ夫人はミカエルのことが気に入らなく、事あるごとにミカエルを叱り飛ばし、躾と称して折檻に及ぶ。
使用人は一様に顔をしかめるが、誰も夫人を止めることができない。こっそりと、公爵の耳に入れるものもいたが、公爵とて、折檻の現場に居合わせたことがなく、なかなか夫人に注意することができない。
夫人は、公爵の目を盗み、庭師の男とデキていた。その場にたまたま通りがかっただけのミカエルに現場を見られたと勘違いしていたのだ。
もちろんミカエルは何も見ていない。ただ教会と違って公爵邸は広く、あちこち見物していただけだった。
折檻は、時に食事抜きの日もあった。それでも教会にいた時よりはマシだと思い、歯を食いしばって耐えていると、そのうち事件が起きた。
夫人が庭師に見られたかもしれないと相談したのだ。
「お嬢ちゃん、今度、オジサンの仕事場に来てみないか?」
「え……でも……」
ミカエルはチラリと夫人を見やる。
「ここでの暮らしもそろそろなれたと思うから、一度外の世界を見てみるのもいいことだと思うのだけど、どうかしら?」
いつもの厳しい口調ではなく、なんとなく今日は優しい。それで、ついコクリと頷いてしまう。
庭師と夫人はニヤリと微笑みあう。
庭師は、ミカエルを連れ出し、月に一度しか行かない西部への仕事に同行させ、廃屋に置き去りにした。
名前からして、男の子に違いないと勝手に下男として使ってしまっていた失策だが、女の子であるならば、聖女見習いとして、このまま教会に据え置くことにした。
しかし名ばかりの聖女見習いは、下男としての待遇は変わらず、わずかばかりの食事と風呂、寝床だけが確保されただけの給金ももらえなかったのだ。
数年後、ミカエルは推定年齢15歳の美しい少女へと変貌する。
その頃、都では篤志家がこぞって、孤児を養女・養子に迎え入れていた。バスティーユ公爵もそのうちの一人で、教会に訪れた際に、美しいミカエルに心を奪われてしまう。
「この娘にする。名前はなんだ?」
「いやぁ。さすが公爵閣下!この娘はまだ生娘で、ミカエルというのです。名前が名前なので、最初男の子として引き取ったので、綺麗なカラダのままでございます」
「ふんっ。当たり前だろっ。この娘は聖女見習いだろ?」
「ああ、そうでございました。ずっと下働きの仕事をさせておりましたので……」
その日は偶然のタイミングで、掃除の汚水バケツを捨てに行ったところで、ばったりとバスティーユ公爵様に目が合ってしまったのだ。
早速、教会で手続きを行い、ミカエルを我が家に連れ帰る。バスティーユ公爵には子供はいない。このままでは家門が途絶えてしまう心配をしたからだ。美しいミカエルなら、いくらでも婿に入ってくれるものがいるだろうという打算の元、引き取ったのだ。
「ここが今日からミカエルの家だ。ミカエルは、今からミカエル・バスティーユとなったわけだ。そして俺のことはお父様と呼んでくれ」
「はい。お父様」
ミカエルは、待ち構えていた侍女の手により、風呂で磨かれ、今まで着たことがないような可愛らしい薄いピンクのドレスに着替えさせられた。
教会でも、女の子だとわかっても、ずっとズボン姿のままでエプロンはもらえたけど、誰も女の子としての扱いはしてくれなかった。
だからこの家に来て、女の子としての扱いをされることもドレスを着させてもらえることも、すべてが初めての経験で嬉しくてたまらない。
ミカエルは、ドレスの裾をひらひらさせて、くるくる回って楽しそうにしている。その姿が愛らしく今まで、子供がいなかった公爵家に花が咲いたように明るさが加わる。
しかし、バスティーユ夫人はミカエルのことが気に入らなく、事あるごとにミカエルを叱り飛ばし、躾と称して折檻に及ぶ。
使用人は一様に顔をしかめるが、誰も夫人を止めることができない。こっそりと、公爵の耳に入れるものもいたが、公爵とて、折檻の現場に居合わせたことがなく、なかなか夫人に注意することができない。
夫人は、公爵の目を盗み、庭師の男とデキていた。その場にたまたま通りがかっただけのミカエルに現場を見られたと勘違いしていたのだ。
もちろんミカエルは何も見ていない。ただ教会と違って公爵邸は広く、あちこち見物していただけだった。
折檻は、時に食事抜きの日もあった。それでも教会にいた時よりはマシだと思い、歯を食いしばって耐えていると、そのうち事件が起きた。
夫人が庭師に見られたかもしれないと相談したのだ。
「お嬢ちゃん、今度、オジサンの仕事場に来てみないか?」
「え……でも……」
ミカエルはチラリと夫人を見やる。
「ここでの暮らしもそろそろなれたと思うから、一度外の世界を見てみるのもいいことだと思うのだけど、どうかしら?」
いつもの厳しい口調ではなく、なんとなく今日は優しい。それで、ついコクリと頷いてしまう。
庭師と夫人はニヤリと微笑みあう。
庭師は、ミカエルを連れ出し、月に一度しか行かない西部への仕事に同行させ、廃屋に置き去りにした。
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