置き去りにされた聖女様

青の雀

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 それから瞬く間にミカエルの周りが騒がしくなり、王家からは使者が来たり、教会からも「今一度お戻りを」と迫られたり、もちろんバスティーユ家からは豪華な馬車で迎えに来てもらったりと。それに加え地元の騎士団から、なぜあんな廃屋の中にいたのかを問い質され、庭師のオジサンにあの廃屋の中で待つように言われ、ずっと待っていたが誰も来てくれなかった。その代わり森の動物たちが来てくれて、食事や水をくれたことを話した。

 この鹿もそのうちの一頭で、いつまで待ってもオジサンが来てくれないので、諦めて王都に歩いて帰ろうとしていた時、偶然怪我をしている鹿を見つけたので、治してあげようと祈りを捧げたら、聖女様に覚醒してしまったことなどを洗いざらい述べた。

 時は少しさかのぼり、山の中で公女様にあらかたの事情を聴いたときのこと。お屋敷に出入りしている庭師のオジサンに、この山の中に捨てられたと聞き驚いたのだ。

 ダニエル・シュナイザーは、その庭師に心当たりがあった。あれは確か3日前に我が家の庭の手入れに来ていた。
 あ奴が、公女様置き去りの犯人か……。目星がついたところに騎士団が運よく来てくれたので、騎士団長に耳打ちして、領地の娼館にしけ込んでいた庭師をひっ捕らえたところだったのだ。

 領主のダニエルは、直感的に、これは計画されたものだと見抜く。

 庭師を締め上げ、誰に頼まれたかを吐かせると、それはバスティーユ公爵夫人に頼まれたことを白状する。

 バスティーユ夫人は、元々妊娠しにくい体質であったが、結婚後3年してから、ようやく妊娠していることが分かった。臨月に差し掛かった時、ふとした不注意から流産してしまい、それ以降子供が産めないカラダになってしまったという。

 子供は産めないカラダになったとしても、性欲はある。旦那の方は、どこで処理していたかはわからないが、夫人はその処理を庭師に求め、庭師もそれに応じた。

 よくある話といえば、よくある話だが、相手は公爵夫人。聖女様を置き去りにしたという大罪を犯し、王家ともつながる家の不祥事は極刑は免れないだろう。それに不義密通もある。

 聖女様がどの家に行かれるか次第だろうが、いずれにしても庭師の処刑は免れないことから、王家まで罪人用の馬車を用意しなければならない。

 それにしてもあのあたりの廃屋は、野盗や人身売買の根城とも近かったというのに、よくぞご無事でいられたものだと思う。これも神の御加護か、はたまた森の動物たちが守っていたのか……定かではない。

 ミカエルの身柄が王都に向け出発する日の朝、黄金の鹿とお別れしようとしていると、どこからともなくいつぞやの動物たちが集まってくる。あの時にはいなかった狼さえもいて、少々コワイ。

 みんながお見送りに来てくれたと勘違いしていると、どうやら違うらしい。あの森を捨て、王都まで同行したいらしい。

 えっ!?そんなことしたら生態系が変わってしまうのでは?と妙な心配をするミカエル。それでも、ついて行きたいと縋る動物たちをしり目に。ミカエルは聖女様になったのだから、あることができるかもしれないと実験に及ぶ。

 それは転移魔法で、よくラノベなどで出てくるやつ。教会に来られる信者様の忘れ物の仲にラノベ本があり、時々、呼んだことがあって、自分もできるかどうか試してみたいのだ。

 領主の館の裏手に回り、そこでこっそり転移魔法を使ってみる。

 目標地は、おっかなびっくりだったけど、誰にも知られることはないバスティーユ家の自室ベッドの上。

 この時間なら、誰もいないはず。教会にしてもいいところだけど、あんな薄暗い納屋に帰るのは、まっぴらごめんだから。

 目を閉じて、集中する。グラリと世界が歪んだような感覚がカラダに残るものの、うっすらと眼を開けると見慣れた自室のベッドの上にいた。

 案の定、自室には外から鍵がかけられていて、誰もいない。ミカエルが出発する前の状態になっていた。

 窓の外を見やると、お父様が馬車に乗り込むところが見えた。お仕事で王城に行かれるのかしら?と思っていたら、なぜかお父様は、窓際に立っていたミカエルの姿を見つけられ、荷物はそのままに慌てて家の中に入ってこられたのだ。

 鍵がかかっているのか、慌てた様子でカギをガチャガチャと開けられ、部屋にいたミカエルに抱き着いてこられた。

「お帰りミカエル!無事だったか?」

 涙を流しながら抱き着いてこられたお父様は、本当にミカエルのことを心配してくれていたことがわかり、ミカエルもそっと涙を流す。

 ひとしきり抱き合った後、これから西部の領主の館に戻らなければ、あちらの皆さんがみんな心配されていることを告げ、自分に転移魔法をかけようとした時、ここに来た目的を忘れていたことに思い出す。

「お父様お願いがあります」

「なんだい。なんでも言うてみるがよい」

「西部の森の動物たちをこちらのお屋敷の庭の森に移住させてもかまいませんか?どうしても別れづらくて、廃屋で一人ぼっちの時、木の実や水を恵んでくださったの」

「なんと!メルヘンのような話だな。もちろん、いいとも!」

 ミカエルはパァっと笑顔になり、

「お父様も、西部にいらっしゃる?」

「ああ、そのつもりで今から出るところだ」

 ミカエルは父に抱き着きながら転移魔法をかけ、西部に戻った。

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