3 / 5
3.
しおりを挟む
それから瞬く間にミカエルの周りが騒がしくなり、王家からは使者が来たり、教会からも「今一度お戻りを」と迫られたり、もちろんバスティーユ家からは豪華な馬車で迎えに来てもらったりと。それに加え地元の騎士団から、なぜあんな廃屋の中にいたのかを問い質され、庭師のオジサンにあの廃屋の中で待つように言われ、ずっと待っていたが誰も来てくれなかった。その代わり森の動物たちが来てくれて、食事や水をくれたことを話した。
この鹿もそのうちの一頭で、いつまで待ってもオジサンが来てくれないので、諦めて王都に歩いて帰ろうとしていた時、偶然怪我をしている鹿を見つけたので、治してあげようと祈りを捧げたら、聖女様に覚醒してしまったことなどを洗いざらい述べた。
時は少しさかのぼり、山の中で公女様にあらかたの事情を聴いたときのこと。お屋敷に出入りしている庭師のオジサンに、この山の中に捨てられたと聞き驚いたのだ。
ダニエル・シュナイザーは、その庭師に心当たりがあった。あれは確か3日前に我が家の庭の手入れに来ていた。
あ奴が、公女様置き去りの犯人か……。目星がついたところに騎士団が運よく来てくれたので、騎士団長に耳打ちして、領地の娼館にしけ込んでいた庭師をひっ捕らえたところだったのだ。
領主のダニエルは、直感的に、これは計画されたものだと見抜く。
庭師を締め上げ、誰に頼まれたかを吐かせると、それはバスティーユ公爵夫人に頼まれたことを白状する。
バスティーユ夫人は、元々妊娠しにくい体質であったが、結婚後3年してから、ようやく妊娠していることが分かった。臨月に差し掛かった時、ふとした不注意から流産してしまい、それ以降子供が産めないカラダになってしまったという。
子供は産めないカラダになったとしても、性欲はある。旦那の方は、どこで処理していたかはわからないが、夫人はその処理を庭師に求め、庭師もそれに応じた。
よくある話といえば、よくある話だが、相手は公爵夫人。聖女様を置き去りにしたという大罪を犯し、王家ともつながる家の不祥事は極刑は免れないだろう。それに不義密通もある。
聖女様がどの家に行かれるか次第だろうが、いずれにしても庭師の処刑は免れないことから、王家まで罪人用の馬車を用意しなければならない。
それにしてもあのあたりの廃屋は、野盗や人身売買の根城とも近かったというのに、よくぞご無事でいられたものだと思う。これも神の御加護か、はたまた森の動物たちが守っていたのか……定かではない。
ミカエルの身柄が王都に向け出発する日の朝、黄金の鹿とお別れしようとしていると、どこからともなくいつぞやの動物たちが集まってくる。あの時にはいなかった狼さえもいて、少々コワイ。
みんながお見送りに来てくれたと勘違いしていると、どうやら違うらしい。あの森を捨て、王都まで同行したいらしい。
えっ!?そんなことしたら生態系が変わってしまうのでは?と妙な心配をするミカエル。それでも、ついて行きたいと縋る動物たちをしり目に。ミカエルは聖女様になったのだから、あることができるかもしれないと実験に及ぶ。
それは転移魔法で、よくラノベなどで出てくるやつ。教会に来られる信者様の忘れ物の仲にラノベ本があり、時々、呼んだことがあって、自分もできるかどうか試してみたいのだ。
領主の館の裏手に回り、そこでこっそり転移魔法を使ってみる。
目標地は、おっかなびっくりだったけど、誰にも知られることはないバスティーユ家の自室ベッドの上。
この時間なら、誰もいないはず。教会にしてもいいところだけど、あんな薄暗い納屋に帰るのは、まっぴらごめんだから。
目を閉じて、集中する。グラリと世界が歪んだような感覚がカラダに残るものの、うっすらと眼を開けると見慣れた自室のベッドの上にいた。
案の定、自室には外から鍵がかけられていて、誰もいない。ミカエルが出発する前の状態になっていた。
窓の外を見やると、お父様が馬車に乗り込むところが見えた。お仕事で王城に行かれるのかしら?と思っていたら、なぜかお父様は、窓際に立っていたミカエルの姿を見つけられ、荷物はそのままに慌てて家の中に入ってこられたのだ。
鍵がかかっているのか、慌てた様子でカギをガチャガチャと開けられ、部屋にいたミカエルに抱き着いてこられた。
「お帰りミカエル!無事だったか?」
涙を流しながら抱き着いてこられたお父様は、本当にミカエルのことを心配してくれていたことがわかり、ミカエルもそっと涙を流す。
ひとしきり抱き合った後、これから西部の領主の館に戻らなければ、あちらの皆さんがみんな心配されていることを告げ、自分に転移魔法をかけようとした時、ここに来た目的を忘れていたことに思い出す。
「お父様お願いがあります」
「なんだい。なんでも言うてみるがよい」
「西部の森の動物たちをこちらのお屋敷の庭の森に移住させてもかまいませんか?どうしても別れづらくて、廃屋で一人ぼっちの時、木の実や水を恵んでくださったの」
「なんと!メルヘンのような話だな。もちろん、いいとも!」
ミカエルはパァっと笑顔になり、
「お父様も、西部にいらっしゃる?」
「ああ、そのつもりで今から出るところだ」
ミカエルは父に抱き着きながら転移魔法をかけ、西部に戻った。
この鹿もそのうちの一頭で、いつまで待ってもオジサンが来てくれないので、諦めて王都に歩いて帰ろうとしていた時、偶然怪我をしている鹿を見つけたので、治してあげようと祈りを捧げたら、聖女様に覚醒してしまったことなどを洗いざらい述べた。
時は少しさかのぼり、山の中で公女様にあらかたの事情を聴いたときのこと。お屋敷に出入りしている庭師のオジサンに、この山の中に捨てられたと聞き驚いたのだ。
ダニエル・シュナイザーは、その庭師に心当たりがあった。あれは確か3日前に我が家の庭の手入れに来ていた。
あ奴が、公女様置き去りの犯人か……。目星がついたところに騎士団が運よく来てくれたので、騎士団長に耳打ちして、領地の娼館にしけ込んでいた庭師をひっ捕らえたところだったのだ。
領主のダニエルは、直感的に、これは計画されたものだと見抜く。
庭師を締め上げ、誰に頼まれたかを吐かせると、それはバスティーユ公爵夫人に頼まれたことを白状する。
バスティーユ夫人は、元々妊娠しにくい体質であったが、結婚後3年してから、ようやく妊娠していることが分かった。臨月に差し掛かった時、ふとした不注意から流産してしまい、それ以降子供が産めないカラダになってしまったという。
子供は産めないカラダになったとしても、性欲はある。旦那の方は、どこで処理していたかはわからないが、夫人はその処理を庭師に求め、庭師もそれに応じた。
よくある話といえば、よくある話だが、相手は公爵夫人。聖女様を置き去りにしたという大罪を犯し、王家ともつながる家の不祥事は極刑は免れないだろう。それに不義密通もある。
聖女様がどの家に行かれるか次第だろうが、いずれにしても庭師の処刑は免れないことから、王家まで罪人用の馬車を用意しなければならない。
それにしてもあのあたりの廃屋は、野盗や人身売買の根城とも近かったというのに、よくぞご無事でいられたものだと思う。これも神の御加護か、はたまた森の動物たちが守っていたのか……定かではない。
ミカエルの身柄が王都に向け出発する日の朝、黄金の鹿とお別れしようとしていると、どこからともなくいつぞやの動物たちが集まってくる。あの時にはいなかった狼さえもいて、少々コワイ。
みんながお見送りに来てくれたと勘違いしていると、どうやら違うらしい。あの森を捨て、王都まで同行したいらしい。
えっ!?そんなことしたら生態系が変わってしまうのでは?と妙な心配をするミカエル。それでも、ついて行きたいと縋る動物たちをしり目に。ミカエルは聖女様になったのだから、あることができるかもしれないと実験に及ぶ。
それは転移魔法で、よくラノベなどで出てくるやつ。教会に来られる信者様の忘れ物の仲にラノベ本があり、時々、呼んだことがあって、自分もできるかどうか試してみたいのだ。
領主の館の裏手に回り、そこでこっそり転移魔法を使ってみる。
目標地は、おっかなびっくりだったけど、誰にも知られることはないバスティーユ家の自室ベッドの上。
この時間なら、誰もいないはず。教会にしてもいいところだけど、あんな薄暗い納屋に帰るのは、まっぴらごめんだから。
目を閉じて、集中する。グラリと世界が歪んだような感覚がカラダに残るものの、うっすらと眼を開けると見慣れた自室のベッドの上にいた。
案の定、自室には外から鍵がかけられていて、誰もいない。ミカエルが出発する前の状態になっていた。
窓の外を見やると、お父様が馬車に乗り込むところが見えた。お仕事で王城に行かれるのかしら?と思っていたら、なぜかお父様は、窓際に立っていたミカエルの姿を見つけられ、荷物はそのままに慌てて家の中に入ってこられたのだ。
鍵がかかっているのか、慌てた様子でカギをガチャガチャと開けられ、部屋にいたミカエルに抱き着いてこられた。
「お帰りミカエル!無事だったか?」
涙を流しながら抱き着いてこられたお父様は、本当にミカエルのことを心配してくれていたことがわかり、ミカエルもそっと涙を流す。
ひとしきり抱き合った後、これから西部の領主の館に戻らなければ、あちらの皆さんがみんな心配されていることを告げ、自分に転移魔法をかけようとした時、ここに来た目的を忘れていたことに思い出す。
「お父様お願いがあります」
「なんだい。なんでも言うてみるがよい」
「西部の森の動物たちをこちらのお屋敷の庭の森に移住させてもかまいませんか?どうしても別れづらくて、廃屋で一人ぼっちの時、木の実や水を恵んでくださったの」
「なんと!メルヘンのような話だな。もちろん、いいとも!」
ミカエルはパァっと笑顔になり、
「お父様も、西部にいらっしゃる?」
「ああ、そのつもりで今から出るところだ」
ミカエルは父に抱き着きながら転移魔法をかけ、西部に戻った。
85
あなたにおすすめの小説
公爵令嬢の一度きりの魔法
夜桜
恋愛
領地を譲渡してくれるという条件で、皇帝アストラと婚約を交わした公爵令嬢・フィセル。しかし、実際に領地へ赴き現場を見て見ればそこはただの荒地だった。
騙されたフィセルは追及するけれど婚約破棄される。
一度だけ魔法が使えるフィセルは、魔法を使って人生最大の選択をする。
お礼を言うのはこちらですわ!~婚約者も財産も、すべてを奪われた悪役?令嬢の華麗なる反撃
水無月 星璃
恋愛
【悪役?令嬢シリーズ1作目】
一話完結。
婚約者も財産も、すべてを奪われ、ついには家を追い出されたイザベラ・フォン・リースフェルト。
けれど彼女は泣き寝入りなどしない。
――奪わせてあげますわ。その代わり……。
上品に、華麗に「ざまぁ」する悪役?令嬢のひとり語り。
★続編『謝罪するのはこちらですわ!~すべてを奪ってしまった悪役?令嬢の優雅なる防衛』
https://www.alphapolis.co.jp/novel/947398225/744007806
悪役令嬢に相応しいエンディング
無色
恋愛
月の光のように美しく気高い、公爵令嬢ルナティア=ミューラー。
ある日彼女は卒業パーティーで、王子アイベックに国外追放を告げられる。
さらには平民上がりの令嬢ナージャと婚約を宣言した。
ナージャはルナティアの悪い評判をアイベックに吹聴し、彼女を貶めたのだ。
だが彼らは愚かにも知らなかった。
ルナティアには、ミューラー家には、貴族の令嬢たちしか知らない裏の顔があるということを。
そして、待ち受けるエンディングを。
バカ二人のおかげで優秀な婿と結婚できるお話
下菊みこと
恋愛
バカ二人が自滅するだけ。ゴミを一気に処分できてスッキリするお話。
ルルシアは義妹と自分の婚約者が火遊びをして、子供が出来たと知る。ルルシアは二人の勘違いを正しつつも、二人のお望み通り婚約者のトレードはしてあげる。結果、本来より良い婿を手に入れることになる。
小説家になろう様でも投稿しています。
愛しの第一王子殿下
みつまめ つぼみ
恋愛
公爵令嬢アリシアは15歳。三年前に魔王討伐に出かけたゴルテンファル王国の第一王子クラウス一行の帰りを待ちわびていた。
そして帰ってきたクラウス王子は、仲間の訃報を口にし、それと同時に同行していた聖女との婚姻を告げる。
クラウスとの婚約を破棄されたアリシアは、言い寄ってくる第二王子マティアスの手から逃れようと、国外脱出を図るのだった。
そんなアリシアを手助けするフードを目深に被った旅の戦士エドガー。彼とアリシアの逃避行が、今始まる。
犠牲になるのは、妹である私
木山楽斗
恋愛
男爵家の令嬢であるソフィーナは、父親から冷遇されていた。彼女は溺愛されている双子の姉の陰とみなされており、個人として認められていなかったのだ。
ソフィーナはある時、姉に代わって悪名高きボルガン公爵の元に嫁ぐことになった。
好色家として有名な彼は、離婚を繰り返しており隠し子もいる。そんな彼の元に嫁げば幸せなどないとわかっていつつも、彼女は家のために犠牲になると決めたのだった。
婚約者となってボルガン公爵家の屋敷に赴いたソフィーナだったが、彼女はそこでとある騒ぎに巻き込まれることになった。
ボルガン公爵の子供達は、彼の横暴な振る舞いに耐えかねて、公爵家の改革に取り掛かっていたのである。
結果として、ボルガン公爵はその力を失った。ソフィーナは彼に弄ばれることなく、彼の子供達と良好な関係を築くことに成功したのである。
さらにソフィーナの実家でも、同じように改革が起こっていた。彼女を冷遇する父親が、その力を失っていたのである。
婚約破棄からの復讐~私を捨てたことを後悔してください
satomi
恋愛
私、公爵令嬢のフィオナ=バークレイはアールディクス王国の第2王子、ルード様と婚約をしていましたが、かなりの大規模な夜会で婚約破棄を宣言されました。ルード様の母君(ご実家?)が切望しての婚約だったはずですが?その夜会で、私はキョウディッシュ王国の王太子殿下から婚約を打診されました。
私としては、婚約を破棄された時点でキズモノとなったわけで、隣国王太子殿下からの婚約話は魅力的です。さらに、王太子殿下は私がルード殿下に復讐する手助けをしてくれるようで…
完 小指を握って呼びかけて
水鳥楓椛
恋愛
「今この瞬間を以て、私、レオナルド・ラルスト・オーギストは、ユティカ・フィオナ・グラツィーニ公爵令嬢との婚約を破棄する!!」
華々しい有終の美を飾るはずであった王立学園の卒業パーティーの終盤で、事件は起きた。
レオナルド・ラルスト・オーギスト王太子の言葉に、公爵令嬢ユティカ・フィオナ・グラツィーニは困ったように眉を下げ、理由を尋ねる。すると、レオナルドの口からこんな言葉が飛び出した。
「お前が、私を“愛さない”からだ」
愛に狂ったレオナルドは、項垂れてしまったユティカにナイフを向ける。
小指を握りしめたユティカは、「助けて」と希う。
前世の大切な人に教えてもらったおまじない。
今は誰も叶えてくれないおまじない。
この声は誰かに届くのだろうか———。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる