身分違いの恋

青の雀

文字の大きさ
4 / 6

4.

しおりを挟む
 依頼された魔物討伐は終わり、元の街へ戻ろうとしていた時、カサブランカ国王より謁見が求められた。

 それは謁見というより叙勲式だった。

 何年もの間、カサブランカ国は魔物に苦しめられていた。畑を荒らし、民家を壊し、人々を殺す。

 そんな魔物を一瞬で仕留めたマディソンの実力には、平伏するしかない。こんな優秀な冒険者は、爵位を与え、カサブランカ国に留め置くべきだと考えられたのだ。

 マディソンに授けられた爵位は男爵位。貴族の爵位の中では、最下層。有事があれば、真っ先に切り捨てられる地位で、ずいぶん舐められたものだと憤慨する。

 冒険者風情に渡すには、これぐらいで十分だというカサブランカ家の思いが見え隠れする。

 マディソンは逡巡した後、ベルーナのためにも、男爵位を受けることにした。ベルーナを拾ったとき、おそらくお貴族様のご落胤かご令嬢であると思った。

 着ていたベビー服やおくるみは、どれも平民では手が出せない高価なものばかりで、今も大事に取ってあるが、まるで新品のような輝きを放っている。

 いずれベルーナの本当の親がわかるまで、と思って、並み居る縁談はすべて断ってきた。養父が平民の冒険者より、男爵の冒険者の方がベルーナにとっても、いいことなのでは、という思いから舐められた爵位ではあったが、受けることにしたのだ。

 マディソンが思ったとおり、ベルーナは年頃になるにつれ、見事なまでの美女と成長していく様は、見ていて清々しさまで感じられるほどだった。

 黙っていれば、どこかの国の王女様ともお姫様とも、見紛うほどの美しさ、どこへ出しても恥ずかしくない淑女としての仕草。もはや一級品の美女に成長したのだが、それは黙っていれば……の話。

 喋ると、残念なことに……マディソンとエミリアでは、そこまでの教育ができていない。

 まあそれでも、男爵令嬢になれば、最低でも教育は受けられるはず。貴族専門の教育機関や金さえ払えば、家庭教師も雇えるかもしれない。

 カサブランカ国に忠誠を誓うつもりはない。マディソンは冒険者が天職だから、依頼があれば、どこの国でも自由に行ける身分。

 いざとなったら、家族そろって、トンズラすればいいと思っている。

 覚悟を決め、叙勲を受けた後に待ち構えているのは、叙勲記念祝典のパーティだ。当然、正装などの衣装は持ち合わせていない。

 王家から支度金がもらえ、それで家族全員の正装を作ることにしたのだが、洋服屋は新・男爵のマディソンの足元を見やがる。

 城からの使いの者に、正装が作れないと嘆くと、王家御用達の仕立て屋が、すぐさま飛んできて、全員の正装がなんとか間に合う。

 後から、最初の洋服屋が詫びを入れてきたが、もうけんもほろろで追い返した。

 城から迎えの馬車が来て、6人の子供たちと共に2台に分かれて乗り込む。

 エミリアとベルーナは急ごしらえのカーテシーを習うも、エミリアはよろけるが、どういうことかベルーナは一発で決まった。やはり、これが血筋の差というものか?

 エミリアとベルーナ、どちらもS級冒険者で身体能力は変わらないはずなのに。

 叙勲が終わり、いよいよパーティが始まる。扉の向こうは、大勢の貴族が揃い、新・男爵家の登場を、待ち受けているという。

 ドキドキしながら待つこと数分、もう口の中はカラカラになっている。

 音楽の生演奏が聞こえてくる。

 目の前の扉が開かれたときは、もう緊張で訳が分からなくなっていた。



-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-



 マディソン一家は、貴族に取り囲まれ、今までの冒険談を聞かせろと、せっつかれ、もう嫌気がさしてくる。

 ベルーナは、というと若い貴族令息に取り囲まれ、踊ってくださいと申し込まれるが、ベルーナにダンスを教えていなかったことに今更ながら気づく。

 チークダンスなら踊れるだろうが、そんな真似ベルーナにさせたくない。

 やっぱり、男爵令嬢は無理だ。他の子供たちも朝からのことで、グッタリ疲れ果てている。

 先にブルゴーニュ国に行き、ベルーナに相応の教育をしてから、カサブランカに来るべきだったと後悔する。

 妻のエミリアも、ハイヒールが辛いらしく脱いで、さっきからイスに座ったままで動こうとしない。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

セカンドバージンな聖女様

青の雀
恋愛
公爵令嬢のパトリシアは、第1王子と婚約中で、いずれ結婚するのだからと、婚前交渉に応じていたのに、結婚式の1か月前に突然、婚約破棄されてしまう。 それというのも、婚約者の王子は聖女様と結婚したいからという理由 パトリシアのように結婚前にカラダを開くような女は嫌だと言われ、要するに弄ばれ捨てられてしまう。 聖女様を名乗る女性と第1王子は、そのまま婚前旅行に行くが……行く先々で困難に見舞われる。 それもそのはず、その聖女様は偽物だった。 玉の輿に乗りたい偽聖女 × 聖女様と結婚したい王子 のカップルで 第1王子から側妃としてなら、と言われるが断って、幸せを模索しているときに、偶然、聖女様であったことがわかる。 聖女になってからのロストバージンだったので、聖女の力は衰えていない。

婚約破棄からの復讐~私を捨てたことを後悔してください

satomi
恋愛
私、公爵令嬢のフィオナ=バークレイはアールディクス王国の第2王子、ルード様と婚約をしていましたが、かなりの大規模な夜会で婚約破棄を宣言されました。ルード様の母君(ご実家?)が切望しての婚約だったはずですが?その夜会で、私はキョウディッシュ王国の王太子殿下から婚約を打診されました。 私としては、婚約を破棄された時点でキズモノとなったわけで、隣国王太子殿下からの婚約話は魅力的です。さらに、王太子殿下は私がルード殿下に復讐する手助けをしてくれるようで…

私との婚約は、選択ミスだったらしい

柚木ゆず
恋愛
 ※5月23日、ケヴィン編が完結いたしました。明日よりリナス編(第2のざまぁ)が始まり、そちらが完結後、エマとルシアンのお話を投稿させていただきます。  幼馴染のリナスが誰よりも愛しくなった――。リナスと結婚したいから別れてくれ――。  ランドル侯爵家のケヴィン様と婚約をしてから、僅か1週間後の事。彼が突然やってきてそう言い出し、私は呆れ果てて即婚約を解消した。  この人は私との婚約は『選択ミス』だと言っていたし、真の愛を見つけたと言っているから黙っていたけど――。  貴方の幼馴染のリナスは、ものすごく猫を被ってるの。  だから結婚後にとても苦労することになると思うけど、頑張って。

【完結】可愛いのは誰?

ここ
恋愛
公爵令嬢の私、アリドレア・サイド。王太子妃候補とも言われますが、王太子には愛する人がいますわ。お飾りの王太子妃にはなりたくないのですが、高い身分が邪魔をして、果たして望むように生きられるのでしょうか?

【完結】私の事は気にせずに、そのままイチャイチャお続け下さいませ ~私も婚約解消を目指して頑張りますから~

山葵
恋愛
ガルス侯爵家の令嬢である わたくしミモルザには、婚約者がいる。 この国の宰相である父を持つ、リブルート侯爵家嫡男レイライン様。 父同様、優秀…と期待されたが、顔は良いが頭はイマイチだった。 顔が良いから、女性にモテる。 わたくしはと言えば、頭は、まぁ優秀な方になるけれど、顔は中の上位!? 自分に釣り合わないと思っているレイラインは、ミモルザの見ているのを知っていて今日も美しい顔の令嬢とイチャイチャする。 *沢山の方に読んで頂き、ありがとうございます。m(_ _)m

幼馴染の許嫁は、男勝りな彼女にご執心らしい

和泉鷹央
恋愛
 王国でも指折りの名家の跡取り息子にして、高名な剣士がコンスタンスの幼馴染であり許嫁。  そんな彼は数代前に没落した実家にはなかなか戻らず、地元では遊び人として名高くてコンスタンスを困らせていた。 「クレイ様はまたお戻りにならないのですか……」 「ごめんなさいね、コンスタンス。クレイが結婚の時期を遅くさせてしまって」 「いいえおば様。でも、クレイ様……他に好きな方がおられるようですが?」 「えっ……!?」 「どうやら、色町で有名な踊り子と恋をしているようなんです」  しかし、彼はそんな噂はあり得ないと叫び、相手の男勝りな踊り子も否定する。  でも、コンスタンスは見てしまった。  朝方、二人が仲睦まじくホテルから出てくる姿を……  他の投稿サイトにも掲載しています。

無愛想な婚約者の心の声を暴いてしまったら

雪嶺さとり
恋愛
「違うんだルーシャ!俺はルーシャのことを世界で一番愛しているんだ……っ!?」 「え?」 伯爵令嬢ルーシャの婚約者、ウィラードはいつも無愛想で無口だ。 しかしそんな彼に最近親しい令嬢がいるという。 その令嬢とウィラードは仲睦まじい様子で、ルーシャはウィラードが自分との婚約を解消したがっているのではないかと気がつく。 機会が無いので言い出せず、彼は困っているのだろう。 そこでルーシャは、友人の錬金術師ノーランに「本音を引き出せる薬」を用意してもらった。 しかし、それを使ったところ、なんだかウィラードの様子がおかしくて───────。 *他サイトでも公開しております。

王子、婚約破棄してくださいね《完結》

アーエル
恋愛
望まぬ王子との婚約 色々と我慢してきたけどもはや限界です 「……何が理由だ。私が直せることなら」 まだやり直せると思っているのだろうか? 「王子。…………もう何もかも手遅れです」 7話完結 他社でも同時公開します

処理中です...