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ベルーナは宿屋の食堂で、国王陛下と対面している。
「若い頃のセリーヌに瓜二つだ。間違いなく、そなたは第1王女のベルーナと認めよう。そして、ベルーナを保護し、これまで養育してくれたことを心より感謝する」
ブルゴーニュ国王は、マディソンとエミリア夫妻に頭を下げる。
その日。そのままベルーナは、王城で暮らすことになってしまった。ベルーナの意志など関係ないと言わんばかりの態度に少々腹が立つ。
全世界に向けて、第1王女ベルーナが生還したことが発信されてしまう。
馬車で王城へ着くと、すでにベルーナの部屋が用意され、ベルーナ付きの侍女が次々と挨拶していくが、なんか居心地が悪い。
今までのように5人の弟妹達と和気あいあいと暮らしたい。別に喉が渇いているわけでもないのに、頻繁にお茶を飲みたくない。
着替えや髪のセット、化粧ぐらい自分でできる!
男爵令嬢になった時でも、ここまでのお節介はなかったというのに、これからどれだけお節介を焼かれるのか考えれば恐ろしい気もする。
昼食を食べに行くだけで、立派なドレスに着替えさせられ、食後は仕立て屋を呼んであるとか?
いいよ。遠慮したいと言っても、聞いてくれないだろうな。
昼食時、食堂に行くと、他の兄妹たちが一堂にそろっていて、皆、ベルーナを見て褒めちぎってくれる。
「まるで美の女神のようだ」
「こんな美人の妹ができたとは、実に喜ばしい」
「友達に自慢できる!嬉しい」
ベルーナは本心かどうかもわからない賛辞を受けても、ちっとも嬉しくない。
しらじらしいというか、どこか他人行儀で、居心地が悪い。
ベルーナの知る限りでは、食事の時は、もっと仲良く楽しくするものだと思っているが、ここはまるで別世界のような寒々とした雰囲気しかない。
何を食べても美味しくないし、こんなことなら早くみんなのところへ帰りたい。でも、貴族令嬢?として、いや、王女としての所作が身に着くまでは、戻ってきてはダメだと養父母に釘を刺されている。
とにかく、ここでは人形になればいいと思っている。
午後からは、仕立て屋が来て、採寸が始まる。前にカサブランカ国で正装を作った時と同じだが、量が違うことにビックリする。
ブルゴーニュでは、王女たるもの、300着のドレスではまだ足りないらしい。これって、すべて民からの税金だよね?もったいない!
-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-
ベルーナがこの城に来て、早、一週間がたった。マディソンとエミリア夫妻には、国王から褒美が出て、貴族として召し抱えられるらしい。
それではまるでカサブランカ国と同じではないか?魔物を討伐する代わりにベルーナが城に行っただけで、でも、この王都の空の下に義両親と義弟妹がいるのは心強い。
ベルーナはカラダが鈍ることを嫌い、庭に出て体操や素振りをすることにした。侍女が必死に止めるも聞かず、黙々と木剣を振る。
そこで王女の身の安全を考えた陛下がベルーナに護衛をつけることにしたのだ。いくら冒険者だと言っても、男の腕からは逃れられないと思っているようで。
でも、ベルーナの実力はS級で、並みの男より強いんだけど?陛下は、ご存知ないみたい。
それで、ベルーナは護衛相手に稽古をしてもらうことにした。
とはいっても、さすが王女の護衛を任されるだけのことがあり、その騎士は、なかなか手強い。
こんなに強い相手と初めて手合わせをして、正直、ベルーナは興奮している。
騎士の名前はジェイソン・バークレイ。伯爵家の嫡男ということらしい。
瞬く間に、ベルーナはジェイソンと恋に堕ちた。
ここでも身分違いの恋に苦しむことなど、ベルーナは夢にも思っていない。
それからは、毎日、イキイキと生活が送れた。苦手なマナー授業も、ダンスも、ジェイソンと共にいられるのなら、それだけで幸せだったのだ。
でも、二人の恋は、同僚の騎士の密告により、あえなく終了を迎える。伯爵令息ごときが、王女殿下の相手として相応しくないことは、明らかで、ここでも嫉妬で、ベルーナの護衛の任を外されてしまったのだ。
でも若い二人の恋は誰にも邪魔することなどできない。二人は隠れて逢うことにして、ついにカラダの関係ができてしまう。
ベルーナは、いざとなれば、冒険者に戻ることもやぶさかではない。
そして、ジェイソンも、以前から冒険者生活に憧れがあったので、異論はない。
こっそり、夜中に城を抜け出し、駆け落ちするつもりでいる二人。
頼りにするのは、もちろん養父母のマディソンとエミリアだ。
こうして、若い二人は手に手を取って、暗闇に乗じて城を抜け出すことに成功する。
-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-
事情を聴いたマディソンとエミリアは、二人の恋を応援するべく、その夜のうちに荷造りを済ませ、家族ともどもブルゴーニュ国を出奔することにしたのだ。
「何が貴族だ!そんなものクソ食らえってんだ!」
「好きな相手と結ばれないのなら、駆け落ちするしかないものね」
養父母は全面的に若い二人をサポートしてくれ、ギルドのある街まで逃げることができた。
ブルゴーニュ国とバークレイ家から、追手を差し向けられたが、うまく躱すことができ、ギルド組合員の目の前で永遠の愛を誓い、ジェイソンも冒険者登録をする。
ちなみにカサブランカ国のセドリックから、ブルゴーニュ王家にベルーナとの縁談の打診があったのは、ベルーナが出奔した日の翌日のことだった。
セドリックがもう少し、早く動いていたら、違う人生があったかもしれない。
「若い頃のセリーヌに瓜二つだ。間違いなく、そなたは第1王女のベルーナと認めよう。そして、ベルーナを保護し、これまで養育してくれたことを心より感謝する」
ブルゴーニュ国王は、マディソンとエミリア夫妻に頭を下げる。
その日。そのままベルーナは、王城で暮らすことになってしまった。ベルーナの意志など関係ないと言わんばかりの態度に少々腹が立つ。
全世界に向けて、第1王女ベルーナが生還したことが発信されてしまう。
馬車で王城へ着くと、すでにベルーナの部屋が用意され、ベルーナ付きの侍女が次々と挨拶していくが、なんか居心地が悪い。
今までのように5人の弟妹達と和気あいあいと暮らしたい。別に喉が渇いているわけでもないのに、頻繁にお茶を飲みたくない。
着替えや髪のセット、化粧ぐらい自分でできる!
男爵令嬢になった時でも、ここまでのお節介はなかったというのに、これからどれだけお節介を焼かれるのか考えれば恐ろしい気もする。
昼食を食べに行くだけで、立派なドレスに着替えさせられ、食後は仕立て屋を呼んであるとか?
いいよ。遠慮したいと言っても、聞いてくれないだろうな。
昼食時、食堂に行くと、他の兄妹たちが一堂にそろっていて、皆、ベルーナを見て褒めちぎってくれる。
「まるで美の女神のようだ」
「こんな美人の妹ができたとは、実に喜ばしい」
「友達に自慢できる!嬉しい」
ベルーナは本心かどうかもわからない賛辞を受けても、ちっとも嬉しくない。
しらじらしいというか、どこか他人行儀で、居心地が悪い。
ベルーナの知る限りでは、食事の時は、もっと仲良く楽しくするものだと思っているが、ここはまるで別世界のような寒々とした雰囲気しかない。
何を食べても美味しくないし、こんなことなら早くみんなのところへ帰りたい。でも、貴族令嬢?として、いや、王女としての所作が身に着くまでは、戻ってきてはダメだと養父母に釘を刺されている。
とにかく、ここでは人形になればいいと思っている。
午後からは、仕立て屋が来て、採寸が始まる。前にカサブランカ国で正装を作った時と同じだが、量が違うことにビックリする。
ブルゴーニュでは、王女たるもの、300着のドレスではまだ足りないらしい。これって、すべて民からの税金だよね?もったいない!
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ベルーナがこの城に来て、早、一週間がたった。マディソンとエミリア夫妻には、国王から褒美が出て、貴族として召し抱えられるらしい。
それではまるでカサブランカ国と同じではないか?魔物を討伐する代わりにベルーナが城に行っただけで、でも、この王都の空の下に義両親と義弟妹がいるのは心強い。
ベルーナはカラダが鈍ることを嫌い、庭に出て体操や素振りをすることにした。侍女が必死に止めるも聞かず、黙々と木剣を振る。
そこで王女の身の安全を考えた陛下がベルーナに護衛をつけることにしたのだ。いくら冒険者だと言っても、男の腕からは逃れられないと思っているようで。
でも、ベルーナの実力はS級で、並みの男より強いんだけど?陛下は、ご存知ないみたい。
それで、ベルーナは護衛相手に稽古をしてもらうことにした。
とはいっても、さすが王女の護衛を任されるだけのことがあり、その騎士は、なかなか手強い。
こんなに強い相手と初めて手合わせをして、正直、ベルーナは興奮している。
騎士の名前はジェイソン・バークレイ。伯爵家の嫡男ということらしい。
瞬く間に、ベルーナはジェイソンと恋に堕ちた。
ここでも身分違いの恋に苦しむことなど、ベルーナは夢にも思っていない。
それからは、毎日、イキイキと生活が送れた。苦手なマナー授業も、ダンスも、ジェイソンと共にいられるのなら、それだけで幸せだったのだ。
でも、二人の恋は、同僚の騎士の密告により、あえなく終了を迎える。伯爵令息ごときが、王女殿下の相手として相応しくないことは、明らかで、ここでも嫉妬で、ベルーナの護衛の任を外されてしまったのだ。
でも若い二人の恋は誰にも邪魔することなどできない。二人は隠れて逢うことにして、ついにカラダの関係ができてしまう。
ベルーナは、いざとなれば、冒険者に戻ることもやぶさかではない。
そして、ジェイソンも、以前から冒険者生活に憧れがあったので、異論はない。
こっそり、夜中に城を抜け出し、駆け落ちするつもりでいる二人。
頼りにするのは、もちろん養父母のマディソンとエミリアだ。
こうして、若い二人は手に手を取って、暗闇に乗じて城を抜け出すことに成功する。
-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-
事情を聴いたマディソンとエミリアは、二人の恋を応援するべく、その夜のうちに荷造りを済ませ、家族ともどもブルゴーニュ国を出奔することにしたのだ。
「何が貴族だ!そんなものクソ食らえってんだ!」
「好きな相手と結ばれないのなら、駆け落ちするしかないものね」
養父母は全面的に若い二人をサポートしてくれ、ギルドのある街まで逃げることができた。
ブルゴーニュ国とバークレイ家から、追手を差し向けられたが、うまく躱すことができ、ギルド組合員の目の前で永遠の愛を誓い、ジェイソンも冒険者登録をする。
ちなみにカサブランカ国のセドリックから、ブルゴーニュ王家にベルーナとの縁談の打診があったのは、ベルーナが出奔した日の翌日のことだった。
セドリックがもう少し、早く動いていたら、違う人生があったかもしれない。
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